そして、中学を卒業すると、伯母の家から逃げました。
繁華街で、歩きながら仕事を探していると、そば屋で求人募集の貼り紙がありました。
住み込みで働くと、そこの亭主もまた、女房の目を盗んでは私にわいせつなことをしました。
私はつくづく、男のおもちゃにされる自分の運命を呪いました。
女房にバレると、亭主は私が誘ったとウソをつきました。
女房からひどいことを言われ、結局、そこからも逃げました。
そして、汽車に乗って、気づいたらあそこにいたんです。
声をかけてくれる人は誰もいませんでした。
篠塚さんが初めてでした。
王子さまがやって来たと思いました。
でも、あなたは一度しか私の体に触れなかった。
一緒にお茶を飲んだり、部屋に遊びに来てくれたけど、二度と私の体に触れることはなかった。
汚れてしまった私の体なんか、イヤだろうな。
そう思いながらも、いつかきっと抱いてくれると信じてた。
でも、そんな淡い望みは叶えられなかった。
虚しかった。悲しかった。自分が哀れだった。
でも、あなたの役に立っていることがうれしかった。
お金でしかあなたをつなぎ止める方法はなかった。
だから、あの仕事を辞めなかった。
でも、疲れました。
どんなに頑張っても報われないことを知って、死にたくなりました。
だけど、上手に自殺することもできません。
何をやっても上手にできない情けない女です。
窓の外は雪です。
温かいのが好きだけど、死んだら寒くても感じないよね。
この雪に一晩降られたら死ねるでしょうか。
誠さん、さようなら
曽根深雪より〉
誠は涙を溢していた。
……俺のせいか? な、みゆき。俺が殺したのか? 何か言ってくれよっ!
誠は心の中で叫んだ。――
みゆきのことがあってからは、誠は女を拾っていなかった。
それは、雪がちらつく午後だった。見回りをしていると、久しぶりにおばちゃんと
「まぁ、若頭。ご無沙汰してます」
百貨店の紙袋を提げていた。
「おう、元気そうだな。買い物か?」
「ええ。孫の服を」
「今は何を? 働いているのか」
「いえ、この歳ですから。家で孫の面倒を見てます」
「そりゃあ、何よりだ。幸せにな」
「はい、ありがとうございます。――あっ、みゆきちゃんの行方は分かりました?」
思い出したように顔を上げた。
「……いや」
みゆきのことには触れたくなかった。
「どうしてるかしらね。いい子だったのに。なかなかの勉強家で、時間があるといつも辞書を開いていました。勉強家だねって言うと、高校行ってないから勉強しないとって。篠塚さんに嫌われたくないからって。……あの子、若頭のことが本当に好きだったんですね」
おばちゃんのその言葉に、誠は照れ隠しのように鼻で笑うと、コートのポケットに手を突っ込んだ格好で横を向いた。
事務所に戻る途中、ミニスカートにブーツの高校生風の二人連れとすれ違った誠は、
「おっ! かわいいね」
と声をかけて通り過ぎた。ケラケラと笑い合う二人の声が背後でしていた。
降る雪を見上げると、そこには、みゆきの微笑む顔があった。
……今度は俺の見張りか? それとも見守ってくれてるのか? あ? どっちだ? みゆきーっ!
完