勇者パーティから追放された武闘家の男、最強すぎる彼が追放された理由はふんどし一丁だから!? 作:平成忍者
切りがない。
カマキリと甲虫を合わせたような虫型の魔物が地平線を埋め尽くしている。
圧倒的な物量を前にルクス達は立ち続けていた。
もうどれだけ時間が経ったのか分からない。
数時間か、それともまだ数分か。
「離れすぎるなよ!飲み込まれるぞ!!」
「言われなくても!!」
「分かってるっつーの!!」
こんな状況で生き残れると思う者は間違いなくイカれている。
かといって諦めるのは勇者として論外だ。
彼らは人類の希望なのだから。
(住民の避難時間を稼がねば・・!)
そのためにやることはただ一つ。
魔導士のマナを死守すること。
今彼らが戦い続けていられるのはマナのおかげだ。
ルクスやザンが時間を稼ぎ、マナの極大魔法で一気に薙ぎ払う。
先程からこれの繰り返しだ。
次の群れが押し寄せる合い間に、マナが回復と支援魔法を飛ばす。
聖女カタリナほどではないが、マナは初級回復魔法を扱える。
マナがいなければ長く持たないだろう。
ルクス達はマナを中心にして離れすぎないように戦い続ける。
「オラオラっ!こんなもんかよ雑魚どもが!!」
血で真っ赤に染まりながらもザンは叫ぶ。
少しでも恋人のマナから注意をそらすために。
「マナ!まだ余力はあるか!?」
「誰にモノを言ってんのよ!余裕に決まってんでしょうが!!」
気丈に叫ぶマナだが、顔色は悪い。
彼女だけは無傷だが、極大魔法の連続使用でその疲労は相当なはず。
限界は近いだろう。
マナだけではない。
ルクス達全員の疲労はピークに達している。
一瞬の気のゆるみ、油断が全滅につながるだろう。
まさに崖っぷちだ。
ルクス達の奮戦で魔物の死骸は山のように転がっている。
だが押し寄せる魔物の数は一向に減らない。
それが三人の心に重くのしかかる。
この状況で敵を全滅できるとは思っていない。
彼らはそこまで無謀ではない。
住民の避難と軍の迎撃準備が整うまでの間だけでいいのだ。
そこまで時間を稼いだら逃げればいい。
もっとも黙って逃がしてくれるはずがないが。
同胞が殺され、虫の魔物も学習したのだろう。
取り囲むように、散開して襲ってくるようになった。
明らかに前衛のルクス達ではなく、後衛のマナを狙っている。
(マズい!)
数が多いうえにこの魔物はなかなか手ごわい。
体は鋼より硬く、その一撃は音より速い。
おまけに体を真っ二つにしても向かってくる生命力。
群れれば竜ですら彼らの餌食となるだろう。
そしてついにルクスやザンの防衛線が破られた。
数匹の魔物がマナへと押し寄せる。
「おおおぉぉっ!!!」
雄たけびを上げるするザンが背中を切り裂かれながらマナを守り切る。
だがその代償は高くついた。
ザンの出血が酷く、顔色は死人のようだ。
回復魔法で治せるのは傷だけで、失った血液までは戻らない。
彼はいま気合だけで立っている。
もう戦えないだろう。
「すまねぇ・・。マナ、お前を守り切れなかった」
「・・いいのよ。最後にカッコいい所見せてくれたしね」
ザンとマナの会話を黙って聞いていたルクスは悲壮な決意を固めた。
「逃げろ、二人とも。僕はこれから聖剣の力を解き放ち、自爆する」
その言葉にザンとマナは呆気にとられる。
「お、お前・・何考えてんだ!?」
「そうよ!・・アンタだけは聖剣を持って帰らないと!」
2人の言葉を無視してルクスは走る。
敵陣深く切り込んだルクスは全魔力を聖剣に込める。
ルクスがなにかを仕出かすことが分かったのだろう。
魔物は一斉にルクスへと飛び掛かった。
「よせ!ルクスゥゥッ!!」
「やめなさい!バカ勇者!!」
ルクスが自爆しようする直前。
凄まじい轟音が響いた。
ルクスも魔物たちも爆風に吹き飛ばされ、転がっていく。
「な、なんだ・・!何が・・」
狼狽するルクスの前に見慣れたものが映った。
ひらひらと風に躍る黒い布切れ。
よく鍛えられた、見事な筋肉。
その肉体美は芸術家が作り上げたかのようだ。
その肉体の主は夕暮れの光の中、満面の笑みでサムズアップした。
「待ぁたせたな!!」
◇
俺が戦場にたどり着いた時、仲間たちは満身創痍だった。
傷の深さからどれだけの死闘だったのか容易に想像できる。
俺は静かに、それでいて闘志を秘めた目で敵を見つめる。
仲間を傷つけた貴様らをを許さぬと。
そして俺は魔物の大軍の間に立ちふさがった
先走ったのか、一匹の魔物が突っ込んできた。
その瞬間、魔物の頭部が弾けた。
俺のアッパーカットがさく裂したのだ。
飛び掛かった魔物が頭部を失い、地でもがいている。
即死しないとは中々の生命力だ。
他の魔物は何が起きたのか知覚できなかったのだろう。
僅かだが困惑している様子だ。
だがその混乱は長く続かない。
戦場に妙な音が聞こえてきたのだ。
虫の羽音だろうか?
聞きなれない音の発生源を探すが、距離が遠すぎて分からない。
混乱していた魔物はその音を聞いてすぐに統制を取り戻す。
「ほう…」
もしかしたらこの大群を操るボス敵存在ががいるやもしれん。
油断は出来ない。
魔物たちは俺という強敵を取り囲み、ギチギチと不快な警戒音を漏らす。
数千の魔物は津波のように押し寄せ、俺を飲み込もうとする。
俺は臆せずにそれに突っ込む。
恐怖なぞない。
俺の体は『気功』によって強化されているからだ。
気功とは前衛職にとっての必須技能で、外気功と内気功の2種類に分かれている。
外気功は体表の硬化、内気功は身体能力を10倍以上も強化が可能だ。
この気功によって俺の肉体はオリハルコン並みの強度を誇る。
生半可な攻撃は俺には一切通じない。
俺は敵に全力で突進する。
音速を突破した際に生じるショックウェーブをまき散らしながら。
俺のふんどしがベヒーモスの皮じゃなかったら今頃全裸だっただろう。
俺の突進を受けた魔物の大軍は竜巻の前の木の葉のように吹き飛ぶ。
バラバラになった魔物の手足が雨のように降り注ぐ中、俺はただ突き進む。
立ちふさがる魔物に腕を振るうたびに魔物の体が砕け、千切れ飛ぶ。
「こんなものか!?」
まるで歯ごたえがない。
このまま魔物を殲滅しようとした時だ。
またあの羽音が聞こえてくる。
その瞬間、カマキリの魔物が壁のように俺を取り囲む。
何かとてつもなく嫌な気配を感じた。
俺の相棒が、全身の筋肉たちが危険を知らせてくれた。
何かが空気を引き裂きながらまっすぐに向かってくると。
とっさに腕を突き出し、体を守ったのは正解だった。
壁のように立ち塞がる魔物から白い閃光が走ったのだ。
「ぬうぅっ!?」
その衝撃は凄まじく、周囲の魔物の大群が蒸発するほどだった。
さすがの俺も尻もちをつきそうになる。
なんということだ!俺の筋肉が押し負けただと!?
まだまだ鍛錬が足りぬ。
もっと良質なプロテインを摂取せねばなるまい。
この戦いが終わったら訓練メニューを見直す必要がある。
俺はそう決めると目の前の敵を見据える。
二回りは大きいカマキリの魔物が立っていた。
明らかにボスっぽい。
さっきの妙な音を出していたのもコイツかもしれない。
他の個体が黒いのに対して、このボスっぽいのは白い。
俺が持つ秘蔵の品である絹のふんどしのような純白だ。
息つく間もなくボスっぽい魔物が追撃を放ってくる。
凄まじい速度だ。
斬撃を凌いだ俺の腕にいくつもの傷ができ、血が滲んでいる。
オレハルコンに匹敵すると言われた俺の筋肉を傷つけるとは!
「やるではないか!!」
予期せぬ強敵に俺は獰猛に笑う。
久々に楽しい戦いになりそうだ。