アイドルマスターシャイニーカラーズ 短編集 作:むらくもさん
潮風はそのどちらもせず、ただ言葉を乗せて飛んでいく。
某所でのワンドロ参加作品です。お題「渚」「透き通った」
「こうですかー?」
波が規則正しく、寄せては返す。少し強めに、涼しげな潮風が吹く。真夏の陽光が照らすそんな渚に、アタシは立っていた。
「良いわ良いわー樹里ちゃん自然で良い表情!3番のポーズはこれで終わりで、次は4番のポーズをとびっきりの笑顔で撮りましょう!」
「はい!」
海岸での水着ピンナップの撮影。肌を晒し、予めポーズ集で記憶し練習したポーズを取って。アイドルらしくアタシらしく、快活そうに笑ってみせる。
最初は無理やり笑顔を作るのなんて、と中々難儀した表情づくりも今ではもう慣れたもの。
『どうやったらこういう自然な笑顔を作れるのか?』と聞かれても、イマイチ理屈なんてねーよと答えてはいるが。
(……実際のところ、簡単に笑顔になれる秘訣はあるんだよなぁ。恥ずかしくってとても言えたもんじゃねーけどさ……)
アタシは視界の奥、忙しなくポジションを変えてカメラを向けるカメラマン、その周囲に立つ撮影スタッフの中に、こちらを見ている――見てくれている彼の姿を捉える。
たったそれだけのことで、笑みはより深く、自然なものとなっていく。肌が、顔がじんわりと熱くなっていくのは夏の日差しが強いからだと、自分自身に言い訳をして。今は、目の前のカメラに自然体の自分を届けることに集中する。
「……はいっオッケー!時間も正午を回ったことだし、お昼休憩を取りましょうか!午後も撮影したいから、樹里ちゃんも13時には撮影できる状態でお願いね!」
「わかりました、午後もよろしくお願いします!」
カメラマンや撮影スタッフの人たちに軽く挨拶しつつ、その先に待つ彼の元へ向かう。ほんの少し疲れた気がするのは、陽光に照らされていたせいか緊張していたか、あるいはその両方だろうか。
「お疲れ樹里、暑かったろ?ほら、水だ」
「ありがとプロデューサー、暑いのはまぁしょうがねーよな、もう夏なんだしさ……ん」
受け取ったボトルの蓋を開け、中の水をぐいと煽る。キンキンとはいかず程々に冷えた水。一気に飲むことに抵抗がない程度に冷えた水は、それでも熱く火照ったアタシの喉を通り、身体から熱を取ってくれる気がした。
「……ぷぁ。あー美味ぇ…こうやって太陽の下で仕事してから飲む水って、ほんっと美味しいよなぁ」
「はは、それは分からなくもないかなぁ。俺もこの季節になると仕事帰りのビールが美味いのなんのって」
「おいおい、一緒にすんなって……いや、一緒か。アタシもこうして頑張ってるし、プロデューサーも頑張ってるもんな!」
「そりゃあそうさ。驕る気はないけど、俺と樹里の双方が頑張ってこそ仕事ってのは上手くいくんだからな」
「あはは、違いない」
「さぁ、俺たちも昼食にしよう。仕出しの弁当貰ってくるからちょっと待っててくれ」
他愛のない話をし、その場を離れていく彼を見ながら、もう一口水を飲んで。残りが半分になったボトルを何気なく眼前に持っていく。
ボトルの中、透き通った水の先に見える彼の姿。光は屈折し、ぐにゃりと歪んだ彼の背中がなんだかおかしくて。
傾きを変えてみれば、水を通した世界は太陽の光を違った風に捉えてキラキラと輝いて。
「……あははっ」
それに対して感じたアタシの気持ちはなんだったか。分からぬままに漏れた笑い声は、潮風に乗って消えて行った。