アイドルマスターシャイニーカラーズ 短編集 作:むらくもさん
ラブレターの日遅刻文書書いてたらキスの日も回収してました。
※摩美々の誕生日に書いてます。
「――プロデューサーさまは、過去に頂いたことが……?」
土曜日の朝。今日は学校も仕事もないので事務所に顔を出して、それから街をぶらりと歩いて遊ぼうかなーなんて考えていると、なにやら話し声が。
「んー、どうだろうな。高校生の頃、一回だけ貰ったことあるんだけどさ。よく知らない子だったからお友達からってことで曖昧に返事しちゃって」
「それで?どーなったっすか?」
「どうもならなかったよ。一回デート未満の遊びに行って、向こうも冷めちゃったのかそれっきり」
声のした方へと近づいてみると、話していたのはプロデューサーと、凛世と、あさひだった。
「おはよーございまーす。あんまり見ない組み合わせで、何の話ですかー?」
「ん、おお摩美々か。おはようさん」
「摩美々さん、おはようございます」
「おはようっす摩美々ちゃん!今日はラブレターの日、らしいっすよ!」
「ラブレター……?」
いきなりラブレターの日、なんて言われて小首を傾げてしまう。そんな記念日あっただろうか……?
「恋文、の事でございます」
「ラブレター」の意味が分からないと取ったか、凛世が言い直してくる。いやそっちは分かるんだけどと返そうとして、脳裏にひらめきが走ったのを感じた。
「あー。なるほどー?五、二、三でこふみ、恋文。語呂合わせかー」
「どうもそうらしい。俺もあさひも、凛世に教えてもらうまで云々唸ってなんでか考えてたのに、よくわかったな」
「摩美々ちゃんすごいっすー!」
「ふふー、そんなに褒めても何も出ませんよー。で、なんでそんな話になったのー?」
「あぁ、それはな」
話を聞くに、最初はあさひが「昨日学校で聞いたけどなんでラブレターの日なのかわからない」と朝一で事務所に駆け込んできてプロデューサーに質問。
プロデューサーも由来が分からず、二人してあーでもないこーでもないと盛り上がっていたところに、仕事の予定が入っていた凛世がやってきて、由来を説明し合点が行った、ということだった。
「でもそれってー、あさひかプロデューサーがネットで検索すればすぐ出て来たんじゃないですかー?」
「むー、摩美々ちゃん、それじゃだめなんすよ!わからないことはなるべく考える!そっちのほうが絶対面白いっす!」
「そんなもんかなー?」
それは、そんなに時間を掛けて悩むことだったんだろうか?面倒くさがりやな私には、どうにも分からなかった。
「そういえばー、凛世のお仕事はいいんですかー?午前中には出るってさっき言ってましたけどー」
「ふふ、そろそろ出る時間、でございます」
凛世のその言葉に、プロデューサーは時計を確認して立ち上がる。空いたソファに、私はすかさず座り込んだ。先ほどまで人が座っていた温もりを感じ、口元が緩む。
「あぁ、そろそろだな……じゃあ、摩美々にあさひ。俺たち出るから、最後にここ出るならカギは閉めてくれよ。今日ははづきさんも社長も来ないから、他に誰も来なきゃ無人になっちまう」
「了解っすー!あたしもこの後冬優子ちゃんの用事が終わったら一緒にお昼ご飯食べに行くからそんなに長居しないっす!」
「私もしばらくくつろいだら帰りますからー。いってらっしゃーい」
そうしてプロデューサーと凛世が出て行ったのを見送り、そういえばとあさひの方を見る。
「そういえばー、さっきの話、私来たときはプロデューサーがどうのって言ってなかった?」
「ん?あー、摩美々ちゃんが来る前は、ラブレターの日がなんでなのか分かって……そうっす、凛世ちゃんがプロデューサーさんに『ラブレターを貰ったことはあるか』って聞いたんすよ!それで、一回だけ貰ったって話を……」
そこまで話すあさひの手元で、携帯が鳴る。私にも覚えがある、チャットアプリの通知音だった。
「あ!冬優子ちゃんの用事終わったみたいっす!私そろそろ出るっすけど、摩美々ちゃん一緒にご飯行かないっすか?」
「あー、私は良いかなー。朝ごはんちょっと遅めにとったから、まだお腹空いてないしー。いきなり付いて行っても、冬優子さんもびっくりしちゃうからー」
「そっすかー。じゃあ、また今度行こうっすー!」
手を大きく振って事務所の扉の外へと消えて行ったあさひを尻目に、小さく手を振って答えた後。
無人の事務所、ソファにごろんと横になり何かを考えていた。何を考えているのかすら自分でもわからなくて。
ただ頭の中で、一つの単語だけが無駄なくらいにリフレインしていた。
「……ラブレター、かぁ……ふふー。良いこと、思いついちゃった」
よし、と小さく声を上げてソファから起き上がる。今の思い付きを成就すべく、事務所の鍵を閉めて街へと繰り出した。
必要な物を買い揃えようとして。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「――あれ?摩美々、お前帰ってなかったのか?」
夕方。街で買った雑誌を事務所のソファで読んでいると、プロデューサーが戻って来た。
「あーおかえりなさーい。ふふー、お昼に一回街に行ったけどー、戻ってきたプロデューサーが一人だとかわいそうなので、戻ってきちゃいましたー」
「そうか……なんか、気を使わせちゃったみたいだな」
「気にしなくていいですよー。まみみはぁ、明日もお休みですからー」
「それでもありがとうな――ん?」
笑顔で自分のデスクへと着席したプロデューサーの視線が、机の上に置かれた封筒に注がれる。
ピンク色の便せんに、ハートマークのシール。可愛らしい意匠が施されたそれは
「あー、それですかー?私が戻って来た時にはもう置いてあって-。気になってましたけど、プロデューサー宛みたいだったのでそのままにしておきましたー。誰かからのラブレターじゃないんですかー?」
「ラブレター!?誰から!?」
「そんなの、まみみにもわかりませんよー。開けてみればわかるんじゃないですかー?」
私の言葉に、プロデューサーは緊張した面持ちで封筒をゆっくりと開けていく。
そうして出てきた便せん。二つ折りにされたそれを広げてみれば……
「『―――いたずらですよー。』」
中に書いてあった一文を、そっくり口に出して読んであげると。プロデューサーは目に見えるくらいに肩を落とし、ため息を付いた。
「……まみみぃ」
「ふふー、大成功です。」
「……お前、俺のこの反応見たさに態々戻って来たんだな……なんて無駄な……」
「まみみは悪い子なのでー、プロデューサーをからかう為ならえんやこらー」
「分かってはいたんだけどなぁ……」という呟きと、どこか本気でしょげているような姿が面白くて。
「はぁ。なんか、今のでどっと疲れたな……」
未だ座りっぱなしで突っ伏している彼に近づき、机の上の封筒を手に取り。
「でもこの封筒、1枚の紙を折りたたんで作る奴でしてー。実はー、この中にもお手紙を書いてるんですよー」
「へ、そうなのか?どれどれ――っ!?」
私のその言葉に、顔を上げたプロデューサーの唇に、自分の唇をそっと重ねる。
時間にして数秒、触れ合うだけの単調なキス。だがそれは、彼の思考を奪い去るには十分な衝撃で。
放心した彼を尻目に、そっと事務所の出口へ歩く。
「……あ。そっちの手紙はー、家に帰ってから一人で読んでくださいねー」
「書き出しの一文だけは、もう伝えましたからー。じゃあ、まみみ帰りまーす」
事務所を出て、夕焼け目掛けて歩き出す。家に帰るにはちょっと方向がずれているけど、今はこっちの方向へと歩きたかった。
「……ふふ」
でないと、真っ赤になった顔を誤魔化せそうもなかったから。