【対魔忍RPG】稲毛屋のアイス その後 作:unko☆star
あちこちから迫る追手の気配を感じるが、普段からこの山を遊び場にしているクリアはすいすいとその包囲網を躱していく。
結局、五車の領地の境界にたどり着くまで、1人の追手とも遭遇することは無かった。
「ガルシア、トーキョーに行って、その後は、どうするの?」
「…」
「わたしもね、ガルシアと同じだったの」
「…?」
ガルシアは首をかしげた。
彼女が普通の人間ではないこと、それには気づいていた。
しかし、“同じ”とは――?
「さっきの、戦いの跡。今まで、誰かに命令されて、たくさん戦ってきた。そうでしょ?」
「わたしも、同じ。命令されて、訓練して。命令されて、戦って。それがぜんぶだった」
「でも、五車に来て、ふうまに会って、変わったの。やりたいこと、たくさんできた。誰かの命令じゃない、わたしの意思で」
「……」
ガルシアは沈黙している。
自分のやりたいこと。
誰かの命令じゃない、自分の意志。
そんなことを考えたことは、今まで一度もなかった。
謎の声の主に会う、という目的はある。
しかし、果たしてそれは自分の意思なのだろうか?
知らぬ間に誰かが自分を洗脳し、遠隔操作している可能性もあるのではないか?
得体のしれない声に誘われて脱走してきた自分に、急に自信が持てなくなってきた。
そもそも、自分は何の為に生きているのだろう?
兵器として戦い、役目を終えたら臓器を抜かれて大勢の人に移植される。
残酷ではあるが、その役目には大義があったのではないだろうか?
そこから逃げ出し、声の主に会って――無論、実在したらの話だが――その後はどうする?
自分の――“ワタシ”の――やりたいことは、何だ――?
「トーキョーで、目的、果たしたら、また戻ってきてね」
クリアが微笑みかける。
「一緒にアイス、食べよう。いろんなところで、遊ぼう。わたし、待ってるから」
クリアはガルシアの右手を取り、その小指と自分の小指を重ね合わせた。
「やくそく。今日からこれが、ガルシアのやりたいこと」
「………」
長い、沈黙――。
しかし、確かに、ガルシアが指を握り返してきたのを、クリアは感じた。
「伏せてっっ!!!」
そのとき、突風とともに飛んできた何者かがガルシアに襲い掛かった。
ガアアァン!
「なっ…!?」
「――誰?」
襲撃者――甲河アスカが繰り出した飛び蹴りはクリアが左腕から展開した防壁に阻まれた。
常時展開可能かつ鉄壁の強度を誇る特殊兵装、“カムイ”を発動させたのだ。
「やっ!」
掛け声と供に左腕を振るい、アスカを弾き飛ばす。
ガルシアには及ばないまでも、クリアのパワーも常人のそれを大きく上回っている。
アスカはくるりと宙返りをして着地し、素早く状況を分析した。
(女の子が襲われてたから思わず飛び出しちゃったけど…。あの子も兵器?でも、G-28は1人で脱走したはずなのに…?)
「…知らない対魔忍。ガルシアの、敵?あなたが、ガルシアをいじめたの?」
ブゥン、と昆虫の羽音のような音を立て、クリアの右腕に光る刃が出現した。
粒子ブレード、“シンイ”――。五車に来る前のクリアは、この武器で多くの闇の勢力を駆逐してきた。
「いじめるって…。貴方、そいつが何なのか知ってるの?」
「そいつじゃない。ガルシア。わたしの、ともだち」
「そいつは研究所から脱走した兵器よ。心の無い殺人マシーンで――」
「違う!ガルシア、心、ある!気づいていないだけ!わたしと、同じ!ふうまと出会う前のわたしと!!」
「えっ……ふうま?」
瞬間。
アスカの脳裏に、春先の任務で交わしたふうま小太郎との会話が蘇った。
――――――
――――
――
(聞いたわよ。あなた、五車を襲撃したサイボーグを保護して飼ってるんだって?)
(サイボーグじゃない。強化人間だ。あと“飼ってる”なんて言い方するなよ。普通の女の子なんだから)
(どうだか。従順になったふりして、寝首を搔こうとしてるだけなんじゃないの)
(そんなことはない。アサギ先生だって賛成してくれてるんだからな)
(…そもそも、なんでそんな子を保護しようなんて思ったのよ)
(まあ……。きっかけは、一緒にアイス食べたことだな)
(はあ?)
(稲毛屋の前で会ったんだよ。アイス食べたいけどお金がないって途方に暮れててな。いろいろあって俺が奢ることになって…。)
(ふーん…)
(その後も色々あって、一緒にフライングディスクで遊んだりして…)
(へえ…)
(遊んでる最中にいきなり変な電波を受信して暴走しだしてな。学園に乗り込んで大暴れしたもんだから、ゆきかぜの電撃でジャミングして、なんとか動きを止めて保護したんだ)
(あ、そう…)
(…なんか、気に障るようなこと言ったか?)
(別に。要するに可愛い女の子とデートして、情が移ったから助けてあげたくなったんでしょ)
(デートなんてもんじゃないけどな…。なんか、確信があったんだよ。この子は決して悪人じゃない、操られてるだけだってな)
(はいはい。今度私にも紹介してよ。今のノロケ話聞いてたら興味が湧いてきたわ。その、“元”戦闘マシーンちゃんに)
(マシーンなんて言うなよ…。たとえ生い立ちがちょっと変わってても、心があって、自分の意思で行動してるのなら、それは俺たちと何ら変わりないだろ?)
(まあ、それは…)
(最近は洗脳教育みたいなやり方で感情の無い兵士を作ろうなんて考えてる奴らがいるらしいけどさ、人間である以上は、ちょっとしたきっかけで心を取り戻せると思うんだよ、俺は…)
――――――
――――
――
(この子が、クリア…)
「ガルシア、守る。手出し、させない」
クリアがシンイを構え、カムイの出力を上げてさらに強固な防壁を展開する。
アスカの頭の中では、ふうまの言葉が何度もリピートされていた。
(たとえ生い立ちがちょっと変わってても、心があって、自分の意思で行動してるのなら、それは俺たちと何ら変わりないだろ?)
(人間である以上は、ちょっとしたきっかけで心を取り戻せると思うんだよ、俺は…)
「…………ハァ」
やがて、アスカは小さくため息を吐き、やれやれといった仕草で両手を上げた。
「や~~~~~めたっ」
「…?」
「別に戦って負ける気はしないんだけど、あなたを傷つけたらあいつに嫌われちゃうし…。」
「――それに、もう手遅れみたいだしね」
「えっ」
驚いたクリアが振り向く。
ガルシアの姿は、消えていた。
背後にはただ、五車の外へと続く道が、何事もなかったように伸びているだけであった。
(ま、五車から追い出すことには成功したわけだし…。最低限、最低限…)
アスカが去った後も、クリアはその場を動かなかった。
既に夜は明け、鋭い朝日が森を照らし始めている。
「――ガルシア」
応えるものは、ない。
「ガルシア…」
朝日に誘われ、森のあちこちで蝉が鳴き始めていた。