ふうま父子二代の女難 作: 小次郎
「ふ、ふうま、テメエ、騙しやがったのかっ!!」
「人聞きの悪い、サインしたのはお前だろう」
「ふざけんなっ、そんな内容だなんて思わなかったんだよ!」
「内容も分からずにサインするからだ、言っておくが抵抗は無駄だぞ、大人しくするんだな」
なっ、身体が思うように動かねえ。
「それじゃ、後は任せた」
「お任せを、若様の御手を煩わせぬように躾けておきますわ」
や、止めろ、脱がすんじゃねえ!
何でだ、何で抵抗できねえんだよ!?
「ウフフ、此処に現れた紋が何か分かる?これが先にサインした契約の証で、もう貴女は絶対に逆らえなくなったの、お勉強になったかしら?子猫ちゃん♪」
そんなっ、嘘だろう?
待て、待ってくれ、こ、こんな形で失うなんて嫌だ、俺は、あたしは・・・。
ふうま父子二代の女難 第十一話
う~ん、一体何があったのかしら?
一昨日に秋山先輩、昨日は神村さん、そして今日は弓走さんが校舎裏で彼と話してるわ、それも変な雰囲気を醸し出して、とても不愉快ね。
折角ふうま君が考えて教えてくれた、水遁の術を応用した遠距離からの観察を可能にする水をレンズ状にする方法で彼を見守っているのに、メス豚たちなんてお呼びじゃないのよ。
それに今日は後ろのギャラリーも増えてるし。
「ねえ、伊紀お姉ちゃん。こんな覗き見みたい事してないで、直接ふうま先輩に理由を聞いた方がいいんじゃないかな?」
妹の伊織が見当違いな事を言うけど、覗きじゃないわ、それじゃまるでストーカーみたいじゃない。
「何言ってるの、事を起こすのには情報収集が不可欠だって教わったでしょ」
「そうかなあ?何か違う気がするんだけど」
将来ふうま一門を統べる事になる彼を支える為に、私は全てを知っておかないといけないんだから、でも出しゃばる様な真似は和を乱すから慎むのが大事なの。
一昨日から陰で覗いてる上原君、秋山君、水城さんもそうだけど、噂を聞いたのか今日から加わった井河さん達三人は彼の手駒となる人達、今は悪印象を与える時じゃないわ。
大体ストーカーは伊織でしょ、アナタが水遁で焦点を合わせてるのは秋山君じゃない、ちゃんと分かってるんだから。
姉としては注意したいところだけど、折角ふうま君への関心を秋山君に持って行けたんだし、暫くは見逃してあげるわ。
『ピンポンパンポーン、・・ふうま君、至急校長室まで来るように』
・・三日連続で同じ内容の校内放送が流れて彼と弓走さんは去ったけど、水城さん達が円陣を組み始めたわね。
読唇術が必須なのに気付いて学び始めたから、少しは読めるようになってきたわ。
「一体どういう事なの?」
「すいません、全然わかりません!もう聞くに聞けなくて!」
「弓走ちゃん、顔真っ赤っかだったよ!こた君の浮気者~~~」
「・・ウチの姉も話を振ったらあんな感じです」
「従者の蛇子はどんな様子だ?」
「普段と変わらないわ、噂は耳に入ってると思うけど・・・」
結局、いくら推論をぶつけあっても何も分からなくて、そしてふうまは任務で午後から早退、・・・一体どうしたらいいんだ!
この二日まともに眠れなくて、眠ったら夢で凛子姉さんとふうまのラブシーンが回想されて起きるを繰り返してる、それも内容がドンドン過激になっていって心臓に悪すぎる。
・・・今日は訓練中止にして家で休もう、ゆきかぜは・・、あれ?いない。
「鹿之助、ゆきかぜは?」
「なんか先生に呼ばれてたぜ、声かけられただろ?」
気付かなかった、やっぱり疲れてるみたいだ。
・・ふうまが転入してきた頃は色々な噂が飛び交ってて、碌でもない話も沢山あったけど、接してみれば若干素直ではないけど基本いい奴だった。
他人の事をよく見ているのか、気付いて無かった事をさり気無くフォローしてくれたり、アドバイスも上から視線じゃなく提案としてしてくれる。
まあ、真面目とは言えないけど頼りにはなる、そんな友達だ。
だから凛子姉さんと付き合ったとしても、多少複雑だけど祝福はできる、・・でも今の状況は明らかにおかしい!
とはいえ下手に問い質して姉さんが傷付く事になったらと思うと・・・・。
「・・・達郎、達郎!!」
突然の大声に驚いて、目の前にゆきかぜがいた。
「何をボーっとしてるのよ、しっかりしなさい!」
「う、うん」
「大丈夫よ、達郎。私に任せて、凛子先輩の事もだけど全部解決してあげるから」
えっ?
「私、これから任務でふうまと合流するのよ。じゃ、また明日ね」
ゆきかぜ!?
呼び止める間もなしで教室を出て行った、多分ゆきかぜも早くハッキリさせたいんだろう、・・・でも、
「おい、達郎。追いかけようぜ」
「鹿之助!?」
「もう俺だってウンザリなんだよ、ほら行くぜ!」
普段の鹿之助とは比較にならないくらい積極的だ、余程ストレスが溜まってるんだろう。
「分かった!」
ゆきかぜだけに任せる訳にはいかない、例え友達を失う事になっても!
あー、うん、ゆきかぜだもんな、腹芸なんかする訳ないか。
ふうまと合流した途端、全力で真っ正直に問い詰めてる、人の目何か気にせずに。
あれじゃ流石に駄目だと俺も鹿之助も、そしてふうまも同じ様に顔に手を当てている。
取り敢えずは任務に向かう事になったみたいで二人が歩き出した、それなりに離れて追ってるから会話の内容は聞こえないけど、ゆきかぜの反応が分かり易す過ぎて、後で話す事になったんだろうと理解した。
となるとこれ以上の尾行は不要で、少し落ち着いた俺達はどうしようかと思っていたら、二人がある建物の前で足を止めた。
おそらくは娼館、それもかなり高級志向の。
ドクン!!
心臓が物凄く跳ねる。
・・いや、任務で娼館が関わるのはよくある事だ、情報収集、標的の観察とか色々と利用価値が高いし、俺だって任務で静流先生と行った事はある。
・・でも、まだ学生の二人だけでは不自然じゃないか?
実際ゆきかぜも戸惑っている、でもふうまは足を進めて入っていく、・・・そしてゆきかぜも。
ドクン、ドクン・・・・。
心臓が更に大きく跳ね続ける、そして俺の脳裏には夢で見た凛子姉さんとふうまのあられもない姿がフラッシュバックして止まらない!
それだけで留まらず、遂には凛子姉さんがゆきかぜにまで変わって・・・・。
「・・・おい、おい、達郎、鼻血が出てるぞ!」
えっ!?うわっ、いつの間に!
鹿之助も相当慌ててるのか、逆にいつもの鹿之助でパニック状態だ、おかげでかなりの時間、人目を引いていた、・・・・だから、
「・・何をやっているんだ、お前らは」
兄様が五車から此方に戻られてるのに、御友人も一緒の為に待たされる事になりました。
貴重な時間が、・・いえ、お友達は大事です、時子(小)は理解ある妹ですので何も気にしていません、あの自称執事とは違いますから。
たとえ相容れない相手にでもデータを渡したり、邪魔の入らない様に兄様のスマホの設定を変更しておくといった、気配りができる妹ですから。
「「試験!?」」
「ああ、校長先生に頼まれてな」
つまり、ふうまの連続してた任務は同行してた女子への抜き打ちテストだったらしい。
「先ずは任務内容を明かさずで、状況からどれだけ中身を汲み取れるかからでな」
そこで情報の重要さを学ぶ為に。
「次に周囲に対する警戒心、相手に対する観察力」
見知った相手でも無条件に信じず、自身の目でも判断する。
「・・・ここまでが出来ていたら試験は終了だったんだ。・・・でもな」
「・・・えっと、全員駄目だったって事か?」
「・・・せめて半分でも出来ていたら口頭注意だけで済んでたんだがな・・・」
「・・・半分も出来て無かったと」
ふうまにとってもまさかだったみたいで、本当に疲れた顔をしているぜ。
あまりにも戦闘に考えが偏り過ぎているって事か。
「・・達郎、オマエも聞いた事はないか?秋山先輩が対魔忍は覚悟が大事だって言ってるのを」
「う、うん、よく言ってる」
「・・あれな、意味を取り違えてるんだよ」
対魔忍だから悲惨な目に合うのも辛い事をするのも仕方ない、正義の為だから、それは俺もそう思ってた。
「ただの失敗の結果だろうが、根本の問題から逃げてんじゃねえよ!」
失敗しない為に最善の努力をしたのか、まずはそこだろうと。
神じゃないから、人にはどうしようもない事もあるかもしれないが、それでも前提が間違っているって。
覚悟するなら、失敗しないようにだろと。
あと敗北イコール失敗じゃないって、次に繋げたらいいんだって、だから逃げるのは大正解だって。
死んでも任務は達成すべきなんて、そんなのはあくまで心構えで、死なれるのも捕まるのも周囲には大迷惑だと。
「・・・それに、悲惨な目に合ったのを克服してるように見えても、心に付いた傷が癒えきる事なんて、ないだろ・・・・」
・・ああ、そういうことなのか。
・・ふうま、かっこいいな、俺が女だったら惚れてたかも。
「そうかあ。・・・あれ?じゃあ完全に不合格だった凛子姉さん達は?」
「・・・俺が言ったのは内緒で頼むぞ」
実際に捕まったら、どんな目に合うかの疑似体験。
あの娼館はふうま一門が経営していて、責任者は当主の愛人の一人。
当主には内緒で今回の事を頼んだらしい、当然校長先生の認可を受けて、金も十分に払ってだ。
ノイ・イーズレーンっていう大魔術師にお願いして、後で害のない魔術道具を用意してもらい、相手役にはベテランと言ったらいいのか熟練の娼婦さんが対応。
ただ理由を聞いたとしても当人達が納得は出来ないだろうから、翌日にふうまが会う段取りをしてて、恨み言を受け止める予定だったらしい。
「まっ、俺は部外者だからな、丁度いいだろ。でも思ったよりは冷静に受け止めてたな、勿論真っ赤になって怒ってはいたけどな」
そりゃ三人共、ふうまに会ったら真っ赤になるだろうさ、嫌でも思い出すだろうし。
「じゃあ、あの壁ドンとかは何だったんだよ?」
「見てたのかっ!?頼む、アレは見なかった事にしてくれ、事情があったんだ」
アレは秋山先輩から男に対する免疫を上げたいと頼まれたからだって?
「あっ、そういえばアレを見たのは姉さんが任務から戻った日の次の日だ!」
「前日に頼まれてな、克服したいって。ホントに先輩、真面目過ぎるだろ」
俺達が見たのは訓練だったのかよ。
「で、でもよ、ふうま!いくらなんでもアレはないだろ?」
「・・俺、妹が多いだろ。まだ幼いけどヤッパリ女の子ってマセてんだよ。ちょっと早いだろって少女漫画も読んでて俺も読まされるんだ、感想求められて」
「ソレを実践したってのか!?」
「俺も理解できないんだけどな、何故か反応がいいんだよ、妹達にはむしろするようにせがまれてるし。だから試しにやってみたんだけど、・・・達郎、先輩ってチョットやばいんじゃないか?」
うん、全然ダメだったよな。
「・・・そんな姉さん、俺は知らない」
見た事の無い姉に達郎はショックがデカ過ぎたみたいで、またも放心状態だ。
あと此の家はふうま当主のセーフハウスの一つで、女子が娼館にいる間はこっちで寝てたらしい。
もっとも妹ちゃん達が帰ってきたふうまに遊ぶのをせがんできて全然眠れず、だから翌朝戻った学園では眠たかったんだと。
・・・まあ、ようやく謎は解けた。
妹ちゃん達に連れていかれたふうまを見送り、今日はセーフハウスで一泊となって俺も達郎もぐっすり眠れそうだ。
・・あっ、そういえば、ゆきかぜは?
「クク、俺の店で俺の耳に入らない訳があるか。こんな棚ぼた、食わないでどうする」
「アルベルタさんも当然分かってますし、ですから御館様の御指示も実行されてるでしょう」
行為中に小太郎への好意をさりげなく植え付け、後に一門へ引き入れる仕込み。
御館様にしては穏やかな方法ですが。
「馬鹿息子が、俺を出し抜こうなんざ二十年早い。・・利用できるものは何でも利用しろ、まだまだ甘すぎる」
「上原先生、迎えをありがとう、ご苦労様」
「まったく、これで四人共失格とは、せめて後の三人は何とかなって欲しいものです」
結果は残念だけど、だからこそ貴重な体験になったでしょう。
失敗を教えるのも教育、今ならそれが出来る、私達の味わった苦しみを繰り返す必要はないわ。
「しかし、校長、本当にあの男の息子とは思えませんね」
「そうね、彼の提案には本当に感謝よ」
「ただまあ、女心の機微には敏いようですが、女心の想いには鈍いようですね」
「・・そうね」
嫌われ役を進んで受けるような男の子の事を、本当に嫌う子がいると思ってるのかしら?
それに似てない事もないと私は思うけど、悪ぶっている割には非情に徹することが出来ず、不器用過ぎる優しさを見せる事のある彼に。
・・でなければ、あの子を産む事は無かった。
「ふうまああああああああ!!!!」
「どわああああああ!!ゆきかぜ、殺す気かあああああ!!!!」
・・・嫌ってはいなくても、表現が下手な子はいるかしらね。