仔犬指揮官はお姉さんが苦手です   作:Tico Ruzel

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キリールとの対決の果てに待ち受けていたものとは?

戦いの後に少年が感じていたものとは……

そして訪れる別れの時。
最後にコリンが言い出したわがままとは? 


本編完結、第8話 part2後編!


Ep.8 B122の一番長い日 part.2 -後編-

 ――Tマイナス00h05m。

 

 キリールの言葉に、コリンがハッと顔をあげた。

「……どういう、こと……」

 

『ああ、知らねえのも無理ないか。エヴァンは実験兵器の機密漏洩のとがでグリフィン本部に粛清されたんだ――だがな、あいつがなぜそんなことをしたと思う?』

 

 数瞬、間をおいて、キリールは侮蔑と哄笑を混ぜて言い放った。

 

『軍の標的から、自分の基地の人形どもを見逃してもらう(ハラ)だったのさ! まあ、もともとは軍からヤツに裏切りをもちかけたんだがな。エヴァンの野郎、軍に戻れないとか言い出して、その代わり、自分の部下だけは助けようとひそかに取引を言い出したんだよ! しみったれた野郎だ、ガラクタ風情に情けをかけるとはよォ!』

 

「……じゃあ、取引の情報がグリフィン本部に、どこから漏れて――」

『――いやァ、ヘヘッ。俺様が、“わざと”グリフィンにタレこんだけどなァ』

 

 キリールの告げた事実に、コリンが息を呑んだ。

 目を見張って、テュポーン戦車を見つめる。

 

「お前が……お前がッ!」

 

『不思議じゃないだろう? エヴァンを嵌めれば、ハワーズ家の当主の座を狙える。そもそも戦友を裏切って、軍に戻る気のない男なんぞ、死んだ方がマシだ。いまごろはあの世で死人どもに這いつくばって詫びているだろうさ――ヒハハッ』

 

 何度目かの嘲笑が響き渡る。

 

 コリンは――ヒュッと息を吸った。

 オニキスの瞳を怒りで満たして、眼光鋭くテュポーン戦車を睨みつける。

 

 短機関銃を両手で構え――銃口は、装甲に守られたキリールに向けていた。

 

「訂正しろッ! 伯父さんは、エヴァン伯父さんは、あの人なりに戦友のことを思っていた! 死んだ仲間達のことを悔やんでいた! 生き残った人が見て見ぬふりをする中で、伯父さんは少しでも戦友たちの思い出を留めようとしたんだッ!」

 

『ハッ! 小僧にあの戦争の何が分かる! 死んだ奴はそれまでなんだよ! なのに女々しい感情に囚われて、軍を辞めちまったあいつは裏切り者なんだ! 俺から恩も仇も返す機会を奪い去って、ヤツは居心地のいい場所へ逃げたのさ!』

 

 ひとしきりキリールは吠えると、低い声で言った。

 

『おい、小僧……銃を向ける先を間違えてるぞ。早くそのお人形をバラせ』

 

 コリンは、自分によりかかるVectorを見た。

 

 普段は無機質な表情なのに……彼女の顔は、明らかに乱れていた。

 眉をひそめ、歯を食いしばり、そう、まるで――

 

「――痛覚遮断をつかっていないんですか!?」

 

「あいつが望んでいるのは悪趣味なショーだもの……澄まし顔じゃ時間は稼げない」

「そんな……そんな……ッ」

 

「あなたに撃たれるなら、それでもいい……ううん、その方がいい」

 苦痛をこらえながらも、乙女は口の両端をほんの少し、もちあげてみせた。

 

「どうせ殺されるなら、コリンにされるのが嬉しい」

 それは――少年が初めて目にする、彼女の微笑みだった。

 

 コリンが、キッと顔をあげ、もう一度、短機関銃を構える。

 銃口は、テュポーン戦車に向けて。そして、言い放った。

 

「これ以上はやらない。お前にもやらせない」

 オニキスの瞳に闘志の炎を宿して、少年は告げた。

 

「ぼくの命を奪えても、こころまでは奪えないッ」

 

 キリールの返事は――深いため息だった。

『ふん。この期に及んでヒーロー気取りか。なら、望み通りにしてやるよ』

 

 戦車のかたわらから、歩兵人形がわらわらと出てくる。

 いくつもの銃口が、少年と乙女を、そして仲間たちを狙う。

 

 

 コリンが片手でVectorを抱きしめ、きゅっと目をつむった矢先――

 

 小さな拍手の音と共に、飄々とした声が聞こえた。

 

 

「――良い啖呵( たんか)だ、パダワン。次からは策を用意してから臨むといい」

 

 

 白っぽい長い癖毛に、紫に煌めく瞳。

 その女性は暗がりの中から、手品師のように姿を現した。

 

 傍らに、亜麻色の髪の少女を連れ、にんまりと笑みながら。

 


 

 ――Tマイナス00h02m。

 

「ンンン、遅れてすまない。仕込みに準備がかかってね」

 

「師匠……な、なにをしに来たんですか」

「そりゃ決まってる。“テルモピュライの戦い”の再現だとも」

 

 ロロはそう言うと、前方の軍の部隊と、B122の人形達を見回した。

「まっ、“炎の門”を守るにはスパルタ兵が三百人ほど足りないけどネ」

 

『てめえ! 何者だ! どこから出てきやがった!』

「ンンンッフ、この子の師匠だよ。ちなみに基地の出口から出て、歩いてきた」

 

『な……構わん! 撃て! この頭のおかしい女も撃ち殺せ!』

 

 キリールの号令に、しかし――

 歩兵人形はもちろん、テュポーン戦車の主砲も沈黙したままだった。

 

『なんだ! これは!? どうなってやがる!?』

 あわてふためくキリールの声に、ロロはうなずいてみせる。

 

「……やー、さすがペルシカ先輩お手製の攪乱プログラムだわ。周辺環境のセンサ情報からクラッキングしかけるとか、もう魔女のおまじないレべルだなあ」

 

『クソッ、クソッ! 予備回路に切り替えて、手動で撃ってやる!』

 キリールの喚きと共に、テュポーン戦車の砲身がゆっくり光を帯びる。

 

「へえ……あんな形でも撃てるのか。軍隊仕様は頑丈だねえ」

「感心してる場合じゃないです、師匠! どうするつもりですか!」

 

 ロロとコリンに向けて、怒り狂ったキリールの声が浴びせられる。

『降伏するならいまのうちだ! さっさとひざまずいて許しを請え!』

 

 紫の瞳の女指揮官は、しかし、全く動じなかった。

 

 着々と死の準備を整える戦車の砲身を見ながら――

 弟子である愛らしい少年にそっと語りかけた。

 

「知ってるかな、コリン。こういう場合の常套句を……そうそう、ハワーズのご先祖には合衆国陸軍として、第二次大戦の西部戦線に参加した人がいるそうだよ。奇しくも、あの伝説に名高い第101空挺師団の一員としてネ。バストーニュの戦場で、ドイツ軍に包囲された彼らが、降伏勧告に何と返事した?」

 

 コリンは軽くため息をついてみせた。胡乱な目で彼女を見ながら、答える。

「……〔ウォー・チェス〕でもよくある罵り合いです。知ってますよ」

 

「ンンンッフ、ならば最高にカッコよく投げつける準備をしたまえ」

 


 

 ――Tマイナス00h01m。

 

『こちら「レオニダス〕統括。一番から三十番まで、準備よし』

『こちら〔ディリオス〕統括。右翼二十班、左翼二十班、ともに準備よし』

『こちら〔ステリオス〕統括。第一列から第六列、全ユニット群準備完了』

 

 

『装填よろし』『装填よろし』『装填完了』

 

『標的よろし』『標的よろし』『狙点固定』

 

『タイミングをローズ指揮官及びハワーズ指揮官の音声号令に同調』

 

撃ち方よろし(Ready to Fire)』『よろし( Ready)』『よろし( Ready)

 


 

 ――Tマイナス00h00m。

 

 テュポーン戦車の砲身に見る見る光が集まっていく。

 傲岸そのものの声で、キリールが告げる。

 

「ハハッ! 消し飛んじまうぞ! さっさと地に頭をこすりつけて降伏しろ!」

 

 その宣告に――

 

 ロロは紫の瞳を煌めかせ、コリンはオニキスの瞳に光を込め。

 

 

 声高らかに、同時に言い放った。

 

「――ばかめ(Nuts)!」

 


 

 最初に突き刺さったのは、火を噴いて飛翔する“槍”であった。

 

 テュポーン戦車それぞれに十発ずつ。

 ヒュドラ歩行戦車にはそれぞれ五発ずつ。

 対戦車ミサイルが突き刺さっていく。

 

 それも一度どころではない。

 二射目以降は微妙にタイミングをずらしている。

 

 おかげで機甲兵器は常にミサイルで殴られている状態となった。

 歩行戦車の脚が折れ、戦車のホバー機関が損傷し、擱座する。

 

 

 火の洗礼は、これだけではない。

 

 ミサイル発射ユニット群の両翼に配置した榴弾発射機、実に四十門。

 

 これが軍の部隊に向けて次々と放たれた。

 ゆるやかな弧を描いて、少年と乙女達の頭上を軽く飛び越えていき――

 そして、軍の隊列に次々着弾していった。

 

 連続して起こる爆発に、機甲兵器も歩兵人形も打ち据えられる。

 機甲兵器はさらなるジャブの応酬にたちどころにサンドバックと化した。

 歩兵人形はなすすべなく、爆発に巻き込まれて砕け散る。

 

 痛烈な猛襲に耐えかねて、軍の部隊がわずかにうごめく。

 なんとか被害範囲から逃れようとしたのだ。

 

 

 だが――乙女の復讐がこんな生ぬるいもので済むはずがない。

 

 さらに後方に布陣した迫撃砲部隊、合計六十門が直ちに爆音を鳴らす。

 

 放たれた迫撃砲弾は、計算の結果、環状に連なって吸い込まれていく。

 

 軍の追撃部隊の外周を囲むように猛打を浴びせた。

 混乱する軍の歩兵人形が中央へ集まろうとするのを見透かし――

 

 迫撃砲は次々と炎の包囲を狭めていく。

 

 むろん、散々に打ち据えられた機甲兵器も例外ではない。

 

 最初にノックアウトされたのはヒュドラ歩行戦車だ。

 砲弾の土砂降りを浴びせられればたまったものではない。

 脚を折られ、本体から火を噴き、自身の弾薬を誘爆させて斃れる。

 

 テュポーン戦車はさすがに踏みとどまっていたが――

 

 そもそも投射されている火力が非常識すぎるのだ。

 ほどなく装甲と構造がもちこたえられず、先に随伴車が屈した。

 

 超高圧バッテリーにミサイルが突き刺さり、電力が暴走する。

 メーザー発振機構に過剰に供給されたエネルギー。

 それがプラズマと化して漏れ出す。

 

 荒れ狂うエネルギーの稲妻は、指揮車両を打ち据えた。

 

 ハッチを開け、足を掴む部下を拳銃で撃ち殺しながら――

 

 火だるまになったキリールがころがりだしてくる。

 

 あまりの熱に銃が暴発し、取り落とした。

「が、が、が、がああアアアぁ!」

 

 彼は顔を歪めて咆哮し、武骨な軍用ナイフを抜き放った。

「殺してやる! 殺してやる! 殺すぁアアアアア!」

 

 血走った眼でわめきながら、コリンに向かって走り出す。

 

 Vectorが、AA-12が、少年をかばうより前に。

 DSR-50が、ライフルで狙うよりも前に。

 

 誰よりも速く、反応した乙女がいた。

 


 

 長い栗毛をなびかせ、年代物のライフルを両手で持ち――

 スプリングフィールドが、疾風のごとく駆けた。

 

 突進してくるキリールを寸前でかわし、背中に銃床を打ちつける。

 裂帛の叫びと同時の、会心の一撃。

 

「これはVectorの痛みのぶん!」

 

 キリールが態勢を崩して前のめりになる。

 乙女はくるりと躯体を回転させ、銃床で今度はすねを打った。

 

 急所を衝かれた男が苦悶の声をあげるのを聞きつつ、彼女は叫んだ。

 

「これはコリンの怒りのぶん!」

 

 キリールが脚をよろけさせる。

 もはやナイフはどこかに取り落とし、それでも腕を振り回す。

 だが、乙女はひらりとかわしながら、続く一撃で男の胸を突いた。

 

 人形の躯体限界いっぱいまでの動力。

 打撃の勢いはボディアーマーを徹ってあばらを数本、同時に折った。

 

「そして、エヴァンの苦しみのぶん!」

 

 キリールがどうと仰向きに倒れる。

 乙女は軽く跳ねた。銃床を下向きに構える。

 勢いと重力に従って、狙う先は急所のひとつ――眉間。

 

 リンケージしたライフルは、まさにこの時、戦鎚と化した。

 

「最後は、わたしの涙のぶんよッ!」

 

 復讐の一撃が男の意識を完全に空白にした。

 白目をむき、口から泡を吹いたキリールを見て――

 

 スプリングフィールドは、ふんと鼻を鳴らした。

 

 あっけにとられて見ていた仲間達から、軽く拍手が鳴らされる。

 

 

 乙女は空を見上げた。鶯色の瞳で夜の帳を見渡す。

 

 ふと目に着いた星に、彼女は思った。

 あれは、かつてエヴァンと共に見上げた星だろうか、と。

 


 

 防壁前での殲滅戦から三時間後、S545基地。

 

 ここには広大な駐機場がある。

 

 もとは補給基地だけあって、輸送トレーラーやヘリが多数待機できるだけの広さがあるのだが――いまはその半分が、戦術人形達の編成場所になっていた。

 

 日が暮れて夜の帳が降りた中、防壁内の照明は煌々と照らされている。

 完全武装で点呼を待つ人形達。ヘリへの積み込みを待つ重装部隊。

 

『われわれがここに逃げ込んだのは、脱出の第一歩に過ぎない』

 ローズ指揮官がアナウンスでそう伝えていた。

 

『あのAR小隊を従える指揮官をはじめ、なお多くのグリフィンスタッフが戦場に取り残されている。彼らを一人でも“ソビエト”の下に集め、保護する必要があるんだ』

 

 凛とした表情で語りかける彼女を見て、AA-12は思ったものである。

 仔犬くんの師匠はホントに食えない人物だと。

 

 だが彼女は、まず自分達が助かるために、グリフィン本部自身も欺いたのは確かだ。クルーガー社長は元より、上級代行官のヘリアンも行方知れずである。そんな中で「給与の未払い」を大義名分に成立した“グリフィン労働者評議会(ソビエト・グリフィン)”をどう舵取りしていくつもりなのか。当面はS545基地の物資でなんとかなるだろうが、いずれ後ろ盾となるスポンサーを見つけないと立ち行かないだろう。

 

「――とはいえ、戦術人形ごときの考えることじゃない、か」

 

 飴玉を口内で転がしながら、AA-12はひとりごちた。

 そんな彼女に、艶やかな声がかけられる。

 

「あら、こんなところで暇つぶし? 風情がないわね」

「……休んでおけ、って言われても基地内でくつろぐ気にはならないよ。修理待ちの人形がメンテナンス室から溢れて、食堂も通路も野戦病院だ」

 

 AA-12はターコイズの瞳で、声の主をじとりと見つめた。

「そういう君こそ、手持無沙汰そうじゃないか、DSR-50」

 

「あらぁ、わたしはちゃんと用事があるもの」

「どんな用事だよ」

 

「うふふっ、傷心の坊やを慰めてあげるの――どこにいるか知らない?」

「知らない。知っていても教えないぞ」

 

「なによ、ケチね。S545に着いた途端のあの子、見てたでしょう?」

「まあな」

 

 AA-12は答えると、メモリからその時の様子を再生した。

 

 見事に正規軍の追撃部隊を食い止める役割を果たしたコリンだが――基地の防壁内に入って、助かった人形達の歓声を浴びた瞬間、泣き出してしまったのだ。人目をはばからずに、涙をぼろぼろ流して、声を大きくあげての号泣である。

 

 B122の面々はいまにして思ったのだ。

 自分達の指揮官は、まだ御年十歳のお子様でしかないのだ、と。

 

 才幹は素晴らしいものがある。可能性も十分に秘めている。

 だが、それでも。この撤退戦は彼には重荷だったのだ。

 

 メンタル面で少年を支えていたものは何か。推測はできるが真にはわからない。ただ、目的を果たした途端に、緊張の糸が切れてしまったのは確かだ。

 

 施設内で休んでいたはずの彼だが、ほんの少し前に駐機場の一画をうろうろしていた。少年なりに心を落ち着かせられる場所をどこか探していたのだろう。

 

 念のため、スプリングフィールドに伝えると、返事はこうだった。

 

 ――いまは、コリンの自由にさせてあげてください。

 

 感情というものが後付けの部品である人形と違って、脳の中で思考と感情と人格がわかちがたく繋がっているのが人間だ。気持ちの整理は、人形のようにデフラグ一回で済むというわけにはいかないのだろう。

 


 

 

「……そういえば、あのキリールってクソ野郎の処分どうなるんだ? 我らが副官殿の渾身の一撃に耐えきって、まだ命があったそうじゃないか」

 少年にとって大きなストレスになったであろう男の名を、AA-12は口にした。

 

「やあねえ、スプリングフィールドだって加減はしたわよ」

「いや、割と恨み全盛りで殴っていたように見えたんだが」

 

「戦術人形でも、普通の人形は人間を殺せないわ」

 DSR-50は肩をすくめてみせた。

 

「もっとも、あの男は殉職していた方がマシだったかもね。ロロさんをはじめ、指揮官連中がすっごく悪い顔で相談してたから。“グリフィン労働者評議会”は軍や国家治安局の矛先をかわすのに何でも使う必要があるもの。たぶん、息はしたまま、政治的な取引の材料にされるんでしょうね」

 

「やけに詳しいな」

「わたしがドロテーア・レオンチェフって“名持ち”なのは知ってるでしょう。グリフィンの外へ出れば、社交界にも顔が広い資産家ですもの……ロロさんから、そのあたりの顔つなぎも頼まれたの」

 

「改めて考えると、君も割と怖い存在だったんだな」

「うふふっ。でも、今回で死に損なったんだけどね」

 

「……なんだって?」

 

「坊やの指揮の下でなら、この撤退戦で死んでもいいと思ってた――ううん、絶妙のタイミングでわざと戦死するつもりだった。坊やが一生忘れられない心の傷になるぐらい、印象的な形で」

 

 DSR-50の言葉にAA-12は目を丸くした。

 黒髪美女は艶やかに笑みながら、言葉を続けた。

 

「あの子はきっと大物になる……だから、ちょっとしたトラウマになるぐらいの死に方をして、大人になっても、夜ごと、わたしのことを思いだすぐらいに坊やの記憶に刻みつけたかったのよ――あの子なら、憶えていてくれると嬉しいと思ったから」

 

「……悪趣味なやつ」

「あら、破滅願望の人形だって、弔う誰かはほしいものよ」

 

「それがなんで生き延びてるんだよ」

 

 その指摘に、DSR-50は深々とため息をついてみせた。

「今回、ペアを組んでいたVectorのせい。あの子、無自覚でしょうけど、相当に勘が鋭いわ。わたしが“死に方”を考えていると、いつのまにか見つめているのよ。金の瞳で、まるで考えを照らし出すみたいに」

 

 DSR-50は髪をかきあげた。ぬばたまの黒髪がはらりと顔に落ちて影を作る。

「結局、死に損なっちゃった。いい機会だったのにね」

 

 黒髪美女の告白に、AA-12は微妙な表情を浮かべた。

 あきれ顔と苦笑と同情をカクテルしたような顔。

 

 目の隈美人はひとしきりうなってみせると、懐から飴の包みを取り出した。

 そのまま、DSR-50にずいと押し付ける。

 

「キャンディ、食っとけ」

「急になあに?」

 

「いいから、食っとけ」

 促されて、黒髪美女が包みを受け取る。

 

 取り出した飴玉を口に入れたDSR-50は、ほんの少し愁眉を開いたかのようだった。

 

「あまり他人の“人生”に口出しとかしたくないんだけどさ」

 ターコイズの瞳を揺らしながら、AA-12は言った。

 

「死に方より、生き方を考えろよ。どこかでもっと大きな飴玉がもらえるかも」

 

 目の隈美人が口内で飴を転がしながら、ぽつりと言ってみせる。

 黒髪美女も飴玉をころころと転がしていたが、ややあってつぶやいた。

 

「ねえ、AA-12……キスしない?」

「はあ!? いきなりナニを言い出すかな、君は!?」

 

「もちろん、そのままベッドインでもいいんだけど」

「待て、待て待て。なんでそんな話になる!?」

 

「あら、大きい飴玉がほしいのよ――いますぐに」

「だからって見境なしにサカるなあ!」

 

 DSR-50がAA-12の腕に自分の腕を絡みつかせて迫る。

 対するAA-12は必死の顔で痴女を引きはがそうとしていたところへ――

 

「……知らなかった。二人ってそういう関係なの?」

 淡々とした声がかけられた。冷ややかな金色の眼差しと共に。

 

 右腕を三角巾で吊ったVectorが暗がりの中から歩いてくる。

 彼女に向って、乙女二人はそれぞれに回答した。

 

「君まで何を言ってるんだ! そんな関係じゃないよ!」

「あら、つれない。これからそういう関係になってもいいのに」

「だから絡みついてくんな! 発情期の蛇か!」

「うふふっ、蛇みたいに長期戦の睦み合いがいいの?」

 

 どたばたしている二人を、Vectorは胡乱な目で見ていた。

 だが、ため息をつくと、そっと二人に訊ねた。

 

「……コリンを探しているの。どこかで見なかった?」

 

 その言葉にAA-12が目配せして、そっと片手を差し出す。

 プライベート・データリンクの要請。

 

 彼女の手をとったVectorは位置座標を受け取ると、うなずいた。

「ありがとう。助かるわ」

 

「いや、ついでにこっちも助けてほしいんだけど!」

 

「プライベートには干渉しない主義なの。仲良くやればいい」

 

 つれないVectorの返事に、AA-12はうめいた。

「わたしはノーマルなんだよ!」

 

 そんな彼女に、DSR-50がくねくねと絡みついてくる。

 

「あら、新しい境地を開拓するのも悪くないわよ」

「そんな境地いらないよ!」

 

 やんわりごたごたしている二人に、Vectorはそっと後ずさった。

 軽く手を振ってみせると、そのまま少年の居場所へと駆けだす。

 

 そんな彼女をかすかに笑んで見送りつつ――

 

 AA-12はひとまず自身の貞操の防衛に懸命であった。

「サカったんなら自分で処理しろよ!」

 

「あら、意地悪ね。つきあってくれてもいいじゃない」

「だから、わたしにそんな趣味はなーい!」

 

 目の隈美人の叫びが、基地の一画に響いた。

 


 

 コリンは、とある監視塔のてっぺんにいた。

 

 出入りする機体の混雑時などに、スタッフが詰めてマニュアルで管制の肩代わりをする場所だが、平時は単なる物見櫓である。

 

 頂上の施設をぐるりと取り巻く外周通路に、彼は座り込んでいた。

 ぺたんとお尻をつき、膝をかかえて、そこにあごをちょんと載せている。

 

 そうして、上目遣いで夜空を眺めていた。

 

 星がまたたく夜のカーテン。そこにぽっかりと浮かんだ少し欠けた月。

 

 月光に目をやっては、少年は悲嘆するかのようなため息をついた。

 そんなことを繰り返しつつ、ぼうっと過ごしていると――

 

 不意に、涼しげな声がかけられた。

「隣、すわるわよ」

 

 お願いではなく、まさに行動の宣言。

 その声と物言いに、少年がハッとして立ち上がろうとするや、

 

「あなたはそのままでいい。そこに、そのままが、いい」

 淡々とした声で告げられ、いつのまにか肩を手で押さえられている。

 

 コリンは、おそるおそる顔を向けた。

 

 夜空の月にも負けない、冴え冴えとした金の瞳。

 星の光を浴びて、煌めく粒子をまとった銀の髪。

 相変わらずの不愛想な顔で、Vectorが隣に座っていた。

 

 少年は、また嘆息して、そしてばつが悪そうに言った。

「いま一番、会いたくない人が来た……」

 

 彼の言葉に、乙女は目をぱちぱちとさせ、訊き返した。

「どうして? あたしは、あなたに会いたかった」

 

 その彼女の右腕は、もう新しいものに付け変わっていたが――

 しかし、三角巾で吊ったままなのに、少年は目を潤ませた。

 

「……腕、まだ治ってないんですね」

 

「気にしないで。ちゃんと繋がってる。ただ、神経回路の接合が馴染むまで少しかかるだけ。いつもなら、修復用のナノマシン注入で事足りるけど、それが必要な人形は他にもいるから。あたしのは後回しになる」

 

 そう答えると、乙女はそっと左手を伸ばした。

 少年の額の前髪をさらさらと撫でながら、穏やかに言った。

 

「人形の躯体構造、ちゃんと勉強してたのね。後で付け替えしやすい位置を狙って撃ってくれたんだもの。おかげで肘から先の交換で済んだ」

 

 Vectorの声は淡々としながらも、ほんの少し柔らかく聞こえた。

 乙女の言葉を聞きながら、少年の双眸にみるみる涙があふれてくる。

 

「でも、あなたを撃ちました――痛い思いを、させました」

「必要な行動だったわ。手足ぐらいなら構わない」

 

「あの時の……Vectorさんの顔を思いだすとつらいんです」

「いまは平気な顔をしているでしょう、ほら」

 

 乙女は少年のあごに手を添えて、やんわりと自分の方を向かせた。

 いつも通り、涼しげで、表情らしい表情のない顔。

 

 だが、そんな彼女を見て――かえってコリンはぽろぽろと涙を流した。

 

「だって……だって、わかっちゃったんです。なんでもない、って顔をしながら、あなたもちゃんと痛かったり、苦しかったりするんだって! ただ、見せないようにしているだけで、ちゃんとそういう気持ちとか、感情とか、持っていて、感じていて……」

 

 少年の流す涙が幾筋も頬をつたい、あごへと流れ落ちる。

 涙の幾雫かが、乙女の指をそっと湿らせた。

 

「……そう思ったら、どれだけあなたに――他のお姉さん達にも無理をさせてきたのか、怖くなってしまって……自分はひどいことをしたんじゃないか、って。指揮官なんか失格だったんじゃないか、そればかり考えて」

 

 コリンが(はな)をすすった。

 涙でべとべとになった顔をくしゃりとゆがめて、つぶやく。

 

「ぼくは……ぼくは、本当に弱い子供なんです……ッ」

 

 乙女に顔を向けたまま、かすかな泣き声をあげ出した。

 静かな嗚咽を洩らす彼を、Vectorはまじまじとみつめていたが――

 

 あごに添えていた手を離すと、今度は彼の頭に伸ばし、かき抱いた。

 

「そう思うなら――いいこと? コリン・ハワーズ」

 彼女の口調はいつものまま。

 

「強くなりなさい――撃つべき相手だけを、自分の意思で撃てるように」

 淡々として、だからこそ、いまこの時はずしりと彼の心に重く響いた。

 

「Vectorさん……べくたあ、さぁん!」

 少年は声をあげると、乙女の肩にすがってわんわんと泣いた。

 

 乙女はそっと少年を抱き寄せた。

 肩にすがっていた彼を、自分の胸元へそっと導く。

 

 彼女の柔らかな双丘に顔をうずめ、少年は泣き続けた。

 

 外に漏れる泣き声は小さくなったが、声の振動は乙女の躯体を揺らした。

 ぽんぽん軽く彼の背をたたきながら、感情パラメータが弾む。

 

 その想いは――自分では認めたくなかったが、否定できないものだ。

 

 しばらくして、ようやくコリンは泣きやんだ。

 まだえぐえぐ言いながらも、顔をあげる。

 

「……ごめんなさい。服、びしょびしょにして」

「構わないわ。それよりも」

 

 乙女は再び、少年のあごに手を添え、言った。

 

「あなたの顔、ちゃんと拭いてあげないと」

 そう言うや――彼女の舌が彼の顔をそっとなめた。

 

「ひあっ!? べ、Vectorさん!?」

「じっとしてなさい。人形の湿潤液はクリーンだから」

 

 そう言って、涙をすべてぬぐうかのごとく、彼の顔に舌を這わせる。

 頬はもちろん、目の周りも、鼻の下も、その小さなあごも。

 

 ぬめぬめとして、それでいて優しいタッチに、少年はみるみる頬を染めた。

 

「あ、あの、あの、あの……!」

 

 コリンのオニキスの瞳がまた潤んでいる。

 先ほどとは違う種類の涙だ。息は弾み、乙女をじっと見つめている。

 

 Vectorが金色の瞳で少年を見つめ返した。

 

 まるで、心の底を覗き込むように。

 彼女はくいとコリンのあごをそらせた。

 

 上向きになった彼の唇に、自分の唇をそっと寄せ――

 

 そして、おもむろに重ねた。

 

 少し合わせては離し、そしてまた唇を重ねる。

 唇で唇を揉みしだくかのような、幾重ものキス。

 

 コリンは両手を伸ばし――彼女の背に回すと、抱きしめた。

 

 

 ひとつの影になった二人に、月と星が静かに光を降らせている。

 それは祝福か、それとも、はかない夢のしるしか。

 


 

 グリフィン残存戦力の撤収から十日後。

 

 S545基地の指揮官卓でロロは通信回線を開いていた。

 モニタに映っているのは、げんなりした表情の女性だった。

 

 白衣を着こみ、赤毛の頭にはなぜかケモミミがついている。サイバネアクセサリのたぐいであろう、それはひょこひょことせわしなげに動いていた。

 

『……正直、あまり通信したくなかったわ』

 画面の中の女性――16LABの誇る天才、ペルシカはうめいた。

 

『こんな状況で貴女の“お願い”なんて絶対に面倒ごとだもの。案の定、ネットには怪しい声明文が流れているし。なによ、独自の“ソビエト”だなんて。とうとう変態が昂じて頭がクラッシュダウンしたかと思ったわ』

 

「いいアイデアでしょ、おかげで扱いに困って軍も治安局も動かない」

 ロロはほくそ笑んでみせた。

 

「まあ、斥候のたぐいは来ていますが、丁重にお引き取り願っています。とはいえ、礼儀正しい山賊もどきもそろそろうんざりなので、ちゃんとしたスポンサーがついてほしい……だから、先輩に顔つなぎをお願いしたわけで」

 

『――“彼”を口説き落とすのは、並大抵じゃいかないわよ』

 ペルシカは、ため息まじりに言った。

 

『このわたしを研究所につなぎ留めている男だもの』

「老獪さは推して知るべし、ですか」

 

 ロロは肩をすくめてみせた。

「ただ、私が無策でぶつかったり、仕込みなしで対決するように見えます?」

 

『あきれた……その行き過ぎた見越し加減、どこかで破綻するわよ』

「ンンンッフ、まあまあ、そうなったらまた頼らせていただきます」

 

『いやよ。貴女と関わると、猫ちゃんと遊ぶ時間が増えちゃうのよ』

「いいことじゃないですか」

 

『ストレスの消化に時間がかかるって意味――じゃあ、彼に繋ぐわ』

 

 その言葉と同時に、通信モニタが切り替わる。

 

 代わって映し出されたのは、かなり年配の老人だった。

 顔に刻まれたしわと穏やかな笑みは、好々爺の印象といえる。

 

 一見、穏やかな眼差しだが――ロロは計り知れない鋭さを感じた。

 そう、数年前と同じく、この老人は全く衰えていなかった。

 IOPを再建した立役者であり、現在もなお最高経営責任者を務める。

 

「“おひさしぶり”です、ハーヴェルさん」

 まるで孫が祖父に語りかけるかのような親しさでロロは声をあげた。

 

 対する老人は、最初こそ不審そうな顔をしたが―― 

 ややあって、ぽんと手を打って、言った。

 

『ペルシカの紹介だから、誰かと思ったが――君か、“ロロ”』

 

「アカデミーの奨学金試験以来ですね。おかげで学費が助かりました」

『ふむ、われわれとして有望な研究員に投資したつもりが、グリフィンなどに逃げられて困ったものだったがね……君のアプローチはユニークだったから』

 

 ハーヴェルの苦言に、ロロはにんまりと笑んでみせた。

「どのみち、グリフィンの研究部門はIOPの紐つきでしょう。わたしが本部に上げた運用レポートのあれこれは、16LABのお役に立ったと思いますが」

 

『それは認めよう。少なくとも君のレポートが届いた日には、決まってペルシカの機嫌が悪くなる。私としては話しづらくて毎度難儀したものだ――それで? 今度は君の“ソビエト”に投資しろというつもりかな?』

 

「ありていにいえば。まあ、“労働者評議会(ソビエト)”というのはハッタリ半分の看板です。付け替えるのは全然構いません。ただ、あなたと話せるまでの時間稼ぎに、労働省や社会保障局や議員さんから、軍とかなんだとかに横槍を入れてほしかっただけです――新ソ連は私企業の存在を公認していますからね。だから労働争議で“ソビエト”が出てくるとすったもんだが起こる」

 

『つまり、煙にまくための方便か』

「そうなります」

 

『では、君はスポンサーを得て、何をするつもりなのかね』

「表向きは、グリフィンという組織の存続――」

 

 そう切り出して、ロロは片手を掲げてみせた。

 

「その実は、世界の輝きを更新するため……人形達の助けを借りてね」

 

 彼女の言葉に、ハーヴェルは片眉をつりあげた。

『なにかね? 君は“主義者”だと? 同志に加わりたいというのか?』

 

「ンンン、イデオロギーに興味はありません、肝心なのは後半部分です」

『なるほど……それで私のプライベートアドレスに送りつけたレポートか』

 

 老人の言葉に、ロロはうなずいてみせた。

「ええ。全自動国家資本主義――たぶん、中枢はお利巧さんのマザーマシンが居座るんでしょうが、社会の末端までそれを無理なく回すには、人間は不合理すぎる存在です。ただ、いまは人間社会の大半が、人形の助けがあって動いています。人形が作る製品、人形が提供するサービス、人形が消費する商品――そして、それに伴う金銭の流れ」

 

 ロロが通信モニタの一画に、帯グラフを示してみせる。

 業界ごとにGDPへの寄与度を示した構成割合だ。

 その帯グラフの色が塗り替わる――オレンジが六割、ブルーが四割。

 

「独自の試算です。国家統計局ならこっそり把握しているでしょうが……この国はGDPの四割を人形関連で賄っている。権利どうこう以前に、人間社会は人形達無しでは成り立たない――それでいて、この四割はプログラム次第でコントロール可能だ。結局のところ、例のイデオロギーを奉じている人も、末端の歯車が自在になるからこそ実現可能だと考えている……違いますか?」

 

 ロロの言葉に、ハーヴェルは大きく息をついた。

『面白い話だ。うちの社会科学のシンクタンク研究員なら、ボーナスを出してやってもいいところだろう……しかし、だ』

 

 老人の眼差しが鋭く光る。ロロに向かって、彼は訊ねた。

『これは君の組織への投資の話しだ。最終的に君は何を守りたいのかね?』

 

 その問いに、ロロは微笑んでみせた。

「戦術人形――彼女達が、彼女達らしく生きられる場所を。つまるところ、私も含めてこの企てに賛同した指揮官は、人形達を案じているんです。戦うための存在であるとはいえ、その居場所を取り上げてほしくない……それだけの、実にささやかな望みです」

 

 彼女の言葉に、ハーヴェルは「ふむ」とつぶやいた。

 黙ったまま、モニタの向こうでデスクを指でコツコツと叩いている。

 たっぷり二十回は小さなノック音を鳴らし――彼は言った。

 

『スポンサーの件は引き受けよう。ただし、君達にではない。ほどなく君達の下へ来る、あるグリフィン指揮官に、だ。AR小隊を傘下にもつ、あの人物……その下働きに、君達はなるだろう。組織上は対等になっていても、そこはスポンサーの意向というやつだ』

 

 ハーヴェルは、ロロをじっと見つめながら、言った。

『その境遇に、君は耐えられるかね?』

 

「自分のメンツなど気にしません。私の可愛いあの子たちの居場所を維持できれば、それでいっかな構いません――どのみち、グリフィンも永続はできないでしょうし」

 

『ほう……随分と先を見ているものだ』

「良くない予想ほど当たると専らの悪評です」

 

 ロロが冗談めかして言うと、老人はにんまりと笑んだ。

『よろしい。とりあえず“ソビエト”の看板は下ろしたまえ。IOPの庇護下でなんとかなるように手配しよう。だが、ひとまずは大仕事が待ち構えているぞ』

 

「ほう……実力試験ですか」

 

『そうとも言えるな。先の衝突の際、AR小隊の指揮官が謎の武装勢力と交戦し、行方不明になっている。どうやら拉致されたらしい。目下、武装勢力の拠点を複数調べているが、おそらく救出にあたっては、要塞攻略規模の作戦が必要となるだろう。指揮官の救出は専門の部隊が行う――君たちの役目は、潜入と脱出における大規模陽動と、そして囮だ。くだんの指揮官の命が最優先、そのうえで生き残れるかは、君達の運と才覚次第だな』

 

 老人の言葉に、ロロはにやりと笑ってみせた。

「それは……願ったりかなったりですね。あの指揮官に恩を売れるなら、後日に色々とはかどりそうですから」

 

『ふむ、さすがに怖気づかんか――では、準備を整えたまえ』

 

「ああ、ハーヴェルさん。追加で小さなお願い、ひとついいですか?」

 

 不審そうに見つめる老人に、彼女は言った。

「コリン・ハワーズ君を、無事にお家に帰してあげてください」

 

 紫の瞳に柔らかい光をたたえて、ロロは言葉を続けた。

 

「子供を巻き込んだままどうこうするには、もう酷な状況ですからネ」

 


 

 ロロとハーヴェルの通信から三日後。

 

 コリンはS545基地の〔城門〕のすぐ内側で人形達に囲まれていた。

 

 少年の服装は、黒と臙脂のグリフィンの制服ではない。

 来た時と同じ、プライマリスクールの学生服だ。

 

 彼の手には、大きな花束が収まっている。

 あまりに豪勢な出来なので、少年は持ち方に苦労していた。

 

 取り囲んでいるのは、B122に所属していた戦術人形達。

 気合の入った者は横断幕を作っている。

 

 ――ありがとう。元気でね。また会いましょう。

  

 そう、これは見送りのセレモニーだった。

 

 昨夜のうちに、コリンの指揮官代行の任は解かれている。

 

 納得のいかない様子の少年に、ロロは無言で彼の母親からの音声メッセージを突きつけたのだ。ただひたすら我が子の無事を願う母の言葉に、少年が黙りこくったところへ、ロロは穏やかに諭したのだ。

 

 ――ヒーローの時間は終わり。後は修行の旅だ、若きジェダイよ。

 

 師匠は「パダワン」とは呼ばなかった。

 一人前だと認めた証――それと同時に、彼が留まり続ける理由を否定したのだ。

 

 結局、少年は指揮官解任を受け入れた。

 別れの食事会も開けないまま、ここを発つことになったのだ。

 

 

 見送りの人形達から一歩前に出ている乙女が二人いる。

 

 スプリングフィールドと、DSR-50だ。

 

「コリン――あなたと過ごした時間、楽しかったですよ。わたしを助け出してくれて、ありがとう。エヴァンの死で止まったままの時間を、あなたは動かしてくれた。感謝のしようもありません……本当に、ありがとうございます」

 

 栗毛の乙女が深々とお辞儀をする横で――

 黒髪の美女といえば投げキッスをして艶やかに笑んでみせた。

 

「もうちょっと坊やと遊びたかったわ。でも、そうね……あと五年したら、プライベートアドレスに連絡を頂戴。あなたを男にしてあげるし、女性の楽しませ方もたっぷり個人授業してあげるわよ」

 

 DSR-50がぬけぬけと言ってみせるのに、スプリングフィールドは笑みをかぶった顔を向けた。にこやかな表情なのに、細めた目の光は剃刀のように鋭い。

 

「何を言ってますか、この人は? あなたなんかで初体験したら、そのまま深みにはまって戻ってこれなくなるでしょう、違いますか?」

「あらあ、その頃には坊やも分別ついてるわよ。ちゃんと極上の体験をしておかないと、あとでオンナで失敗するのがオトコなんですもの」

 

「必要ありません。コリンはちゃんとした相手を見つけますから」

「そのちゃんとした相手を喜ばせるテクニックは練習しなくちゃ」

 

 二人のお姉さんはいつの間にかレスリングの試合のように、お互いの手をがっちりと組み合わせ、言葉と力の応酬を繰り広げていた。

 

 コリンは、といえば、そんな二人に苦笑いをしつつも――

 なぜか、そわそわと自分の携帯端末を気にしていた。

 

 集まった人形達の中から誰かを探すように視線を巡らせたかと思えば、また端末をちらと見ては、もじもじと身じろぎしている。

 

「ちゃんと気持ちよく送り出してあげなさいッ!」

「後の再会を約束してもいいでしょうッ?」

 

 栗毛と黒髪、二人のお姉さんが触れんばかりに顔を近づけてにらみ合う中。

 

 不意に、チャイム音が鳴り響いた。

 音が鳴った途端、コリンが携帯端末を取り出した。

 

 なんとも真剣な顔で何やら読み取ると、安堵の表情を浮かべ――

 かと思いきや、キッと表情を改めてみせる。

 

「すみません、これ預かっておいてください!」

 

 組み合う乙女二人に花束を押し付けて、少年は基地の中へ駆けだした。

 

「コリン!? どうしたんですか?」

「坊や? 慌ててどうしたのよ!?」

 

 二人の乙女が揃って声をあげるのに、彼は走りながら叫び返した。

 

 

「わすれもの、です!」

 


 

 一方その頃、S545基地の食堂では。

 

 テーブルに飴玉の山を築いたAA-12が、向かいの席の戦友を見やっていた。

 

 はたして、銀髪金瞳の乙女は、テーブルに突っ伏した姿勢で腰かけている。人差し指でテーブルの上に謎の図形を描いては、その指の軌跡を目で追いかけていた。

 

 時折、軽く息をついてみせるが、どう見てもため息だ。

 

「……なあ、飴玉なめるか?」

「いらない」

「酒、持ってこようか? 何がいい?」

「いらない」

「パッション系のドリンクとか?」

「いらない」

「ああ、じゃあ、ほら。ガッツのつく肉料理とか」

「いらない」

 

 木で鼻を括るかのような不機嫌返事のオンパレードに、AA-12は肩をすくめた。

「……そんなに名残惜しいなら、ちゃんと見送りに行けばいいのに」

 

 その言葉に、テーブルに突っ伏したまま、Vectorはかぶりを振ってみせた。

「行けない。行ってもどんな顔をしたらいいのかわからない」

 

「普通に笑顔でいいと思うけどなあ」

「愛想とか愛嬌とか、道具には不要だもの」

 

「……君のそういうところ、頑固というより頑迷だよな」

 

 言いながら、口に飴玉を放り込むAA-12である。

 そんな彼女をじとりと見やりながら、Vectorは訊いた。

 

「あなたこそ、見送りに行かなくていいの?」

「ん。また会えると思ってさ。死に別れじゃないんだから」

 

 そう言って、AA-12は、きししと歯を見せて笑った。

「つらい時にそばにいるのが友人ってヤツだろ?」

 

「……なんだか、あの時とは逆になってる」

「ああ――そうだな、前はわたしがグロッキーだった」

 

 そう言って、目の隈美人はつぶやいた。

「そっか。似た経験したから、ほっとけないんだな、うん」

 

「なに? 善行を積みたいわけ?」

「友情の恩返しかな。どっちかといえば」

 

 AA-12の言葉に、Vectorはのそりと身を起こした。

 顔はうつむけたまま、ぼそぼそとつぶやく。

 

「だいじょうぶ……これは一時的に感情パラメータがネガティブに振れているだけ。何度かデフラグすれば、きっと胸のモヤモヤも整理できる。あの子がいつかいなくなるのは、最初から分かっていたもの。あれも、これも、一時のお遊び。寝て起きたら、さっぱり消えてしまう妖精の夢とか、そういうもの――」

 

「いやあ……いつになく詩人してるのを見る感じ、後に引きずるぞ、それ」

「じゃあ、どうしろって言うの」

 

「離れたくないんだろ。ついていけばいいじゃん」

「それはできない。あたしはグリフィンとの契約がある」

 

「……人形でも、運命に抗ってみればいいと思うけどなあ」

「運命とか言い出すなんて、あなたも割と詩人じゃない」

 

「そうだな、お互いにセンチメンタルになってるな、たぶん」

「――時間が、解決するわよ。きっと」

 

「だといいんだが……あ、いや。案外、早いかもしれないぞ?」

 

 

 AA-12が、不意に不可思議なことを言った。

 

 目はVectorに向いていない。彼女の背中の向こうの出入り口を見ている。

 そして、口元がにやにやとほころんでいた。

 

 ほどなく――パタパタという足音が食堂に飛び込んできた。

 

 まるで飼い主を見つけた仔犬が「キャン」と吠えるかのように――

 ボーイソプラノの声が、食堂中に響き渡った。

 

「いた――! Vectorさん、探しましたよ!」

 


 

 びくりと肩を震わせて、銀髪金瞳の乙女は振り向いた。

 

 褐色の肌に汗をにじませて。黒髪を振り乱して。

 ぜえぜえと息を切らして、頬を紅潮させたコリンが、そこにいた。

 

 オニキスの瞳が強い光を浮かべて、Vectorを見つめている。

 仔犬の目の輝きではない。むしろ、猟犬のそれだった。

 

 少年が、一歩一歩近づいてくる。

 

 そのたびに、乙女の感情パラメータが跳ねた。

 まさか、まさか、まさか。そんな、ありえない。

 

 だが――かすかにかぶりを振る彼女を、まるで意に介さないように。

 

 少年の手が、しっかりと乙女の手を握った。

 小さく、か弱いはずの子供の手。

 

 なのに、この時ばかりは、Vectorには巨人に握られたように思えた。

 

「……どう、したの。コリン」

 なんとか声を絞り出した乙女に、真剣そのものの声が返ってきた。

 

「わすれものを取りに来ましたッ」

 

「忘れ物?」

「いいえ、“忘れ者”です!」

 

 コリンが、握る手にきゅっと力を込めた。

 子供のはずの握力なのに、まるで万力のように感じられた。

 

「ぼくと、一緒に、来て、ください――Vectorさんッ」

 少年が、言葉の一つ一つを刻み付けるかのように言った。

 

 オニキスの瞳が、じっと見つめてくる。

 Vectorは、なぜかその漆黒から目をそらせなかった。

 

「……ダメよ。だって、わたしはグリフィンとの契約が――」

「――それなら、ついさっき書き換わりました」

 

 コリンはそう言うと、携帯端末を取り出してみせる。

 

 指揮命令者は、ロゼ・ローズ。

 いわく、B122所属Vectorにコリン・ハワーズの護衛任務を命じる。

 期間は無期限。コリンの希望によってのみ、解除可能。

 

「――は!?」

 あまりのことに、Vectorは目をしばたたかせた。

 

 思考回路で必死に演算を働かせて、出た結論に――

 彼女は驚きのあまりに、感情パラメータが千々に乱れた。

 

「あの……えっと……あなたが、言い出したの?」

 

「両親を説得して、ハワーズ一族の力をちょっとグリフィンの手助けに使う代わりに、交換条件として、Vectorさんの契約書き換えをお願いしたんです」

 

「ちょっと……なんで、そこまで」

「――あの夜のこと、おぼえてないんですか?」

 

 コリンが上目遣いで恨めしそうに見つめてくる。

 

 横で愉快そうに見ていたAA-12が、笑いをかみ殺しつつ訊ねた。

「坊や、そこのお姉さんは君に何をしたんだい?」

 

 問われた少年は、頬を染めつつ、しかし瞳を煌めかせて答えた。

「強くなりなさい、って言われて――何回もキスされました」

 

 それを聞いたAA-12が「あー」と声をあげる。

 何とも言えない顔でVectorを見つめると、咳払いして言った。

 

「うん、このお姉さんが悪い。そんなことされちゃ、募った想いに火がついてバーニングラブだ。諦めたほうがいいぞ。この子、マジで君を連れて行くつもりだ」

 

 ほかならぬ“友人”に言われて、乙女はまたしても目をしばたたかせた。

 少し顔をうつむけて、ぽつりとつぶやく。

 

「あたし、本当に愛想がないわよ」

「知ってます」

 

「あなたを見ると、ついからかってしまうわ」

「もう慣れっこです」

 

「色気だってあんまりないし」

「あの夜のお姉さんは、とっても素敵でした」

 

「きっと、いつか人形のあたしに飽きるわ」

「飽きないように、もっと素敵になれますよ」

 

 乙女の言葉に、少年は間髪入れずに応えてみせる。

 

 Vectorは、改めてコリンの顔をみた。

 

 オニキスの瞳はきらきらしていて。

 顔には愛嬌と憧憬と好意が満ちている。

 

 嗚呼――この顔を、もっと見たい。

 たぶん、彼が大きくなっても変わらないであろう表情。

 

 思えば、出会った時にもう定まっていたのだ。

 彼だけは――想いの虹をくぐれる“特別”なのだと。

 

「……本当に、あたしでいいの?」

「あなたじゃないと、ぼくはダメなんです」

 コリンは、きっぱりと言ってみせた。

 

 Vectorは――大きく息をついて、自分の手を握る彼の手を、もう片方の手でそっとくるんだ。それに、こつん、と額を当てて、乙女は言った。

 

「あなたなら、いい……連れて行って、コリン」

 

 その言葉を聞いて、少年は満面の笑みを浮かべた。

「ありがとう――ありがとう、Vectorさん!」

 

 少年が乙女に抱きつく。それを彼女は受け止め、抱きしめた。

 

 AA-12が、ぽんぽんと拍手をしてみせる。

 やんやと囃すように、彼女は言った。

 

「あとで子供ができたら教えてくれ。誕生日ごとにキャンディ贈るから」

 

「……で、できるわけない。そんなの」

「わかんないぞ? だって、最後の最後にこんなロマンスがある世の中だ」

 

 Vectorが戸惑ったような、不機嫌そうな顔を浮かべる。

 そんな彼女に、背伸びしたコリンが頬に口づけしてみせる。

 

 幸せの光景に――さらに拍手が鳴った。

 

 駆けつけてきた、戦術人形達。

 スプリングフィールドが。DSR-50が。B122の皆が。

 二人の門出を、祝福していた。

 

「――あの夜の思い出を、夢にしたくなかったんです」

 コリンが耳元でささやくのに、Vectorはささやき返した。

 

「本当に。後で後悔しても知らないんだから」

 

 そんな彼女に、少年はくすくすと笑ってみせた。

 

「そしたら、また涙をなめてください――すぐに懐きますよ」

 

 Vectorはため息をついた。

 安堵と、多幸感と、どこか諦めのまじった、切ない吐息。

 

 たぶん彼は、ずっと自分を離してくれないだろう、と思う。

 それは、妙に確信が持てる予測演算だった。

 


 

 十二年後。

 

 居住区外縁、イーストリム。

 民間治安会社〔ハワーズ・カンパニー〕の応接室。

 

「……それが、奥様とハワーズ氏の馴れ初めというわけですか」

 

 夫が公式のスポークスマンとして選んだルポライターが訊ねる。

 あたしは、軽くうなずいてみせた。

 

「ええ。ただ、コリンはまだ十歳でしかなかったし……色々なしがらみもあったから、正式に夫婦になったのは、彼が十八歳になってからだけど」

 

 ガラスのテーブルに、自分の顔が映る。

 あの時と同じ、愛想がないと感じる、自分の顔。

 

 なのに、会う人は決まってこう言うのだ。

 

 ――ハワーズの奥様の笑顔は、いつも本当に素晴らしい、と。

 お世辞にしては実感がこもった声で言うので、どうやらそうらしい。

 だとすると、その点では、あたしも少しは成長できたのだろうか。

 

「なるほどなるほど――じゃあ、今度はグリフィンを離れてからの……」

 ルポライターが言いかけたのを、穏やかなテノールの声がさえぎった。

 

「すまない。彼女はこれから僕と用事なんだ」

 

 褐色の肌。さらさらとした髪。愛敬はそのままに、精悍さを加えた顔立ち。

 背もずっと伸びて、もうあたしより高い。

 

 なのに、彼ときたら――

 

 わたしと話すときは、わざわざ片膝をひざまずいて、こちらを見上げるのだ。

 たった、それだけのことなのに、時間があの時に巻き戻ったように感じる。

 コリンにとって――あたしは、年上のお姉さんのままにしておきたいらしい。

 

 たとえ、妻となった後も。

 そして、養子を迎えて母となった後も。

 

「支度は済んでいますか? うちの事業組合が出資した病院の落成式だ。さすがに夫婦そろって出席しないと、マズいからね。Vector――ああ、いや、フローレンス」

 

 夫の言い間違えに、あたしはくすりと苦笑してみせた。

「家庭では構わないけど、公的な場では気をつけなさいよ」

 

 軽くたしなめると、コリンは肩をすくめて舌を出した。

 前よりも茶目気が出てきたのは、ローズ指揮官の影響だろう。

 

 少し生意気に感じなくもないけど――でも、そんな彼も好きなのには違いない。

 

 そのくせ、荒事となると、恐ろしく鋭くなる。

 良くも悪くも、あの時の経験が尾を引いているのだろう。

 

 でも――もし、それがなかったら、いまのあたしの日々はなかったのだ。

 

「じゃあ、取材はまた日を改めてください――行きましょう、コリン」

「うん、エスコートつかまりますよ、奥様」

 

 恭しく一礼する彼に、あたしは微笑んでみせた。

 

 嗚呼。また記憶のメモ帳がいっぱいになる。

 

 

 テキストでは足りず、“アルバム”になった、それ。

 あたしのメモリには、もう何十冊もしまわれている。

 

 デフラグしても、なお追いつかない、幸せの記憶。

 

 それは、彼と共に歩んできた昨日までの軌跡、そのもの。

 そして、きっと――明日も、その後も、続いていくだろう日々。

 

 でも、時々、不安になってしまう。

 こんなあたしに、彼はいつか飽きてしまうのではないだろうか。

 いまのメモリに幸せに感じれば感じるほど――

 

 いつか、失うのではないかという恐れがぬぐえない。

 


 

「ねえ……コリン」

「なんだい?」

 

「もし、あたしに飽きたら、その時は言ってくれていいのよ。そうしたら――」

「はは、またその話題ですか。君も本当に心配症ですね」

 

「ねえ、Vector。絶対になんてことはないからこそ――」

 訊ねるたびに彼の答えはいつも一緒だ。

 

「――お互いに想いの記憶を積み重ねていくんだと思います。人間も、人形も」

 

 彼が微笑む。

 レトリバーがお座りして尻尾を振るような、和やかな笑み。

 ああ……この人は本当に変わらない。

 

「二人きりの時間は楽しいでしょう? 親子で過ごす時間は刺激的でしょう?」

 

 

 そうだ、自分の裡に目を向ければいいのだ。

 デフラグしてなお残る、キラキラした日々のメモリ。

 彼に言葉をかけられるたび、ようやくそれを思い出す。

 

「――ごめんなさい。面倒な女でしょう?」

 

「……そうやって。またお日様みたいな目で見つめてくるんだものなあ」

 

「あら、気に入らない?」

「いいや。そのたびにどきどきしています――昔と同じく」

 

 彼の言葉に、あたしは微かにかぶりを振ってみせた。

 

 いいえ、コリン。

 初めて逢って、すぐに魅入られたのは――あたしも同じ。

 

 あの日、あの時、あの場所で。

 トランクを転がしてきた、仔犬みたいな坊や。

 

『……お姉さんの銀の髪と金の瞳がとてもきれいで』

 

 あたしも、あなたのオニキスの瞳をきれいだと思ったのよ。

 だから、勝った負けた、でいえば――たぶん、お互いに負けていたのね。

 

 

 

 

 

〔Ep.8 「B122の一番長い日 part.2」End〕

〔「仔犬指揮官はお姉さんが苦手です」 Main Story Complete.〕

 

〔Next.Ep―― Ex.1「スオミさんは心配が絶えません」〕




【作者から】

お読みくださった皆様、ありがとうございました。

いろいろ考えましたが、なんとかハッピーエンドに繋げられてなによりです。
執筆に当たりアドバイスをいただいた方、
ファンイラストで応援くださった方、
いつも見に来てくれる方、皆様に感謝です。

次回は番外編その一、「スオミさんは心配が絶えません」です。

本編の裏側をなぞる形で、L211指揮官のロロさんと副官のスオミ、
そして精鋭部隊〔指輪の乙女〕も巻き込んでの
コミカルなエピソードにしたいと思います。

もしかすると、一週間インターバルをいただくかもしれませんが……
どうぞ、お楽しみに!
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