リリカル受難物語~なのは達がただ困るのを眺めるだけ~   作:一条和馬

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【登場人物】

高町なのは:主人公。ツッコミというか常識人

フェイト・テスタロッサ:なのはの友人。真面目だけどなんかズレてるボケ担当

八神はやて:なのはとフェイトの友人。確信犯のボケ担当

シグナム:フェイトの好敵手で八神家パパ。天然ボケ担当

闇統べる店長:はやてにそっくりな人。寿司と言わず料理全般得意だが、人間性に難ありで、厨房に封印されている

星光の副店長:なのはにそっくりな人。店長を封印した張本人。しかし、呼び出しとかに勝手に出る店長や、他の店員のせいで胃薬を常備しているとか

雷刃のシフトリーダー:フェイトにそっくりな人。店長同様人間性の問題で厨房に封印していたが、目を離すとすぐにホールへ遊びに行く。役職は「格好いいから」で名乗っているが実際はスイーツ担当

紫天の寿司職人:海鳴に新しくできた寿司屋お抱えの職人。噂だが、寿司を握る時は背中から生えたデカい手みたいなので複数同時に握るらしい。驚くほど人前に出てこない(重要)

バイト娘姉:実質一人でホールを担当しているすごいお姉ちゃん。やたら元気

バイト娘妹:ちょっぴりセクシーなレジ担当の妹。実は一番真面目

バイト娘妹のタブレット:何故かバイト娘妹と一緒にレジを担当するタブレット端末
息をする様に嘘をつきたがる

※:本作には「魔法少女リリカルなのは」シリーズに出てくる登場人物に非常によく似た人物が沢山出てきますが、なんか時空の座標がズレたのかちょっと変な連中に仕上がっています。

※2:記憶が正しければこちらの作品、リリカルなのはReflection公開してすぐの頃に書き上げた落書きです。


【なのは「お寿司屋って胃薬流してくれてませんか!?」】

【一】

 

 ――季節は春。冷たい雪は溶けて桜の花があちらこちらに芽吹く今日この頃。私たちは今、海鳴市に新しくできた回転寿司のお店にやってきています。

 

「いらっしゃいませー! 四名様ですね!! お姉ちゃんがご案内します!!」

 

 なんだかとっても元気な赤い髪の従業員さんに従い、私、高町なのはと、お友だちのフェイトちゃん、はやてちゃん、引率のシグナムさんと案内された席に座りました。

 

「皆。今日は私の奢りだから、遠慮せずに沢山食べてほしい」

 

 私の向かいの席でそう言って胸を張るフェイトちゃんは、どこか大人びて見えてしまいます。

 それも当然。実は、つい先日、フェイトちゃんは時空管理局執務官として初めて給料を貰いました。所謂『初任給』と言うやつです。

 フェイトちゃんはその貴重な初任給の使い道を私達との外食に使ってくれるとか。管理局からの給料なのに地球で使えるのかとか、そういうのは気にしてはいけません。

 

「本当は、守護騎士の皆や、ユーノやクロノ達も呼びたかったんだけど……」

「ごめんなフェイトちゃん。ヴィータ達お仕事がどうしても抜けられなかったみたいで……」

「クロノ執務官やユーノも、謎の違法渡航者を追跡中で手が離せないと言っていたな」

「皆大変だからね~」

「なのはも大概だと思うよ……」

 

 私がのほほんとコメントしたのに、フェイトちゃんは心配そうに答えてくれます。

しかし、私はそんなフェイトちゃんに嘘をついてしまいました。いくら執務官とはいえ、十二歳でもらえる初任給なんてたかが知れています(実家で経験済)。それでも無理して、足りない分は貯金を切り崩してても全員奢ろうとしているんです。

 

 フェイトちゃんの懐事情を鑑みつつ、尚且つ断ってしまうと折角の彼女の好意を踏みにじる事になってしまうので、事前にはやてちゃんと口裏を合わせていたのです。

 

 実のところは、皆揃って暇をもて余しています。でも、(公平なくじ引きの結果)留守を買って出てくれたヴィータちゃんが私には『楽しんでこねーとぶっとばすかんなぁ!!』と半べそかきながら訴えてきたので、残してきた皆の思いに応えるため、高町なのは、全力全開でお寿司を食べる所存です!

 

 先程の元気なお姉さんが去り際に『ご注文の際は横のインターホンにてお知らせください! 気合と努力で答えます!!』と言って走って行ったので、私達は流れるお寿司達をチェックしつつ皆自分の欲しいものを確認し始めました。

 

「うーん、とりあえずマグロ食べようかなー」

「じゃあ、私もそれにしよう。シグナムはどないする?」

「そうですね……この軍艦巻きの名前に惹かれたので、これで」

「私はいなり寿司にしよう」

 

 あんまり長考するタイプの人が居ないからか、決める事に関してはほぼ即決に近いスピード。ここにヴィータちゃんが入れば間違いなく最初の一手で沢山頼んでいそうです。

 

「あ、ごめんなのはちゃん。インターホン押してもらってええかな?」

「はーい」

 

 現在、内側に私とフェイトちゃん。外側にはやてちゃんとシグナムという構図で座っているので、お皿を取ったり、インターホンを押して注文するのは私か、フェイトちゃんの役目。でも、今回はフェイトちゃんのお金でやって来ているので、この手の仕事は私が担う予定です。

 

 ピンポーン!

 ガチャ

 

『フン、小鴉とその愉快な仲間の分際で我に注文とは随分と頭が高いではないか。まぁいい。ご注文をどうぞ!!』

「マグロ二つと、軍艦巻き一つ、それといなり寿司一つお願いします!」

『良かろう。最高級最品質の我らが寿司をご用意してやろう。おい! 聞いたかレヴィ……って何勝手にケーキつまみ食いしてn』

 

 ガチャ

 

「大変そうやねぇー」

「活気づいているというのは、良い事です」

 ちょっと店員としてどうかと思う対応をした、心なしかはやてちゃんの声にそっくりな女の人には特に触れず、私達は待っている間に流れるお寿司に意識を向けます。

 多分私もその一人なので強く言えないのですが、皆、回ってくるお寿司を見る目は真剣そのものです。特にはやてちゃんなんて『何か良さそうなレシピあったら覚えて帰ろう』と顔に書いてある位です。残りの二人は純粋にジャパニーズSUSHIに魅了されているだけかもしれませんが。

「ところで、なのは」

 ふと、流れるお寿司を呆然と眺めながら、フェイトちゃんが私の名前を呼んでくれました。

 初めて名前を呼んでもらってからもう二、三年経ちますが、フェイトちゃんは今でも私の名前を呼ぶ時は少し嬉しそうにしてくれます。そんな変わらないフェイトちゃんを見てると、私もつい頬が緩んでしまいそうです。

「どうしたのフェイトちゃん?」

 照れ隠しも兼ねて、はやてちゃんが淹れて来てくれたお冷に手を伸ばし、ちょっとでも誤魔化します。二人の時は良いかもしれませんが、横ではやてちゃんとシグナムさんがニコニコとこちらを見ている手前、恥かしくて手持無沙汰だと頭から湯気が出てしまいそうです。

 

 少し間をおいて、フェイトちゃんはゆっくりと口を開き始めました。

 

「なのはって、今どんなパンツ穿いてる?」

 

「ブブゥ!?」

 ん? ん? んんん??

 今、フェイトちゃんは何と??

 パンツァー……何だって?

「ごめんフェイトちゃん。お冷飲んでてちょっと上手く聞き取れなかったかな……戦車が、なんだって?」

 多分聞き間違い。きっとそうに違いない。いや、そうだ。間違いなくそうなんだ。そう心の中で念じながら、私は不意打ちで噴出してしまったお冷をおしぼりで拭きとりながら、フェイトちゃんの出方を伺います。

「戦車?」

 しかしそんな私の気も知らず、それ所か、どうかしたの? とでも言わんばかりの困惑顔を見せるフェイトちゃん。

 

 いや、そう言いたいの私だよ。

 

「ちょっとなのは大丈夫? 私は、なのはが今日、どんな下着なのか気になって気になって仕方がないんだ」

「いや、私はフェイトちゃんの頭が気になって気になって仕方がないんだけど」

 はやてちゃん、シグナムさん助けてよ。という意思を視線に込めて、私は二人にアイコンタクトを送ります。しかし。

 

「見てこれ見てこれ! すっごいでしょー? 僕が作ったんだよ!!」

「この苺のショートケーキを一人でか? 中々の腕前だな……」

「えへへ……もっと褒めても良いんだぞー?」

「盛り付けも丁寧でホンマ美味しそうやわぁ……でも店員さん? そのケーキ、多分隣の席の人が頼んだやつやと思うんよ?」

「ん? あれ、本当だ! よく分かったな小鴉!」

「はやく持って行ってあげてなー」

「主はやて。後で我々も同じものを頼みましょう」

「おっ、任せとけー! 隣の人、すまなかったな! 今、苺のショートケーキ実は中身は青と黄色の超格好いいケーキお待ちどー様!!」

「……」

 

 はやてちゃんとシグナムさん、そもそも見ていませんでした。

 

 声と容姿がフェイトちゃんにそっくりな青い髪の店員さんがケーキ片手に隣の席に消えていったのを確認した後、やっとはやてちゃんが私の方を向いてくれました。

「ん? どないしたんなのはちゃん?」

 あ、ごめんフェイトちゃんそこ流れてるサーモンのお寿司取ってくれへん? とフェイトちゃんにお願いをしながら、はやてちゃんは私の話に耳を傾けようとしてくれました。

「私から説明するよはやて。実は、なのはに下着のプレゼントをしようと思ったんだけど、どういうものが好まれるか分からないから、勇気を出して聞いてみたんだ」

 はい、どうぞ。とフェイトちゃんは流れていた皿を一枚手に取り、はやてちゃんに渡します。

「ありがとうなフェイトちゃん。でもこれ、サーモンじゃなくて隣にあったイカやねんけど……」

「え? 違うの?」

「掠ってもないんよ……」

 そう言ったはやてちゃんはしかしあんまり気にしていないようで、慣れた手つきで醤油をお寿司に垂らし、さっそく一貫頬ぼり始めます。

「ん、美味しい。シグナムも一貫いる?」

「では、お言葉に甘えて……」

「ほら、食べさせたるな。はい、あーん」

「いや、それはちょっと恥ずかしいというか……」

 もう、完全に二人の世界に入ってしまっている。私がちょっと蚊帳の外気味だ。

「あぁ、ごめんなのは。話の途中だったね」

「う、うん……」

 私の下着事情なんてお寿司と一緒に流してもらって構わなかったんだけど、どうしてもフェイトちゃんはその話題について熱い想いがあるみたいです。

 正直、勘弁してほしいです。

「少し言い方が変だったら申し訳ない。別にやましい気持ちはないんだけど、なのはがどんなパンツ穿いてるか想像すると、ちょっと思考が鈍っちゃってね」

 

 ……うん、それが『やましい気持ち』なんだと、なのはは思うんだ。

 っていうか、今日はフェイトちゃん口調からちょっと変な気がします。

 

「要するに、普段何かとお世話になっているなのはにプレゼントをしたいんだ」

 これ以上ないという程にまっすぐな瞳で私を見つめるフェイトちゃん。

 きっとこれが本心なんでしょうが、さっきまでの言動が彼女の真剣さをどうしても歪めてしまいます。

「本当は道中スカートめくって調べるつもりだったんだけど、鉄壁過ぎて不覚にもチャンスを逃してしまった……」

 ありがとう鉄壁スカート。貴方のおかげでなのはの大事な下着が衆人観衆の目に晒される事はありませんでした。

 

「こんな不甲斐ない私で良ければ是非とも今日の……じゃない。好みのパンツのデザインを教えて欲しいんだ……ッ!」

「ごめんフェイトちゃんちょっと意味がわからn」

「んっ……んんんんんんんんん!」

 私がやんわりと断ってやろうと口を開いた時、真横から艶めかしいのかよくわかんない悶え声が聞こえてきました。声の主はシグナムさん。何やら口を押さえて、目に涙を滲ませながら体を小刻みに震えさせています。

「あ、主はやて……これはもしや……?」

「これ? フフフ……WASABI」

 山葵の入った容器を指でトントンと叩きながら、はやてちゃんがどや顔でシグナムさんを見ています。あの顔は絶対に笑うのを堪えている。

 先程から、私の話のみを的確に阻害しているようにしか思えません。

「なのは、パンツ」

 最早語彙力を流してしまったフェイトちゃんが、ずずいと身を乗り出して顔を近づけてきます。自分は間違っていないという自信に満ち溢れた表情で私の視界が埋め尽くされます。

 いや、そんな事されても教えないからね?

 フェイトちゃん、それ変態行為だよ? 犯罪一歩手前だよ公務員?

 

 と、ダイレクトに言いたいものの、フェイトちゃんは優しい子なので、あんまり虐める訳にもいきません。ここは私が妥協して、どうにかマイルドに事を進めなければなりません。

 その解決策の一環として、私は無策にも突っ込んできたフェイトちゃんの頬を両手でがっちりホールドしました。

「ぼふっ」

 女の子らしからぬ声で、女の子らしからぬ表情をするフェイトちゃん。

なんだかキスを迫られたのを無理矢理止めた構図にも見えなくもない、と、やった後に後悔してしまいますが、これまでのフェイトちゃんの奇行を考えると、あんまり気にしなくて良いかな、と少し自暴自棄にもなってしまいます。

 

「フェイトちゃんよく聞いてね? ここは公共の場なの。ミッドチルダ式の礼儀はまだ全部把握できていないけど、ここではね、あまりよろしくないんだよ。わかる? 郷に入っては郷に従わないといけないんだよ?」

「ふぁい……」

 

 私の想いが通じたのか、反省の色を見せて少し悲しそうな眼をするフェイトちゃん。

 

 これは私が悪いのですが、両頬を掴まれた悲しい目のフェイトちゃんの表情が面白くて内心笑いを止める事に必死です。

 理解してくれたフェイトちゃんを解放する為、何より私の腹筋の為に両手を離し、両者元の鞘に収まりました。

 これできっと、休日の楽しい外食タイムがカムバックして

 

「つまり、公共の目な中だからダメなんだね? じゃあ、今から一緒にトイレ行こうかなのは」

 

 来ませんでした。ダメでした。

 

「うん、ごめんフェイトちゃん。私が悪かった」

「?」

 失念していたが、私の周りにはとても頑固な子ばかり。フェイトちゃんはその筆頭とも言えます。そんな彼女が、例え休日とは言え、自分の意見を簡単に曲げる訳がありません。

 ここはさっさと下着を見せて、早く現実に戻してあげる方が良さそうです。死力を尽くした、人の運命がかかった戦いの最中ではないのです。なのはも妥協や諦めをする事だってあります。

「じゃあ、早速行って、パパっと終わらせるからねフェイトちゃん?」

「……いや、ちょっと待ってほしいなのは」

 席を離れようとした私の袖を、フェイトちゃんはぎゅっと可愛く摘まみます。奇行の主とは思えない気弱な対応です。

 

「よく考えたら、恥ずかしい事だと思うんだ私は」

 よく考えなくても凄く恥ずかしい事だと思うんだ私は。

 

 私に「今日どんなパンツ穿いてる?」とか「スカート捲ろうとしたけど失敗した」とか「(下着確認の為に)一緒にトイレ行こうか」とか迷走しきっていた今日のフェイトちゃんの言動とは思えないマトモっぷりに、私も動揺を禁じえません。

 しかし、ちょっとフォローも入れてあげないとな、と私も思う訳です。

 元はと言えば『日頃からの感謝』とやらで新しい下着を買ってあげたいとの事。

 だったら……

「フェイトちゃん。後で一緒にランジェリーショップに行けば解決するんじゃないかな?」

 

「私はなのはが今穿いているパンツが見たいんだ」

 

 やっぱそれが本音か。

 発言の後『あっ』という顔をしていたから間違いないぞコイツ。

 

「は、はやて! シグナム! 何か頼もうか!?」

 おっと、本音がバレて話題を無理矢理変えようとしてきたぞ。

 いじめよくない、とさっき言いましたが、〆る所ではちゃんと〆てあげないと、彼女の将来にも大きく関わります。同居などして私がフェイトちゃんと一緒にいる時間が多いとかならまだ私が目を光らせればいいだけの話ですが、流石に同居はないだろうと思うので、今の内からしっかり教育してやらねばなりません。

 でなければ将来、フェイトちゃんは当然として、フェイトちゃんの子どもにも悪影響が出かねません。それを防ぐための一手は、早々に打たねばならないのです。

「いーですかフェイトちゃん? 私は別に良いんだけど、フェイトちゃんの将来を考えると、この先が不安で仕方がな」

「フェイトちゃんフェイトちゃん! そこに流れてる赤いの取って! 赤いの!!」

「わ、わひゃしもそれへ……」

 タイミング計ってんじゃないだろうかこの二人。

 今度は間違えさせへんでと顔に書いてあるはやてちゃんと、未だにWASABIの攻撃にやられているシグナムさん。私の見てない間にも盛られていたのでしょう。最早まともに喋る事すらままならないらしいです。

 しかし、困りました。明らかに暴走するフェイトちゃんと、妙にいやらしい援護射撃をしてくるはやてちゃんにシグナムさん。何かの策謀を感じずにはいられません。

「ご、ごめん。私、ちょっとお手洗いに行ってくるね」

 ここは一度、一人になって気持ちを落ち着けた方が良さそうです。でなければ、いずれ堪忍袋の緒が切れて、三人仲良くSLBの餌食になってもらわなければなりません。

 さり気なく尾行しようとしたフェイトちゃんを人目のつかない様にバインド魔法で拘束し、私はそそくさとその場を後にします。

 

【二】

 

「なのはのパンツを見る絶好の機会を逃してしまった……」

 流れてくるお寿司を虚ろな目で見つめるのはフェイト・テスタロッサだ。

「一体、何がいけなかったんだろう……」

 根本的に全て間違っているのだが、当の本人はその事には気が付けなかった。愛故に、人は苦しみ悩むのかもしれない。間違っているのだが。

「ねぇ、はやて、シグナム。私、どうしたら良かったんだろう……?」

「私らに聞かれてもなー」

 出来るだけ会話に入らないよう努めていたはやてにとって、なのはが離席したのは非常に痛手だった。人の漫才に拍車をかけるのならともかく、巻き添えを食らうのは御免被りたいと思っていた彼女は、さりげなく配下たる烈火の将シグナムへとアイコンタクトを送る。「なんとかしてくれへんか」と。その想いが届いたのか、シグナムは小さく、しかし力強く頷く。

「テスタロッサよ」

「シグナム。何か妙案が……?」

「騎士らしくお姫様だっこして、その時さり気なく見て触れば良いんだ」

 誰が火に油注げつったよこのおっぱい魔人。と、思わずキャラを忘れて心の中でツッコムはやて。

「なるほど!」

 何が成程なのか皆目見当がつかないが、この時はやては、自身がやらかした過ちに気が付き、思わず天井を仰ぐのだった。

 

【三】

 

「はぁー……」

 トイレに来たは良いものの、出るのはため息ばかり。思えば、お寿司屋に来てから、まだ一貫しか食べていない様な気がします。フェイトちゃんの懐具合を鑑みる当初の計画からすれば大成功かもしれませんが、対価があまりにも高過ぎます。

「ふぅー……」

 誰もいない事を良い事に、手洗い場の鏡の前で何度も大きなため息をつき、なんとか己を律します。

 だからでしょうか。必死にストレスを吐き出すことに夢中で、私は真後ろの個室に人が入っているのを認識したのは、三度目の大きなため息を吐ききった後でした。

 

 ガチャリ、と個室の扉が開き、私とそう背丈の変わらない女の子が、無表情で私の方へと歩み寄ってきました。

「お困りのようですね」

 隣の席で手を洗い始めた女の子は、ここの店員でしょうか? 私は内心恥ずかしさで一杯なのですが、慣れているのか、はたまたこういうキャラなのか、全く動じている様子がありません。

「えぇ、ちょっと友人が久しぶりの休日で舞い上がっちゃって……」

 なのは、嘘は言っていません。

「そうでしたか」

 なんとなく察してくれたのか、店員さんは洗った手を赤いハンカチで綺麗に拭きながら、制服のポケットから何かカプセルの入った小瓶を私に差し出してくれました。

「私の個人的な所有物で宜しければ、これをお使いください」

 ラベルには、シンプルに「胃薬」とだけ書かれていました。

 今、何よりも欲しかったものです。

「ありがとう!」

「……礼には及びません。貴方からは、私と同じ匂いがします」

 そう言って一錠の胃薬をくれた店員さんは私と似た様な大きなため息をつきながらトイレから退出していきました。

 今気が付きましたが、心なしか、私に似た顔をしているなと思いましたが、同じ悩みを持っていそうな心の友に、私はこれ以上何か言う気にはなれませんでした。

 

 お互い、頑張ろうなの。

 

【四】

 

「やっと帰って来たね、なのは」

 やっとも何も、三分も経っていない筈なのですが、フェイトちゃんはそれはもう泣きそうな顔で私の方を見ていました。

心なしか初めて名前を呼び合った頃の表情に似ている気がしますが、フェイトちゃん、そんな簡単にしていい表情じゃないとなのはは思うんだ。

「なのは。なにはがいない間、私はずっと考えていたんだ」

「フェイトちゃん?」

 先程私にそっくりな店員さんから託された胃薬によって、なんとか内蔵の一命を取り留めた私は未だ絶対安静にしておかないといけない身ですが、容態が安定しているのも事実。冷静にフェイトちゃんへと対処していきたいと思います。

「さっきは、色々暴走して、すまなかったと思っているんだ、なのは」

 それは、私が離席する前からは見当もつかない、心の底から反省しているフェイトちゃんの言葉でした。

 

「最初は、純粋に……本当に本当に、純粋な善意で、なのはへのプレゼントを考えていたんだよ? でも、『どんなプレゼントが喜んでくれるかな?』『仕事中でもつけてもらえるなら、アクセサリーとかよりかは下着の方が良いよね?』と、考えていたら段々『どんな下着が似合うんだろう?』『というか、普段どんな下着穿いているんだろう』『見たい』『脱ぎ立てのパンツを穿くか被りたい』……と、己をセーブ出来なくなってしまったんだよ……」

 

 待って。最後ちょっとおかしくないかな?

 

「今になってようやく、私が犯してしまった過ちに気が付いてしまったんだよ。なのは、本当にごめんね?」

「う、うん……大丈夫。全然、気にしてないよ?」

 嘘です。なのは、ちょっぴり嘘をつきました。

 ここが公共の場でなかったら「フェイトちゃんのスケベー! エッチー!!」と叫びながら全力全開SLBでチリ一つ残さず消滅させる勢いが無きにしも非ずだった訳ですが、ちゃんと自分の間違いに気が付き、ちゃんと謝罪するフェイトちゃんの姿を見れば、私もこの海鳴から見える空の様に青く、海の様に深い心で許してしまうのも、自然の摂理ではないでしょうか?

「だから、原点に返り、純粋に質問をしたい」

「なんでも聞いてよ、フェイトちゃん」

 一呼吸置いたフェイトちゃんは、手前にあったお寿司を一貫手に取り、頬張り始めます。

 食べるタイミング明らかにおかしい気がしますが、今日はお食事に来た上に、フェイトちゃんの奢りなのでなんとも言えません。

 

「はのふぁ。へほいしはひとほぁひひしはひ。ほっぼががひい?」

 

「待って待ってフェイトちゃん。流石に食べながら喋るのは止めよう?」

 いなり寿司って結構咀嚼しないと食べ難い事を失念していたのか、そもそも知らなかったフェイトちゃんは、両頬を大きく膨らませながら、しかし、さも真面目だよ? みたいな真剣な表情でよくわからない言葉を喋ります。

 今日のフェイトちゃんは多方面のボケを連発し過ぎて一人では対処できません。

「……失礼」

 本日いったいどれだけの失礼をされたのか、もう覚えてませんが、この程度なら「まぁ、可愛いから許す」で終わらせられます。凄く間違った方向に強くなり過ぎた気がしてなりません。

 

「改めて、なのは。エロい下着と可愛い下着、どっちが良い?」

「うん、可愛いヤツかな」

 自分でもビックリするほど即答してしまいました。というか、今までの流れでエロい下着を選ぶわけがありません。

 

「……なのは」

 しかし、質問をしたフェイトちゃんはご機嫌ななめさんになります。二択問題で渋られるとはなんと理不尽なんでしょうか。

「私がなのはに同じ質問をされたら、迷わず全裸を選択する」

「せめて選択肢守ってくれないかなフェイトちゃん?」

「今回は高町に同意するぞ、テスタロッサ」

 ここに来て初めて、シグナムさんが私を援護してくれました。助かるのは間違いないのですが、出来ればもっと早い段階からフォローしてくれなかったのかなと思わなくもありません。

「私だって、同じ質問をされたら可愛い下着を選択する。テスタロッサ、可愛いは正義だぞ?」

 なんか妙に的を得てない発言ですが、藁にもすがりたい現状に贅沢など言ってはいられません。

 しかし、ここにはもう一人、黙々と寿司を頬張っていた人間が居ます。

「シグナム。ちょっと違うねんなぁ」

はやてちゃんです。彼女は開幕からひたすらに食事を続け、気が付けば空の皿で塔を作り始めた始末。並々ならぬ食への執念を見せていた彼女が、自然に会話に参加するのは、正しく今しかないと思ったのでしょう。

「主はやて……何か問題が……?」

「確かに。普段野暮ったい服装しかしないシグナムが隠れて可愛い系の下着に興味津々なのは知っている。それは良い。寧ろ、それが良い」

 でもな、と続けるはやてちゃん。正直、いやな予感しかしません。

「私も、なのはちゃんに着せるならエロい……否。とびっきりエロい下着を着せて辱めたい」

「はやてちゃん……」

「はやて……っ!」

 口開いたらこれか、という訳にもいかず呆れる私に、感動の涙を浮かべるフェイトちゃん。

 今の発言のどこに感動する要素があったのか、是非原稿用紙に感想を400文字ジャストで答えて欲しいの。

「主はやて……私が、浅はかでした……ッ」

「わかればいいんよ、シグナム……」

 シグナムさん、頼むから分からないで下さい。なのはをひとりにしないで。

 

 ここまで来たら三対一。

 なのはが、なのはが少し我慢すれば、この事態が収まるなら。

 正直に言うと、別にエロ……セクシーな下着に興味がない訳ではなく。

 ただ、ちょっと私には早いかな? 

っていうか、そもそも似合わないんじゃないかな?

そんな思いがあったりなかったりした訳ですが、フェイトちゃんの変態ながら、どこまでもまっすぐな意見に、私は少しうれしかったのかも知れません。

今日はちょっと、というかかなりぶっ飛んで変だったフェイトちゃんですが、根は真面目で良い子。ここはひとつ、この世界での年長者として大人な対応を以て応えるのも悪くないかもしれません。

つまり『妥協』です。

ゴメンね未来のフェイトちゃんの旦那さんにお子さん。フェイトちゃんの厚生に失敗しました。お二方の未来に平穏あらんことを不肖、私高町なのはが祈らせて頂きます。

「わかった……わかったよフェイトちゃん、はやてちゃん。セクシーな下着、買うからさ……この話題、もう辞めようか?」

「なのはが理解してくれて、私もうれしいよ」

今日一番の満点の笑顔を見せてくれるフェイトちゃんですが、理解するまで執念深く追い詰めた同一人物だと思うと、なのはは素直に笑う事が出来ません。

「にゃはは……」

 頑張っても、この程度の乾いた笑いが限界です。

 だけど、もう満足しきってあまり気にしてないのか、はやてちゃんに追いすがる勢いで流れているお寿司に手を出し始めます。

 なのはは、ここがお寿司屋さんである事すら忘れかけていたのに、フェイトちゃんの切り替えの早さに驚かざるを得ません。はやてちゃんのWASABI攻撃でついに手が止まったシグナムさんを見習えとは言いませんが、もう少し味わって食べてもなのはは良いと思うんだ。

 しかし、ずっと張りつめていた緊張から解放され、私もお店に来た時よりもお腹が空いている気がしてきました。

「よし、私も沢山食べようかな!」

 流れてくるお寿司を手に取り、自分の前に置きます。

 あ、そうだ。シグナムさんの分は、今日は私が取ってあげよう。

 

【五】

 

「ありがとうございます。合計で、五千六百円になります~」

『って、キリエは言っているけど、実は嘘なの。貴方達が食べたお寿司も、全部』

「うん、嘘じゃないから、黙ってようねイリス?」

 女の子四人にしては、些か食べ過ぎた気がしますが、私達はレジに立っていたピンク色の髪のお姉さんと、何故か一緒に接客するタブレット達(?)にお会計を済ませ、お店を後にしました。

 

「さて、ご飯も無事食べ終えたし、なのはに似合うドチャシコエロい下着を探しに行こうと思う」

「そんな言葉どこで覚えてくるのフェイトちゃん?」

「気になるの?」

 そう言って、フェイトちゃんは自身のスカートの中に手を突っ込み、何冊か本を取り出します。

……いやいや待って待って。

「今の一体どこから取り出したのそれ!?」

 まさか、物理的にまでぶっ飛んでくるとは思いませんでした。このなのはの目を以てしても、見抜けぬとは不覚です。

 

「この世界の環境に慣れるには、二年や三年では難しい。だから、はやてに頼んで参考資料をいくつか貸してもらったんだ」

「ぶっ!……しゅ~♪ しゅるる~♪」

 こいつか諸悪の根源は。

 わざとらしく白を切っているので、はやてちゃんには後で少し頭を冷やしてもらう事にします。

 ただ、物理的なお仕置きは守護騎士に阻害されるのは間違いないので、椅子に縛りつけて目の前でシグナムさんかシャマルさんにセクハラする程度で済ませる事にします。このはやてちゃんなら泣きながら許しを請うに違いありません。

 

 お二方には悪いですが、なのは、結構頭にきていますので。

 

 しかし、その前に目前に迫るフェイトちゃんによる私の下着選びにどう対応するか、そこが目下最優先事項ではあります。

 大切な友達が、日ごろの感謝を込めてと贈られるプレゼントに悪い気はしません。不純な動機こそあれど、このフェイトちゃんはやらかす一歩手前で羞恥心に耐えられなくなるタイプなので、あまり際どいのを攻めてくることもないでしょう。無いと信じたいです。

 

 案の定、数多くの見た目が変な種類のセクシー下着に気を動転させたフェイトちゃんは、結局無地のピンク色の下着を選び、顔を真っ赤にしながら私にプレゼントしてきました。「今着ているのと交換……」と言われたので往来のど真ん中でやってやろうとスカートに手をかけた瞬間稲妻の如き速さで静止してきたので、今日でフェイトちゃんの扱いを完全にマスターしたような気がします。

 

 まぁ、明らかに今日のフェイトちゃん、変だったんですけどね。

 そして、脅す為とは言え、人前でスカート脱ぎかけた自分に酷く恥を覚えつつ、私はフェイトちゃんが買ってくれた下着の入った袋を大事に抱えながら、帰路へとつくのでした。

 

 

リリカル受難物語なのは編:なのは「お寿司屋って胃薬流してくれませんか!?」おしまい

 

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