三羽の鶴は二度、羽ばたかない。   作:小池蒼司

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世界は残酷だって、そう思うだろう?


first.坂堂芹奈

ーー例えば、三年ぶりに自分の故郷……基、住んでいた街に戻ってきた時に自動販売機が宙に舞っていたとして。

それを受け止めることが出来たなら、私は三年前のあの日の喧嘩を止めることが出来ただろうし。

 

ーー例えば、ロシア人が寿司屋の客引きをしていたとして、それがただの日本人ならありふれたごく普通の寿司屋になっていて、なんの面白みもなかっただろうし、きっと私も興味を引かれてその寿司屋に入ることはなかっただろう。

 

ーー例えば、首無しライダーが公道を走っていて怪しげな箱を抱えていたとしても、それが自分になんの影響も与えなければそれまでの話だ。

 

 

 

 

ただ一つ、それら全てが私の人生を狂わせてしまうようなら

 

 

 

 

「この先の事は保証できないな」

 

 

 

 

 

 

私、桜庭三鶴(さくらばみつる)は二十歳になると同時に池袋を出て、福岡の博多で働いていた。

職業は殺し屋。実は両親も殺し屋をやっていて、私は幼い頃からその教育を受けて育った。

 

まぁ、その両親も私が高校一年生の頃に死んでしまったけれど。

 

 

そんなこんなである日突然、博多の勤め先が襲われ、あっという間に無職になった。

私は昔から運動神経はいい方だったし、殺しの腕だっていい。自分で言うのはあれだが、そこそこ、この業界で名は知れていたし。

 

だから、例え突然無職になったとしても、仕事なんざ探せばいくらでもあるだろう。

ーーだけどそれは甘い考えだった。

 

いざ博多から出てみると私を雇ってくれる所はなく、私には貯金(微々たるもの)しか残っていなかった。

 

行く先もなく、住んでいた家も追い出された私は池袋に帰ることにした。

 

 

 

そうして、三年ぶりに帰ってきた池袋は色々変わっていて、懐かしさと同時にこれから先の不安が込み上げた。

 

(殺し屋がこんなことで不安がってどうする。何に不安を感じてるんだ私は)

 

 

暫く駅の中で立ち尽くした後、ハッとして携帯で妹に迎えに来てほしいと連絡をいれた。

別に、帰り方が分からないとか、そういうんじゃない。

 

 

"まさか今池袋にいるの?"

 

返事はすぐに返ってきた。

そういえば私は誰にも言わずここへ来たな。今更だが連絡を怠ったことに反省した。

妹は色々言いたいことはあるが、とりあえずそちらへ向かうと再びメッセージを飛ばし、私は妹の到着を待つことにした。

 

 

「……遅いな」

 

 

いつまで待機しているだろうか。

私の目の前をもう軽く百人は通り過ぎていった気がする。

もしや妹に何かあったのでは。しかし私の妹も殺し屋にこそならなかったが、それなりに身を守る術は身につけているはず。

 

とにかく、いつまでも駅の中にいるのはダメだ。東口の方から外へ出よう。私はメールが来ていないことを確認し、歩みを進めた。

 

 

 

 

 

 

 

「あっ」

「わっ!」

 

東口の階段を登ってすぐ、よそ見をしていた私は見知らぬ少年とぶつかってしまいバランスを崩す。

何とか近くの壁に手をついて転ぶことは免れた。

 

「す、すいません!」

 

勢いよく頭を下げた少年に私は微笑んで大丈夫だと伝えるとほっとしたのか少年も笑みを見せた。

 

 

「すぅー……はぁ……」

 

程なくして、私は駅を出て外の空気をめいっぱい吸った。

久々の池袋の空気はやっぱり好きじゃない……

だけど、安心する。

 

あぁ、私は戻ってきたんだ。この場所に。

ーー季節は春。まだ暖かい空気が私を包んだ。

 

「お姉ちゃん」

 

東口を出てすぐ、目の前の道路に1台の車が止まった。助手席の車窓から顔を出して手を振るのは私の妹、桜庭二奈(さくらばにいな)である。

 

二奈は昔と変わらない笑顔を浮かべ私を迎えた。運転席にいるのはーー知らない。見たこともないような男性だ。

 

「遅いから何かあったのかと」

「ごめんごめん、店がちょっと混んでてさ!もう、帰ってくるならちゃんと言ってくれれば準備したのに」

「それは、ごめん」

 

乗って、と言われ私は後部座席に乗り込んだ。

ドアを閉めるなり発進した車に身を任せ、私は運転席にいる男性に「ありがとうございます」と声をかける。

 

「お姉ちゃん、紹介するね。こちら私のお店で働いてくれている笹木さん。訳あって住み込みで働いてるの」

「笹木です、よろしくお願いします」

 

ミラーから見えた笹木さんの顔は優しそうなお兄さんと言ったところか。悪い人では無さそうだ。

 

「こちらこそ……。ねぇ二奈、さっきから店って言ってるけどなんの店なの?働いてる職場のこと?」

「そうだよ。あれ、言ってなかったっけ。私今ラーメン屋さんの店主してるの」

「ら、らららラーメン屋!?」

 

桜庭二奈、22歳。私の一つ年下で、三年前私が池袋を出るまでは死体処理の仕事をしていた。

そんな彼女がいつの間にかラーメン屋の店主をしているなど、驚いた。非常に驚いた。

 

「昔から食に関してはこだわりが強いとは思っていたけど、まさかラーメンとは」

「ラーメンの魅力は私を虜にしたの……!」

「そう…、そういえば、笹木さんは住み込みで働いてるって言ってたけど、二奈はどこに住んでるの?」

「お姉ちゃんが家を出て行ったあとすぐにラーメン屋を経営し始めたから、そのまま店の近くに家を構えたよ」

 

私は池袋を出てからは一切誰とも連絡を取らなかった。こちらが向こうの事情を知らないように、彼女達もこちらの事を知らない。

少なくとも今何をしているかとかくらいは連絡しておけば良かった。

 

なんだか置いていかれた気がして少し寂しい。

 

「それより、お姉ちゃんどうしてこっちに帰ってきたの?お仕事は?」

「……会社が潰れて、無職になった」

「ふーん?それは大変そうだね。それでどうするの、その仕事もうやめるのかな」

「私はそのつもり。もうこれからは普通の女の子になって普通に暮らす」

「なら、うちの店で働きなよ!」

「ラーメン屋?」

 

うん、と助手席から後ろを向き笑顔を見せた二奈と、その様子に微笑ましく笑う笹木さん。

池袋で殺し屋を続けるのも悪くはなかったが、私はもう誰かを殺して生きていくなんてやめたいとも思っていた。

 

「衣食住は保証するし、うちの店、訳アリの従業員多いから身の安全だって保証するよ」

「……その話、乗った」

 

私にとって悪い話じゃなかった。

二奈は信用できるし、このまま行く宛てもなく彷徨うのも辛い。

 

「これから、よろしくお願いしますね、姉御」

 

車が右に曲がって、身体が揺れる。

運転席の彼は相変わらずニコニコした顔でそう言った。

 

 

 

 

数分後、辿り着いた二奈の店『古今東西』にて、私は今の戸籍である『坂堂芹奈(ばんどうせりな)』としてラーメン屋で働く事となった。

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