アイドルマスターシャイニーカラーズ 短編集   作:むらくもさん

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Q:アイドルCとは何者か?
A:有栖川夏葉に似たシルエットをした、とんでもない歌唱力でWING優勝を掻っ攫っていく、顔のない女

まさかまさかのアイドルC。着想の元になったのはフライフェイス夏葉概念+仮面アイドル概念とかいう悪魔合体、マッスルドッキングであります。
でもこれくらいの水準と覚悟持ってるアイドルが決勝で待ち構えてると思うと熱くない?熱くない?そっか……(すん……)


不死鳥の歌は天上へと届くか(アイドルC)

――私の顔は醜い。

 

元々は整っている方だった、と記憶している。もう10年は元の顔を写真でも見ていないので……記憶の中ですら自分の顔が朧げなのは仕方のない事なんだろう。

 

鏡に映る「私」は、頬骨から上が醜く焼け爛れケロイド状になった皮膚がどうしても目に付く、疵面だった。

 

12歳の時、放火された自宅で逃げ遅れた結果、家族を喪って生き延びた私が負った傷……顔だけではない。私の体には大小合わせて14もの火傷痕が残っている。

 

幸い日常生活に支障はないが激しい運動は出来ず、さらにその見た目故に常に肌を見せない服装を強いられるというのは、夏が与えるストレス以外ではこれと言った問題はない。ただ、顔だけは別なのだ。隠そうとすればするほどおかしくなってしまう。

 

本当はこんなもの見たくはない。私とて女だ。かの様に醜い様へと成り果てた自分の顔を見るのはきっと死ぬより辛いことに違いない。まして顔も、身体も醜く焼け爛れた私はきっと女として終わっている存在なのだろう。

 

それでもそんな「私」を私が直視していられるのは……この顔が、この身体こそが。自分だけならば何とか逃げ切れたであろう兄が命を賭して、自分の命と引き換えに私の命だけはと救い出してくれたことの証明であり、私の価値は最早顔や身体にはないことを知っていればこそだった。

 

――私には歌がある。

 

元々、奇麗な声をしているとよく言われる子だった。

 

両親が、兄が、友人が、教師がこぞって褒めてくれた声は、歌は炎によって奪われることはなく、未だ私の喉に、口に宿っていた。

 

加えて私の顔も、どうにか口元だけは奇麗なままだった。首元に火傷の痕は……ファンデーションで誤魔化しても良いし、いっそ誤魔化さずとも良いかと思えた。女として死んでいるならば、ただ歌を歌い聴いてもらうだけの存在であるならば見た目などどうでもいいだろう。

 

半ば捨て鉢にも似た決意の中、私が歌手を志したのは、必然だったのかもしれない。

 

それからの私は必死に学生生活を乗り越えてきた。家族はすでにおらず、親戚は引き取りたがらなかったので施設から通っていた。

 

その見た目、その境遇からあらゆる同情とやっかみを受けながらも私は悔しさに歯を食いしばりその口から怨嗟の声を漏らすことなく、この世の理不尽に対する怒りに目を血走らせながらも泣く事はなく、ただひたすらに生きてきた。

 

高校まで卒業した後は、それまで6年間を過ごしてきた施設に別れを告げ、上京して自分でもできるアルバイトを何とか見つけ、資金繰りに四苦八苦しながらボイストレーニングを受けてきた。

 

オーディションへは参加できることも稀だった。まず書類審査で落とされる。理由は分かっていた、全身にやけどを負い、顔にまで至っている女は芸能界に相応しくない――それが芸能界への門から突き付けられた答えだった。

 

それでも必死にあらゆるオーディションに応募した、時には参加できることもあった。自分の姿に理解さえ示してくれ、参加さえできれば自分の実力で合格はできるという自負はあった。

 

だが、参加したオーディションで言われたのは「実際に見てみると想像以上だった」であった。その夜は流石に枕を濡らし、発狂するかと思うほどの怒りに身を焦がし、あわや自らの自慢の喉を潰すことさえ考えた。

 

それを思いとどまったのは私自身の要因によるものではなく、絶望のあまり意識が闇へと落ちるその刹那に、兄の姿が目に映ったような気がしたからだった。

 

――あの夜、最後に見た兄の姿はあの炎の中と同じであり、大火傷を負った自分の身を顧みず私を懸命に救おうと足掻いていた時の姿だった。

 

今しがた見たのはそれと全く同じ。

 

なればこそ、悟る。私は自らの激情の炎によって危うく自らを再度焼き殺すところであったと。

 

それを再度救ってくれた兄に、心からの感謝を。そして自らには誓いを。

 

『絶対に諦めない、この世のあらゆる困難に打ち勝つまで。』

 

そうしてそれまで以上に貪欲にあらゆるオーディションへ応募する最中、「売り方はある程度考えさせてもらうが、君は頂点を狙える歌がある」とようやく私の歌を、他のすべてを度外視してでも買ってくれたプロダクションが現れ。私はそこに所属することを決めた。

 

――私には偶像の資格などない。

 

ようやく入ることができた芸能事務所で、ひたすらにボーカルレッスンを受ける毎日。他の所属タレントやスタッフが自分の容姿に慣れてくれてそれなりの交流を持てた頃、私は担当となったプロデューサーに呼び出された。

 

そこで教えられた私の活動方針は、当初予定されていた「歌手」ではなく「アイドル」であった。

 

頭をガツン、と殴られたような気分であった。目の前で星が飛ぶ。鼻の奥がツンとしている。

 

率直に言おう。最初に感じたのは「騙されている」という理不尽感であった。

 

私の容姿を見ていてアイドルだなんて方針が飛び出すはずは絶対にない。アイドルと言えば歌手と共通する部分はもちろんある。歌だけならば少なくともそこらのアイドルに負ける気など毛頭ない。それだけの自負が私にはあった。

 

だがアイドルはそれだけでなるものではないのが常識だ。身体を軽快に動かすダンス、恵まれたビジュアル……そのどちらも私は炎によって奪われているのだから。

 

偶像になれないものが偶像になろうとすれば、成ってしまうのは晒し者。醜い見世物として――

 

そんなあらゆる負の感情がないまぜになった絶望の中、私は

 

「……私がアイドルになるとして、どうすれば?」

 

――それでも膝は折らなかった。あの時の誓いだけが自分を保っていた。

 

この道を選んだのは私で。この道を続けると決めたのも私で。だから、アイドルになれというのならば自分にできる範囲を超えてでもアイドルになってやろうという言語化できない思いが胸中から生まれ、身体を駆け巡り、口をついて出ていた。

 

改めて向き直ったプロデューサーの表情は真剣であり、先ほど邪推したような質の悪い冗談ではないことを物語っている。

 

そして短い付き合いながらも、彼がそう言うということは予めプロダクションの中で私をアイドルにするという計画は提案され、承認されているに違いなかった。

 

プロダクションの皆が私をアイドルにしようとしてくれている。こんな醜い『私』がアイドルになれるという確信を持って動いてくれているならば、他ならぬ私がそれを否定してどうするというのか。

 

『君の傷なんてものはハンデにもならないさ――君のその歌と、その内面全てでファンを魅了できるアイドルにして見せる。一緒に頂点を目指そう!』

 

「わかりました。私は、私の歌の力で頂点を取って見せます!」

 

その言葉に、胸に炎が燻った。

 

実際楽しみになれたのだ。アイドルという歌・踊・美の三種目が試される世界で、歌だけの私がどこまで行けるか、本当に頂点を取れるのかが。

 

その為ならば、できることを惜しまずにいこう。例え醜い姿であったとしても、歌と心だけは醜くないよう誠実に、正直に、貪欲に、情熱的に!

 

――私は仮面を被った。

 

私をアイドルとして売り出す上で、議題にまず上がったのは火傷をどうするかだ。

 

グラビア等はそもそも受けなければいい、ということにして、それでもライブやオーディション、インタビューなど顔だけは見せなければならない場面は山ほど存在する。

 

それに対して私が出した答えは、「だったら最初から火傷のことは詳らかにしてしまった上で、とても世にお見せできない目元の部分は仮面で隠してしまえば良い」だった。

 

『炎によって顔を含む全てを喪い、灰の中から舞い戻ってきた仮面の歌姫』

 

それが私のアイドルとしての基本方針として決まったのは、それからすぐの事だった。

 

そうして私はアイドルとしては異色の、顔を隠しダンスもせず肌も見せない、歌だけのアイドルとしてデビュー。

 

最初に向けられたのは好奇の目が9割、といったところか。当然であろう。アイドルという見た目も重要な世界において突然現れた、見せる肌は口元、そして生まれついての赤みがかった茶髪だけ、あとは肌を一切見せぬ衣装に身を隠し、極めつけは目元を覆う仮面のアイドルなぞ、異質もいい所なのだから。

 

それでもラジオやトークショー、それこそ本懐でもあった歌をメインにした番組のオーディションを中心に受けていくことで、その異質さに見合わぬ歌声がファンを魅了してやまない、と徐々にファンを増やしていった。

 

――知名度がさほどでもない当初、インタビューやトークショーなどで、本当に仮面の下は火傷か?など聞かれる機会は山ほどあった。

 

私はそれに対し素直に過去のことを話した。雑誌のインタビュー等で必要ならお見せします、と仮面を取ったことさえあった。もちろん写真を撮ることは禁止したが、全てを喪ったことや醜い顔をしていることを最早後悔しないと決め、隠そうともせず。ただ誠実に堂々と生きようと決めていた。

 

それに対する反応は様々であり、本当に醜い顔であったと語る心無い週刊誌。仮面の下は火傷などなかったと法螺を吹きイメージダウンを図るゴシップ紙。過去の火事の事件記事まで見つけて来た上で、全面的に支持し応援していきたいと語ってくれたネットニュース。

 

顔も醜く、踊れもしないアイドルとしては欠陥品のランクC。そんな私が歌うたびに、世は私を次第に評価し、移ろい、こんな私に染まっていく。

 

……そう。私に対して、本当に様々な反応があった。

 

私の過去の境遇、現在の容姿に同情してくれる声。

 

私の歌に「元気が出た」と応援してくれた声。

 

絶対に頂点を取ってくださいと鼓舞する声。

 

醜女の癖に生意気な、という妬みの声。

 

どうせ頂点など取れない、という嘲りの声。

 

私はその全てを受け入れ、歌い続けた。好意的な意見には私の歌で感謝を届け続け、悪意的な意見は私の歌で黙らせ続けた。

 

他のアイドルの追随を許さぬほどの歌唱力。激しい踊りはどうしても無理だが、アイドルになってから更に行ったリハビリで控えめな振り付けならば出来るようになり、容姿に関してもそのビジュアルは妖しい貴婦人を連想させミステリアスな美しさを醸し出していた。

 

そうして私は気が付けば、アイドルの祭典――W.I.N.G.への参戦が決定していた。

 

その頃には周囲の私自身への評価も高くなり、見せたことはなくとも皆が知っている私の醜い素顔も含めて、あらゆる人が私のファンとなってくれていた。

 

曰く、彼女ならば頂点を取れる

 

曰く、稀代の歌姫

 

曰く、―――炎の中から舞い戻った不死鳥

 

W.I.N.G.準決勝を難なく突破し、いよいよ控えた決勝前の舞台裏。

 

一応決勝前の周囲の反応を、と携帯で確認していた所、そんな一文を見つけてしまい。唯一晒している唇が笑みの形を作り出した。

 

「不死鳥。――不死鳥か、私は兄さんから貰った命を、後悔のないように燃やし尽くしてただけなんだけどなぁ」

 

ふと出た呟きは決勝前の喧騒に呑まれ、誰に聞かれるでもなく消えて――

 

「始まりはお兄さんの命でも、今はお前の命だろう?」

 

「……プロデューサー」

 

――行くことはなく、いつの間にやら近くに来ていたプロデューサーに拾われてしまった。ちょっとだけ恥ずかしかった。

 

「良いんじゃないか、不死鳥ってのは。お前が火事になったこと、全てを喪ったこと、そしてそこからここまで来たこと。その全てを統括したファンからの最大の賛辞なんだからさ」

 

「そうかしら……まぁ、腑に落ちるような落ちないような気分だけど、今は時間がないしそういうことにしておくわ。――プロデューサー」

 

「ん?」

 

「決勝の舞台……行ってくるわ」

 

「おう。思う存分歌ってこい!」

 

必要なやり取りは全て終えた。あとは意識を切り替え、念願の決勝の舞台で、その先を掴み取るために私は歌う。

 

全てを喪い、歌しかなかった私にも、今ではこんなにも多くの人が、物が、感情が背を押してくれている。

 

それを証明し、翼に変えるために。

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