ふうま父子二代の女難   作: 小次郎

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第十九話  ぶつかり合う意志

「これもまた美味しいですね、銃兵衛くんが作ったのですか?」

「いんや違うぜ、時々通ってる料理屋に日持ちするのを頼んで、俺はそれをレンジで温めただけさ」

 魔術トラップを使った籠城拘束策は功を奏して、尚兄も俺の態度から抵抗は無益と判断したか、今はこんな感じで休戦状態になっていた。

「それは凄いですね。よく見かけます料理ですのに二日過ぎてもこれ程の味を維持しますとは、是非とも調理法をご教授したいものです」

 尚兄は感心してるが前はそうでもなかったんだよな、謎?のサイボーグ忍が店主代理の姉ちゃんに調理指導してくれたからだったりする。

 でもこれで料理はしまいだ、魔術トラップも二時間後には自動解除される、尚兄の足止めもここまでだ。

「・・尚兄、もうちょいで外に出られる時間だ。・・・無理に突き合わせて悪かった」

 何だかんだ言っても尚兄は面倒見の良さから無益な殺しはしない、だからこそこんな手段を取ったんだが・・。

「・・一応聞いておきますが、やはり小太郎様の指示ですか?」

「いや、正確には丸投げだよ」

「丸投げ?」

 俺の返事に尚兄が疑問を思うのは当然だ、でもよ、これが事実なんだ。

 一週間前、センザキのカジノに若が訪ねて来て協力を頼まれた。

 用件が骸佐の事なのは分かり切ってたが、俺も思うところあって二車家から独立したんだ、野望もある、それなりのメリットは提示されたが受ける気は無かった。

 こんな商売だからな、気持ちはどうあれ危ない橋は出来れば避けたい。

 だけどよ・・。

「若がなんてったと思う?『尚兄が厄介だから、銃兵衛、何とかしてくれ』、だぜ」

 溜息をつきながら身も蓋もねえ若の言葉をそのまま伝えると、鉄面皮な尚兄のポーカーフェイスに微妙な変化があった、・・よく分かるぜその気持ち。

「・・・それだけ、ですか?」

「ヒャハハ、これが本当にそれだけなんだよ、ったくよ!」

 自分の計画は全部話してきて、それでいて尚兄の事は全部俺に丸投げしやがった。

 策が考えられない訳じゃないらしいが、他の事もあるんで俺なら安心して任せられるから頼むってよ、もう呆れかえるわ気が抜けるわ、・・・それでいて少し嬉しくも思っちまうのが、一体どんな人誑しだよチクショウ!!

 おまけに俺のやる事を聞きもしやしねえ、首謀者がそれでいいのか!ってなもんだ。

 まったく、・・・でもよ、だからこそ分かっちまうんだ、器ってもんがな。

 ・・・骸佐、お前の器は若とは違う、人の上に立つもんじゃねえ。

 それなのに合わねえもんを無理に合わせようとするから、噛み合わずに歪んじまった。

 勿体無えだろ、お前に合うもんだってそうはお目に掛かれないもんなんだぜ。

 尚兄や他の奴等だって分かっちゃいるだろうに。

「・・・銃兵衛くん、私は誰が相手であろうと、骸佐様の為になら斬ります」

「・・・ああ、俺も若も知ってるよ」

 

 ・・・ケリは付いてんだろうな、若。

 骸佐を止めるのに加担したのは後悔してねえが、綱渡りした分の報酬を貰わねえと俺も色々あるんでな、頼むぜ、ホント。

 

 

ふうま父子二代の女難  第十九話

 

 

「ヒョヒョ、飛んで火にいる目抜けとは此の事かの。骸佐様、速やかに首を獲られるがよい」

 この部屋にいるのは俺に卍鉄、そしてコイツと蛇子だけ、確かにこんな機会は二度と無いだろう。

 殺すのは容易い、だがその前にコイツから事の全容を聞き出してからだ。

「・・オイ、お前は一体何をした?」

 卍鉄から報告を聞いた時は本気で耳を疑った、しかし事実を証明するかのように先程から部下がひっきりなしに指示を求めてきている。

 現実だと受け止めようとしても脳が否定する、そんな事が在り得るかと!

 それは俺達が奪ったシマのあちこちで起こっている、まさかの住民達による二車への抗議行動だった。

 

 

「アスカ、こっちから手を出したら駄目なの?」

「そうよ、あと住人達が手を出そうとしても止めるのよ、言っとくけど穏便にだから、いいわね、アンジェ」

「分かった、拘束する」

「うん、それでいいわ。・・・それにしても、ふうまの奴、変な依頼をしてくるんだから」

 

「ウオオ、二車のウンコ共、ぶっ殺してやるのだ!」

「待て待て、違うだろ、トラ!俺達のやる事は集まった人達の護衛だ、何度も言っただろ」

「でもアニキ、腹が立ってしょうがないのだ!」

「その気持ちは分かるが我慢だ。親父の言ってたことを思い出せ、『面子なんかより大切なもんがある』って笑ってた親父の言葉をな」

 

 

 住民達による武力行使無しのデモ行進だと、そんな平和ボケした外界のような出来事が何故起こる、全く理解できない。

 それに獣王会やペルソナといった組織の者も参加しているとある、だが住民達と一緒に同行しているだけで何もしてこないと、訳が分からず部下達の戸惑いも当然だ。

 いっそ手を出してくれればシンプルに対応できるだろうがそれも無い。

 ・・・一体何がどうなっている、ここは東京キングダム、闇が蔓延る地だぞ!

 そして此処で権左たち幹部が足止めされているのが効いてくる、いま現場では指示を出せる者や代表して交渉できる者が不在である為、決定権の無い部下達は俺に問うしかない、だが俺とて即断できる事じゃなく相談できる相手もいない。

 何ら対処できずで住民達の行進は停まらず、ゆっくりとだが確実にこのアジトビルへと向かってきている。

「言え!一体何をしたんだっ!!」

「骸佐ちゃん」

 蛇子が落ち着いてと言いたげに呼ぶが、今の俺にそんな余裕は無い。

「・・・仕掛けは俺だが、この地に住む人達のお前に対する答えがこれだよ、骸佐」

 住民の答えだと・・・。

 ・・業腹だが、どこか納得してしまう自分がいる、・・・あんな手を使う者に屈するくらいなら死を選ぶと心が訴える。

 だが懊悩する俺を嘲笑うかの如く発言する者がいた。

「ヒョ、流石は目抜けよ。自身の弱さゆえに他者を頼りよるとは。それも同じ力無き者をの、これを道化と言わず何と呼ぼうか、ヒョヒョヒョ」

「違うよ、ふうまちゃんは道化なんかじゃない!それに、蛇子知ってるだから!」

「何をじゃ、閨での事かの?ヒョヒョヒョ」

「骸佐ちゃんを唆したの、お爺ちゃんでしょ!ノマドや内調と手を結んでるのもお爺ちゃんの仕業だって全部分かってるんだから!」

「・・ほう、じゃが決めたのは骸佐様じゃ、全てを儂のせいにされるのは心外じゃの」

「そんなの「蛇子、いい、相手をする価値も無い」

「言うて「卍鉄、黙っていろ、話をしているのは俺だ!」

 蛇子の言う通り卍鉄が企みを持って俺に擦り寄ってきたことは分っていたさ、だが俺は俺の意思で立ち上がるのを決めたんだ。

 ふうま宗家に傅くのではなく、俺の理想とする真のふうまを興そうと!

 国の走狗などではなく、強き力と高き志を持つ誰にも縛られない真の忍びの一族を作ると!

 ・・・相容れはしないがコイツが目抜けと言われる腑抜けじゃない事は分かっているし、ふうま一門を大事に思っているのも知っている、・・・だからこそ負けるかと、そう思っていた、思っていたんだ。

「・・・これがお前のやり方か、いつから忍びではなく政治家になり下がった!」

 個ではなく集、力ではなく知、誇りより実利。

「それがふうま宗家次期当主の在り方かっ!答えろ、小太郎!!」

 愚かな政治家共と結託し走狗と成り果てるのがお前の道か!

 そんな事の為に父上や皆は闘ってきたというのか!

 絶対に、絶対に納得できるかっ!

 視界が真っ赤に染まりそうな程の激情に飲まれそうになる、今すぐにも殴り殺したいほどに、・・・だがそれよりも、優先しなければいけない事が迫っている。

 ・・・最早こうなった以上、二車は完全に手詰まりだ、ここでコイツを殺した所で何の意味も無い、・・・俺は・・・。

「骸佐、この地から去れ。抵抗しないなら手は出さないと約束して貰っている」

 コイツ!!

「ヒョヒョヒョ、目抜けよ、もう勝ったつもりかの?」

 卍鉄?

「骸佐様、外の事などお気になさらずとも良い、その首、とっとと御獲りなされ」

 何だ?こいつは何を言っている、状況を理解していないのか?

「お爺ちゃん、余計な事言わないでよ!それに街の人達みんなが怒ってるのを気にしない訳ないでしょ!」

 蛇子の言う通りだ、こうも大多数で行動に出られたら俺達だけではもう抑えようがない。

 一人二人なら最悪見せしめといった手段もとれるが数が違う、そもそも東京キングダムの住民なんだ、それなりに肝が据わっているし力も無い訳じゃないだろう。

 俺ひとりの意地で勝算の無い戦いに皆を付き合わせる訳にはいかない。

「・・卍鉄、何が言いたいんだ」

 此処に来て初めて小太郎が卍鉄の相手をした、今迄無視されていたので気分が良くなったのか、上機嫌で言葉を返す。

「ヒョヒョ、宗家の目抜けよ、小童ながらここまでの段取りは褒めてやっても良い。ホレ、そこの単純小僧よりは知恵が回る様じゃ」

 コイツ、今何て言った!

「なんだ、もう忠臣面は終わりか、卍鉄」

「フン、思うてたよりも使えんかったからの。勝てば官軍、この程度の事も分からんとは、所詮はあの愚かな弾正めの息子という事じゃな」

 !!

 その言葉に俺は激高し、刀を抜き放ち斬りかかる。

 だがその瞬間、俺の右手が弾け飛び血塗れと化した、衝撃から指が千切れていなかったのは奇跡に等しい。

「骸佐ちゃん!」

 蛇子が悲鳴を上げ近寄ろうとするがその右手で制する、・・・今のは卍鉄の天津麻羅か、金属を自在に変形させるという機械武装の天敵とも言われる邪眼。

 さっきのは手甲を変形されて右手を締め付けられた為か。

「ヒョヒョ、青い青い、この程度の挑発に乗る様では人の上になど立てやせんわ」

 くっ、ならば、

「止せ、骸佐!おそらく卍鉄は夜叉髑髏への対策を立てている、使えば奴の思う壺だぞ!」

「何!?」

「ヒョヒョ、どうかのう、試してみてはどうじゃ?それとも何か、ふうま宗家直系の者が馬鹿にしておった甥の言葉を信じるというのかの?」

「黙れ、卍鉄!」

 俺が口を開く前に小太郎が声を荒げる。

 そう、母者の言葉を信じるなら俺には二車の血が流れていないことになり、俺は現ふうま当主の異母弟であり小太郎とは叔父と甥の関係になる。

 意味を知ったのは何歳だったか、苦い思い出だ。

 あの頃の俺には余りにも重すぎて、何度も眠れない夜を過ごした。

 ・・・そう、何年かは。

 実際のところ事実は闇の中だ、二車の皆は否定しているし俺も認める気は欠片もない。

 俺が知る限り先代弾正は唾棄に値する外道であり、先代二車当主の亡き父者を俺は心から尊敬している、だからこそ卍鉄の毒言などで今更心揺らぐことなど無い!

 怒鳴り返した小太郎に比べ、逆に冷静になれた俺は卍鉄を見据える。

「・・・なんじゃ、つまらん反応よの。・・・まあよいわ、最早手遅れなのじゃからな、ヒョヒョヒョ」

 手遅れだと?一体コイツは何を企んでいる。

 

 

 流石は『槍の権左』、これ程に梃子摺ったのは時子とやりあった以来か。

 もっともあの時は邪魔が入らなければ私が勝っていたがな、うむ、やはり若の執事となる者は私をおいてありえぬ。

「ちっとは手心を加えてくれてもいいんじゃないかねえ?」

 倒れこんでいる権左が文句を言うが、己の修行不足を棚に上げるな。

 いや、若から二車の者を殺さぬように言われていたのだ、おそらく無意識に加減していたのだろう、流石は私だ。

「若に手間を掛けさせたのだ、当然の報いと思え」

「・・・やっぱりアンタと俺は絶対違う、というか認めねえ」

 何を当たり前のことを、これだから戦闘狂は。

「そろそろ二車の小僧も若に頭を垂れているであろう、お迎えに上がらねばな」

「・・・だったらいいけどな」

「ん?どういう意味だ」

 若が御膳立てした計画に非の打ちどころは無い、反撃の可能性などありえぬ。

 戦闘中に全て説明してやったら、エゲツないと褒めていただろう。

「・・・骸佐様は無茶はするが無責任な方じゃない、仲間の為になら若さんの要求も呑むだろうさ。だがよ、二車も一枚岩って訳じゃねえ、骸佐様を利用しようってのがいるって事さ」

 

 

 

 

 

 ・・・それくらい予測が付かないと思っているのか?

「既に鉄華院の者を遣わし、内調とノマドに援軍を申し入れておる、か?卍鉄」

「ヒョ!?」

 


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