皆を生き残らせるために知恵を巡らせる。
その間にも事態は推移していた。
戦場に地獄が現出し、そして狩人が放たれる……
クライマックス突入、第8話part1後編!
※本エピソードは、メインシナリオ10章、および、
大型イベント「特異点」「秩序乱流」の一部情報を含みます。
ネタバレを気にする方はご注意くださいませ。
――Tマイナス01h10m。
グリフィンB122基地、作戦会議室。
要撃部隊のメンバーはもちろん、巡回班の戦術人形も集められていた。
コリンが示した図を見て、一様にどよめきが湧いただけではない。
「なんだって? ルート3019を封鎖する!?」
素っ頓狂な声をあげたのはAA-12である。
壁面ディスプレイの前に立ったコリンはこくりとうなずいた。
「はい。一番の問題は軍の機甲兵器です。ハイウェイの進行を難しくすると同時に、要撃部隊のメンバーで攪乱を行い、彼らの追撃ペースを乱します。敗走してくるグリフィンの部隊は、巡回班の人形がエスコートします。巡回に出ているみんなでしたら、ハイウェイに頼らないルートを普段から見回ってますから、案内もだいじょうぶだと思います。軍の部隊がそちらを追ってきても歩兵人形なら足止めは容易です。南北二か所の中間地点にバイクを集積させておきます。ある程度時間を稼げれば、そこから速足で逃げ切ることができます」
巡回班の人形を中心にざわめきたつ声がした。
Vectorはいつもの超然とした無表情。
DSR-50はなにが楽しいのか、艶やかな微笑を浮かべたまま。
スプリングフィールドはどこか観念した様子でコリンを見守っている。
やむなくAA-12は挙手して、質疑代表を引き受けざるをえなかった。
「確認したい。その……味方を逃がすとして、落ち着き先は?」
「S545基地、〔イセンガルド〕になると思います」
コリンの言葉に応じてS545基地の全景が映し出される。このエリア一帯を引き受ける一大補給拠点というだけあって、相当の規模があり、そして防壁もなかなかに高く厚い。
「どれだけの味方が逃れてくるか分かりませんが、軍の包囲を突破できたとしても相当数の人形が集まることになります。いったん物資を押さえて態勢を整えるのはセオリーだと思います。戦い続けるにせよ、怪我をした人形を直すにせよ」
コリンの説明を聞いて、AA-12は懐からハッカ飴を取り出して口内に放り込んだ。
数瞬黙り込む間に、彼女は考えを巡らせていた。
少年指揮官がとんでもない勘違いをしている可能性は大いにある。味方のはずの軍が裏切るという前提自体がまずもっておかしい。だが、副官のスプリングフィールドが沈黙を守っているということは、それなりに在り得る、と判断したということだ。
グリフィンの規程では、錯乱した指揮官を戦術人形が取り押さえる予防拘束措置が条件付きで認められている。あるいは、とAA-12は思ったが――その場合は“親衛隊”の他のメンバーがまっさきにコリンをかばうだろう。基地内で人形同士のどつきあいはまっぴらごめんだ。
ならば、とAA-12は肚をくくった。自分がなすべきはコリンの作戦案を皆が納得できる形へ落とし込めるように、質問をしていくことだ。
ごろ、と飴玉を歯にこすらせながら、彼女は再び訊ねた。
「確かに軍の歩兵人形なら巡回班でも足止めなり牽制はできると思うぞ? でも機甲兵器はどうするんだ? 軍の戦闘マシーン相手にどうこうできるような火力は、わたしらにはないんだぞ」
その問いに、コリンはうなずいてみせた。案の定、考えてあったのだろう――画面に不整地踏破用の野戦バギーが表示される。
「“
「へ? わたしだって? でも火力担当どうするんだ?」
「……この前の幽霊騒ぎで見つけた
コリンはにんまりと笑んでみせた。
「旧式といっても、対戦車ミサイル。きっと相手はびっくりしますよ」
「いや、そりゃあ驚くだろうけどさ! こっちに歩兵が集中するぞ」
「はい。だから動き回ってゲリラ的に攻撃することになります。それでも照準をつけている間は守る必要がありますから、要撃部隊のアタッカー二人――ティスさんとAK-47さんをバイク搭乗で付けます。これならまだなんとかなるでしょう?」
AA-12は胡乱な目をしながら、飴玉を舌の上で転がした。
それだけ、“守り”にかけては自分が信頼されている証なのだろう。
こんな状況でなければ嬉しい話だが、今回は相手が相手だ。
総合消化器――“胃”が思わずムカムカするのをおぼえながら、彼女は言った。
「じゃあ、大前提の質問をさせてくれ。ルート3019、つまりハイウェイを封鎖する、と言ったよな? でもどうやるんだ? いまから封鎖して間に合うとは思えないし、そもそも封鎖する機材がウチの基地にはない。道路を使えなくするだけの工夫はいったいどうするんだよ」
「機材ならあります。いまも道路にありますよ」
「……どういうことだ?」
AA-12の問いに、コリンは落ち着いて説明した。
少年の声があまりにも沈着冷静だったので、AA-12は提示されたアイデアに思わず口をあんぐりと開けた。舌で転がしていた飴玉がまろび出て、床にぽとんと落ちる。
「――おい、おいおいおい。マジか」
「マジです。本気です。真剣です」
「そりゃ君の目つきを見りゃ分かるよ」
AA-12は白金の髪をわしわしとかきむしった後、きりと少年を見つめた。
彼女の眼差しを、コリンはためらうことなく受け止めた。
ターコイズとオニキスの視線が絡み合う中――
目の隈美人はずしりと響くような低い声で訊ねた。
「なあ、一歩間違えれば背任行為だ。なにもかも前提が間違ってた場合、せっかく上手くやって来た坊やのお手柄が全部パーだ。なんだったら君はお手あげ宣言して、基地の指揮官室に籠っていても誰も責めないよ……それなのに、どうしてこんなリスクを背負うんだ?」
その問いに、コリンは静かに答えてみせた。
「――ここに来て、いろいろなことを学びました。その中のひとつが、人形にだって人生はあるんだってことです。確かに人間とは違うかもしれません。喜怒哀楽は真似事かもしれません。でも、この基地に来て、皆さんと話してみて、それぞれに趣味や興味が違って、大事なものが違っているってわかりました」
どこか、訥々と言葉を紡ぐかのような声。
なめらかな口調でないことが、かえって集った皆の耳を傾けさせるかのような。
「もしグリフィンが敗走するなら、いくつもの“人生”が潰されることになります。それを見過ごすことは、仮にも指揮官を任された身として見過ごせません」
「人形はバックアップがある。死んでも復活できるとしてもか?」
「逆にお聞きします。生き返りの方法がある“敵”を、そのまま簡単によみがえらせてくれるような手ぬるいことを、彼らが見逃すと思いますか?」
コリンの言葉に、また一瞬のざわつきが起こる。
彼が指摘した事実を噛みしめながら、AA-12は言った。
「つまり、君はわたし達のメモリを守りたいってことなんだな」
「思い出は誰にとっても大事なものです。そうでしょう?」
少年指揮官が笑んだ。まろいアーモンド形の眼がすっと細められる。
褐色黒髪も相まって、レトリバーの仔犬が笑んだかのような顔つき。
ずるいなあ、とAA-12は思った。
そんな顔をされては、お世話役としてはとことん付き合うしかない。
「オーケー、ボス。わたしは納得した――他の皆はどうだ?」
彼女の言葉に、巡回班の人形達が一様にうなずいてみせる。
そして、Vectorも、DSR-50も、スプリングフィールドも。
同じく、何かを決心した顔でうなずいてみせた。
AA-12は大きく息を吸うと、立ち上がり、部屋中に響く声をあげた。
「ようし、なら仕事の時間だ! 早ければ早いほどいい。坊やの部下が精鋭揃いだってことを見せつけてやろう! コリン・ハワーズのために!」
拳をつきあげてみせると、他の人形達も一斉に立ち上がり、それに倣った。
人形達がそろって、その名前を唱和する。
「ハワーズ! ハワーズ! ハワーズ!」
迎え入れた時は、エヴァンの影を慕っての歓声。
だがいまは、コリンこそ主と認めての――
それは、まさしく
――Tマイナス00h10m。
『指揮官、“へその緒”が切れました』
通信回線に硬い声でスオミが報告をあげてくる。
『本部のバックアップサーバからの応答、なしです』
少女の声を聞いて、ロロは大きくため息をついた。
負け戦の預言者。“カサンドラ”の二つ名。
時折うそぶいてみせる称号であったが、この時ばかりは重く感じられた。
「……少し待ってて。最後の確認をとる」
ロロはそう言うと、スオミとの回線を繋げたまま、別の通信を開いた。
グリフィン正式のものではない、プライベートのチャンネル。
数十回コールして、ようやく繋がったそれに、ロロは呼びかけた。
「もしもし、ヘリアンさん?」
『……何の用だ』
鋼を思わせる硬質の声は、どこか疲れているように聞こえる。
「ひとつだけ質問を――いま、次の合コンを打ち合わせる時間あります?」
『お前は……こんな時まで趣味が悪い女だな』
ヘリアンの声は、苛立ち半分苦笑い半分のカクテルだった。
『残念ながら、ない』
「そうですか。その答えで充分です」
『……ロロ』
「はい?」
『生き延びろ』
その一言を残して、通信は唐突に切られた。
ロロは紫の瞳をかすかに揺らすと、
「……ヘリアンさんこそ、どうぞご無事で」
そう、そっとつぶやいた。
そして、大きく息を吸うと、やおら立ち上がり、声を張り上げた。
「各方面に打電ッ! 『タナトスの軛は解かれた』ッ!」
彼女にしては珍しいことに――
それはむしろ、怒号と呼んで差し支えない激しさだった。
「さあ、大いなる負け戦を始めよう! 生き残るために!」
――Tマイナス00h05m。
「やれやれ、本当に符牒が来ちゃうとはねー」
「ローズ指揮官の見立て通りでしたね」
「ウチらだけ、どうしてこんな任務と思ったけどねー」
「まあ、仕事の時間ですよ。準備はできています」
「基地内への催眠ガスの流入は?」
「完了しています」
「管理メインフレームの掌握は?」
「すでに片付いています」
「やー、さすがL211の影の精鋭、“
「まあ、こういう工作ごとは手慣れていますからね」
「鮮やかな手際を裏サイトにアップしたい……」
「だめですよ。ローズ指揮官のお許しが出るまでは」
「ちぇ。副隊長かたーい」
「ほら、早く勝ち名乗り……じゃなかった。アナウンスお願いします」
「はいはい――あー、こちら“グリフィン従業員による労務債権交渉の労働者評議会”、略して“グリフィン労働者評議会《Soviet Griffin》”である! たったいまS545基地は我が評議会の管理下に入った! 繰り返す、これよりS545基地は“
――T00h00m00s。
突然、背後からの銃撃で“相棒”の躯体が吹き飛んだ。
大口径の銃弾の衝撃で、上半身と下半身にちぎれる。
無理やりな切断面から、循環液が噴水のように吹き出す。
あまりに唐突で強力な一撃に、器官閉鎖が間に合っていないのだ。
“彼女”は悲鳴を上げ、“相棒”の上半身の元へと駆け寄っていく。
もう数歩、というところで、脚に激痛が走る。
グリフィンの火器より桁違いの威力のライフル弾。
それが“彼女”の脚を貫くというより、砕いたのだ。
地に倒れ伏して――しかし、なお。
“彼女”は“相棒”の身を案じていた。
基地に馴染めなかった“彼女”に最初に親しくしてくれた人。
親友であり、戦友であり――もしかしたら恋人になれたかもしれない。
その想い人はいま、上半身だけで地に転がり、うつろな目で天を仰いでいた。
“彼女”が腕だけでなんとか残る数歩を詰めたとき――
驚くことに、“相棒”はまだ息があった。
目から、口から、ストロベリーシロップのような循環液を流しつつ。
“相棒”はうわ言のように繰り返していた。
「……どうして――なんで、サーバに繋がらない……ゴフッ」
その口から循環液がごぽりとあふれる。
濁った声で、その人形はいまわの言葉を発した。
「死ヌ……死んジャう? あの子ヲ置いて? いやだ、いヤダ、イヤ――」
“相棒”の頭蓋が痙攣したかと思うと、途端に動かなくなる。
もう力を感じられないその手をそっと握って、“彼女”は言った。
「うん……わたしも置いていかれるのはイヤ……」
“彼女”の目じりから、そっと雫が一筋流れる。
人形の視覚素子。繊細なそれを守るための保護液。
だとしても、慕う相手との別れに流すのであれば、それは涙であった。
「わたしもすぐ行くけど――ちょっとだけ、悪あがき、してみる」
そっとつぶやくと、“彼女”はなんとか仰向けになり、身を起こした。
銃口が狙う先。
オリーブドラブに塗装された軍の歩行戦車が、こちらを睥睨していた。
機関砲からまだ立ち昇る硝煙は、想い人を撃った証拠だ。
「――――ッ」
“彼女”は歯噛みして、引き金を引いた。
銃口が火を噴き、歩行戦車を弾雨が見舞う。
だが、軍の戦闘マシーンはびくともしなかった。
弾倉を撃ち尽くし、空しい音が響くところへ――
歩行戦車の傍らでいくつもの足音がした。
グレーに塗装された単眼の人型機械。軍の歩兵人形だ。
いくつもの銃口が、“彼女”に向けられる。
グリフィンのバックアップサーバは応答しない。
ここでコアを撃ち抜かれたら、それが本当に最後なのだ。
ふと、以前に“相棒”と話したことがある。
もし戦術人形に死が訪れたら、どこへ行くのだろうか、と。
嗚呼。神様。お願いですから。
あの子と同じ場所へ行かせてください。
それが地獄でも深淵でも、構いませんから。
作られてから初めて、“彼女”は祈った。
かすかに笑みを浮かべた、その顔を、その躯体を。
いくつもの銃口から放たれた百近い銃弾がズタズタにした。
二人の戦術人形は、物言わぬ二つの骸と化し、そして。
彼女達のメモリも意志もなかったかのように――
歩行戦車が骸を脚で踏みつぶし、咆哮のような軋みをあげた。
――悲劇は、ここだけではない。
いまや戦場のいたるところで、グリフィンの人形達は虐殺されていた。
――Tプラス00h40m。
“
指揮所といっても、なにかテントでも備えているわけではない。
軍の指揮通信システムは格段に進んでいて、携行性に優れているのだ。
専用の装備パックを集めれば、拡張現実で目の前が指揮卓と化す。
全体の戦況は“我が方の圧倒的優勢”だった。
グリフィンと〔鉄血〕の最終防衛線が衝突し、互いに混戦状態となったところへ歩行戦車と機械歩兵で蹂躙していったのだ。元より、たかだか民間軍事会社と反乱知性が軍に対抗できるはずがない。装備が二世代は違うのだ。戦闘というよりは、これはゴミ掃除のたぐいでしかない。
「……だが、掃除であれば塵ひとつ残さんようにせねばな」
エゴールはそうつぶやいて――ふと、戦況図の一部に違和感をおぼえた。
南端の歩行戦車が十台ほど、妙に引っ張られているのだ。
なんとか戦場を離脱しようと、あがいているグリフィンを追撃しているらしい。
だが、あまりに突出している。
呼び戻すか、増派するか。
またたき二つの迷いのさなか、それは起きた。
くだんの歩行戦車が十台とも一斉にロストしたのだ。
南端に、わずかだが包囲のほころびが出来た途端――
グリフィンの戦力の塊がごそっと抜けた。
全体でいえば数パーセント程度だろう。
だが、基地換算でいえば数か所相当の戦術人形が逃げ出している。
数で言えば百体を超えるだろう。無視できる数ではない。
さらに、信じられないことに、徒歩のはずの人形達はある程度離れた地点から急に速度を上げて戦場から遠ざかっていった。それが意味するところを悟って、エゴールは思わず歯ぎしりして呻いた。
「まさか、この戦況展開を読んでいた者がいると?」
速度の謎は、おそらくなんらか車両のたぐいを潜ませていたのだろう。
誰か――得体の知れない変人がいるのだ。
最初から軍がグリフィンをつぶすと決めてかかっていた不届き者が。
追撃の手を差し向けようとして、しかしエゴールは躊躇した。
彼らの――ひいては、カーター将軍の大目的をまだ達成できていない。
そのためにも、現場で判断できる人間の士官はなるべく手元に置いておきたい。
舌打ちしたエゴールの脳裏に、ふと、将軍が語った言葉が蘇った。
――狂犬であれば、狂犬なりの使い道があろう。
エゴールは口元をゆがめた。
気は進まないが、他に適当なヤツがいないのだ。
通信回線を開き、くだんの男を呼び出す。
「こちらエゴール。キリール・ノヴィコフ中尉、応答せよ」
――Tプラス00h50m。
眼帯の男、キリールは面白くない顔でテュポーン戦車の車長席にいた。
エゴール大尉から指示されたのは、いわば残飯処理だ。
誰がどうみても、〔鉄血〕本拠の指令中枢が今回の戦争のメインである。
それの確保からはずされ、グリフィンの敗残兵狩りなど――
「――まったく、どいつもこいつも俺様を軽んじやがって……」
怒りに胸がむかむかして戦車の装甲に唾を吐き捨てた彼だったが、
「んん……? おやあ、これはこれは! ヒヒッヒハァ!」
あることに気づき、たちまちに喜色満面になった。
グリフィンの人形どもは逃げ落ちていく先にあるもの。
ルート3019。そしてグリフィンのB122基地。
キリールはそのコード名に覚えがあった。とてもよく覚えがあった。
ほかでもない、あの屋敷で自分を虚仮にした小僧の基地だ。
そして、あの憎たらしいエヴァン・ハワーズの遺産でもある。
キリールは大きく息を吸い、荒々しく鼻から吹き出した。
たまらずに
あの小僧をどうしてやろうか。
小僧を祭り上げる人形どもをどうしてやろうか。
考えただけで愉悦と興奮のあまり血が昂るのを感じた。
「……別に急いで敗残兵を始末しなくてもいいよなァ? ヒャハッ」
彼は鮫のような笑みを浮かべた。
敗残兵のスピードが予想外に速く、やむなく途中のグリフィン基地を強襲した。
そういうことにすればいい――なにせ、ここは戦場なのだ。
なんだって起こるし、どんな行為も理屈がつけられる。
だから、ハワーズの小僧が痛い目に遭おうとも、その結果、棺桶に収められないような姿になったとしても「仕方がない」のだ。
なぜなら、戦場にいるのが悪いのだから。
ぐにゃりと顔を歪めると、キリールは吠えるように号令を発した。
「中隊前進! ルート3019へ向かえ!」
テュポーン戦車、三輌。ヒュドラ歩行戦車、九台。
そして、
特殊作戦群の混成部隊が、号令一下、地響きをあげて動き出した。
――Tプラス01h00m。
B122基地、城門すぐ外の駐機場。
「ああ、やだやだ。“カサンドラ”の予言が本当に当たるなんて」
DSR-50がうんざりした声で言うのに、AA-12は肘でつついてみせた。
「いまさらなんだよ。ブリーフィングじゃ、『坊やのことは信じているわよ』って顔でニマニマ笑いながら黙っていたくせに」
「あら、坊やを応援したい気持ちと、面倒事を回避したい気持ちは両立するわ」
しれっと言ってのける黒髪美女に、Vectorが不愛想に言った。
「逃げ出したら背中から短機関銃で撃ってあげる」
「ちょっとぉ、冗談はやめて? あなたの言葉、ユーモアが欠片もないんだもの」
「冗談なんて言った覚えはない。ぜんぶ本気」
「……なおのことよろしくないわ」
「はいはい、おふざけはそのへんにしてください」
ぽんぽんと手を叩きながら、スプリングフィールドが声をかける。
「戦況は各自の携帯端末へ転送した通りです……信じたくない事態ですが、グリフィンの本隊は軍の攻撃を受けて壊滅しかかっています。各指揮官の判断で個別に踏みとどまったり、あるいは撤退を試みていますが――本部からの指示が一切出てこない状況です」
「それだけじゃないんだろ?」
AA-12が放り込んだ端から飴玉をかみ砕きながら言った。
「バックアップサーバが応答しない、って本当なのか?」
「はい。本部のシステム群から一切の応答がありません――S545基地を乗っ取ったL211の部隊の話しでは、数日間あればS545のメインフレーム内に同じ環境を構築できるそうですが……つまり、それまではわたし達人形も、死んだらそれっきりになります」
「あらまぁ――あの時の夕食会が最後の晩餐になるのかしらん?」
おどけた口調でDSR-50が言ってみせるのに、皆が肩をすくめる中――
ただ一人、真面目に答えた乙女がいた。
「最後の晩餐にはしない。もう一度、このメンバーでテーブルを囲むの」
Vectorが金の瞳に強い光をたたえ、断固として言った。
「そうじゃないと、コリンが悲しむから」
その言葉に、皆それぞれに笑みを浮かべた。
「そうね。あの坊やはもう一度からかってみたいもの、ふふっ」
「君、懲りないなあ……前科二犯になるつもりか」
「させませんよ? コリンにもきちんと言い聞かせているんですから」
「あの子で遊んでいいのはわたしだけ」
それぞれが好き勝手に言うものの、皆が思い浮かべる顔は同じ。
褐色黒髪の愛らしい少年。レトリバーの仔犬のような顔立ち。
まだ年端のいかない子供ではあるものの――
彼女達にとり、彼が“いいオトコ”なのは共通認識だった。
「皆、生きてまた帰って来よう……コリンのために」
「コリンのために!」
乙女達――いや、お姉さん達は、声高らかに唱和した。
〔 Ep.8 「B122の一番長い日 part1」 End〕
〔――Next Ep.「B122の一番長い日 part2」〕
次回エピソードは来週末に更新予定です。
いよいよ第8話part2で本編完結です。
色々と決着がつき、そして別れの時が訪れるのですが……
さあ、コリン君はいったいどうするのでしょうね?
※本編完結後に後日談含めた番外編2エピソードを予定しています。