シルヴァリオ メタモルフォシス ~シルヴァリオ ラグナロク Side:Capricorn~   作:斎藤2021

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ようやく本編スタートです。
時系列的には前々回のプロローグの続きからとなります。


Chapter Ⅰ 第十北部駐屯部隊/Capricorn

「今日は楽しかったよ、レディ」

 

 娼館前で私を見送りながら、リックは私の手の甲に優しい口づけをした。流れるような甘い所作の数々は、なるほど、ここいらでも特に値の張る店なだけはある。乙女をときめかす行動の一つ一つが洗練されており、無駄なく無理なく様になっている。

ベッドの上の遊戯に関しても満足のいくものだった。元々娼館で働いていたこともあり経験としてはかなりのものである私にしても、彼の腕前は相当のものであると認めざるを得なかった。事実、何度もイカされたわけだし。おかげでいいストレス発散になった。ここまで欲求を解消できたのは久々だ。

 

「こちらこそ。最後まで素敵なエスコートをありがとう。次来た時も、また指名させてもらうわね」

 

 今日一日のお礼とばかりに、腕に抱き着き頬に口づけをプレゼントする。

すると彼はやはり嫌みのない爽やかな笑みを浮かべ、またのお越しをお待ちしております、とだけ口にした。

 営業用スマイルであることに変わりはないが、だからといってそこに打算や嫌な感情は一切含まれていない。いい男だ、きっとさぞかしモテることだろうなと思いながら、私は娼館を後にするのだった。

 

……

………

…………

 

 

「……はぁ」

 

 娼館を後にしてから、何度目の溜息をついただろうか。

一時的に気を紛らわすことはできても、深層心理で燻る苦心に依然変わりは全くなく。帰路につく足取りは、鉛のように重たかった。

 

「……もう辞めたい。逃げちゃいたいよ、こんな生活」

 

 黄道十二星座部隊(ゾディアック)が一角、第十北部駐屯部隊・瞬圧山羊(カプリコーン)に配属され、はや一年と半年……私は、できることなら一日、いや、一秒でも早くこの軍人生活から抜け出したいと毎日毎秒考えていた。

 盲目的に軍人となった私を待ち受けていたのは、極楽浄土の楽園でもなんでもなく、ただの地獄そのものだった。つまり、今までとなんら変わらない。

 駐屯部隊だからそこまで忙しくないだろう? 副隊長だからお気楽気まま? そんな風に思っていた一年半前の自分を思いきりぶん殴ってやりたい。これのどこがお気楽気ままなのか。

 軍生活の日々は、常に多忙を極めていた。街の視察や貿易の管理、最近では下の育成に力を注ぎ始めたのか、訓練兵への指導なんかもやらされたりしている。

 冗談じゃない。前者はともかく、後者なんかどう考えても自分よりもあの光狂いの馬鹿隊長の方が向いているだろう。そりゃ私よりも多忙だから時間が割けないのは理解しているが、だからといって自分のような小娘に任せるかよ普通。帝国の人手不足はどうなっているんだと喉から吐き出る愚痴には際限がない。

 甘く見ていた。たかが統治、治安維持が駐屯部隊のすべてと思い込み、侮っていた。これは普通にストレスが溜まる。

 国のことなどどうでもいい、自分さえよければ――と考えていたが、それもできない。職業柄、どうしても国のことを第一に考えなければいけないのだ。それが仕事だから。自己中では話にならない。無責任だと(そし)られて、責任問題に発展し後々面倒なことになる。だから、懸命に国のために心身ともに捧げなければいけないのだ。

 こんなことなら制圧部隊に配属された方がマシだったか――とも思ったが、私ごときが血風飛び交う戦場を生き残れるはずもなし。臆病な鼠は、血に飢えた獅子に食い殺されてそれで終わりなのだ。

 だから極論、私は軍人になるべきではなかった。星辰奏者(エスペラント)適正に選ばれたからといって増長せず、身の程をわきまえて娼館で働き続ければよかった。

 地獄からの解放を求め軍人となったのに、これでは何も変わらない。娼館で身をすり減らすストレスに比べれば若干マシではあるものの、それも誤差だ。生き地獄に変わりはない。

 できることなら早く退職してしまいたい。だが、退職したとしてそのあとはどうなる? 今の地獄から逃げても、また別の地獄が待っているのではないか? 結局何も変わらないのではないか? そう思う心が止められず、今もこうして動けない。何もできない、成せない、木偶の坊の塵屑娘。

 私に、逃げ道なんかありはしない。

 

「……どこを見ても八方塞がり。誰か、私を助けてよ」

 

 吐き出した泥のような言葉は、しかし誰の耳にも届くことなく、夜の空気に溶けていく。

 優しく広がる満天の星々ですら、今の私の苦心を慰撫することは叶わなかった。

 

 

……

………

 

「よぉ、ウォーライラ。こんな夜遅くに出会うなんて、奇遇だな」

 

「……げえぇ」

 

「なんだ、その心底嫌そうな顔は。普通に傷つくぞ」

 

 兵舎に戻った私を待ち構えていたのは、先に話した光狂いの馬鹿隊長――アルヴィン・ロバーツその人だった。

 180㎝超えの長身。吊り上がった鷹の如き鋭き眼光。夜空の下で眩く煌めく、雪のような銀の髪。纏う雰囲気はどこか冷たく鋭く、冬の氷柱を思わせる。

この男こそが、黄道十二星座部隊(ゾディアック)第十北部駐屯部隊・瞬圧山羊(カプリコーン)の隊長を務める傑物であった。

 

 そんな規格外の豪傑が、しかし纏う鋭利な空気感とは裏腹に、柔らかい苦笑を浮かべながら私を見つめ、言葉を投げてくる。

 

「まぁこんな夜中に四十手前のおっさんに出くわしたともなれば嫌な顔一つ溢したくなるか。ましてやウォーライラ、お前みたいなうら若き乙女なら尚のことな」

 

「いや、別に嫌な顔なんてしたつもりないですよ。ただ『うわ、なんでこの人このタイミングでここにいるんだよ最悪うぅ、ばーか!』って心の声が思わず漏れてしまっただけです」

 

「嫌がってんじゃねぇか。一応俺、年上で上官だぞ? もうちょい敬意とかさあ」

 

「何言ってるんですか。私が配属初日に挨拶に行ったとき、『固いぞ、ウォーライラ。隊長副隊長の間柄だ、家族みたいにくだけて付き合おうや』って言ったのはどこの誰ですか」

 

「ははは、違いない。そう考えると、お前大分俺に遠慮とかなくなってきたよな。いい傾向だ、その調子で雑に絡んでくれ」

 

 ……とまぁ、このように。

 口を開けばこれだ。鋭利な雰囲気? 氷のような男? 冗談きついわ。それはあくまでも、この人を外面だけで判断した時の話。真実を開帳すれば御覧の通りと言うやつで。

 そう、アルヴィン・ロバーツという男は、鷹揚で優しい人柄の持ち主なのだ。どこまでも心が広く、仲間想いで、部下のメンタルケアに割く時間すら惜しいとも思わない、底なしの好漢である。

 無論、軍人としての能力も申し分なく。政治力、戦闘力、どちらをとっても傑物と評する以外形容ができない。民草を守り、国を繁栄させることに至上の幸福を心の底から感じている、人格者にして軍人の鑑……まさに完璧超人。あらゆる欠点が排斥されている。

 ゆえに部下からの信頼や人気も絶大だ。その人気っぷりは、私が訓練兵のころからも知られていた。瞬圧山羊(カプリコーン)に配属されたら、“当たり”だ……などとは当時よく言われていたものである。一部の女性の間――特に年下の女子――では、何でもファンクラブのようなものまで設立したとかしてないとか。

 ……まぁとにかく、目の前で呑気に笑っているこの人は、偶像かよってくらい人気なのだ。いや、本当にあり得ないくらい。……好意を寄せる気持ちも、分からなくはないが。

 

 逆に私はこの人が少々得意ではなかった。苦手とまではいかないが、好意を寄せるとまでもいかない……そんな微妙な感情を、私は彼に持っている。

 というのも、前述したとおり、彼は()()()()()のだ。あらゆる点で洗練され、完成している。だから、そんな彼を見ていると、どこまでも中途半端な自分と比べて、自分がとても惨めに見えてくるのだ。嫌な現実を、むざむざと突きつけられる。それがたまらなく、きつかった。

 勿論、これは私自身の問題だ。隊長は何も悪くない。だから同時に申し訳なくも思っているのだが……こればかりはどうしようもない。だって、私はどこまでいっても塵屑だから。ごめんなさい、隊長。貴方はとてもいい人だから、自信を持ってください……なんて、もう何度目かに分からない溜息を吐いた刹那。

 

 

 

「悩み事か、ウォーライラ」

 

 口笛を吹くかのような気軽さで、隊長は私の図星をずばりと言い当ててみせた。

……あぁ、本当にこの人は。こう見えて滅茶苦茶聡いんだから。そういうところも含めて、得意じゃない。自分が、恥ずかしくなってくるから。

 

「……隊長に話すようなことじゃないですよ」

 

 目をそらし、ぶっきらぼうに言い返す。言えない。言えるわけがない。自分が所属している部隊の隊長……しかも自分の一番身近な上官に。『軍人を辞めたいです』なんて。

いくら温厚優男といえども、国のため民のためと命を燃やすこの人のことだ、激昂するのはまず間違いないだろう。

 隊長の怒っているところなど今までに見たことがないが、そうなる未来は容易に想像できたからこそ、私には口を閉ざす以外の道がなかった。

そんな私の反応を見て、何を思ったのか隊長は「ふむ」とだけ軽く頷いて。

 

「ウォーライラ、これから時間あるか? 夜の街へパトロールと繰り出そうじゃないか」

 

「……は?」

 

 そんな訳のわからないことを口にしたのだった。

 

 

……

………

 

 

「夜だというのにまだ活気づいているな。いいことだが、この辺は飲み屋や娼館といった娯楽施設が多い。どうしても治安が少々悪くなるな。やれやれ、酒は飲んでも飲まれるな……とは確か、旧暦の(ことわざ)だったかな」

 

 アドラー帝国北部、旧・アイルランド領であるダブリンの街に軍靴の音色を響かせながら、隊長は呆れるように苦笑を溢した。

 隊長が言っていたように、ここダブリンは娯楽施設――特に飲み屋が非常に栄えている。なんでも旧暦のころ、アイルランドはビールの製造が盛んだったらしく、ここダブリンにも『ギネス・ストアハウス』という、ギネスビール製造の博物館なるものが観光スポットとしてあったらしい。

 ゆえに、その名残なのか、ビールを中心とした酒の製造工場が、帝国北部ではとても栄えている。

 飲み屋が多いのもその影響だろう。近場で様々な種類の酒を取り寄せられるため、帝国全体を見渡しても、ここダブリンの街の酒の販売価格は非常に安価だ。

 結果として酒飲みのための街のようになってしまっているが、無論それはこの街の一側面に過ぎず。

 飲み屋だけじゃなくカフェの数も多いから昼間はまた夜とは違った意味でお洒落な活気に満ちているし、旧暦から残る聖パトリック大聖堂も市民から愛される観光スポットに――っていやそうじゃなくて。

 

 ……なんだこれ。何ですかこの状況。何故私は、大して親しくもないロバーツ隊長とこんな風に横並びで夜の街を歩いているのだ。

 隊長が軍服を着ているからまだしも、これで私服で歩いていようものなら完全に男女の逢引きと勘違いされていただろう。いや、それならまだいい。私と隊長の年齢差から、援助交際を疑われてもおかしくはなかっただろう。

 それほどまでに、この状況は主観的にも客観的にもおかしな光景と言えた。

 

「……ていうか、私も何で素直についてきちゃったんだろ」

 

 別に無理に付き合う義理などなかった。隊長も部下に無理強いするような性格ではないため、やろうと思えば断ることなどできたはずだ。

 それなのにこうやってなんだかんだ隊長に付き合ってしまうあたり、彼の人徳が成せる技なのだろう。

 いっそのこと隊長が、所謂“いい人”でなかったならば、にべもなく突っぱねることができただろうに……

 

「まぁたまにはいいだろう。思えばお前とこうやってプライベートを過ごすなんてこと、今までなかったからな。たまには隊長副隊長として、交流を深めようじゃないか」

 

 私の小さな呟きが聞こえたのか、隊長は爽やかに笑いながら語りかけてくる。

 いやまぁ確かにそうだが、無理をして交流を深める必要があるのだろうか……

 隊長としても、こんな乳臭い小娘を相手にしたところで面白くもなんともないだろうに。

 

「……ていうか、何で急に夜の街へ繰り出そうなんて言い出したんですか? 息抜きとかなら、私を誘う必要なんてなかったんじゃ……」

 

 偶然居合わせたから誘っただけのことと言われたらそれまでなのだけれど。隊長の様子を見る限りそうでもないらしい。

 私のその考えを肯定するように、視線を夜空へ向けながら隊長は言葉を発した。

 

「俺は別に息抜きなんか必要ない。軍人として生きているだけで、俺は満たされているし幸せだからな。むしろ、それが必要なのはお前の方だろう、ウォーライラ」

 

「……まさか、それが理由ですか……?」

 

 私が何かに悩んでいるのを見て、それを少しでも解きほぐそうとするために……?

 

「悩みを明かせないのならそれでもいい。俺はそれを無理に問おうとは思わない。だったらせめて、メンタルケアをするのが上官の務めだろう。部下の思い悩み苦しんでいる顔を、俺は見たくない。部下に限った話ではないが、アドラーの民には、いつだって笑顔でいてもらいたいからな」

 

「……それで夜の街を散歩ですか。そんなもので私の心が晴れると思っているなら、安く見られたものですね」

 

 気持ちは有り難いが、その程度で私の苦心が雲散霧消するようなら、そもそもここまで思い悩んでいない。

 私の苦悩は表層的なものではなく、もっと根が張って深いものなのだ。一時的に忘れることはできたとしても、根本的な解決には、きっと未来永劫至らないのだろう。

 ……なぜならば。生きることそれ自体が、私にとっての地獄なのだから。

 

「手厳しいな。だが、何もせず部屋に引き籠るよりはマシだろう。誰かと一緒にいた方が、心も幾分か明るくなるというものだ。 ……まぁ、その相手が四十手前のおっさんというのは、申し訳なくはあるが」

 

 と、隊長はやや自嘲気味に肩を竦めて苦笑いを浮かべた。一応、そこらへんの自覚はあるらしい。

 

「まぁ確かに隊長はおじさんですけど、それでも部隊内の女の子たちからの人気高いんですよ? 多分私がこうやって二人きりで歩いているところを見られたら、普通に羨ましがられます」

 

「マジかよ。嬉しいような寂しいような……いや、うん、やっぱ駄目だろうそれ。俺みたいな枯れたおっさんにキャーキャー言う暇あるなら、もっと若くていい男ひっかけろって伝えておいてくれ」

 

「多分徒労に終わりますよ、それ」

 

 今の言葉をそのまま伝えたらきっと、「そういう紳士的なところが素敵!」とかいって余計ヒートアップするだろう。

 気持ちは分からなくもないが、本人も言う通り本気でやめた方いいと思う。普段は優しく紳士的だけど、この人の本質は熱苦しい光狂いなのだから。幻滅する前に身を引いた方が……と思ったがギャップ萌えだとか言ってなんだかんだと結局黄色い声が上がるのは避けられないだろうなと気づいてしまい、私は嘆息した。

 

「そういうお前はどうなんだ? 今気になっている男とかいないのかよ」

 

「いませんよ。仕事が忙しくてそれどころじゃ……ていうかそういう隊長はどうなんですか。もういい年でしょう。そろそろ結婚のこととか考えておかないと、一生独り身ですよ」

 

「耳に痛いな。だが俺も生憎と、そういった運命とは巡り合えていない。まぁ、俺は仕事人間だからな。別に一生独り身でも構わないと思っている」

 

「その考えどうかと思いますよ……ていうか、あの限界突破(オーバードライブ)でさえ妻子持ちなんですから、隊長ならその気になれば奥さんの一人や二人」

 

 実際、好いてくれている女の子は沢山いるわけだし。

 

「“その気”がないからなぁ、俺には。つうか、いいんだよ俺のことなんざ。それよりウォーライラ、お前はしっかりといい男捕まえて幸せになるんだぞ。家族はいいもんだ、うん」

「独身が言っても説得力ないですよ」

 

 本当にさっきから何なんだこの人は。一にも二にも私のことばかり。もしかして私のことが好きなのか? ……いや、十割あり得ないな、この人に限って。

 どちらかというと、この人が私に向けている感情は父親の娘に対するそれなのだろう。保護者的な思いというか。少なくとも、男女のそれで向ける感情ではない。

 

「……家族、か」

 

 思い起こされるは昏き過去の惨劇。

 思い出したくなくても、あの光景が今も、瞼の裏にこびりついている。凝固した油のように、あるいは、呪いのように。

 あぁ、そうだろう。きっと、客観的に見て家族とはいいものなのだろう。温かく、優しく、安心できる陽だまりのような概念。

 けど、私にとって家族とは、忌々しい闇の記憶に他ならず。

 勿論のこと、父はともかくとして、母の愛情を忘れたことなど、一瞬たりともありはしない。私も母を愛していた。心の底から、誰よりも。

 母は私の生涯の中で、唯一心から信頼を向けることができた存在で、今でも愛していると言っても過言ではない。

 それでも、あの日の悲劇は、どう言い繕っても“トラウマ”としか形容ができないものだった。それほどまでに、あの出来事は私の心に深い爪痕を残している。

 ……思い出したら、気分が悪くなってきた。やはりついてくるんじゃなかったな。

隊長には悪いけど、一足先に軍舎に戻るとしよ――

 

「よし、着いたぞ。今日は俺の奢りだ。好きなもの頼めよ」

 

「え、何のことです……」

 

 急に声をかけられ、ハッとして顔を上げると、私の眼前にはお洒落な外装をした飲み屋があった。装い的に、大衆居酒屋というよりかは、少々大人向けな、所謂ちょっと“お高め”なお店だ。

 え、ていうか隊長は今なんて……?

 

「お、奢りって……まさか、入るんですか?」

 

「あぁ。お前にはいつも世話になっているからな。こんなことでしか返せなくて申し訳ないが、代わりに好きなだけ飲み食いしてくれ。何、安心しろ。これでも高給取りだ。金ならいくらでもある」

 

 言いながら財布を取り出し、悪戯気に微笑む隊長。確かに隊長格についている隊長は私よりも更にいい給料をもらっているのは間違いないだろうし、そのへんの心配はしてないのだが、いや、それよりも――

 

「……なるほど。ここにつれてくるのが本命だったというわけですか」

 

「あぁ。前にジェイスと来たことがあったんだがな。酒も料理も一級品で、客層も上品で落ち着ける空間とあらば、気に入らない道理なんてないだろう?」

 

「……本当、隊長ってジェイス隊長のこと好きですよね。あの人とサシ呑みとか考えられないですよ」

 

 私なら、あんなものを一対一で相手にしていたら暑苦しすぎて辟易(へきえき)すること間違いなしだ。

 あんな手合いと仲良くできる隊長も、やはりぶっ飛んだ変人だと再認識させられる。

 

「ていうか、その……流石に悪いですよ、奢りなんて。私、別に普段から大した貢献なんて……」

 

「あー、そういうのいいからさ。上官が奢ってやるって言ったら、黙って『財布を空にしてやるから覚悟しろ』って宣戦布告すりゃいいんだよ。ほれ、行くぞ」

 

「あ、ちょっと……!?」

 

 遠慮の言葉を口にするより早く、隊長は私の手を握りしめ問答無用でお店の扉を開けた。

 ……基本は紳士的なくせにたまにこういった強引さを見せるのが、隊長の厄介なところだ。肝心な局面で断れない。

 

「……まぁ、たまには悪くないかな」

 

 隊長のこと、嫌いではないし。……好きでもないけど。

 でも、いい人なのは間違いなし。客観的に見て、魅力的だとも思っている。

 何より、楽しそうに微笑む邪気のない隊長の横顔にあてられて、後ろめたい気持ちなんて夜空の星々に吸い込まれてしまった。

 ――こうして、瞬圧山羊(カプリコーン)の隊長副隊長たる私とロバーツ隊長の、二人きりの酒席が幕を開けたのだった。




瞬圧山羊隊長、アルヴィン・ロバーツ登場。
今後、彼もメインキャラの一人として活躍していきますのでどうぞお楽しみにお待ちくださいませ。
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