ふうま父子二代の女難   作: 小次郎

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第十四話  戦力は過剰なのに不安は増大

 何か最近、皆して頭を突き合わせつつ人の様子見ばかりしてる気がする。

(どう思う、達郎?)

(どうって言われてもなあ)

 これまた声に出さなくても互いの思ってる事が理解しあえるのもそうだ、日常の行動で対魔忍としてスキルアップになっているんだよな。

 それで今日の観察対象は数日学園を休んでた相州さんなんだけど、

「えへへへ~~~♪」

 言っておくが誰も彼女と話してはいないし、近くにすら居ない、相州さんは一人で席に座ってるだけだ。

 だけど今みたいに、何かを思い出して照れ笑顔を漏らしたり、頬に両手を当てて顔を振りまくったりと、物凄く幸せそうな感じのオーラが溢れ出ていて誰も近寄れない。

 ・・まあ、間違いなく原因は同じように休んでたふうまなんだろうけど、今は其の名を出すのが憚られる、下手な事を言ったら火薬庫の傍で花火を打ち上げるようなもんだと思うから。

 俺や鹿之助と一緒に、それでいて殺気を漏らしつつ相州さんをガン見している井河さん達やゆきかぜの反応が恐ろし過ぎて。

「・・幸せそうね」

「満開の桜って感じかなあ」

「今の自分がどう人に写るか、全く理解していませんね」

バチバチバチバチッ!

「ヒ、ヒエエエエエエ!ゆ、ゆきかぜ、電気が漏れまくってるぞ!」

 御覧の有り様で、あと風遁で教室の端にいる磯崎さん辺りから「メス蛸が」って聞こえた、周りの小さな物音が聞き取れる様に使っている風遁の応用、便利だけど知らなくていい事まで知ってしまうのが地味に辛い。

 そして肝心のふうまが教室にいない、出席確認後に速攻でいなくなった。

 ・・横目でゆきかぜを見るけど、放電が一向に収まらない感じで、誰がどう見てもヤキモチを焼いている態度だ。

 ・・ハァ、もう俺、ゆきかぜの事は諦めた方がいいのかもしれないな。

 そんな事を冷静に考えられる自分に少し驚くけど、最近思い浮かべる事が増えてる女性達の事を思うと、ああ、そういうことなのかなって納得してしまう自分もいた。

 ・・・俺も、少しは大人になったのかな。

 だからといえ、ゆきかぜを応援とまでは流石に気持ちを整理しきれていない。

 そういえば凛子姉さんはどうなんだろう、ふうまとの訓練?は続けているみたいだし、・・あいにく一向に進歩が見られないけど。

 ・・しかし今の状況、改めて考えてみると他人事なのに冷や汗が止まらくなってくる。

 もし、もしも今の相州さんの態度が、口には出しずらいそういう理由からだったとしたら?

 そしてそれが事実だと判明した場合、下手すればふうまの命に係わるかも、・・・いや、流石に考え過ぎか、根は優しい子ばかりなんだから、そこまで過激な事にはならないよな?

「・・取り敢えずは小太郎を尋問ね」

「この時間帯だと中庭かな?じゃ、いつもの様に影縛りするよ」

「では私も器具を用意しておこう」

「どれくらいまでの電流に耐えられるかしら?」

「ヒィィィィィィィィ!!!」 

 ゆきかぜや井河さん達の言葉に、ガタガタガタガタと擬音語を当て嵌めれる位に鹿之助が震え始める。

 ・・やっぱりこうなるか、でもこれって既に結論は出てて白状させるだけだから、尋問じゃなくて拷問・・・ふうま、すまない、俺は無力だ。

 それで皆して中庭に向かって、予測通りふうまがいた。

 ・・いたんだけど、ふうま、お前って奴は、ホントにホントに・・・。

 

「・・・小太郎、説明しなさい。・・どうしてアスカと抱き合っているのかしら?」

「あら?アサギじゃない、久しぶりね」

 

  

ふうま父子二代の女難  第十四話

 

 

 東京キングダムにある娼館の一つ、クラブ「ペルソナ」。

 そこには仮面を付けたオーナーママ、通称マダム、そして裏では情報屋と中々にミステリアスな美女がいる。

 もっとも俺は親父から彼女の正体を聞いていて、甲河朧、エドウイン・ブラックに滅ぼされた甲河一族の生き残りであり、現在は米連のDSO日本支部支部長だ。 

 これまでに親父が散々利用されていて、切りたくても切れない腐れ縁とボヤいている相手だ、それなりの見返りは頂いてるがなと強がってもいるが、どうせ情事だろう、色ボケ親父が!

 そんな訳で俺も何度か協力させられたことがある、大体アスカとペアを組んでだが。

「つまり、馬超とかいう強化人間を始末しろという事ね」

「ああ、ヤバすぎる代物で早急に排除したいらしいが、マダムが別件で動けないんで止むを得ず五車へ協力を願ったらしい」

 正確には俺への依頼だが、現在の俺は五車に派遣中だからな、校長に話を通すのが筋だ。

 今回の件、俺としても気にかかる点が幾つかある、マダムもそれが分った上で話を持ってきたんだろう。

「・・それでどうしてアンタが付いてくんのよ、アサギ。依頼書にはふうまをと書いてあった筈でしょ!」

「私は小太郎の監視役よ。校長とマダムで話はついているわ、いいからアナタは黙って消えてなさい」

 光学迷彩で姿を隠しているアスカに、俺の護衛として同行してるアサギ。 

 この二人、顔見知りらしいが仲は悪い様だ。

「そうよ、こういうのを待ってたのよ。まったく、出し惜しみするんじゃないわよ」

 ・・そして、鬼崎きらら先輩。

 何処から聞きつけてきたのか、参加を希望、ではなく押し売りしてきた。

 普通は任務で個人の希望を聞くのはおかしいよな?だがそれも五車では罷り通るらしい、ちなみにアサギも似たようなものでだ。

 結果、四人での任務となった。

 鬼崎先輩は馬超の事で頭が一杯で、だからアサギとアスカの邪魔者扱いに気付いてはいない、そこは俺も気付きたくなかったが二人の態度が露骨すぎるし、むしろ気付かない鬼崎先輩に呆れを通り越して感心しそうだ。

 最強の対魔忍の後継者、鋼鉄の対魔忍、ハイブリッド対魔忍、・・戦闘能力で言うなら過剰な程の戦力なのに、どうしてこう不安が収まらないのか・・・。

 

 

 もう、面白くないわね。

 久しぶりにふうまとの仕事なのに、どうして余計なのが付いてくるのよ、それも二人も。

 アサギの実力は私に匹敵するし、もう一人も強さは対魔忍総隊長が保証してるから足を引っ張るとまで言わないけど、やっぱり不要よ。

 だって私とふうまは何度もコンビを組んでるから、互いの能力を熟知してるし息もピッタリよ、アサギたちなんて却って足手まといなんだから、・・・まあそれでもふうまなら上手く使うんだろうけど、だからこそ面白くないのよね。

 大体アサギ、アンタ男の事は毛嫌いしてたくせに、なんなのよ、そのふうまとの近さは。

 もう一人も馴れ馴れしくない?先輩面してるけど明らかに脳筋でしょ、五車の馬鹿の典型じゃない。

 まったくふうまったら相変わらず面倒臭そうな女と縁が有るんだから、やっぱり私がついてないと駄目よねえ。

 

 

 今回の事で決まりね。

 小太郎は今後、私達チームの監視下に置くよう母である校長へ進言するわ。

 そもそも同盟を組んだとはいえ素行に問題のあるふうま一門、その跡取りである小太郎を自由にさせておくのがおかしかったのよ。

 確かに有益な点は認めるわ、学ぶべきところもあったのは認めましょう。

 だけど女性に関する行動に問題が有り過ぎでしょ、いい加減に我慢も限界よ、よりにもよってアスカとも親しいってどういう事!

 ・・それに、鬼崎と言ったかしら。

 何なの、あの露出が過ぎる対魔忍スーツ、変態かと思ったわ。

 あと小太郎に対して随分居丈高よね、確かに小太郎は弱いけど補って余りあるものがあるのよ、分からない時点で小者ね。

 ・・でも分かったらコロッっと小太郎に・・・。

 なんてまさかよね、そんな簡単な女なんていないわよ。

 

 

 ウフフ、楽しみだわ。

 この生意気な後輩に私の凄さを嫌って程に見せてあげるわ、そして尊敬しなさい。

 ・・でもちょっと気になる事があるのよね、なんでコイツ、学園で有名な井河アサギや噂で聞いた事のある鋼鉄の対魔忍なんてのと知り合いなの?

 どっかの組織の跡取りだって聞いてたから、その線からかしら。

 つまりお義理って事ね、こんな弱い奴、女に好かれる訳ないし。 

 それなのにデレデレして、やだやだ、これだから男って嫌いよ!

 まあいいわ、取り敢えず感謝しなさい、アンタが頼まれた依頼は私が完璧に達成してあげる。

 だから任務が終わったら、御礼にケーキくらい御馳走させてあげるわ。

 

 

 

 

 

「御館様、こちらが例の件の報告です」

「おう。チッ、やはりか。あのガキ、少しばかり跳ね過ぎだ」

「はい、先日のゾンビ騒動に強化人間の売却、全方位に敵対の意を見せています。ノマドとの同盟もヒュルスト個人の勢力に過ぎません」

 亡き父弾正に従っていました二車家。

 御館様への帰順を拒み、独立組織として細々と活動していましたが、最近になって小太郎とそう変わらない年齢の二車骸佐が当主となり、以降急速に勢力を拡大しています。

 針で突けば破裂する風船に等しい危うさですが、二車家には私も知る優秀な幹部陣がいます、このままなら一勢力としてのし上がれるかもしれません、・・・このままなら。

「御館様、如何なさいますか?」

 どんなに無法地帯と言われても、生物が住めば必ずルールが出来ます、絶滅しない為に最低限必要ですから。

 強者だけで社会は成り立たたず、弱者がいての強者だからです。

 ルールを無視する者は周りが全て敵と化す為に必ず排除されます。

 世界に不要な存在として認識された者の末路であり、覆せる者など最低でもエドウイン・ブラック並みの力が必要でしょう。

「・・もう少し様子を見る。時子、潰された奴等に使えそうなのがいたら拾っておけ」

「・・御意」

 他勢力から見れば二車は同門であり、その行動は御館様の指示と疑うのも当然でしょう、我等にとって利が無く一刻も早く鎮めるべきなのですが、御館様の御決断なく動くわけにはいきません。

 退室し、秘書の災禍と今後の事を相談します。

「二車の先代当主が亡くなった時点で過去の禍根は終わる筈だったのに、・・そう上手くはいかないものね」

 先代二車当主は御館様に仕えなくても礼は取っていました、あくまで亡き父弾正に忠誠を尽くしただけで御館様個人への叛気は無かったのですから。

 独立後も交流があり、先代当主も他の者は気持ちの整理が付き次第、宗家で迎えてやって欲しいと言っていました。

「あの子にも困ったものね、昔から若様に対して複雑な感情を持っていたけど」

「そうですね、根がとても真面目な子でしたから」

 複雑な立場である為に幼い頃から必死に肩肘を張っていました、小太郎に対しても対等だと周りに示すように振る舞って。

「やはり災禍は、彼の行動が小太郎への対抗心と見ますか?」

「ええ、若様は着実に宗家当主への道を歩まれています。私を含め多くの者に望まれる程の器を見せて。・・あの子も悪くは無いけど若様には及びません、その事を最も実感しているのが彼なのでしょうね」

 


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