ふうま父子二代の女難   作: 小次郎

16 / 21
第十六話  時の流れは残酷

 ・・・これは、夢だな。

「殺しなさい、骸佐!弾正様を弑いて当主などと騙る男を、その息子を!」

 般若の如く鬼気を発しながら叫ぶ母御。

「あなたこそ正当なるふうま宗家の血を引く者、ふうま小太郎を継ぐ者なのです!」

 物心ついた頃から顔を見合わせれば、それだけを言われ続けた。

 二車が忠誠を捧げた先代当主が死した時に母御の心は壊れ、およそ公言出来る事ではない事を喚き散らす。

 隔離され、今でも己の世界に閉じ籠っている母御の夢。

 ・・目を開ける、もう慣れた事だ。

 此処は二車忍軍の新しきアジト、元は中華系組織龍門の支部であったビル。

 セキュリティーに関しては全て一新し十分な防衛体制を整えてあり、他勢力が攻め込んできても撃退できる、・・そう、何処が攻めてきてもだ。

 扉からノックがあり、執事の権左に他の者達が入室する。

「骸佐様、『大博徒』のボスが傘下にと求めてきやした。あそこは東京キングダム有数の闇カジノグループ、収入源として申し分ありませんぜ」

「ほう、機を見るに敏とやらだな。いいだろう、会おう」

 龍門からゾンビ化ガスを使いシマを奪い、これまでとは比較にならぬ程の地の支配者となった。

 だが反抗組織は相当数が残っている、この事が広まれば少しは静かになるか。

「流石は骸佐様よ、宗家の目抜けなどとは比べ物にならぬ器じゃ」

「煽てるな、矢車。それに、この程度で俺が満足していると思うか?」

「ゲヒヒ、これは失礼しましたな」

「ひょひょ、左様左様、目抜けなど骸佐様の眼中に非ずじゃ。この鉄華院卍鉄、骸佐様ほどの器はこの年にして見た事が無かったわ」

 執事である権左、幹部の矢車、そして室内に居るもう一人。

 ・・フン、権左と矢車はともかく、この妖怪爺に気を許す気は無い、見え透いた世辞を言いやがって。

 だが鉄華院家は二車家譜代の家柄、無下には出来ん。

「卍鉄、内調はどう言ってきている」

 そしてコイツは長生きしている分だけ顔が広い、その人脈は貴重だ。

「多分に協力したいと言っておりますぞ。向こうも政敵が囲んでおる五車が偽当主と手を結んだ事に危機感を抱いておるようですな」

 フン、偽当主か。

 正直なところ俺は別に嫌っていない、ふうま一門を再興した手腕には一定の敬意がある、口には出せないが一門を滅ぼし掛けた弾正を殺したのは当然だ。

「よし、利用できるものは徹底的に利用してやる。そのまま交渉を続けろ」

「ひょひょ、御意ですじゃ」

「矢車は三郎と雫を連れて潜伏先の分かった龍門の残党を殲滅しておけ」

「ゲヒヒ、承知」

「行くぞ、権左」

「ハッ」

 踏み始めた修羅の道、・・・アイツは必ず俺の前に立ちはだかるだろう。

 母御や周りの言葉など関係ない。

 出会った時から、ずっと胸に秘めていた。

 アイツを殺すのは、この俺だと。

 

 

ふうま父子二代の女難  第十六話

 

 

 へへ、懐が暖かいと気分が良いよな、一枚二~枚三~~枚・・・と。

 以前はちゃんと任務を達成できなくて報酬は貰えなかったけど、ふうまと組むようになってからは胸張って帰還できるようになって、忍術の幅も広がって少しは戦えるようになったし、説教ばっかりだった燐姉ちゃんも最近は褒めてくれるし、今すっげえイイ感じだぜ。

 明日は休みだし、久しぶりに羽を伸ばすとするか!

「お~い、達郎、ふうま。明日まえさきに遊びに行こうぜ」

「のった、丁度買いたい物があったんだ」

 買い物か、それもいいな、まえさきなら五車には無いデパートとかもあるし。

「ふうまも何か買うのか?」

「悪い、鹿之助。ちょっと用事があってな、俺はパスだ」

 ふうまは駄目か、残念だな、お礼も兼ねて奢ろうと思ってたのに。

 まあ用事があるなら仕方ないよな、ここは明るく切り返しとこう。

「なんだよ、デートか?」

 な~んてな。

 

「・・・まあな」

 

 ピシッ!!!って空間が割れたような擬音が俺には聞こえた気がした。

 し、しまった、余計な事言っちまったああああ!!

 視線が一斉に集まる、最早この教室内にいるのは、違うクラスとか、学年が違うとか、突っ込む気にもならなくなっている現状なのに、そんで見え隠れしてる爆弾の導火線に火を付けちまった。

 そしてその爆弾となる人達の視線が俺の背中にこう命令している、『相手が誰か聞け』、と!

 逆らえる訳もなく押されるままに聞くけど、デートの相手をふうまは明言しない、そりゃそうだろう。

 だがこのままでは俺の命が風前の灯火だ、涙目になってしつこく問い質す俺に根負けしたのか、ふうまがようやく答えてくれた。

「時子(小)だよ」

 ・・なんだ、妹ちゃんかよ。

 

「なにぃ、時子(小)ちゃんとだとおおお!」

「うらやまけしからん、許せん!!」

「ふうま、天誅!!!」

 

 以前に妹ちゃんが来た時に結成された、確かTokiko(small)・Body・Gard、通称T・B・Gとか言ったか、そのメンバーらしき奴等がふうまに襲い掛かろうとしたけど、うるさいって井河さんやゆきかぜ達に一蹴された、・・成仏しろよ。

 だけど時子(小)ちゃんとならデートじゃないだろ、ただのお出かけじゃないかと言ったら、ふうまが真剣な表情で首を横に振り答える。

 年齢は関係ない、女性がデートと言ったなら絶対に否定するなって。

 大袈裟なと思ったんだけど、周りの女子が頷いてる、さも当然て感じだ。

 そこから何故か、ふうまがデートにおける注意点を述べる事になって、聞いていたクラスメートから達郎をはじめ何人かがメモを取り始めた。

 最初の頃のデートで遊びは二の次、会話重視、特に女性の口数が多いのは自分を知って欲しいからで、だからこそ話してくれなくなったら終わりとか。

 基本は聞き手に回り、時折聞き返し確認する、言っている事が分からなかったら素直に質問する、流すのは駄目だって。

 等々とかなり細かい、実感が籠っていて何か生々しいし、ふうま自身の経験談なんだろうか?

 でもクラスで成績上位の男連中が、そんな下手に出られるかってふうまを情けないと馬鹿にして、男子の大半が笑って同意する。

 ふうまは何時も通り相手にしないけど、そいつ等は更に調子に乗って男の魅力とか語ってる、・・・バカだよな、女子の冷ややかな視線に気付いていないんだから。

 力があればモテると勘違いしてる典型だよな、そんなんだから頭の軽そうな女子にしか相手して貰えないのに、分からないのかねえ。

 ・・ま、おかげで導火線に付きかけた火が消火してくれたからいいけどな。

 そんな訳で今日は達郎と二人でまえさきへ遊びに来た。

 ゲーセンとか適当にうろついてんだけど、此処って五車から一番近い街だから知り合いと会う可能性は結構高いんだよな。

 だから出会って一緒にお茶でも、ってなるのもあると思う。

 ・・でもさ、それって生徒同士であって教師とじゃないよな、対面にいる燐姉ちゃんや高坂先生に言っても無駄だろうから言わないけど。

 奢ってくれるって言ってるし、デートじゃないけど昨日のふうまの話を実践するのもありかと思って付き合ってみたら、燐姉ちゃん達はかなりご機嫌で話が止まらず、多分二時間は過ぎたと思う。

 流石にそろそろ解放して欲しいと思ってたら、姉ちゃん達が顔を見合わせて頷きあった、そんで立ち上がってレジに向かったから俺達も慌てて追いかける。

 でも店を出たら、もう少し付き合えって言われて逆らえず付いていく事に。

 暫く歩いて、歩みが止まったからお目当ての場所に着いたみたいだけど、目の前の派手で煌びやかな建物、・・・これってラブホテル・・・だよな?

 ・・・いつにまにか先まで前に居た筈の姉ちゃん達が横にいて、それに、腕を掴まれているんだけど・・・。

 

「そろそろ卒業しておいた方がいいだろう」

「フフ、・・達郎くん、これもお勉強よ♪」

 

 

 

 ん?達郎に上原君の悲鳴が聞こえたような、・・気のせいか?

「どうかしましたか、凛子先輩?」

「いや、何でもない。うん、ゆきかぜ、似合っているじゃないか」

「えへへ、そうですか?」

 今はゆきかぜと共に服の試着をしていて、互いに感想を出し合っているところだ。

 まったく、昼の街中で腕に覚えのある二人が悲鳴など、ましてや此処はデパート店内、どう考えても有り得まい。

 そんな状況で幻聴とは、これも達郎への想いが止められないせいか、・・・実の姉弟であるのにな。

 特に最近の達郎は男らしくなってきた、後輩の女子とデートを重ねたり、高坂先生から個人指導を受けたりと対魔忍としても成長著しい。

 嬉しい事だが、やはり寂しいな。

 ・・ふうま君が五車に来てから、本当に色々と変わった。

 私も以前の試験で己の未熟さをこれ以上ない程に自覚できて、彼にお願いして訓練に付き合って貰っている。

 尤も成果は如何ともし難い、情けないが未だに慣れず心の臓を揺さぶられている。

 だが少しズルくも思うのだが、女の扱いに手馴れ過ぎているだろう。

 不快にならない範囲のスキンシップ、それでいてイヤラシさを感じないから心地良く、いつのまにか受け入れ私から身を寄せている始末だ。

 決して大事な部分には触れられていない、つい流れで唇を重ねそうになっても必ず止める、とても紳士的だが・・・私はそんなに魅力が無いのだろうか? 

 彼の周りには女性が増え続けているし、以前は達郎と最も近かったゆきかぜも明らかに・・・。

「凛子先輩!」

「うわっ!」

「もう、またボーっとしてましたよ、何か悩んでるんですか?」

「すまない、いや大したことではないんだが、どうにもな」

 本当はずっと頭から離れなくて、修練に身が入ってないと父から叱りも受けた。

 つくづく心とは難しいな、こんな私が斬鬼の対魔忍などと呼ばれ過剰な賞賛を受けていたのだから、本当に恥ずかしい。

 

 

 

 

 時子(小)とのデートを終えた俺は、五車に戻らずセンザキに足を向ける。

 センザキは首都圏有数の犯罪都市であり大繁華街だ、闇の勢力にとっても重要な戦略的拠点の為に抗争は日常茶飯事、ふうま一門も当然絡んでいる。

 俺の立場では一人で赴ける場所じゃない、だからこそ天音と蛇子に同行して貰っている。

「蛇子、若の御傍を決して離れるな」

「ハイ!」

「若、では私も予定通りに」

「ああ、頼む」

 天音が姿を消し蛇子と二人になる、とはいえ直に迎えの者が来てくれたが。

「ひ、久しぶりだな、小太郎、蛇子」

「ああ、久しぶりだな、紅」

「紅ちゃん、久しぶり~」

 俺達の幼馴染みであり、現心願寺家当主、心願寺紅。

 紅の祖父で前当主であった元ふうま八将、心願寺幻庵が隠居した為に、唯一の血筋である俺達と年が変わらない紅が後を継いだ。

 心願寺家は親父と祖父弾正の争いに中立の立場を取り、今では何処にも属さずに独立組織として成り立っている。

 これは心願寺家だけの話じゃない、他にも紫藤家や二車家に葉隠家など幾つもあり、親父が無理に宗家に従えとは言わなかったので敵対する事も無く、今でもある程度の交流は行われている。

「紅に会えたのは嬉しいが、当主のオマエが迎えに行くのは止められなかったのか?特にあやめさんとか」

「うっ、・・い、いいんだ!大事な客人に何かあったら心願寺家の面子に関わるし、それにセンザキは私にとって庭のようなものだからな、問題ないぞ、うん」

 それであのあやめさんが納得するか?・・・まあ、紅がそう言うならいいか。

 贔屓目なしに紅の強さは飛びぬけてる、・・・それになんとなくだけど、今そのあやめさんに銃口を向けられてる気もするしな。

「それで、小太郎、今日訪ねて来たのは、やはり骸佐の事か?」

「・・ああ」

 闇に生きる者なら誰でも耳にしてるであろう、その行いを。

「・・・御館様は動いていないんだろう?」

「だからだ。親父が動いたら宗家と二車だけでなく、最悪ふうまに連なる者全てを巻き込む争いになりかねない、そんな事に成ったらそれこそ対立している各組織の鴨葱だ。・・今だ、今、アイツを止める、その為に力を貸してくれ、紅!」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。