図書館の方でパチュリー様の用件を済ませた私は、やらなければいけないことの一つである洗濯に取り掛かった。
一般的に洗濯とは1日に一回行うものである、そう一般的に言えば。しかしここ紅魔館ではあまり一般論は通用しない、先ず圧倒的にしなくてはいけない洗濯物の量が多いのである。それこそレミリアお嬢様から始まりパチュリー様、美鈴、小悪魔、ひいては妖精メイドの分までやらなくてはならないのである。これだけの量があると洗濯だけで1日の大半が終わってしまう。一応何人かの妖精メイドに手伝って貰っているのだが正直なところ、私一人の方が多分早い。確かに妖精メイド達もとても丁寧に仕事をしてくれているのだが、いかんせん速さが足りない。ちなみにどれ位の速さかというと、私が5枚洗い終える頃にようやく一枚終わるぐらいである。まぁこんなところで愚痴ばかり言っていても洗濯物が減る訳では無いので私もそろそろ洗濯に取り掛かる事にしよう。
取り敢えず手が荒れないようにするために自分の手の時間を止める。
別段私自身は自分の手が荒れようが仕事に支障がでなければ気にはしない。だが以前手の荒れている状態でお嬢様のお世話をしていたところお嬢様は私の手を見てこう言ったのだ。
「咲夜、お前手が荒れているじゃないか」
「あら、本当ですわ、ですがお嬢様、まだ仕事の方には支障が出ていないので気にすることではないかと」
「ダメだ咲夜、もし客人がお前の手を見たらどうする。お前はこの紅魔館自慢のメイドなのだ、そういう細かい所まで意識を向ける様に心掛けろ」
「かしこまりましたお嬢様」
あの時のお嬢様の格好良さと言ったらもうそれは言葉にできないほどのものだった。一従者である私の事まで気を使っていただけるなんて本当にお嬢様は器の広い御方だ。
この時から私は美容にも力を入れるようになった。と言っても私の能力さえあれば常に最善の状態を保つことができるのだが、一応きちんとした睡眠時間はとるようにしているし、食事もバランスよく毎日3食しっかりととっている。そのお陰もあってか、私の手はこれ以降荒れることもなくなり、お嬢様もこのことについて満足していた。
そうこうしているうちにお洗濯物の山が半分程なくなっていた。
ここまでくればもう私以外の妖精メイドだけで何とかなる、多少終わったあとの質に差はあるものの、充分満足出来るものなので私はリーダー格のメイド妖精に後は任せたと伝えその場を後にした。
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洗濯が終わった後も私は特に休むこともなく与えられた仕事をこなしていた。掃除、サボっているであろう門番の監視、料理の準備など別段変わったことはしていない、ただ変わった所を挙げるとするならば先ほどの食事の時の雰囲気がお嬢様を中心に少しだけ悪くなっていたことだけだ、多分この後に控えている集まりのことで何か悩んでいることがあるのだろうと私は勝手に納得してしまった。
そして今はお嬢様が指定した集合時間のおよそ一時間程前、私は今しがたやることが終わってしまい自室のベットでぼんやりと天井を見上げている。紅いという一点を除けば別段普通と何ら代わり映えのしないものである。ずっと眺めていると吸い込まれていってしまいそう、そんな気がふとした。不意にどこか心が孤独を感じてしまいじくじくと痛んだ、そんな気持ちを抑えるためか私はベットから立ち上がり部屋に取り付けられた小さな窓を開けて館の外を眺める事にした。
心地よい夜風が頬を撫でる、辺りは既に真っ暗で一寸先も見えないほどである、私はポケットから動かなくなった懐中時計を取り出し、月光に照らしてみた、すると月光と懐中時計の銀が相まってか、淡く藍色に光っているような気がした。私はそっと懐中時計をポケットに戻して目を閉じた。刹那の時、遥か遠い昔に親から注いで貰った愛情が蘇る。未だに親の虚像に縋る私の心の弱さに吐き気を催すのと同時に先程まで胸いっぱいだった寂しさが少しだけ和らいだ気がした。
時計に目を戻すとあれから45分程経過していた。
慌てて身だしなみを整えて、お嬢様が集合場所に指定した大広間に向かった。
何故かこの時廊下から見上げた痩せこけた月は何処か哀しく嗤っていた。