「…カイザーコワイ」
『カイザーが全てを持って行ってしまったな、内容も翼の心も…』
翼はカイザーにトラウマを植え付けられ、もう何日も部屋に引きこもり一向にアカデミアへ行く気配がなかった。今日も部屋の端で死人のような顔をして体育座りをしている。
「…」
数日間は別に何も言わなかったミスティルだが流石に見かねてミスティルは説得に入った。
『翼、いい加減学校に行ったらどうだ』
「いやだ」
翼は感情が全くこもっていない返事をした。
『お前、今まで学校内であの男に会ったことがあったか?』
「ないけどこれからもそうだとは限らない」
『しかし翼、このままでは出席数が足りず退学になってしまうぞ』
「もう一度あんな思いをするくらいなら退学になった方がマシ」
もう自分ではどうしようもないと思った、というより説得する気が失せてきたミスティルだった。しかしその時ドアをノックする音と翼を呼ぶ声が聞こえた。
「おーい翼!」
その声の主は遊城十代だった。
「十代君…」
翼がその声に気が付くと先程よりも感情のこもった声を出した。
『やはり立ち直らせるにはこの男の力が必要か…』
ミスティルはそう直感していて、ある行動に出ていた。翼に気づかれないよう閉まっていたドアの鍵を開けておいたのだ。
「どうして学校に来ないんだ?…おっ、開いてる!」
「えっ!?」
閉めていたはずのドアが開いて驚く翼。
「翼!大丈夫か!全く部屋から出てこないから心配で仕方なかったぜ!」
「あ、うん」
翼は十代が近づいても拒否反応を見せなかった。どうやら男に抱き着かれたことがトラウマなのではなく初対面のカイザーに抱き着かれたことがトラウマらしい。
「しかしお前痩せたな。ちゃんと食ってるか?ほれ、ドローパン」
「あ、ありがと…」
翼は十代から手渡されたドローパンを開けて食べ始めた。中身はクリームだった。
「…なんか嫌なことでもあったのか?」
「!!」
十代の言葉を聞いた翼の脳内にあの時の事がフラッシュバックされた。そのショックで翼は食べかけのドローパンを落とし、身体全体を恐怖で震わせた。
「おい大丈夫か翼!」
「コワイコワイコワイコワイ…」
十代の心配する声も翼の耳には届かず、ただただ翼はカイザーの記憶に恐怖した。
「しっかりしろ!」
「あっ…」
十代は翼の両肩を掴んで呼びかけた。翼は少し驚いたがカイザーのような恐怖心は抱かなかった。むしろ安心感を抱いた。
「大丈夫だ、何かあっても俺が守ってやるから。だからそんなに怖がるな」
十代がそう言うと次第に翼の体の震えは止まり、翼の顔には生気が戻っていた。
「…うん。ごめん、心配かけて」
「気にするなって」
翼は十代のおかげでトラウマを乗り切ったみたいだ。しかしミスティルの不安は収まってはいない。
『ふぅ、これでどうにかなったか。しかしまたあの男に偶然会ってしまったらどうなることやら…』
「そういえば十代君、もうすぐ制裁タッグ
「ああ、俺も翔もやる気満々だぜ!絶対勝ってやる!」
翔がやる気を出していると聞いた翼はホッとした。自分は何もできなかったから不安だったのだ。
「僕、応援に行くから」
「おう!ありがとな!」
「じゃあまた明日、学校でな!」
「うん!」
十代は翼の部屋から出ていった。その後翼は久しぶりに食堂へと降りて大徳寺先生や他の寮生たち、前田隼人や翔に心配されて少々困ったことにはなったが普通に夕食を食べた。そして次の日からカイザーにビクビクしながらもアカデミアに行けるようになった。
そして数日後、とうとう十代と翔の制裁タッグ
「十代君と丸藤君大丈夫かな…」
『クロノスとかいう教諭は十代達を是が非でも退学にさせたいと目論んでいる。相当の
「そうだね、でも十代君ならきっと…」
会場に着くとまだ始まるまで時間があるにもかかわらず結構な人が観戦に来ていた。翼が座ろうとしたところには明日香と見慣れないラーイエローの生徒がいた。
「あ、明日香さんと…確かラーイエローの三沢さん」
「君はオシリスレッドの風龍さんだね、最近授業で見なかったが何があったんだい?」
「…聞かないで下さい」
翼はもうあの時の事を思い出したくない、だからその話は止めてほしいと切に願った。
「風龍さん…」
すると明日香が申し訳なさそうな顔で翼を呼んだ。
「何ですか明日香さん」
「その…この前は…ごめんなさい」
「!!」
明日香が深く頭を下げて謝ると翼の脳裏にまたあの時のカイザーへの恐怖がフラッシュバックされる。しかも色々と尾びれ背びれが付いていた。翼の脳内ではカイザーは会ってすぐキスをしようとして、足をからませ、無理矢理押し倒そうとした変態と化していた。
翼は猛烈な吐き気に襲われ、その場にうずくまった。
「大丈夫か風龍さん!」
三沢が翼の元へと駆け寄る。しかし翼は顔を上げてグロッキーな顔でこう答えた。
「い…いえ…すみません、ですがもうあの時の事は忘れたいんです…」
「一体何があったんだ…」
三沢は心配そうな顔になり、明日香はさらに申し訳なさそうな顔になった。
「あ、おーい!翼ー!」
十代が翼に気づいて笑顔で手を振った。
「十代君!丸藤君!頑張ってねー!」
翼がそれに答えて声援を送りながら手を振っていると、翼の目に悍ましいものが映った。それはオベリスクブルーの制服、キリッとしたつり目、イケメンな顔、そして厳格なオーラを持つ男…なのだが翼の目には翼の目の前で脱ぐ気満々と思わせるほどにはだけた制服、翼だけしか視界に入っておらずしかもよこしまな思いで翼を見てそうな目、鼻の下を伸ばして息遣いが荒く頬を赤く染めた顔、そして変態のオーラを持つ変人にしか見えなかった。
「ヒッ…」
翼はカイザーの姿を認知した瞬間恐怖でその場に王向けで倒れこみ気絶した。
「きっ、気絶した!?」
三沢はいきなり気絶した翼に驚いた。
「…そこまでなの?そこまでトラウマなの?」
明日香は翼が見た先にカイザーがいたことを確認して呆れた。
『予感が的中した…』
ミスティルは考えていた予想が完全に的中し頭を抱えた。
「ん?どうしたんだ翼の奴…」
翼は三沢に抱えられて保健室へ送られた。その様子を見て十代はもうすぐ自分たちの退学が決まる制裁タッグ
そしてそれから少し時間が経ち、翼の目が覚めた。
「…ん、ここは…」
見たことのないベットと天井とそれに起きた直後の頭の回転では直ぐここがどこなのか翼には理解できなかった。
「あら、気がついた?」
翼が声の聞こえた方を向くとそこには保険・体育科担当でオベリスクブルー女子寮寮長の鮎川先生が椅子に座っていた。
「鮎川先生…ってことはここは保健室ですか」
「そうよ。あなた、急に倒れたんですって?熱中症かと思ったけど身体は健康そのものね」
「ありがとうございます」
翼はベットに座りながらお辞儀をした。すると鮎川先生は翼の興味深そうに見つめてこう言った。
「…あなた、本当に男の子なのね」
「今まで疑ってたんですか!?僕は女の子じゃありません!」
思わず翼は保健室で叫んでしまった。まさか本当に先生にまで、しかも保険・体育科担当にそう思われていたのが心外だったからだ。
『いいじゃないか、その疑いが晴れたのだから』
「まぁ体を入念に調べない限りは分からないわね。軽いスキンシップ程度なら女の子と間違えてもおかしくない程身体が柔らかいわ。…羨ましい」
鮎川先生の最後の一言は翼には聞こえなかった。
「ハァ、なんでこんな身体に生まれてきたんだろ…」
鮎川先生は翼が落ち込みながら言ったその一言に軽い殺気が芽生えた。そんな肌は殆どの者が望もうとも手に入らない、女の夢なんだ!と言った目つきで鮎川先生は一瞬翼を睨んだ。翼はそれに気づかなかったがミスティルはその一瞬を見逃さなかった。
『オベリスクブルーは翼に執着する者ばかりだな…』
ミスティルは入学時に翼がオベリスクブルーに入らずオシリスレッドへ入ったことを猛烈に良かったと思った。もしオベリスクブルーへなし崩しに入っていたらカイザーの事もあり、おそらく1ヶ月で止めていただろう。
「!そうだ、制裁タッグ
翼はベットから勢いよく起き上った。
「見てないから分からないけどもうすぐ終わるんじゃないかしら」
「ありがとうございます!失礼します!」
翼は大急ぎで保健室から出て、会場の
「ねぇミスティル、なんで僕は倒れたのか知ってる?」
その道中、翼はミスティルにこんな質問をしてきた。
『翼、まさか何が原因で倒れたのか覚えていないのか?』
翼は困った顔をしてこう答えた。
「うん、全然思い出せないんだ」
つまり、カイザーが会場にいるという事を翼は思い出せてないのだ。しかし例えミスティルが今カイザーが会場にいると伝えてしまったら、いやカイザーという単語を言ってしまったその瞬間から翼は気絶しそうな気がした。それにミスティルは翼の十代達を応援したいという気持ちを尊重したいと考えている。
『これは…やるしかないか』
ミスティルはある決意を固めた。
そして翼とミスティルはなんとか会場へとたどり着いた
「ハァ…ハァ、これは…どういう状況なの?」
翼が会場へと駆けつけるとそこではまだ
翼は観戦していた隼人を見つけて声をかけた。
「あ、前田さん!これはどういう状況なんですか?」
先程翼が倒れたことを知らない隼人は別段何も言わなかった。
「見ての通り十代達が追い込まれているんだな。流石伝説の
「伝説の
伝説の
「そうなんだな。あいつらは迷宮兄弟といって、あの伝説の
「…」
「どうかしたのか?」
翼が黙り込んだので隼人が心配して声をかけたら、次の瞬間翼が思いもよらない一言を口にした。
「その…武藤遊戯って誰ですか?」
その時、会場中の人間が盛大にズッコケた。その場にいた隼人は勿論、
「む…武藤遊戯を知らないのか?」
起き上りながら隼人はそう質問した。
「ええ、全然知りません」
淡々と答えた翼はなぜみんながズッコケているのか分からないという表情だった。
「あ、ありえないんだな…」
隼人が驚くのも無理はない。武藤遊戯はデュエルモンスターズをする者なら誰もが知っている名だ。逆にどうすればデュエルモンスターズをしているのに武藤遊戯の名を知らないでいられるのだろうか。会場の全員がそう思った。翼はこれからド天然な少女としてアカデミア全体から温かく見守られていくこととなる。
「それで前田さん、
何事もなかったかのように状況の説明を求める翼だった。
「あ、ああ。今迷宮兄弟の迷のフィールド場に強力モンスターの《闇の守護神-ダーク・ガーディアン》がいるんだな。一方十代の場には《E・HERO テンペスター》 が、翔のフィールドには《ドリルロイド》がいるんだな。迷宮兄弟の宮のフィールドはがら空きで迷宮兄弟のLPが3500、十代達が200で崖っぷちなんだな。そしてこれから翔のターンなんだな」
隼人も気を取り直して
《闇の守護神-ダーク・ガーディアン》
効果モンスター
星11/闇属性/戦士族/攻撃力3800/守備力3500
このカードは通常召喚できない。
「ダーク・エレメント」の効果でのみ特殊召喚する。
このカードは戦闘では破壊されない
《E・HERO テンペスター》
融合・効果モンスター
星8/風属性/戦士族/攻2800/守2800
「E・HERO フェザーマン」+「E・HERO スパークマン」
+「E・HERO バブルマン」
このモンスターは融合召喚でしか特殊召喚できない。
このカード以外の自分フィールド上のカード1枚を墓地に送り、
自分フィールド上のモンスター1体を選択する。
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
選択したモンスターは戦闘によっては破壊されない。(ダメージ計算は適用する)
「そうですか…頑張れー!」
それを聞いた翼は闘っている二人に声援を送った。
「翼…翔!」
「う、うん…僕が決めるんだ!」
声援を受けた二人も気を取り直して
「僕のターン、ドロー!」
翔はドローしたカードを見て笑みを浮かべた。
「僕は《ドリルロイド》を生贄に捧げ、《ユーフォロイド》を召喚!」
《ドリルロイド》が消え、玩具のようなUFOが出現した。
《ユーフォロイド》
効果モンスター
星6/光属性/機械族/攻1200/守1200
このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、
デッキから攻撃力1500以下の機械族モンスター1体を
表側攻撃表示で特殊召喚する事ができる。
その後デッキをシャッフルする。
「そして手札から魔法カード発動、《パワーポンド》!」
「《パワーポンド》!?」
翔の使ったカードに翼は驚いた。
「このカードは機械族専用の融合魔法!アニキ、行くよ!」
「ああ、思い切り行け!」
「《ユーフォロイド》と《E・HEROテンペスター》を融合!いでよ、《ユーフォロイド・ファイター》!」
変形したUFOの上に《E・HEROテンペスター》が乗った。
《ユーフォロイド・ファイター》
融合・効果モンスター
星10/光属性/機械族/攻 ?/守 ?
「ユーフォロイド」+戦士族モンスター
このモンスターの融合召喚は、上記のカードでしか行えない。
このカードの元々の攻撃力・守備力は、融合素材にした
モンスター2体の元々の攻撃力を合計した数値になる。
「このカードの攻撃力守備力は融合素材にしたモンスターの元々の攻撃力守備力の合計と数値となる」
《ユーフォロイド・ファイター》攻撃力?⇒4000 守備力?⇒4000
攻撃力4000、普通なら戦慄してもおかしくはない攻撃力だが迷宮兄弟は余裕を見せていた。
「いまさら何を、多少攻撃力が高くとも」
「ダークガーディアンは戦闘では破壊されない!」
戦闘で破壊されないのなら次のターンが来たときに対策を考えられる。たとえ相打ちでも破壊されるのは相手のみ、今の状況だったら迷宮兄弟の有利は変わらない。今の状況ならばの話だが。
「分かっているさ。さらに《パワーポンド》の効果発動!特殊召喚されたモンスターの攻撃力は二倍になる!」
《ユーフォロイド・ファイター》攻撃力4000⇒8000
「「8000だと!?」」
攻撃力が倍になって迷宮兄弟に動揺が見え始めた。
「アニキが身を持って気づかせてくれたんだ。たとえモンスターが破壊できなくても、ダメージは通る!『フォーチュン・テンペスト』!」
テンペスターの銃から放たれた青い光線がダークガーディアンの体を貫き、迷宮兄弟の方へ向かい直撃した。
迷宮兄弟LP3500⇒0
迷宮兄弟のLPは0となり、二人は膝から崩れ落ちた。
「やったー!十代君と丸藤君の勝利だー!」
「これで二人の退学は無しになったんだなー!」
十代と翔の勝利により二人の退学が帳消しになったのが嬉しくて、翼と隼人は万歳をして喜んだ。
さて、みなさんも気になっている事であろう。先程からミスティルと会場にいるはずのカイザーが全く登場していないことに。
実際カイザーは翼たちの近くにいた。そして今にも抱き着こうとしていた。そんなことになればこの場はカオスなことになる。それを阻止していたのはミスティルだった。
「な…金縛りかこれは…!それとも俺の愛を試す神の与えた試練なのか…!」
『くっ、これ以上翼を登校拒否にさせるわけにはいかんのだ…!』
ミスティルは今にも翼に抱き着こうとするカイザーを今残っている力を振り絞って必死に足止めをしていた。カイザーの気迫と力はすさまじかったがミスティルは何とか翼がこの会場から出るまでカイザーをずっと足止めすることに成功した。
しかしその代償としてもうすぐ全て戻りそうだったミスティルの精霊の力はほぼ0になってしまい、ミスティルは本当に何の力も使えなくなってしまった。
「今日の最強カードは《ユーフォロイド・ファイター》だよ!攻撃力守備力が融合したモンスターの攻撃力守備力の合計となるモンスターだ!」
『効果が引き継がれないため攻撃力が高いがデメリットのあるモンスターを融合させると良いかもしれんな』