シルヴァリオ メタモルフォシス ~シルヴァリオ ラグナロク Side:Capricorn~   作:斎藤2021

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Chapter Ⅳ 出立、そして/To each road

「ありがとうよ、アルヴィン。制圧作戦前のいい肩慣らしになった。魔星の煌めきに翳りはねぇ。

 まぁきっとアレだ、作戦中に交戦が予想される使徒や神祖なんかよりも、お前の方がよっぽど手強かったってなるのがオチだろうぜ」

 

「そうなることを願っていよう。

 勝てよ、ジェイス。殉職することだけは許さんぞ。お前にはまだ、拳の稽古を付けてもらわなきゃならんからな」

 

 そう言い、血塗れになった二人の隊長は熱苦しい男の握手を交わした。

 両者は共にご満悦の様子で、その強面の顔面に気持ちが悪いほどの満面の笑みを浮かべている。

 ……あの後、何故か二人は星辰光を解除し、徒手空拳での殴り合いを始めてしまった。

ジェイス隊長の稼働チェックじゃなかったのかよと突っ込みたいところだったが、曰く「興が乗った」とのこと。興が乗って素の殴り合いが勃発してしまうってどんな思考回路していればそうなるんだ。頭の中に剣闘士でも飼っているのかよと思う。

 ともあれ、結果勝利したのはジェイス隊長だった。

 当然だろう。星辰奏者としての戦いならいざ知らず、ステゴロにおいての戦闘ならばジェイス隊長の土俵なのだから。普段弓矢を主要武器としてるロバーツ隊長に勝ちの目があるはずもなく――それでも信じられないほどに善戦してたが――お互い満身創痍になりながら決着が告げられたのだった。

 いや、ていうかちょっと待ておい。

 

「握手してる場合ですかこのダブルトンチキ隊長ズッ! 

 すぐ医療室へ向かってください、特にジェイス隊長! 出血量エグイですって。ロバーツ隊長、無遠慮に切り刻みすぎです! 模擬戦って言ってんのに加減なく本気で星をぶつける馬鹿がどこにいますか! 

 あ~~~ていうかジェイス隊長の吹っ飛ばした壁面の修繕依頼もしなきゃだし本当にもうこの大馬鹿たちは――――!!」

 

『ははははは』

 

「何呑気に笑ってんですかぶち殺すぞコラァァァァ――――――ッッ!!」

 

 神よ。何故私に平穏を与えてくださらないのですか。

 夕焼けに染まる天を仰ぎながら、私は自分の胃袋が爆散する音を体内から聴いた。

 いっそ殺してくれ。いや、マジで。

 

 

……

………

 

「それじゃあ行ってくるぜ。留守番よろしく頼むぜ、鳴殺笛(シューリンクス)。それと、ウォーライラの嬢ちゃんもな」

 

 あの模擬戦から一週間。ついにカンタベリー制圧作戦の幕が上がろうとしていた。

 作戦決行にあたり、ジェイス隊長は今日付けでアドラーを後にし、カンタベリーに乗り込み制圧を開始する。

 神祖や使徒といった存在を甘く見るわけではないが、ジェイス隊長なら楽々完勝してしまうのではないかという気がしてしまう。あんなぶっ飛びっぷりを見せられたら、そう感じてしまうのは道理だろう。

 何せ、味方の私ですら恐怖と戦慄を覚えてしまった。

 身も蓋もなく言えばドン引きだ。ジェイス隊長への苦手意識がより跳ね上がったのは語るまでもない。

アルヴィン隊長にも同じことが言えるが、何よりジェイス隊長に対し異常に感じたのはあの出力差での洗練された立ち回り。挙句鼻歌を歌うような気軽さで覚醒を連発するのだから、『化け物』と形容するしかない。

 こんな頭のおかしい男と結婚するとか、奥さんはどこまで豪気な性格なのか。それとも男が見る目がないのか。どちらにせよ、二人の子供がかわいそうだ。

 ………………いや。

 

「私なんかよりはマシか」

 

 小声でつぶやく。

 いやむしろ、ジェイス隊長はなんだかんだ面倒見いいし、義理堅いところがあるから、子供たちは幸せだろう。すくすくと立派に育っていくに違いない。

 私みたいな、塵と違って。

 

 

「何度も繰り返しで悪いが、本当に何かあればすぐに連絡してくれ。どんな些細なことでもいい。速攻で力になってみせる」

 

「頼もしい限りだ、ありがとうよ。作戦が終わったらよ、また呑みに行こうぜ。

 あぁ、そうだ。今度はコールレインの旦那もつれてきていいか? アルヴィンは確か面識なかったろ」

 

「いや、面識自体はあるぞ。だが、話したことは一度もないな……

 噂の裁剣女神(アストレア)お抱えのコールレイン元少佐殿か。こりゃ楽しみが一つ増えたな。仲良くしてもらえると光栄なんだが」

 

 と、私が暗い感情を渦巻かせているのも露知らずか。相も変わらず二人の隊長は唯一のこの場の乙女たる私をガン無視してイチャイチャしている。

 ホモどもが。嫌がらせに今度二人のカップリング本でも作ってやろうか。

 などと頭の悪いことを考えていると、何故か、ジェイス隊長がこちらへと歩みを進めてきた。

 まさか私の腐りきった姦計がバレたかと肝が冷えた次の瞬間、予想だにしていない言葉が、ジェイス隊長の柔らかい笑みと共に吐き出された。

 

「お前さん、無理はしすぎるなよ。一人で背負いこんで解決できることなんざ何もねぇんだ。いっそのこと、全部アルヴィン(あいつ)にぶちまけちまえよ。安心しろ、嬢ちゃんが危惧しているようなことは万に一つも起こらねぇさ。アルヴィンはそういうやつだからな。強くて優しい――光を愛する山羊(シューリンクス)なのさ」

 

「――――ッ……」

 

 呼吸が止まる。心臓が止まってしまいそうになる。

 呟かれた言葉の端々には、なにゆえか私を気遣うような慈愛に満ちていた。

 まさか。ジェイス隊長は、私が軍人を辞めたがっているのに気づいて……?

 

「なんだよジェイス、ひそひそと。うちの副隊長引き抜こうったってそうはいかねぇぞ」

 

「ちっ、バレちまったなら諦めるしかねぇか。

 ……あぁ、そうだな、アルヴィン。お前にもちょいと言っておきたいことがあるんだったわ。しっかりしてそうでお前も意外と危ういところがあるからなぁ、自覚あるのか分からんが」

 

「? あぁ、何だ? 遠慮なく何でも言って――」

 

 動揺する私を余所に、ジェイス隊長は踵を返し、再びロバーツ隊長の方へ向かっていく。

 そして――

 

 

「――――――」

 

 何事かを、ロバーツ隊長の耳元でささやいた。

 詳細は委細聞き取れなかったが、隊長の顔も私ほどではないにせよ動揺に歪んだ。いや、困惑と言った方が具体的か。

 言葉の意味が理解できない、といった表情だ。

 

「……そうか。分かった、肝に銘じておこう」

 

「あぁ、そうしてくれや」

 

 しかし、それも一瞬。言葉の意味を表面上だけでも咀嚼したのだろう。ロバーツ隊長が真剣な表情で頷くと、ジェイス隊長も満足げに首を縦に振った。

 そして真実その言葉を最後に、ジェイス隊長はアドラーの地を後にするのだった。

 

 




今回は短めです、申し訳ありません。
次回との区切りが半端でですね……(歯噛み)
 
というわけでジェイスは無事カンタベリーへ作戦決行の為出発、きっと今頃ルーファスくんの心をボキボキへし折っているのでしょうね……南無三……
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