【対魔忍RPG】稲毛屋のアイス その後 作:unko☆star
――時は少し巻き戻る。
東京の一角に巨大なビルを構える軍需企業、“オレンジ・インダストリー”の地下深くには、
多くの研究員を擁し、アンドロイド・対魔粒子・超能力・生物兵器といった最先端の軍事科学技術の研究・開発を行っており、有事の際に出動する戦闘員も備えている。
その会議室で、対魔忍らしき女性とコート姿の人物がなにやら作戦会議を開いていた。
「軍の研究所から逃亡した強化人間の捕獲、ね…」
ピンクの対魔スーツに身を包んだ女性が頬杖をつき、小さくため息をついた。
彼女の名は『
五車出身の対魔忍であったが訳あって出奔し、今はDSOに所属するエージェントとして活動している。
人魔問わず、闇の勢力に属するものを皆殺しにする凄まじい戦いぶりから付けられた異名は“鋼鉄の死神”。
闇の世界の住人にとっては名前を聞いただけで震えあがる存在である。
「何?その不満げな顔は」
「だってマダム…。これ、あからさまに軍の尻ぬぐいじゃない。というか、なんで軍が自分らで処理しないのよ」
「それがね、ターゲットが潜りこんだ先が、よりにもよって五車らしいのよ」
「あー……」
「そういうこと。米連が勝手に五車に部隊を送り込むわけにはいかないし、かといって五車に協力を依頼して借りを作ることもしたくない。それで私たちにお鉢が回ってきたと言うわけ」
マダムと呼ばれた女性が、アスカにタブレットを渡した。
紫のコートに身を包んだこの女性は、通称『仮面の対魔忍』――DSO日本支部の局長で、アスカの上司だ。
その異名の通り、顔には銀色の仮面を装着しており、親しい人間でなければ感情を読み取りづらくなっている。
「あほくさ…」
「そう言わないの。貴方なら何度も五車に行っているし、適任でしょう?」
(毎度のことだけど、五車の警備ってホントザルよね…。ま、私が言えたことじゃないけど…)
「ターゲット“G-28”は兵器でありながら臓器移植ビジネス用のストックも兼ねているわ。必ず生きた状態で捕獲すること。内臓が傷つくような攻撃もNG。最悪の場合は五車から追い出すだけでも構わないわ」
「最悪の場合…?マダム、サイボーグでもないただの強化人間が、私の手に余るとでも思うの?」
「ええ。G-28は筋肉をはじめとしたあらゆる臓器が強化された突然変異体…。生半可なサイボーグなら素手で抹殺する力を持っているわ。実際、これまでに数多の戦場で成果を上げてる。油断しないこと」
「ふうん…」
アスカは手元のタブレットに視線を落とし、G-28の資料をパラパラと流し読みした。
――×月××日、G-28を回収。戦闘による負傷はあるものの臓器に損傷はなく、今後は臓器ストックとしての運用に転換――
――×月××日、腎臓の摘出手術。術後の経過は良好、次回の手術日を変更。ドナーからの希望により――
――×月××日、肝臓の摘出手術中に逃亡。負傷者6名。規定量の麻酔が投与されていたにも関わらず逃亡できた要因を――
(内臓取られて死ぬのが怖くなって逃げだした、ってとこかしらね…。気持ちはわからなくもないけど、凶暴な兵器を野放しにはしておけない、と…)
(ま、こういう貧乏クジも今に始まったことじゃないし…いいか。五車ならちゃちゃっと任務終わらせて、ふうまの奴に会いに行けるかもしれないしね…。ふふっ♪)
――――――
――――
――
夜が近づいてきた。
この日、クリアとガルシアは1日のほとんどをほら穴の中で過ごした。
クリアはガルシアを気遣ってあまり質問をしないようにしている。
ガルシアもたまに水を飲みに外へ出ていくが、辺りを警戒してすぐに戻ってくる。
2人とも戦闘のために作られ、教育された人間故に、長時間の退屈には慣れていた。
――が、この日のクリアは、思い切ってガルシアにある提案を持ち掛けた。
「ねえ、ガルシア」
「…」
「ケガ、治ったら…」
「ト・ウ・キョ……」
「うん。トーキョー、行くのはもちろんだけど。その前に、
「…?」
「稲毛屋のアイス。とっても美味しい。わたし、だいすき」
稲毛屋とは、五車町にある有名な甘味処である。
すぐ近くに五車学園があることもあり、放課後には学生達の憩いの場となっている。
かつて、井河アサギの暗殺のために五車にやってきたクリアはここを訪れ――偶然、ふうま小太郎と出会った。そのことが彼女の運命を大きく動かした。
「だいじょうぶ。五車、へんな人がいっぱい。ヤタガラスとか、夢魔とか、人じゃないのもよく来る。ガルシア、目立たない」
「……」
ガルシアが首をかしげる。
表情は変わらないが、明らかに困ったような仕草だ。
「うーん…」
やはり、思い切りすぎたか――。
明らかに訳ありなガルシアに対し、この提案は無謀かもしれないということはわかっていた。
しかし、それ以上に、新しくできた友達――それも、おそらくはかつての自分と同じような境遇にある――と、もっと仲良くなりたいという欲求を抑えられなかったのだ。
「じゃあ、明日。この話の続き。また、お昼に来るから」
クリアは両手にバスケットを持ち、ほら穴を後にした。
残されたガルシアは日が落ちるまで外の警戒を続けていたが、やがて穴の奥に戻り、体育座りの姿勢で目を閉じた。
――――――
――――
――
目を開けると、無機質なコンクリートの天井が見えた。
「――まだ口を割らないのか」
暗い…地下室だろうか?
頭が重い…視界がぼやける…。
「既に――の血を――」
「もう50抜け」
「いえ、それは流石に――」
3人…いや、4人…?
何だ…?何の話をしている…?
「見ろ、まだ意識があるじゃないか」
「死にます――」
「構わん。その時は――」
ガルシアはようやく状況に気づいた―――いや、思い出した。
自分は椅子に縛りつけられ、拷問を受けている。
腕と首の血管にチューブの付いた注射針を刺され、その中を通って血が――自分の血液が、床に置かれたバケツの中に滴り落ちている。
「知りませんよ」
男が1人、近づいてくる。
話の断片しか聞き取れなかったが、今自分を襲っているおぞましい倦怠感でわかる。既に致死量に近い血を抜かれていることが。
抵抗しようとしても、体が言うことを聞かない。
自白すれば助かる――自白――?――いったい何を――?
わからない――いや、わかっていたとしても――。
絶対に口を割ってはならない。
戦闘マシーンとして生み出され、訓練を受けてきたガルシアは、潔く死を決断した。
(戦え)
(戦うんだ)
――頭の中で、声が聞こえた。
(目覚めろガルシア)
急に、視界がはっきりしてきた。
恐怖におののく男たちの顔が見える。
足元には、顔面を叩き潰された男が1人、転がっている。
(戦うことで意識が活性化し、全ての感覚が研ぎ澄まされていく)
ガルシアは、いつの間にか自分が拘束具を外し、立ち上がっていることに気づいた。
(信じてくれ)
(私は決してお前を裏切らない)
(私は決してお前を見殺しにはしない)
――声が、聞こえる。
(戦え)
(戦え―――)