「…」
『全然大丈夫ではないな…』
アムナエルとの死闘から数日、翼は引き篭もっていた。
理由はアムナエルである大徳寺先生が死んだことのショックと大徳寺先生を死なせてしまい十代達に会わせる顔がない、と言うより非難されるのを恐れている。仕方のないことだとミスティルとヴェーラーが言っても、叱っても、励ましても全く部屋から出ようとしない。
「…」
体育座りで動かない翼の眼は虚ろだった。
『全然大丈夫じゃないよねこれ…』
『どうする?これでは…』
『少なくともボク達では無理だね…』
こんな戦いに巻き込んだのは精霊であるミスティル達、ただでさえ負い目を感じる立場であるのにこうなってしまうと出る言葉が見つからなかった。
「翼…」
「アニキ…」
一方で十代も落ち込んでいた。大徳寺先生が死んだのもあるが翼がそのショックで引き篭もったことも追い打ちとなっていた。励まそうとした、叱ろうとした。だが翼は何も言わず何も反応がなかった。ミスティル達精霊が慌ててないため死んでいるということはないだろうが十代は心配で心配で仕方なかった。
「あれから何日か経ったけど全く出てくる気配がないわね…」
「大徳寺先生がセブンスターズの最後の一人に殺されたことにまだ負い目を感じているみたいだね」
明日香も励まそうとしたがダメで、吹雪はそもそも面識が少ないのと彼も操られていたとはいえ翼を保健室送りにした負い目から励ます言葉が見つかってなかった。
「その最後の一人を倒したのもあいつだというのに、軟弱な奴だ」
「万丈目!!」
万丈目が冷たい言葉を放ち、十代が怒り万丈目の襟首を掴んだ。
「何だ!そこまで心配なら部屋に行って励ましたりすればいいじゃないか!」
「…」
万丈目の言葉に十代は何も言えず襟首を話した。
「お前らオシリスレッドの奴らじゃそりゃ嫌がられるな。あいつは大徳寺を助けられなかったことを悔いているんだ。それなのに大徳寺を慕っていたお前らが励ましに行ったらあいつの性格的に逆効果だ」
万丈目の言うことは正論だった。十代は何も言えずただ黙るしかなくその場にいた全員も反論できなかった。だが誰もが思った、お前もオシリスレッドだろ、と。
「へぇ…」
そんな中、吹雪だけが笑っていた。
「な、なんですか」
「なら君が行けばいいじゃないか」
吹雪の提案に万丈目以外の全員が納得した。
「そうだな、俺は門前払いだった。だけど万丈目なら…」
「な、なんで俺があいつを励まさないと…」
「なら叱ってくればいいじゃないか」
「う、だが明日香君でも…」
「そうね、でも私は今からあそこでオシリスレッド寮に走ってる亮を捕獲してくるから頑張ってね」
明日香の見る先には全速力で走るカイザーの姿があった。明日香は手慣れたように拘束用の鎖と手錠を取り出しカイザーの捕縛を開始した。
「あ、明日香と亮に一体何が…」
「話すと長いッス…」
二人の追いかけっこを見るその目は色々な感情が入り混じっていた。
「ほらいけ万丈目!」
全員に背中を押されて万丈目は翼の部屋の前に向かった。
「くそっ、何で俺が…」
文句を言いながらも向かう万丈目だった。
『良いじゃないっすかアニキ~』
「五月蠅い!貴様らは来るな!」
叱られたおジャマトリオは退散した。
「全くあいつらは…」
『何だ、今度は貴様か』
『部屋の鍵は開けておくからね』
部屋の前にはミスティルとヴェーラーがいた。
「ああ、しかしあの馬鹿達とは全然違うな。貴様らが俺の精霊だったらな」
本音を言いながら万丈目は扉を開けた。部屋は真っ暗で翼は鍵を掛けた部屋が空いたにも係わらず反応を見せず動かなかった。
「おい、何時まで引き篭もってるつもりだ」
「万丈目君…」
「何時まで引き篭もっているんだ。それでも俺様に二回も勝った男か」
「…」
翼は何も言わない。
「セブンスターズを二人も倒したんだ、もっと誇ったらどうだ」
「…」
翼は何も言わない。
「何か言ったらどうだ!」
それを見かねた万丈目は翼の元に駆け寄り襟首を掴んだ。
「敵は取ったんだろ!大徳寺を殺した相手を倒したんだろ!ならなぜそこまで落ち込む!」
「ま、万丈目君…」
ここで翼はなんと万丈目に抱きついた。おそらく翼は待っていたのだろう。自身の悲しみを受け止められる人を。
「お、おい!」
「ぼ、僕は…あああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」
「…ちっ」
翼は泣いた、今まで背負ってたもの全て吐き出すように、万丈目の胸を借りながら。そして泣き疲れてそのまま寝てしまった。万丈目に抱きつき、服を掴んだまま。
「せめて服を話してから寝ろよ…」
万丈目は翼を布団に戻そうと立ち上がると後ろの視線たちに気づいた。
「な、何だお前ら!」
振り向くとそこにはそこにいたのは大量のオシリスレッドの生徒、そして十代達だった。そりゃ鍵を開けたままあれだけ大声で泣いているのが聞こえたのだから集まるのは当たり前であった。
「万丈目!テメェ何してんだ!」
「ふざけるなよこの野郎!」
オシリスレッドの生徒たちから妬みの罵声を浴びせられてた。それならまだ耐えられた、聞き流せられた。
「万丈目、お前…」
「まさかお兄さんと同じ…」
「ち、違う!これは誤解だ!」
だが翼を男と知っている十代達はドン引きしていた。カイザーという前例があるためその軽蔑の目の威力は尋常じゃない。
「ハハハハハハハハ」
「なんで笑ってるんですか!」
吹雪は面白い物を見るような目で子供のように笑っていた。
「ギギギ…」
「人がしてはいけない顔になってる!?」
そしてカイザーは鎖で簀巻きにされていたが、歯ぎしりをしながら鬼のような形相で、今にも万丈目を食い殺しそうな目つきで睨んでいた。
「…」
「あ、明日香君!?」
明日香は無言で合掌をしていた。おそらく万丈目は数日後に死体で発見されることが容易に想像できたからだろう。
「…ん?十代、何時も掛けている鍵はどうした」
何とか話を変えようと万丈目は話の素材を探すと十代がいつも首にかけていた鍵がなくなっていたのだ。
「あ、あれ?」
「私の鍵もないわ!」
「君たち!ワターシの鍵を知らないノーネ!」
「俺のもないぞ!」
「もしや…俺のもだ!」
何と全員が持っていた七星門の鍵が全てなくなっていたのだ。
「いつの間に…一体誰が!」
「ん…?どうしたの皆」
「翼、お前の鍵はどうだ?」
「鍵?…!!まさか!」
翼が机の中を確認すると自分の鍵と拾った大徳寺先生の鍵がなかった。
「やっぱり…」
翼はこれをミスティル達の仕業だと考えた。ミスティル達の王は三幻魔と同じように封印されている。なら封印を解いて三幻魔と共に王、テンペストを復活させようと目論むのではないか。実際ミスティル達は人間界よりテンペストを優先していた。
翼は急いでミスティル達を探しに外に出た。走りながら探していると二人は何かを話し合っていた。
「ミスティル!ヴェーラー!鍵をどこに!」
翼が真剣な表情で迫ってきたのを見た二人は立ち直ったと安心して質問に答えた。
『鍵?知らないよ』
『確かに我が王は封印されているが三幻魔を封印したまま封印を解く方法を模索していたのだ。それに我々が盗んでいるのなら精霊が見えるそこの二人と毛玉が気づくだろう』
『クリクリ~』
ミスティルが指摘するとハネクリボーは頭を横に振った。つまりミスティル達が犯人ではないということだ。
「確かに…」
「じゃあ誰が…」
「あ、ちょっと待って。亮がいないわ」
ここで犯人はカイザーという疑いが全員の頭をよぎる。
「いや、あんな雁字搦めだと動けないでしょ」
「ここにいないで鍵のことを知っている人、校長先生以外には…」
「いやない…と言い切れないわね」
理由がないからそれはないと言おうとしたが、今までの問題行動からないと断言できない明日香だった。
「でも何のために…」
全員カイザーのことを考えているといきなり地震が起きた。
「!!?」
『一体何だ!?』
いきなりの地震に全員動揺した。一方その頃カイザーは鎖を外しており、七星門の鍵を全て首にぶら下げていた。
「フハハハハハハ!これで三幻魔とやらの封印が解ける!この力を持ってあの男を殺してやる!フハハハハハハハハハハハ!!」
高笑いをするカイザーの顔は、魔王のそれだった。
「万丈目、結局のところ、どうなんだ?」
「違うぞ!?俺は男には興味はない!!」