三羽の鶴は二度、羽ばたかない。   作:小池蒼司

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8.後日談

 

 

ーー翌日、新羅の家にて。

 

 セルティから一連の事情を聞いた三鶴は、あまりの展開についていけず、「ほげー」と間の抜けた声を漏らしていた。

 

「うんうん、まあ、それも愛ってことで」

『話を聞いていたか?』

「聞いてたけど、もう解決したんでしょ? 私なんて、ちょっと巻き込まれただけで被害は受けてないからさぁ」

『お前はもっと友人を心配したりできないのか』

 

 三鶴は慌てて身体を起こした。

 

「してるよ! めっちゃしてる!……でも、新羅の気持ちも分かっちゃうから」

 

 そう言って、セルティの手元へ目を落とす。

 

「私も、セルティが首を見つけたら、いなくなっちゃうかもって思ったことあるよ。だから、新羅派かな」

『……三鶴』

 

 画面に表示された自分の名前を見て、三鶴は少し笑った。

 

「三年も留守にしてた私が言うのも、あれだけどね。帰ってきた時、セルティがいてくれて嬉しかったんだよ」

 

 セルティの指が止まる。

 三鶴はその肩へ、軽く自分の肩を寄せた。

 

「だから、新羅が黙ってたのを怒るのは分かるけど、いなくなってほしくなかった気持ちは分かるって話」

『それとこれとは別だ』

「うん。それはそう」

 

 今度は素直に頷くと、セルティは三鶴の肩を小突いた。

 

『三鶴、ありがとう』

 

 差し出された画面を見て、三鶴は少し目を丸くした。

 それから、照れくさそうに笑う。

 

「……どういたしまして?」

 

 セルティの肩に寄せていた身体を離し、ソファに座り直した。

 

「でも、首を探すのは応援してるからね。セルティが見つけたいなら、私も手伝う」

 

 セルティが頷く。

 三鶴はそれを見て、いつもの軽い調子に戻った。

 

「で、見つかっても、たまには一緒にご飯食べてくれればいいかな」

『私は食べられないだろう』

「そこはほら、首が食べるかもしんないし?それか私が食べるの見ててよ」

『それは今もやっている』

 

「あ、そっか」

 

 三鶴が笑うと、セルティも小さく肩を揺らした。

 

セルティと並んで、他愛のない話をする。

 こんな時間が、この先も続けばいい。

 

 三鶴は、そう思っていた。

 

 ――けれど、穏やかな日々は長くは続かなかった。

 

 池袋へ戻ってきた宿命か、はたまた誰かの仕業か。

 

 再び大きな事件が、彼女の日常へと入り込もうとしていた。

 

 

△▽

 

△▽

 

「っ……こんなことしなくても、素直に聞けば教えてあげたのに」

 

 一方、開店前の古今東西では、二奈が腕を押さえていた。

 指の隙間から血が滲み、床へと滴り落ちる。

 

 その視線の先には、ナイフを片手に微笑む一姫がいた。

 

「ふふ、別に……ついでに刺しとこうと思っただけ。だって、ほんとに嫌いだからさ。“お姉さま方”のこと」

「ホント、めんどくさい性格してるよね、いっちゃん」

「っ、家族づらするな!!」

 

 一姫の笑みが消えた。

 ナイフを握る手に力が入り、二奈はその切っ先へ一瞬だけ目を落とす。

 

「……家族でしょ」

 

 腕を押さえたまま、二奈は言った。

 一姫が睨みつけても、その顔から目を逸らさない。

 

「それで? お姉ちゃんの居場所が知りたいんだっけ」

「私は知りたくないけど、臨也さんが知りたいって言うから。あぁ、これでもっともっと好きになってもらうの♡」

 

 一姫はうっとりと目を細めた。

 二奈は腕を押さえる手に力を込め、短く息を吐く。

 

「……刺してこいって言われたの?」

「言われてないよ。これは私がやりたかっただけ」

 

 悪びれもせず答える一姫を、二奈はじっと見つめた。

 

「で? どこにいるの、お姉さまは」

 

 甘ったるい声のまま、一姫がナイフを持ち直す。

 

「教えてくれるんでしょ?」

 

 くるくるとナイフを回し、再び構える。

 その手慣れた扱いに、二奈は目を細めた。

 

「お姉ちゃんの気も知らないで、ずっとこんなことして……」

「早く答えてくれる? もう、うっかり殺しちゃうかも」

 

 二奈は唇を引き結んだ。

 何か言い返しかけて、やめる。

 

「……今は、新羅さんのところ」

「ふうん。最初からそう言えばよかったのに」

 

 一姫は満足そうに笑うと、ナイフを下ろした。

 

「それ、ちゃんと手当てしておいてね。床も汚れちゃってるし」

 

 まるで他人事のように言い、扉へ向かう。

 二奈はその背中に声をかけた。

 

「いっちゃん」

 

 一姫は足を止めたが、振り返らなかった。

 

「お姉ちゃんに同じことしたら、私、今度は黙ってないからね」

 

一姫は肩越しに振り返り、薄く笑った。

 

「……ほんと、お姉ちゃんのことばっかり」

 

 扉が閉まる。

 二奈は足音が遠ざかるのを聞いてから、詰めていた息を吐いた。

 

「……こっちの気も知らないで」

 

 腕の痛みに顔をしかめながら、携帯を取り出す。

 画面に表示したのは、三鶴の名前だった。

 

 呼び出し音を聞きながら、二奈は閉じた扉を見つめた。

 

「お姉ちゃん、早く出て……」

 

 

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