シルヴァリオ メタモルフォシス ~シルヴァリオ ラグナロク Side:Capricorn~ 作:斎藤2021
何故、この世はこんなにも地獄なのだろうか。
何故、この世はこんなにも艱難辛苦に満ち溢れているのだろうか。
何故、この世は生まれただけで幸せになれるほど易しくできていないのか。
あぁ、本当に。この世がこれほど生き辛い地獄だというのなら。果たして、生を全うするという行為に意味などあるのだろうか?
どれだけ必死に生きていこうと前進したって、運命という悪魔は、そんな安寧を許さない。下卑た絶笑をけたたましく響かせながら、踏破困難な壁を次々と私たちの前に置いていく。苦労してそれを乗り越えたとしても、次の困難が。また乗り越えても、次の、次の次の次の――終着点など見えやしない。
終わらない。終わらない。人生とは無間地獄だ。
どこに視点を向けても、筆舌に尽くしがたい痛苦が待ち受けている。
そんな茨だらけの道を、どうして歩みたいと思うだろう?
あぁ、
この世に生まれてきて「めでたしめでたし」な易しい世界では駄目なのですか?
強者も弱者も平等に幸せを掴める
こんな
一切の苦痛がない易しい世界で、どこまでも楽に、平穏に、幸せになりたい――それこそが、リディア・ウォーライラが掲げる絶対鋼鉄の
「……だから私は変われない。結局、楽な方へ流れてしまうから」
それが私の本質である以上、己が掲げる理想を成就できることなど未来永劫あり得ない。
何故ならば、今の世界に変革をもたらすということは、否が応にも私自身が努力しなければならないから。しかも、並みの努力では済まされない。文字通り、血反吐を吐き散らかしながら前進せねばならないほどの艱難辛苦が待ち受ける道のりだと分かっているゆえに……私は今日も拘泥する。結局、現状維持という思考放棄が一番楽だから。これが、負傷を最小限に抑えるための処世術だと、小賢しくも分かってしまっているから。
私は今日も塵屑のまま。一生このまま、変われない。塵から生まれた塵は、どこまで行っても塵のままなのだ。磨けば宝石になるなど、そんな御伽噺はあり得ない。
「……どうした、軍人さん。さっきまで可愛く啼いていたのに、そんな難しい顔しちゃって。もうバテちゃった?」
「……ううん、何でもない。ねぇ、さっきより激しくして。何も考えられなくなるくらい、雄々しく烈しく、私を乱して」
「言われなくてもそのつもりさ」
爽やかな笑みを浮かべながら、今夜の私の逢瀬人――名前は確かリックだったか――のピストンがより暴力的なものになる。
淫靡な抽出音が粘性を帯びて空気中に響き渡る。それに混じって流れ出す、私の獣じみた喘ぎ声。さきまでの小難しい思考など、この刹那のうちに飴のように溶け切ってしまった。
ほら、結局私なんてこんなもの。眼前に快楽という名の餌がぶら下がっていれば、迷いなく涎を垂らして食らいつく、ただの獣。俗物。取るに足らない木っ端屑。
変われない。きっと、無意識下に変わりたくないと願っている。何故なら、変化とはすなわち苦痛であるのだから。単純に、現状が変化するというのは人間にとって良くも悪くもストレスであるから。私は、ストレスを常に抱えながら生きてきたから。だからもう、これ以上ストレスを抱えて生きたくない。楽でありたい。
だから。あぁ、だから。きっと一生このままだ。一生自分が見る景色を変えられることなく、生きる世界に変革を齎すことなく、無意味に無価値に死んでいく。そんな、路傍の石のような人生。
――そんな痴れた生き方しかできない、しかし同時にそれが、リディア・ウォーライラの全てでしかないのだ。