コリンの前でお姉さん達は遠慮ない振る舞いをするのだが……
一方、グリフィン本部では軍との共同作戦が予定されていた。
作戦の成否に疑問を持つロロはひそかに暗躍を始める……
クライマックス前、第7話前編!
武骨な応接セットでも、テーブルクロスをかければ“らしく”なる。
少年と乙女達が就いた晩餐の食卓。
そこへ陶器のお皿に盛られた料理が次々と並べられる。
雪国伝統、具沢山の
湯気の立つ白の中に、野菜の緑や赤が目立つ。
付け合わせのパンは、焼きたての手作り。小麦の良い香りが豊かに立ち昇る。
そしてメインは、テーブル中央の大皿に鎮座するローストビーフ。表面は黒鳶色に焼きあがっているが、ナイフを入れた中は鮮やかな赤に煌めき、そこから染み出る肉汁がてらてらと光って、見る者の食欲を煽ってやまない。
最後に、各自に飲み物が配られた。
お客である乙女達には、深紅のワイン。
とはいえ、招待主である少年は、葡萄ジュースなのだが。
目の前の料理に皆が待ちきれない、という目つきの中――
配膳役を務めていた、スプリングフィールドが席に就いて莞爾と笑む。
それを確認して、コリンがうなずき、声をあげた。
「みなさん、お集まりくださりありがとうございます……本当はもう少し豪華にしたかったけど、手配できるのはこれが精いっぱいで。それから、えっと――」
少年が挨拶に詰まり、手元のメモをこっそり取り出す。
それを見て、乙女達からやんやと声があがった。
「こらー。カンニングはダメ。こういうのは自分の言葉でいいんだぞ?」
「無理しなくていい。あなたの素直な気持ちでじゅうぶん」
「言葉が浮かばないなら行動でもいいのよ? 皆の頬にキスとか」
「……ちょっと、どさくさ紛れに変なことさせないでください!」
賑やかに飛び交う言葉は、どれも彼を気遣ってのこと。
それがわかるから――少年は朗らかな笑みを見せて、言った。
「ええと……いつものお礼代わりです! たくさん飲み食べしてください!」
少年の言葉に、乙女達から軽く拍手があがる。
「それじゃ、乾杯の音頭をですね――」
コリンが言いかけた途端、Vectorがすっとグラスを掲げた。
ワインを照明に透かすかのように見つめながら、するりと言ってのけた。
「可愛い仔犬くんと、お世話係のお姉さん達に――乾杯」
少年が目を丸くする中、乙女達がくすくす笑いながら、
「乾杯!」
嬉しそうな声で唱和する。
コリンも慌ててジュースに口をつけたが――
ワインを飲み干してけろりとした顔のVectorを恨めしそうににらんだ。
「……なんでインターセプトしちゃうんですかっ」
「あなたが驚く顔が見たかったから?」
「だからなんで疑問形ですか! ほんとにほんとにもう!」
「キャンキャン鳴かないの。早く取り分けないと肉がなくなるわ」
銀髪金瞳の乙女がローストビーフの大皿へ目を向ける。
向かい合って座ったAA-12とDSR-50がそれぞれにナイフで斬り結んでいた。
「おい、君の好物の“肉”はアッチ系だろう。コッチは譲れよ」
「おあいにく、アッチを楽しむにはカロリーが必要なのよ」
ターコイズの瞳と黒真珠の瞳の間に火花が走る。
「あああ、ちゃんと全員ぶんありますから、喧嘩しないでっ」
少年は困惑しながら、頼りにしている栗毛の副官を見やった。
「スプリングフィールドさんもなにか言って……」
「……んふ?」
そこにはすでに頬を染めて、とろんとした目の乙女がいた。
傍らにはワインの瓶が二本。うち一本はとうに空だ。
「す、スプリングフィールドさん……?」
「んふふ、料理と配膳はしたから今夜はお役御免です。んふふ」
鶯色の瞳はすでにとろりと溶けているかのようだった。
ローストビーフを巡る争いはすでに切り取り合戦へと移行していた。乾杯の音頭を勝手にとった乙女は、いつの間にか自分の肉を確保してシチーへ放り込み、マイペースで黙々と食している。頼みの綱の副官は自分の陣地にワインを確保して継戦の構えだ。
「あ、あはは――はぁ……」
コリンは苦笑いをしながらも、内心で安堵していた。
この女性たちと、こんなにくだけた食卓を囲めるのは、たぶん幸せだから。
同時刻、グリフィン本部。
広大な会議場は、微妙に薄暗く、足元の間接照明だけが仄かに光っている。
スクリーンに映し出された作戦図を表示するためだ。
いつになく大規模なオペレーションに、居並ぶ指揮官達が興奮を隠せない中――
“カサンドラ”ロロだけは、半笑いの微妙な表情のままだった。
白っぽく長い癖毛を指でもてあそびつつ、その目はスクリーンに向いていない。彼女の視線は、スクリーンの傍らで解説する上級代行官ヘリアン、そして奥の椅子で鎮座している強面の男性、クルーガー社長に注がれていた。
「――以上が、本作戦の概要となる。長らく続いていた〔鉄血〕との戦いにようやく終止符を打てる時が来た。指揮官各位、および、戦術人形の奮闘を期待する」
上級代行官――ヘリアンの言葉と共に、天井の照明が戻る。
明るい暖色系の灯りが戻ってくるのと同時に、臙脂と黒の制服に身を包んだ指揮官たちが三々五々に席を立ち、会議室を後にする。その中で互いに声をかけあっている者が目につくのは、大作戦を前に連携する基地の同僚どうしで、親睦を深めておこうという狙いなのだろう。
そんな中、ロロは薄い笑みをはりつかせたまま、人の波に逆らって会議室前方へ歩いていった。作戦会議を終え、話し込んでいるヘリアンとクルーガーへ近寄る。
そばの演台をロロはこぶしで軽くノックした。
振り返ったヘリアンと、こちらに目を向けた二人に、彼女は訊ねた。
何事か探るような目つきを隠そうともせず。
「――この作戦、本気でおやりになるおつもりなんですか?」
クルーガーは黙して答えない。
代わりに答えたのはヘリアンである。硬質の美貌は、目つきも険しくにらみつけると、さらに鋭利さが加わったように見えた。
「不満か? ローズ指揮官。今回の作戦は軍からの正式な協力要請だ。そもそも我々が主体ではない。軍の作戦に、補助戦力としての稼働をグリフィンは期待されている。これまでの実績が認められている証拠だ。お前はそれを疑うのか」
片眼鏡ごしのヘリアンの視線は、ナイフのように冴えわたっている。
だが、ロロはそんな視線をものともせず、薄い笑みを崩さない。
「――『狡兎死して走狗烹らる』って言葉が頭に浮かぶんですよね」
「敵である〔鉄血〕はウサギほど可愛くはないし、我々も猟犬ではない」
「ンン、オリーブドラブで塗装した方々もそう考えているといいんですが」
「お前は、この作戦の前提条件をまず疑うつもりかっ」
ヘリアンの声が怒気まじりになった矢先、
「――ローズ指揮官。そのぐらいにしたまえ」
ずっしりとした巌のような声で、クルーガーが口を開いた。
「グリフィンはそもそも軍の委託で、警備活動を行う者だ。契約主が事態解決に乗り出した時に我々だけ“砦”を守って見物とはいかん」
「ゆえに、全グリフィン投入、ですか」
「そうだ……なればこそ、お前の才幹には期待している。しっかり励め」
髭面の強面から、ぎろりと眼光鋭くにらみ、彼は続けた。
「ひとつ訊いておこう。ウサギでも犬でもなければ、お前は何でありたい?」
「そうですね。隙間があればどこにでも行け、悪知恵の働く蛇でしょうか」
「ならば、蛇らしく戦うことだな、“カサンドラ”」
にやりともせずにクルーガーは言うと、ロロの前から立ち去った。
ヘリアンがため息と共にロロをにらんで、社長の後に続く。
会議室から出て行く二人を眺めながら、自称“蛇”は口の端をつりあげた。
「ンンンッフ。諒解しましたよ、社長」
傍から見れば薄気味悪い笑みを浮かべながら、彼女も会議室を立ち去った。
その後、ロロの乗った車はグリフィン本部を出た。
市街区の外へ通じるゲートを向かうと見せつつ、車は大きく迂回路を取った。
そのまま、ダウンタウンの一画へ滑り込んでいく。
とあるビルに彼女の車が入った後――
ほどなく、数台の車が次々と同じビルへ消えていった。
一方、宴の真っ最中のB122基地、指揮官室。
「えッ!? Vectorさんって、もともとは消防士だったんですか?」
目を丸くして声をあげる少年に、AA-12が歯を見せて笑ってみせた。
「なー。普段あれだけ火をつけまくっているのになー」
「火を良く知ってるから、効果的に使えるだけよ」
当のVectorはいつもの不愛想な顔で答えた。
ほんの少し、唇をとがらせてはいたのだが。
「そんなに驚かれるなんて、ちょっと心外」
「あらぁ、坊やったらレディに恥をかかせるなんてダメな子」
「うふふ、礼儀はまもりましょうね、うふふふ」
銀髪金瞳の乙女の文句に、DSR-50とスプリングフィールドが乗っかる。
DSR-50は素面のままで艶っぽい笑みを浮かべながら。
スプリングフィールドは酒精の酔いで火照った顔でとろんと微笑んで。
それぞれ、コリンの顔をじいっと見つめる。
お姉さんの視線の十字砲火を浴びた少年は、たちまち頬を染めた。
「す、すみませんッ。失礼なこと言っちゃって……」
恐れ入って顔をうつむけた少年だが――
ほどなく「うん?」とつぶやくと、また顔をあげた。
オニキスの瞳を煌めかせながら、Vectorを見つめて言う。
「じゃあ、あの時、ぼくをたすけてくれた方法って――」
「そう。消防士時代に学んだ緊急救命の措置。まあ、普通は救助に行くなら携行型の呼吸器は持っていくし、どうしても道具がないときの非常措置だけど。知っての通り、措置を行った人形は数日間補修に回さなきゃいけないから」
銀の髪をかきあげ、金の瞳をわずかに曇らせて、乙女は言葉を続けた。
「消防士がイヤになってグリフィンに来たのに、当時のスキルが役立つなんてね」
「……何か、あったんですか?」
「……聞きたいの?」
少年の問いに、Vectorはじろとにらんでみせたのだが、
「おお、いいじゃん。お互いに過去話しよう!」
「あらぁ、わたしの思い出話は坊やには刺激が強すぎるかも」
「うふふ、皆さん、お酒が足りませんよ、ふふふふっ」
乙女たちのグラスにワインがなみなみと注がれる。
期待の視線が絡みつく中、Vectorはわずかに顔をしかめたが――
意を決したようにワインを一口あおると、グラスを音高く置いて話し始めた。
「あまり面白い話じゃないわよ。よくある、人形と人間が一緒に働いていると付き物のゴタゴタ――消防士は火災現場に踏み込むけど、当然、現場に入って救命活動に携わる役目は危険が伴うわ。そして、呼吸の心配がなくて、多少手足が焼けても問題ない人形にお鉢が回ってくることが多かったわ」
Vectorはグラスに残ったワインを照明に透かし、そっと揺らしてみせた。
「でもね、割を食っているという感覚はなかった。無事に助けられた人や、その家族から感謝の言葉をもらうのは人の役に立っている実感があったし、なにより危険手当はちゃんと出ていたから……まあ、その手当ても焦げた髪や変色した皮膚の補修を自腹で治したからトントンにしかならなかったけど」
「……でも、ゴタゴタが起きたんですか?」
少年の問いに、銀髪金瞳の乙女はため息をついてみせた。
かかげていたグラスをテーブルに置き、その縁を指でそっとなぞる。
「人間の消防士が、当局に不満を申し出たの。同じ仕事なのに、人間より給料がいいなんておかしい。人形は死ぬ危険がずっと低いんだから、危険手当を出すのは逆に不公平だって言いだして――談判の結果、彼らはストを起こした」
Vectorの言葉に少年が目を丸くした。人形の乙女達はというと、それぞれにかぶりを振ったり、肩をすくめたりしている。当の話し手といえば、淡々と言葉を続けた。
「消防士の一部がストを決め込んでも、火災が起これば出動しなくちゃいけない。でも、普段は放水に回るはずの消防士が足りなかった。人手を分けた結果、助かるはずの命は救えなかったし、いつもなら広がらないはずの建物にまで延焼した」
「そんな――」
コリンが憮然としてつぶやくのに、AA-12が横目で見ながら声をかける。
「あー、気をしっかり持った方がいいぞ。キッツイのはたぶんこれからだ」
「どういうことです?」
「……火事が予想以上の被害になったのは、人形たちのせいだってバッシングがあったのよ。『彼女たちがもっと分をわきまえていれば』、こんなことにはならなかった、って」
「そんな! だって、人間の消防士がちゃんと出動してれば……」
「坊やったら、だいぶグリフィンの空気に染まったみたいねえ」
DSR-50が苦笑いを浮かべながら言った。
「人形の権利反対派にとっては、こういうネタは格好の叩き材料なのよ。『分をわきまえろ』って、つまり危険な仕事でも人間より安い給料で我慢しろ、人命がかかっている状況なら自分を犠牲にしろ――って」
「そんなの……それじゃまるで奴隷じゃないですか!」
「あら。坊やもグリフィンに来るまでは、なんとなくそんな考えだったはずよ。奴隷とまで露骨に思わなくても……便利なお手伝いさん。礼儀正しい店員さん。“彼女達”がそうすることに、疑問を持ったことはあるって言える?」
黒髪美女の指摘に、コリンは口をへの字に曲げた。
オニキスの瞳をゆらして考え込む彼の頭を――
酔ってぽやんとした顔ながら、スプリングフィールドが手を伸ばして撫でる。
Vectorはといえば、別になんでもないという顔で続きを話し出した。
「まあ、人形の消防士達には憤慨する子もいたけど――解決策として、市当局は二つの選択肢を出してきた。ひとつは消防士の雇用契約を更新する代わりに、新しい待遇と再教育プログラムを受けること。もうひとつは消防士をやめるかわりに治安警備の仕事……グリフィンの戦術人形になること」
そこまで言って、彼女はグラスのワインを飲み干した。
少し熱を帯びた息をほうっとついて、乙女はつぶやくように言う。
「まあ、理不尽な選択肢でも、選べるだけマシだったかも。結局、あるいは残って消防士を続けて、あるいは去ってグリフィンの傭兵になった。わたしは後者。どうしてこっちを選んだかはあまり覚えていないわ。単にゴタゴタにうんざりして、環境を変えてみたかっただけかも――」
「……すみません、興味本位で聞いちゃって」
少年がしょげた顔で言うと、Vectorは苦笑気味にため息をついた。
「気にしなくていいわ。少なくともグリフィンはいいところよ。“死ぬ”危険はあるけども、復活は約束されているし。人形の方が断然わがままが利くから、街で民生用やっているよりはまだ伸び伸びできる。少なくとも宿舎の前までデモ隊が押し掛けるなんてことはないから――ただ……」
「ただ? なんですか?」
「……コリンの命を助けられたのは、過去のメモリに感謝、かしら」
乙女が金の瞳をすっと細めてみせる。少年はまた頬を染めてうつむいた。
スプリングフィールドが、黙ってVectorのグラスにワインを注ぐ。
そしてAA-12はローストビーフを厚めに切ると、それをDSR-50の皿に載せた。
「え……なによ、これ」
黒髪美女が戸惑い気味に訊くと、目の隈美人はじろと見つめて言った。
「景気づけ。場がしんみりしたから笑えるエピソードたのむぞ」
「ちょっと! わたしは盛り上げ役の芸人じゃないんだけどぉ?」
「うふふ、頼みますよ、ふふふふ」
酔っているはずのスプリングフィールドがじいっとDSR-50を見つめる。
鶯色の瞳の、思いのほか鋭い視線に、黒髪美女は肩をすくめてみせた。
「――別に構わないけど、坊やには刺激がつよいかもよ?」
DSR-50が舌なめずりをしてコリンを見やる。
少年はといえば、ぞくりと寒気を感じながらも、苦笑して言った。
「お、お手やわらかにお願いします……」
同時刻、市街区アンバーエリア〔呑天楼〕。
いち早く予約の店に到着したロロは堂々と奥の席に腰を下ろして待ち構えていた。
ほどなく、男女の話し声と共に部屋の扉が開き、黒と臙脂の色彩が数名現れる。
その顔ぶれを確認して、彼女はにんまりと笑んでみせた。
「結構、結構。私の招待をドタキャンする不届き者はいないわけだ」
その言葉に、一行のひとり――熊のような大男が憮然として答えた。
「よく言う。ここまで巻き込んで直前の顔合わせに出てこなければ、それこそ裏切り行為とみられかねん。お前のことだ、そうなった場合の報復も考えているだろう」
熊男の指揮官はどっかりと席に就くと、一緒に来た面々に言った。
「それぞれに思惑があるにせよ、貴様らも同じであろう。違うか」
「ヒヒヒッ。違いない。この女のことだ、企みの一切合切をそいつに押し付けて、別のプランにしれっと切り替えても不思議ではないな」
ミラーシェードをかけた痩せぎすの男がそう言うと、赤毛の女性がうなずいた。
「ここに来るように招待を受けた時点で、グリフィンに対してある程度の背信行為とみなされても仕方がないわ。それでも来た理由をあげるなら――」
彼女の言葉を引き取って、スキンヘッドの男が合掌しながら言った、
「――拙僧達は同じ危惧を抱いているからこそ、ここにいる。そうであるな?」
全員が席に就く。中華料理なればこそ、奇しくも円卓である。
ロロは口の端をにいっと吊り上げると、言った。
「よろしい! ならば、まずは腹ごしらえだ。ここの払いは持つよ。お酒は話し合いに差し障りがない程度にほどほどに、ここのお勧めは――」
招待客達はもう
中の品書きを見て、それぞれが思い思いに歓声をあげる。
「なにっ!? クラスXAの豚が食えるのかっ、この店!」
「ホォ……この酒は市街区の高級ホテルでもお目にかかれない逸品ッ!」
「あらやだ! お米なんか出せるの! 炒飯! 炒飯を頼まなきゃ!」
「ふむ、こうも並べられては、拙僧も肉食の戒律を破らねばなるまい……」
来た時の緊張感はどこへやら、目の色を変える彼らに、ロロは肩をすくめた。
「野菜系も注文するんだよ? ここのは肉以外も美味いんだから」
「ぬぅ。貴様、いつの間にこんな店を開拓しておったッ!」
熊男が吠えるように言うと、ロロはしれっと言った。
「ンンン、そこはレディの秘密だよ。あ、ここの店はもちろん、ビルも周辺一帯も一種の電波暗室だから、グリフィン本部でもなんでも我々の行動はトレース不可だ。その筋では有名な店なんだが、予約自体がそもそも取れないいわくつきでね」
「……あきれた。どこがレディの秘密よ――あらやだ、天津飯も美味しそう」
「ふむ、そこは取り分けできる方がよいと拙僧は愚考するのであるが?」
「ヒヒヒッ。アルコール分解薬持ってきてよかったぜ」
「あー……まあ、うん。ひとつだけ諸君に耳寄りなことを言っておくとだね」
招かれた指揮官達の動きがぴたりと止まる。
ロロは声をひそめて、そーっと言った。
「この店のイチオシは、実は麺類だ。チャイニーズトラディショナルから、ジャパニーズラーメンまで食えないものはないゾ」
その言葉に彼らが驚愕の表情を浮かべた。
「で、では……あの伝説のフレーズが通用するのか……?」
「ンンンッフ、もちろんだともサ」
招かれた指揮官たちは、それぞれにぎゅっと拳を握った。
おのおのが、おそらく万感の思いを込めて、唱和していわく、
「トンコツヤサイマシマシニンニクアブラカラメッ!」
どこの呪文かという謎の言葉が、店内に轟いた。
(後編へ続く)
後編は明日更新予定です!
晩餐の席でコリンから切り出される「別れ」のタイミング。
それを聞かされたVectorの取った行動とは。
そして、“カサンドラ”ロロは
来るべき「負け戦」に向けて密かに備えをとりつつあった……
お楽しみに!