【対魔忍RPG】稲毛屋のアイス その後 作:unko☆star
――ある日の正午。
「…」
彼女の名はクリア・ローベル。
日本政府によって作り出された強化人間だ。
かつて謎の組織に強奪・改造され、五車の長『
しかしこの家のあるじ――現ふうま宗家当主『ふうま
「…」
「クリア様。当家にご用でしょうか?」
背後からの声に振り向くと、いつの間にか全身銀色のサイボーグ――ふうま宗家のお庭番、『対魔忍ライブラリー』が立っていた。
「ふうま、いる?」
「主人は本日、所用でまえさき市に出ております。帰りは夜になるかと」
「そう…」
「ご伝言がおありでしたら、承りますが…」
「いい」
クリアはややそっけなく答え、立ち去ろうとした――が、少し考えこむような素振りをして足を止め、くるりとライブラリーに向き直った。
「おじさん」
「はい」
「なにか食べ物、ない?」
「食べ物…ですか?」
「うん。友達と、森で遊ぶの。でも、今日はじいがいなくて…」
じい、というのはクリアが居候している屋敷の執事のことである。
「なるほど、それで主人に」
「うん」
とりあえず中へ――とライブラリーがクリアを客間に案内した。
秋分は過ぎたもののまだ日差しは強く、蒸し暑さすら感じる陽気だ。
「恐縮ですが、お友達は森の動物たちでしょうか?」
お盆に麦茶を載せてきたライブラリーが問いかけた。
森の動物たち、というのは五車の森に放たれている動物対魔忍――警備のための調教を施された熊や蛇のことだ。
クリアと彼女の世話役「
「え?…あ……うん……」
「かしこまりました。少々お待ちを」
軽く頭を下げて家の奥に消えたライブラリーの背中を見送ったクリアは、冷えた麦茶をゆっくりと飲んだ。
冷房の類はないが客間の障子、その先の縁側のガラス戸は開け放たれており、綺麗に手入れされた庭木が並ぶ中庭から心地よい風が流れ込んでくる。
山間の田舎町と揶揄される五車だが、彼女は自分が生まれた研究所とは真逆の情景をいたく気に入っていた。
ほどなくして、ライブラリーが竹製のバスケットを二つ運んできた。
「ありあわせの材料で申し訳ございませんが…サンドイッチをお作り致しました」
「ありがとう」
「こちらのバスケットに入っているのが普通のもの、こちらのリボンがついたバスケットに入っているのが味付けなしのものとなっております」
「…あじつけ、なし?」
「はい。動物に人間と同じ料理を与えるのは好ましくありませんので…」
「……ありがとう。今度、お礼持ってくる」
「恐縮です。お気をつけて行ってらっしゃいませ」
――――――
――――
――
五車の森に流れる川を遡っていくと、切り立った崖と大きな滝のある広場が存在する。
地元の人間からは“
もっとも、今どきの子供はあまり川遊びに興味がないらしく、最近ここで遊んでいるのは専らクリアとお供の動物たちばかりである。
クリアはその滝の脇、岩肌の隙間にできた小さなほら穴に入っていった。
「ガルシア。ごはんだよ」
穴の奥に呼びかけると、奥から大柄な男が
スキンヘッドに筋骨隆々の出で立ちで、身長はゆうに2メートルを超えているだろう。
左目の上にバーコードのような刺青が彫られ、左胸には大きく“28”という数字が刻まれている。
「えっと…。こっちがあじつけなしで…。こっちが」
言うが早いか、ガルシアと呼ばれた男はクリアの手からリボンの付いたバスケットをひっ掴んだ。
「あっ…そっちは…」
クリアが止める間もなく、ガルシアはサンドイッチを貪りはじめた。
「…おいしい?」
(コクリ)
「そう。よかった」
「でも、こっちのほうがいいよ。あじつけしてるから」
「………」
「いらないの?もらっちゃうよ?」
「………」
ガルシアは黙々と味付けの無いサンドイッチを食べ続けている。
仕方ない――と、クリアもバスケットを開け、ライブラリーの作った昼食を頂くことにした。
具は細かく刻んだブロッコリーと鳥のササミ、マヨネーズのみというシンプルなサンドイッチだったが、隠し味程度に振られた黒コショウが味を引き締めている。
バスケットの隅にしっかりと保冷剤が入れられているのも几帳面なライブラリーらしい。
「おいしい…」
脇に目をやると、ガルシアは既に空っぽになったバスケットをクリアに返している。
「ごめんね。いつもじいの野菜炒めで。じい、リクエストしてもすぐ忘れちゃうから」
「ふうまになにか貰おうと思ったけど、いなくて。おじさんが作ってくれたけど、わたし、ウソついちゃった…」
(ブンブン)
気にしていない、と言うようにガルシアが首を振り、クリアの脇を通り抜けてほら穴の入り口近くに身を伏せた。
注意深く目を凝らし、外の様子を警戒している。
「今度は、ちゃんと2人ぶん、貰ってくるね。あじつけしたのを」
「…」
ガルシアは外の警戒を続けている。
その眼光は鋭く、まるで狩りをする肉食獣そのものだ。
よく見ると、その脇腹には縫合されたばかりの生々しい傷跡が残っていた。
――――――
――――
――
2人が出会ったのは、10日前だった。
ゆきかぜが任務に出ていたため、1人で行者沢に遊びにきたクリアは、滝の側で水を飲んでいるガルシアに出くわした。
「あっ…」
目が合うなり森の奥に逃げこもうとするガルシアを、クリアは必死で呼び止めた。
「お腹、ケガしてる。走っちゃ、ダメ」
ファイティングポーズを取り、近づくなと威嚇するガルシアに対し、クリアは全く臆することなく接近していく。
「ケガ、見せて」
「…」
なおも威嚇するガルシアだったが、まるで敵意のない少女の眼差しに討たれたのか、やがて拳を下ろし、胡坐をかいて座り込んだ。
クリアは素早くケガの状態を確認した。
綺麗に縫合されてはいるものの傷は開きかけ、
まるで、ここに来るまでに激しい戦闘でもしたかのようだ。
「びょういんに…」
(ブンブン)
「ダメ?」
――それはつまり、人目に触れたくないということを意味する。
「あなた、逃げてきたの?」
「………」(コクリ)
目の前の男の、体に数字が刻まれた奇妙な出で立ちにクリアは見覚えがあった。
彼女が生まれた研究所でも、実験用に生み出された強化人間にこのような識別番号を付けることがあったからだ。
「ト・ウ・キョ……」
「トーキョー?」
(コクリ)
「トーキョー、行きたい?」
(コクリ)
つまり、この男――おそらくは自分と同じく、どこかの研究所で生み出された強化人間は、何らかの理由で脱走し、トーキョーを目指している。
そしてこの傷を見るに、脱走の理由は、何らかの非道な実験の被検体にされたことではないか――。
そう、クリアは考えた。
だとすれば放ってはおけない。
「わかった。ケガ、なおったら、トーキョー、案内する」
「……」
「だいじょうぶ。あなたの気持ち、わかる。全部、ひみつにする」
「ア…」
「わたしは、クリア。あなたの名前は?」
「…………ガ・ル・シ・ア…」
この日から、2人の秘密の生活が始まったのだ。
ハーメルンにTOUGH二次創作を放てっ
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皆で猿先生を応援するんだ
絆が深まるんだ