シルヴァリオ メタモルフォシス ~シルヴァリオ ラグナロク Side:Capricorn~   作:斎藤2021

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Chapter Ⅱ 酒席と私と隊長と/Time of peace

「……美味しい。隊長が絶賛する理由が分かりました」

 

 鴨肉のカルパッチョをシャンパンで流し込みながら、私はここ最近で一番の感動を覚えていた。

 なるほど、隊長の口にした通り、確かにこれは絶品だ。お酒も料理もレベルが高い。値段はやはりそれ相応といった具合で、お世辞にも安いとは言えないが、しかしこのクオリティであればこの値段設定も納得だろう。むしろ、値段以上の価値があると断言できる。ロバーツ隊長やジェイス隊長が気に入るのも理解できる。

 

「そうだろう? ぶっちゃけ、俺とジェイスは食にこだわりがあるってタイプじゃないんだが、この店には見事にハマってしまってなぁ。初めて来た日なんか、感動してワインボトル二十本も開けちまったんだよな」

 

「……馬鹿でしょ、あなた達」

 

 いくら星辰奏者が内蔵機能を強化されているからと言って、それは飲みすぎだ。店側からしてもたまったものじゃないだろう。

 まぁ、なんだかんだと二人ともTPOは弁えるタイプなはずだから店に迷惑は掛けていないと信じたい。ていうか、かけていたらきっと今頃出禁になっているはずだから大丈夫だったのだろう。多分。……うん、多分。

 

 

「おやぁ~、お客さん、今日は女の子連れですかぁ? いつもの暑苦しい御仁はもうお払い箱ですか?」

 

「てっきり身持ちが固い()()()()()だとばかり思っていたのですが、そういうわけではなかったみたいですね。薔薇色の匂いを感じたのですが、ティナは残念でなりません」

 

 ――と、呆れながらシャンパンを傾けていた束の間。フレンドリーに私たちに話しかけてきたのは、容姿や声まで瓜二つの金髪美女――なんでも、この飲み屋の名物双子と言われている、ティナさんとティセさんだった。

 どうやら常連の隊長とはとっくに打ち解けているらしく、友人のように話を弾ませている。

 

「残念ながら両方外れだ。限界突破(あいつ)はただの戦友で、こっちはただの俺の部下だ。色っぽい関係なんて微塵もない。どちらも、かけがえのない俺の仲間というのには変わりないがな」

 

「……リディア・ウォーライラです。その、いつもうちの馬鹿隊長がお世話になっています」

 

 自己紹介しつつ、ペコリと二人に頭を下げた。二人とも私よりも年下なのだろうが、こんな馬鹿隊長をよくしてもらっている手前、思わず敬語で話しかけてしまった。

いや、だってそうだろう。ロバーツ隊長とジェイス隊長、あのトンチキ二大巨頭を相手に毎回接客しているかと思うと、そりゃ尊敬の念も自然に浮かぶというもの。

 しかしティナさんとティセさんはそんな苦労はまったくないと言い切るかの如く、むしろ小悪魔のような笑みを浮かべながら隊長のことを語り始めた。

 

「全然そんなことないですよ~! むしろアルヴィンさんはご来店されては景気よく散財していく格好のカモ――もとい大事なお客様ですからね~。今後もどうぞ御贔屓に、にしし」

 

 今この子カモって言ったぞ。仮にも一部隊の隊長相手に。不敬どころの騒ぎじゃないが、本人は「ははは」と爽やかに笑っているものだから私からはもう何も言えない。

可憐な見た目に反して、中々に強かな双子なようだ……

 

「そりゃぁこれだけ美味い酒や料理を出されたら景気よく金を出したくなるってもんだ、その方が経済も回るしウィンウィンだろう。なぁ、ウォーライラ?」

 

「否定はしませんが、ちょっとは自重してくださいね。でも、確かにここのお酒にお料理、本当に美味しいですね。コックさんにも伝えておいてください」

 

「ありがとうございます、それを聞いたら店長もきっと喜びますよ」

 

 私の言葉に、控えめに微笑むティナさん。

 なるほど、ティセさんは快活よりな性格で、ティナさんはどちらかというとおしとやかめな性格らしい。双子らしい、対極的な性格だとは思うが、しかし――

 

「ほらほら、アルヴィンさーん、彼女さんもこう言ってることですし、もっともっとじゃんじゃか注文しちゃってよ~」

 

「はい、女性の手前、格好つけねば男が廃るというもの……まさかこれで終わり、なんて腑抜けたことは言いませんよね?」

 

 ……強かで強欲な部分は、一寸のぶれなくそっくりだった。

 うん、一人で来るのは絶対にやめよう、と私は心に強く誓った。

 

「ははは、相変わらず客を煽るのが上手な嬢ちゃんたちだ! お前さんたち、将来いい嫁さんになるぜ。それじゃあその煽りに乗りまして、と――とりあえずさっきと同じ銘柄のシャンパンのボトルを二本、ワインも一番高いやつだ、三本持ってきてくれ」

 

「ちょ、ちょちょちょちょ、隊長!!?」

 

「確かウォーライラ、お前さっき鴨肉のカルパッチョ美味いって言ってたよな? じゃあ、それを二人前と、アイリッシュシチューも追加。シェパーズパイにラム肉のグリル……あとは今日のおすすめを適当に持ってきてくれ」

 

「ちょッ――!?」

 

『はあい、ご注文ありがとうございま~~す♪』

 

 私が静止する間もなく、注文を済ませ満足げな顔をしている隊長と、爆速で厨房の奥へと消えていった強欲双子(ティナティセ)

 いや、確かに美味しいとは言ったがさすがに考え無しに注文しすぎだろう、自分が払うわけでもないのに、会計の時が恐ろしくてたまらない。

 

「……本当、馬鹿ですよね隊長」

 

「安心しろって。高給取り舐めんな」

 

 そういう問題だけじゃないんだよ馬鹿。こちらの胃袋も考えてほしい。そんなに注文されても、おそらくそこまで食べきれない。

 まだまだ胃袋に余裕はあるが、それでも今注文された食べ物を食べきれる自信は微塵もなかった。

 

「……はぁ」

 

 それでも、これだけ美味しい料理を振舞われて、しかも奢られまでするのだから、残すなんてことは断じて許されない。

 明日の業務に支障がでなければいいなぁ、とぼんやり考えながら、私はヤケクソ気味にシャンパンを胃の中に注ぎ込むのであった。

 

 

……

………

 

「今日はありがとうございました、隊長」

 

「何、気にするな。また気が向いたら言ってくれ、今度はジェイスと三人で行こうや」

 

「いや、ジェイス隊長は結構です」

 

「つれないな。泣くぞ、あいつ」

 

 いや、あの人だったらむしろ呵々大笑するだろう。

 そういうわけで。宴もたけなわ、なんとか馬鹿隊長が注文したお酒や料理を完食完飲した私たちは、軍舎まで戻っていた。

 ……会計のことは聞かないでほしい。覚悟はしていたが、本気で目玉が飛び出るかと思った。

 しかも青ざめていたのが私だけで、双子姉妹は満面の笑みを浮かべているわ隊長は手を叩いて爆笑するわでこいつら揃いも揃ってイカれているんじゃないかと冗談抜きで思ってしまった。

 

 ……まぁともかく。

 

「明日から更に忙しくなるでしょうからね、いい気分転換になりました」

 

「そうだな。俺も繁忙期前のいいリフレッシュができた。……まぁ、本当に大変なのは俺らっていうより、魔弓人馬(サジタリウス)のやつらだけどな」

 

 ――そう。ジェイス隊長含めた北部制圧部隊、魔弓人馬(サジタリウス)は現在カンタベリーへの侵略行為のため、現地へ偵察に向かっている。

 明日、一旦アドラー(こちら)へ戻ってきて、正式に書類を提出、手続きののちカンタベリーを制圧するつもりらしい。

 

「アンジェリカ・フォン・アクトレイテ……彼女の言うことを、本当に信用してもいいのでしょうか」

 

 ――そう。今回の制圧作戦が稼働したのは、今しがた口に出したカンタベリーの聖座信仰監視局の執行官からアドラーの北部部隊へコンタクトがあったからだ。

 カンタベリーの、しかもあろうことか自国の裏切り者を誅する機関、その重役からの秘密裏のコンタクト。受け渡される、“神祖”という眉唾な存在の情報。

 単純に考えればアクトレイテ殿の反逆行為、裏切りということになるが、そう易々とそれらの情報を信じるアドラーではない。

 それはアクトレイテ殿も分かっていたのだろう。その後、何度かアクトレイテ殿とコンタクトを取りつつ、魔弓人馬(サジタリウス)を中心とした工作員の偵察により、アクトレイテ殿の証言が真実だとほぼ確定した。

 よって、あとはトントン拍子だ。今回の最終偵察を終えたのち、正式にアクトレイテ殿と魔弓人馬(サジタリウス)は同盟を結び、神祖滅殺を実行に移す。

 そう、カンタベリーを制圧する……のだが。私は未だにその“神祖”だとかいう眉唾な存在が信じられずにいた。よって連鎖的に、アクトレイテ殿のことも信用できずにいる。

 まぁ私はアクトレイテ殿と対面したこともなければ実際に会話したことすらないからどの口が、といった話だが……

 そこで、実際に無線越しで幾度かアクトレイテ殿と話したことがあるロバーツ隊長は「気持ちはわかるが」と前置きしながら口を開いた。

 

「俺も最初は訝しんだ。いや、本音を言えば、今でも神祖という存在に関しては眉唾物だと思っている。だが、無線越しでも伝わる彼女の溢れんばかりの殺意。そして、何が何でも己が信念を貫かんとする底なしの熱量。あれらが嘘とは、俺には到底思えない。よって、信じる価値があると判断した。それに仮に彼女の言うことが真実だとするならば、放っておくわけにもいかないからな」

 

「自国を裏切ってまで成し遂げたいことがある、それが神祖の滅殺ですか……どうしてそこまでして」

 

「曰く、『生まれた責任を取らせたい』そうだ。詳しい事情はジェイスの方が詳しいだろうが……これ以上は俺の口から語るのはやめておこう。無事作戦が終了して、アクトレイテ殿と会う機会があったら、直接訊いてみるんだな」

 

「いや、まぁ別にそこまでして知りたいわけでは」

 

 単純に、自国を裏切るというハイリスクを冒してまですることなのか? と思ってしまうのだ。どういう事情があるにせよ、自国を裏切ったなど、それこそ神祖にでもバレたらただではすまないだろうに。

 それだけ、アクトレイテ殿は現状地獄に己が身を置いているということなのか。地獄から抜け出すには、神祖を殺し尽くすしかない。だから危険を冒して、決意して、努力して、行動に移して、と……

 ……私とは大違いだ。確かロバーツ隊長曰く、アクトレイテ殿は年端もいかない少女らしい。私よりも幼いというのに、生き様は私の万倍は立派だ。

 こうやって作戦の渦中にいる私なんて、どこか他人事に『面倒なくつつがなく終わりますように』と無責任に願っているというのに。

 ……あぁ、本当に。私という塵屑は。

 

「しかしあれだな、魔弓人馬(サジタリウス)の連中ばかりに頼るのは申し訳ない。できれば俺も出動したいんだがな」

 

「いや、それ駐屯兵の意味ないですから。何のための制圧部隊と駐屯部隊ですか、堪えてください……それに、どのみち今回の侵略、ジェイス隊長以外には不可能なんでしょう? ていうか、ジェイス隊長を推薦したのロバーツ隊長じゃないですか」

 

「推薦したうちの一人ってだけだ。奴の星辰光だけが、神祖とかいうのを突き崩せる唯一の特効だからな。むしろ俺らが加勢に加わっても、足手まといになるやもしれん」

 

 今しがた話した通り、ジェイス隊長は元々隊長格の人物ではなかった。

 しかし、今回の制圧作戦にあたり神祖を突き崩せるであろう星辰光を所持しているのがジェイス・ザ・オーバードライブただ一人であったため、部隊長の合議により、急遽隊長に抜擢され、今作戦を担う要となったというわけだ。

 元々ジェイス隊長と深く長い交流のあったロバーツ隊長は、それはもう全部隊の隊長の誰よりもジェイス隊長のことを推薦したそうだ。

 この人、本当に口を開けば今は亡きヴァルゼライド総統閣下やジェイス隊長への称賛の言葉しか口にしないからな……

 やれヴァルゼライド閣下は真の英雄だだのジェイスこそ隊長となり光の後継者となるに相応しい男だなど……本当、ホモだろうこの人。そりゃあ結婚もできないわ。女の話をしているところなど、見たことがない。

 たまに朧隊長への称賛やヴィクトリア隊長への同情――主に東部での惨劇の後始末のあれこれへの――を口にするだけだ。

 本当に仕事人間で、色恋を中心とした自分のことへの関心が薄いのだなと感じてしまう。

 

 ……そして。

 業務の話をしつつ、やはり私は心の中で嘆息した。

 満腹感とほどよい酩酊感のおかげでいい気分となっていたが、やはり仕事の話となると億劫になってしまう。

 今回の大規模な制圧作戦により北部一帯は多忙を極めること間違いなしなだけに、面倒だと思う気持ちが止まらない。

 

 

「……どちらにせよ、平穏に終わることを願うばかりだよ」

 

 隊長に聞こえない小声で、そう呟いた。

 どうか明日は、今日よりも易しい地獄でありますようにと願いながら、私と隊長は別れ、自分の部屋へと帰宅するのだった。

 

 

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