遊戯王 渓谷の戦士   作:Σ3

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「前回は十代君と翔君が退学を掛けた決闘(デュエル)で勝ったよ!」




第8話《翼の日常》

 

 

 

 

 

色々なことがあったが翼の学園生活はそれなりに楽しいものになっていった。カイザー襲来もなく、闇の決闘(デュエル)を受けることもなかった。

 

ただ、全くと言っていいほどミスティルの王が封印されている場所の手掛かりが掴めなかった。理由はミスティルが制裁タッグ決闘(デュエル)の際、翼に抱き着こうとするカイザーを止めるために精霊の力を全て使ってしまったためだ。そんなことで力を失うほど精霊の力が弱いのかと思うだろうがそれは違う。カイザーには見えていないミスティルを振り払おうとするカイザーの力が思いのほか強かったのだ。それを愛の力と呼ぶべきなのかは微妙だが…。まぁそんなことがありミスティルは精霊の力を失い、王の手掛かりを探しても精霊の力を探知する力も残っていないため全く手掛かりが掴めないのだった。ちなみに翼には内緒にしている。ミスティルは精霊の力を失ったことを恥ずかしいと思うのと同時に失ったことが知られてしまったら役立たずのらく印を押されかねないと考えたからだ。翼はそんなことは思わないと分かってはいるのだろうが。

 

そんな翼の平和な学園生活の中にも色々なことがあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《SAL襲来》

 

翼は十代にこんなことを聞いた。万丈目が三沢に決闘(デュエル)で負けたというのだ。翼は嫌な予感がしてデュエルアカデミア中を探した。すると荷物を持ってデュエルアカデミアを出ようとする万丈目を見つけた。

 

「いた!万丈目君!」

 

「貴様…」

 

万丈目は憎悪の目で翼をにらみつけた。翼に負けたことが発端でこうなったと言えなくもないからだ。

 

「良かった~、負けたショックで崖から身を投げているのかと…」

 

「なぜそんなことをする必要がある!」

 

万丈目は怒鳴りながらツッコんだ。

 

「一体どこへ行くつもりなの?」

 

翼の疑問に万丈目は空を見上げながら答えた。

 

「デュエルアカデミアに俺の居場所はもうない。自分の足で俺の居場所を見つけに行くだけさ」

 

「そう…」

 

「待っていろ風龍!俺はもっと力をつけ、俺を負かした貴様と三沢に必ず勝ってみせる!それまで首を洗って待っていろ!」

 

そう捨て台詞を残して万丈目はデュエルアカデミアを去って行った。翼は何も言わずそれを仇見送った。

 

そして翼が万丈目を見送った直ぐ後に十代と翔がやってきた。

 

「お、翼!万丈目がどこにいるか知らないか?」

 

「あ…万丈目君なら今デュエルアカデミアから出て行ったよ」

 

十代達も万丈目を探していたようだ。

 

「なんで止めなかったんだよ!」

 

十代の疑問に翼は顔をうつむかせながら答えた。

 

「だって…万丈目君の居場所がなくなった原因は僕に負けたからなのに、僕が止める資格なんてないんだ…」

 

「そうか…」

 

翼は万丈目が孤独になったのを自分のせいだと思っているみたいだった。実際そんなことはないのだが十代は翼の気持ちをくみ取った。

 

「でも万丈目君大丈夫かな?崖から身を投げたりしないかな?」

 

「それはないってさっき本人に否定されたから大丈夫だよ」

 

翔が自分と同じことを考えていて翼は少し笑みを浮かべた。

 

「そうだよな、万丈目なら大丈夫だよな!」

 

十代がポジティブなことを言ったその時、翔が何かに気付いた。

 

「ん?アニキ、茂みの中に誰かいますよ」

 

翔が言うにはどうやら茂みの中に何かがいるというのだ。

 

「お、もしかして万丈目か?」

 

万丈目は先程翼が見送った。流石に未練を残したためここに戻ってくるにしても早すぎるしどうしてプライドの高い万丈目が茂みに隠れるのか見当もつかない。

 

「いや十代君、それはないと思うよ。だって万丈目君はさっき僕が見送って…」

 

翼が意見を言おうとしたその時、茂みの中にいた何かが一気に茂みの中から飛び出てきた。

 

「ウキーッ!」

 

茂みの中にいたのはサルだった。しかしただのサルではなかった。なぜか左腕に決闘盤(デュエルディスク)、頭部と上半身全体に精密な機械を装着しているなんともハイテクなサルだった。

 

「な、サル!?」

 

サルは翼たちに襲いかかってきた。そしてもみくちゃにしたのちに一人を攫っていった。

 

「きゃ、きゃあああああああああああ!?」

 

「翼!?」

 

その人物とは翼だった。サルは甲高い悲鳴を上げる翼を担ぎながら近くにある森へと逃げた。

 

「大変だ、風龍さんがサルに攫われちゃった!」

 

「くそっ、待ちやがれ!」

 

翔がうろたえる中十代は翼を攫ったサルを追いかけた。

 

「ちょっと、おろしてよ!」

 

「ウキィ!」

 

サルは翼を抱えながら木から木へと飛びながら移動していた。翼は抵抗するがサルを引きはがせなかった。こんな時ミスティルがいたら…と思う翼だった。ちなみにミスティルは封印の手掛かりを探すために奔走中である。

 

「ハッ!この感じ、まさか我が嫁に危険な目に!?」

 

そんな中翼の危険を察知した男がいた。最近翼に声をかける前に翼が気絶してしまうのが悩みのカイザーである。カイザーはすぐさま翼のところへ向かうべく走り出した。

 

「ちょっとシニョール丸藤!授業中、しかも決闘(デュエル)中にどこへ行こうとしているノーネ!」

 

しかし今は授業中でしかも決闘(デュエル)の真っ最中だった。

 

「うるさい!それどころではないのだ!」

 

クロノス教諭の引き留めにも応じずカイザーは一目散に翼のところへ向かおうとした。

 

「な…今すぐ全員でシニョール丸藤を止めるノーネ!」

 

クロノス教諭の指示によりその場にいた三年生たちは一斉にカイザーを力ずくで止めようとした。

 

「小賢しい!」

 

カイザーはそんな三年生たちをもろともせず走っていく。しかし流石に人数が多いので徐々に勢いをなくして止まっていくカイザー。

 

「そこまで決闘(デュエル)がしたいのなら全員まとめて消し飛ばしてやる!」

 

そこでカイザーはこの場所にいる全員を決闘(デュエル)で負かしてから翼の元へと考えた。そしてすぐに実行した。

 

そして今日、新たなカイザー伝説が誕生することになる。

 

一方翼の方はというと結局なす術もなく翼はサルが目指した場所へと連れて行かれた。そこは断崖絶壁に生えた一本の木の上だった。落ちれば即死と言わんばかりの場所だった。

 

「ちょ…なんでこんな危ないところに!降ろしてよー!」

 

「ウキィ!」

 

翼は激しく抵抗したがサルは翼を押さえつけて抵抗をやめさせようとした。

 

「ちょっと、乱暴は…!」

 

翼はサルに乱暴をやめるよう説得しようとした瞬間、何かが翼の頭の中を流れた。それは一瞬だったが寂しさと悲しみと恐怖の感情が頭の中に流れてきたのだ。

 

「これは…君の?」

 

翼が流れてきた感情の答えをサルに聞こうとしたがその時助けに来た十代達が現れた。

 

「おい!麻酔銃で撃たれたくなかったら人質を解放してこちらに来い!」

 

すると十代達に遅れてやってきた黒服の男たち三人のうちの一人がサルに銃を向けた。

 

「ウキィ!」

 

サルはその男たちに怒りの感情を向けた。しかしその中に恐怖の感情が合わさっていたことが翼にはなぜかわかった。

 

「アニキ!あのサル決闘盤(デュエルディスク)を付けてるよ!」

 

翔が決闘盤(デュエルディスク)に気が付くと男たちの中にいた研究者らしき男が説明を始めた。

 

「あれはただのサルではない。我々が訓練を重ねて育て上げた決闘者(デュエリスト)サルだ」

 

決闘者(デュエリスト)サル?」

 

「そう。その名もSuper Animal Lerning、略してSALだ」

 

「まんまじゃん」

 

翔がネーミングの単純さにツッコんだ。

 

決闘者(デュエリスト)サルかぁ…なら!」

 

「おい、お前!決闘者(デュエリスト)なら、ここは決闘(デュエル)で決着つけようじゃないか」

 

「ウキ」

 

SALは十代の挑戦に答え、翼を放した。しかし翼は断崖絶壁にいる恐怖で動けなかった。

 

「『決闘(デュエル)!』」

 

「って話せるんすか!?」

 

決闘(デュエル)に関する言葉はすべてプログラミングされているのだ」

 

こうして十代とSALの決闘(デュエル)が始まった。十代は序盤SALの使う猿モンスターと《DNA改造手術》と《野生解放》のコンボによる攻撃力に圧倒される場面があったが結果は十代の勝利に終わった。SALは潔く翼を解放した。

 

しかし決闘(デュエル)の最中に研究者たちが動物実験をしていること、そしてSALの仲間が森から現れ、SALが仲間たちのもとへ戻りたいと思い脱走したことが分かった。

 

「よくやった!あとは私たちに任せろ!」

 

研究者たちはSALを研究所に連れ戻そうとSALに近づき始めた。

 

「おい、そのサルをどうするつもりだ!」

 

「研究所に戻してまた実験するだけだ。今度は脱走なんてさせないから安心しろ」

 

十代の問いにあくどい笑みを浮かべながらSALを捕獲しようとさらに近づいた。しかしそれを阻んだのは攫われた翼だった。

 

「ダメです!そんなこと絶対に許しません!」

 

翼は研究者たちとSALの間に立ち、両手を広げて研究者たちの行く手を阻んだ。

 

翼は分かったのだ、あの感情はSALのもので、SALは仲間のところへ帰りたいと思い、研究所には戻りたくないと思っていたことを。なぜSALの気持ちが分かったのかは翼にも分からない。しかしSALの気持ちを知ってしまった以上こうせずにはいられなかった。

 

「なんだと、部外者は黙っていろ!」

 

研究者の部下が翼を退かせようとした。しかし翼は引かなかった。

 

「あなたたちの思い通りには、させません!」

 

翼の言葉の瞬間、森がいきなり騒がしくなり、予想外の現象が起こった。

 

「うわ!?なんだこいつら!」

 

なんと翼の思いの呼応するように森に住む鳥たちが研究者たちを襲い始めたのだ。まるでSALを守るかのように。

 

「くそぉ!くそぉ!」

 

必死に振り払おうとする研究者だが次々と攻撃を仕掛ける鳥たちになす術がなかった。

 

「よしサル!今のうちに逃げろ!」

 

「ウキ!」

 

SALが森へ逃げようとするのをみた研究者は部下に指示を出した。

 

「くっ、撃てっ!」

 

部下が持っていた麻酔銃を打とうとした瞬間、ある人物がそれを止めた。

 

「そこまでだニャ!」

 

「大徳寺先生!?」

 

独特の語尾、大徳寺先生だった。ファラオも付いてきていた。

 

「お前は…」

 

「事が公になれば困るのはそちらの方じゃないかニャ?動物虐待で訴えられちゃいますよ~」

 

大徳寺先生のらしからぬ大人な対応に研究者は歯軋りした。

 

「くっ…」

 

結局研究者たちはそそくさとその場を逃げた。SALは装備されていた機械部品を外してもらい、笑顔で仲間たちの元へと合流した。

 

「また捕まるんじゃないぞー!」

 

十代はSAL、いやサルに手を振って別れを告げた。

 

「ウキィ!」

 

サルも翼たちに手を振りながら仲間と共に森へと帰って行った。

 

「…また会えるといいな」

 

今度会ったときは友達として一緒に遊びたいと思う翼だった。

 

さて、カイザーはどうしたのかというと今まさに翼を助けようと森の中を走っていた。カイザーは三年生全員をリスペクト精神ゼロでワンターンキルしてしまった。後にこれは「乱心カイザーのワンターンキル伝説」として語り継がれることとなる。

 

「このあたりか!?わずかだが嫁のにおいがする!さあ、助けに来たぞ我が嫁よ!」

 

カイザーは翼のにおいを頼りについに翼がいるであろう場所にたどり着いた。その場所は本当に翼が攫われた木が生えた断崖絶壁だった。

 

「あれ…?」

 

しかしもうそこには、誰もいなかった。

 

《テニス部長の恋…?》

 

その日、翼たちは体育の授業でテニスをしていた。翼は下手なりにテニスを楽しんでいた。そこに十代が放ったスマッシュが翼の方へ迫った。

 

「あ!翼、危ない!」

 

十代が叫んだが翼に高速のスマッシュを避ける運動神経などない。翼は当たるのは覚悟して体を丸めた。

 

「とおっ!」

 

しかしボールが翼に当たることはなかった。颯爽と現れた男が来たボールを打ち返し、ボールは翼の方からクロノス教諭の方へ向かい、クロノス教諭は顔にボールを食らって座っていた審判台から転げ落ちた。ちなみにこれが原因で十代がクロノス教諭に叱られることになる。

 

「大丈夫かい?」

 

ボールを打ち返した男は爽やかな雰囲気を持ち、ナチュラルな笑顔に輝く白い歯を見せるイケメンだった。彼の名前は綾小路ミツル、テニス部部長にして大企業綾小路モーターズの御曹司である。簡単に言えばモテ男である。

 

「す、すみません…ありがとうございます」

 

翼は少し恥ずかしそうにお礼を言った。恥ずかしがっている理由は男なのに身の危険を感じて体を丸めたことを恥ずかしいと思っているだけである。

 

綾小路はそんな恥ずかしがる翼を見てこう言い放った。

 

「好きだ!」

 

「え?」

 

いきなりの告白に呆然とする翼だったが綾小路は告白を続けた。

 

「一目惚れした、付き合ってくれ!」

 

「え、えええええええええええええええっ!?」

 

翼は大声で驚いた。これで翼に告白したのは二人目であるがその二人とも男である。

 

「またなの…」

 

翼と一緒のコートでテニスをしていた明日香はネットの向こう側であきれていた。

 

「い、いや、僕…男ですし…」

 

「何!?いや、でもそれもまた…」

 

男と告白しても引き下がらない綾小路だった。いやむしろそっちの方がいいといった表情になっていった。

 

「ヒッ…」

 

トラウマがぶり返しそうになる翼。

 

「そ、それでは!」

 

翼は自身の防衛本能によりテニスコートから逃げ出した。その後授業は終わり、テニスコートに一人残った綾小路は翼の姿を思い浮かべていた。

 

「くぅ…逃げられたか。しかしあんなかわいい子が男の子なわけがない。いやむしろそれがいい!男なのに女より可愛いのがよりいい!風龍翼よ、絶対にその心を射止めてやる!」

 

そんな決意を固めた綾小路の背後に一体どこから湧いたのか分からない顔から血管を浮かせる男が声をかけてきた。

 

 

 

「おい、決闘(デュエル)しろよ」

 

 

 

体育の授業後、明日香と翼は綾小路のことを話し合っていた。

 

「で、どうするの?」

 

「どうすると言われても断るしか…僕男ですし…」

 

男と言っても誰も信じてもらえない自分の可愛らしい容姿を恨む翼だった。

 

 

 

「《キメラティック・オーバー・ドラゴン》でプレイヤーにダイレクトアタック!エヴォリューション・レザルト・バースト、五連打(グォレンダァ)!」

 

「ぐ、ぐあああああああああああああああっ!?」

 

そんな中、男二人しかいないテニスコートにこだまする男の断末魔。

 

その後綾小路はテニスコートのネットにぶら下がっているところをテニス部部員に発見された。

 

 

 

数日後、綾小路と翼は廊下でばったりと出会った。

 

「あ…」

 

翼が告白を断ろうとしたその瞬間、綾小路はその場から全速力で逃げ出した。

 

「え!?」

 

いきなりの出来事に翼は驚くしかなかった。

 

「もうあんなのこりごりなんだああああああっ!!だがこの恋心はどうすればいいんだぁあああああっ!!」

 

綾小路はテニスコートでの決闘(デュエル)がトラウマになっていた。そしてそのトラウマを植え付けた男から「今度(我が嫁)に近づいたらもう一度この痛みを味あわせてやる」と言われているのだ。

 

綾小路は卒業するまで一切翼に近づくことはなかった。その中で募らせていく翼への恋心が綾小路の性癖を歪ませた。その後綾小路は男の娘にしか興味が湧かない変態へと変貌を遂げ、綾小路モーターズ後継者の座を追われそうになるのだった。

 

「何があったんだろう…」

 

何も知らない翼は首をかしげた。

 

「十中八九りょ…あの男のせいね」

 

明日香は誰のせいでああなったのか見当がついていた。

 

「フフフ…これでもうあのお邪魔虫は我が嫁に近づかないな!」

 

そんな翼を首に一眼レフをぶら下げて双眼鏡で遠目に観察、いやストーキングをしているカイザーがいた。カイザーは翼が自分を見たら気絶してしまうことにようやく気が付いた。よって何時もは遠目から見守り、翼に近づく邪魔者を消し飛ばして、そして翼がピンチになったら颯爽と現れて翼を助けることによりトラウマを消し飛ばそうと目論んでいる。カイザーは今日も翼の可愛い姿を盗撮しながら24時間見守っている。

 

 

 

《努力》

 

その日はあるイベントの前日だった。そのイベントとは決闘王(デュエルキング)のデッキ展示会だ。そのイベント会場に入れる最後の整理券を巡って翔とラーイエローの生徒である神楽坂が決闘(デュエル)していた。

 

結果は翔が勝利し、神楽坂は敗北した。敗北した神楽坂をオベリスクブルー、ラーイエローの生徒たちは彼を理論だけの雑魚と嘲笑ってショップから去って行った。残ったのは翼と三沢だけだった。まず声をかけたのは翼だった。翼と神楽坂は席が近いためそれなりに親しい関係なのだ。

 

「神楽坂君、あんな人たちの言うことなんか気にしないで。次はきっと勝てるよ」

 

「うるさい!オシリスレッドのお前に何がわかる!」

 

しかし翼の励ましに怒ったのか神楽坂は翼を怒鳴りその場から走り去っていった。

 

「…神楽坂君」

 

翼はその後姿を見ることしかできなかった。

 

「くそっ!!俺は…、俺は…!」

 

神楽坂は図書館で机に置かれた決闘(デュエル)理論の書かれた紙の束を振り払って怒りをあらわにした。自分はこんなものではない、自分はもっとやれるはずなのに、しかしうまくいかない、そんな思いを物に当たることでしか解消できない自分を嫌悪した。その時ある一枚の紙が目の前に落ちていた。それは決闘王(デュエルキング)のデッキ展示会のチラシだった。それを見た神楽坂は閃いた。

 

「!そうだ…展示される決闘王(デュエルキング)のデッキがあれば…!」

 

神楽坂がある決意をしたその瞬間、背後から声をかける男が…。

 

 

 

「おい、決闘(デュエル)しろよ」

 

 

 

次の授業へ向かう廊下で三沢は翼に声をかけた。

 

「風龍さん、悪く思わないでくれ。あいつは今伸び悩んでいるんだ」

 

三沢は翼にフォローを入れた。神楽坂は努力をしてはいるのだが結果が追い付いていないだけなのだ。翼もそれは分かっているから神楽坂が怒鳴る気持ちは分かる。

 

「うん、ありがとう三沢君」

 

 

 

「《キメラティック・オーバー・ドラゴン》でプレイヤーにダイレクトアタック!エヴォリューション・レザルト・バースト、五連打(グォレンダァ)!」

 

「ぎ、ぎゃああああああああああああああああああああっ!!?」

 

暗闇の図書館にこだまする男の断末魔。その後神楽坂は本と決闘(デュエル)理論が書かれた紙と共に倒れている所を図書館の鍵をかけようとやってきた用務員によって発見された。

 

 

 

時間は夜になり、部屋でくつろいでいた翼のところに十代がやってきた。

 

「おーい翼!今から展示会場に行かないか?少し頼みこめば見せてもらえるかもしれないぜ!」

 

それは無理なのではと思う翼だった。しかし無理かどうかは別として翼には用事があった。

 

「ごめん、今から神楽坂君のお見舞いに行くんだ」

 

神楽坂は用務員に発見されたのち、大事を取って保健室にいるのだ。

 

「神楽坂?ああ、今日翔に負けたラーイエローの…」

 

「うん、今日の夕方に倒れているのが見つかったんだって」

 

「…分かった。帰ってきたら感想聞かせてやるぜ!」

 

「うん、楽しみにしているよ」

 

十代は笑顔で翼の部屋を出て行った。ちなみにその後十代達は施錠しようとしていたクロノス教諭に見つかって叱られて補習を受けることになる。

 

翼は神楽坂のいる保健室に向かった。そして保健室に着くとそこにはベッドに座って本を読んでいる神楽坂がいた。

 

「神楽坂君…」

 

「なんだ、お前か…。何しに来た」

 

翼が声をかけると少し不機嫌そうに本をベッドテーブルに置いた。

 

「お見舞いに来たんだ。ほら、これ」

 

翼は持ってきたお見舞いの果物をベッドテーブルに置いた。

 

「…笑えよ」

 

すると神楽坂がつぶやいた。

 

「え?」

 

「俺はあらゆるトップクラスの決闘者(デュエリスト)達のデッキ、コンボ、決闘(デュエル)を研究してきた。決闘(デュエル)理論も頭に叩き込んだ。なのに俺自身は何時まで経ってもラーイエロー。しかもオシリスレッドに負ける始末さ」

 

まるで自分をあざ笑うかのように語る神楽坂だった。

 

「…神楽坂君」

 

「俺には決闘(デュエル)の才能がないのかもしれないな…」

 

そういって落ち込む神楽坂に翼はこう励ました。

 

「…才能なんて必要ないよ」

 

「何?」

 

「確かにこのデュエルアカデミアにいるみんなは才能のある人ばっかりかもしれない。でも神楽坂君はそれを補うために一生懸命努力してたじゃないか」

 

「だからお前に何が…」

 

神楽坂が怒鳴ろうとしたが翼は構わず続けた。

 

「知ってるよ。神楽坂君が授業の内容を真剣にノートに書き込んでいることを。図書館でカードの効果を図書館が閉館するまで調べてたことを。すごい量の決闘(デュエル)記録を覚えてたことを」

 

なんで翼がそこまで知っているのかというと、授業の時は席が近いためであり図書館で自主勉強をしていた時に偶然神楽坂が調べているのを見つけたためであり、決闘(デュエル)記録が膨大に入った神楽坂の鞄を見たことがあるからである。決して影から見守っていたなどでは断じてない。

 

「…お前」

 

しかし神楽坂はいつも翼が自分を見守っていたと勘違いした。

 

「なんでそこまでできるんだろうって思ったこともあった。でもそれはすぐに分かったんだ。神楽坂君は誰よりも決闘(デュエル)が大好きなんだって。どんなに才能の壁を感じても強くなるために、大好きな決闘(デュエル)を嫌いになりたくないから努力してるんだって」

 

「…」

 

実際神楽坂はそんなことを考えたことはない。ただ強くなりたいから努力していただけだった。そして翼はこう締めくくった。

 

「僕は決闘(デュエル)が大好きで、頑張ってる神楽坂君が好きだよ」

 

翼は友人としてという意味で言った。しかし神楽坂は告白として受け止めてしまった。

 

「…風龍、さっきは強く当たってすまない」

 

「気にしないで」

 

「明日からまた頑張ってみる!だから…見ててくれ!」

 

「うん!」

 

翼はまた盛大な勘違いをして恋をする男を作ってしまった。

 

「…あいつはまた粛清しなければ」

 

遠くからのつぶやきと憎悪に満ちた視線に二人は気づかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本当に色々なことがあったが翼(だけ)は平和な学園生活を送っている。しかし翼を取り巻く環境はあの日からもう変わっていたのだった。

 

 

 

 

 






「ハァ…早く帰ってこないかなぁ…」

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