「・・・この世界、アニメの世界だったんですか」
「まあ、そういうことになるわね」
今日はゆう子の家で、魔法少女リリカルなのはに関する勉強会だ。
「隣のクラスの高町なのはが主人公ね。あとフェイト・テスタロッサや八神はやても・・・」
秀一は危うくコーヒーを吹き出しそうになった。
「ど、どうしたのよ?」
「八神はやては・・・僕の幼馴染なんですが。この世界での」
「念のため、話を聞かせてもらえないかしら?」
秀一は言われたとおりに、八神はやてとの関係を話した。
かつて、よく遊びに行っていたこと。
ボーグをあげて、Cogitoに導こうとしていたこと。
ある日、彼女の大事な本を壊してしまい、それ以来会ってないことを。
「・・・アンタは、また仲直りしたいと思ってる?」
「ええ、もちろん」
「諦めなさい。アンタの命が保証できないわ」
「・・・どういうことですか?」
「四年前、海鳴市で行方不明になる子が相次いだの覚えてる?」
「ええ、それもあって、はやての家に行くことがなくなったので」
「そいつらは私達と同じ転生者だったのよ」
「へえ、僕たち以外にも・・・えっ?」
「殺されたのよ。まあ、同情する余地のないような奴らばっかりだったけど」
部屋の空気が一気に冷え込む。
「いっ、いったい誰に・・・」
「名前は知らないわ。ただ殺害現場を目撃しただけね。たぶん原作狂信者よ」
原作狂信者、その単語が秀一の脳内に深く刻まれる。
そして、Cogitoを通じてゆう子の持っている情報がいくつか入ってくる。
もともとは二次創作でいう原作派に当たるが、この場合はゆう子の造語のようだ。
さらにゆう子の記憶も伝わってきた。
少女。長い黒髪の、そして冷えた瞳の・・・。
「だいたい意味はわかりますが・・・」
「アンタと話すの楽でいいわね。勝手に情報を知ってくれるから」
ゆう子は紅茶をすする。
「あの時、私がアンタを助けなかったら、今頃はどこかの山の・・・そもそもアンタを殺せる奴がいるのかしら?」
「僕だって死にますよ。多分」
「そこなのよねえ。よく考えたらアンタ人外なわけだし。だからはやてに会いに行ってもいいとは思うんだけどねえ・・・」
「・・・転生者はもう僕たち以外にはいないんですか?」
「あっ、傍観者や私達のように別のことをしようとしているタイプは生き残ってるわよ。もうすぐその一人が来るはずだけど・・・」
そのとき、部屋の入口に魔法陣が展開され、そこから眼鏡をかけた女子がでてきた。
髪はぼさぼさで、白衣は灰色になってしまっている。
「すまんすまん、研究に没頭してしまってな」
「三十分の遅刻よ」
「またケーキ奢るから・・・。むっ、君がゆう子の言っていた例のオーバーマインド君か。私は
「お、オーバー・・・?」
「気にしなくてもいいわ。こいつの言うことを気にしてたら、頭がパーになるわ」
「ひどくないか?それはともかく、オーバーマインド君。天野河リュウセイという人物を知ってるかい?」
「知ってるもなにも、ボーグバトルチャンピオンで・・・あれ、どうしてその人の名前を?」
少女は大笑いした。
「はっはっはっはっは・・・なるほど、本当に君のいた世界はなんでもありなんだな!」
「えっ・・・?」
「気にしなくてもいい!ともかく、ボーグとやらを出してくれ!」
「わっ、わかりました・・・」
こいつはCogitoとは別のやばい何かにつながっているのでは?
秀一はそう思ってしまった。
そう思いながらも、胸に手を当て、思い描いたボーグを結晶化する。
「おお・・・すばらしい!実にすばらしい!これが幼年期を卒業したボーガーの力か!」
円子は鼻血を吹き出しながら興奮する。
「オーバーマインド君、それをしばらく貸してもらえないかね!?」
「い、いいですよ。いくらでも出せますし・・・」
「いくらでも!じゃあ、あと二個くらい!」
「はい」ポンッ、ポンッ
「おお、本当に二個出してくれやがった!ありがとう。それでは!」
そう言って帰ろうとする円子を、ゆう子は取り押さえる。
「勝手に帰ろうとするんじゃないわよ、この変態眼鏡」
「おっと、すまんすまん!それで本題は何だい?」
「これからの対策についてよ。原作も始まったわけだし」
「うん?それだったら私はいらな・・・」
「こいつはリリなのの宇宙観を知らないのよ。アンタは上手く説明できるでしょ?」
「むっ、そうだな。それでは説明しよう!」
円子はどっからかホワイトボードを取り出す。
「さて、オーバーマインド君。君は別宇宙という概念は知っているかね?」
「えっと、文字通り別の宇宙を意味する言葉では?」
「その通り。このリリなの世界はいくつもの別宇宙が登場する!」
円子は一つの小さな円を描く。
「この円が私達の地球が存在する宇宙だと思ってくれ」
「はい」
「そして・・・これが次元の海だ!」
円子は大きな円を描く。
「そして、この次元の海の中に別宇宙、すなわち次元世界がいくつもあるんだ!」
円子は最初に描いた円と同じ大きさの円を巨大な円の内部に何十個も描く。
「そして、そういった次元世界の中でも、次元航行技術を有した世界を管理する組織がある!」
円子は小さな点を入れて、それに矢印を入れて、さらに時空管理局という文字を書き入れる。
「これが基本的なリリなの宇宙観だ!わかったか、オーバーマインド君」
「はい、大変わかりやすい説明でした」
「ふふふ、ありがとう。さて、問題はこの組織なんだよ。一応は主人公側なんだけどなあ」
「何か問題でも。腐敗しているとか?」
「それは古今東西どこでも同じだろ?ボーグ協会もそのはずだ」
「ええ、そうですね。・・・だから何で知ってるんですか?」
確かにボーグ協会も色々と怪しかった。放漫経営が目立っていたし。
「問題は、私達の立場なんだよ。私は奴らの研究者には負けないぐらいの知識があるし、ゆう子はローザミスティカが体にあるし、君なんて人外そのものだ。下手に目をつけられたら・・・」
「実験生物にでもなると?」
「ゆう子とオーバーマインド君はそうなるね。私はたぶん飼い殺しだね」
「私は嫌だわ。そんなの。アリスになれないし」
「そうだろ?そこである取り決めを行いたいと思う」
「取り決め・・・ですか」
「そう、取り決めだ」
円子はホワイトボードに宝石っぽい絵を描く。
「これがジュエルシードだ。まあ危険物だ。これが街の中に転がっているが、無視しろ」
大きなバツ印を書いて無視と書き入れた。
「なのはやフェイトとかいうやつが勝手に解決するからな。見つけても、絶対に気にするな!」
「わ・・・わかりました」
「わかったわ」
円子の表情が険しいものとなっている。
「私は二次小説で何度も見たんだよ!この石なんだろ~って拾ったら、フェイトさんのご登場だよ!笑えるだろ!」
「はっ、はあ・・・?」
秀一は彼女が何を言っているのか理解できなかった。
「・・・すまん、少し取り乱してしまった。次に闇の書に関してだが・・・今、どうなってんのアレ?」
「透き通った状態になりました。なんか発光もしてますし」
「・・・じゃあ、心配ないな!バレなきゃ大丈夫だろ!」
バレなきゃ、というのはゆう子の言っていた原作狂信者にバレなきゃ、という意味なのだろう。
「それに、オーバーマインド君を殺せるとは思えないからな!」
「・・・ありがとうございます」
ゆう子が突然、手を上げる。
「それでも、守護騎士が出てくるんじゃないの?」
「むっ、その心配は必要ないぞ!私は人工リンカーコアだし、君たちはそもそもCogitoが源泉になってるから、いくら吸われても問題なしだ!」
「なるほど、結局僕は釣瓶ですか」
そして数十分後・・・。
「よし、これでルール決定だ!」
円子は紙を掲げた。
原作介入控えろ!
管理局と接触しても人間のフリ!
歯ブラシは一人一本までだぞゴルア!
「ちょっと待ちなさいよ。最後の何なのよ?」
「一般常識ではないのですか、ゆう子さん?」
「そうだぞゆう子!オーバーマインド君の言う通りだ!」
「・・・頭がおかしくなりそう」
こればっかりはゆう子が正しかった。
ともかく、秀一は新たな仲間を得ることができた。
また目標に一歩・・・。