ふうま父子二代の女難   作: 小次郎

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第二十一話  想いは人を強くする

 若君の御尽力で無事に二車家の騒動は収まり、かつて御館様と弾正様の争いを知る身として同胞の血が流れず済んだ事には万感の思いだ。

 この身がサイボーグと成り果てて迄も生を永らえたこと、天に感謝する。

 二車家が去った現場では若君が未だ有力者との話し合いに参加されているが、時子(小)様は流石にお疲れになられたご様子の為、私と共に本拠地へと戻り既に休まれている。

 時子様より御館様への報告は無用とのことゆえ、なればと娘の鶴の許へと向かう。

 足は部屋にではなくトレーニングルームへと、そして予想通り息を荒くしている鶴が居た。

「・・・鶴、気持ちは分かるが無理をするな、既に今日のカリキュラムは終えているだろう」

「ハァハァ、・・・父上、お言葉は有難くも、鶴は一刻も早く若君の許へ参り、御恩をお返しせねばならないのです」

 我が娘である鶴は任務にて手足を失い、現在リハビリ中だ。

 鶴の危機に私が出来たのは加害者を八つ裂きにする事だけだった、私より早く駆け付けた若君が満身創痍となりながらも鶴を護ってくださっていたのだ。

 亡き妻に似て気丈な娘であるが、手足を失うはショックだったろう。

 しかし元々若君に好意的であったのが現在は比較にもならぬ程と化している為か、気落ちどころかリハビリへの熱は高まるばかり、医師や技師の忠告も耳に入っていない状態だった。

 仇は倍返し、恩は百倍返し、亡き妻の信条を寸分の狂いなく鶴は継承していた。

「私も経験した身ゆえ分かるのだ。義手義足が心身に馴染むは時間がいる、こればかりは受け入れざるをえぬのだ、鶴よ、焦るでない」

 特に若君が五車に赴いてからは、最早娘ながら狂気の如くであった。

 だが止めねば、亡き妻より託された大事な娘、ここは心を鬼としてでも、

「駄目ですよ~、鶴さん。今日はもう、お・し・ま・い・ですう♪」

「!?、ユーリヤ殿」

 声の主は御館様付きのメイドであるユーリア殿だった。

 いつの間に、鶴に気を取られていた為かおられるのに気付かなかったとは不覚。

「・・・ユーリヤ様、私は大丈夫です」

「はい、鶴さんの気持ちは分かります。でも無理をしてると若様が悲しまれますよ、御存じの通りお優しい方ですから~」

「それは・・・・・」

 ユーリヤ殿の言葉に鶴の頑なさが解れる、この様子ならどうやら休んでくれそうだ、・・・全く、父とは無力なものだな。

「ですから、鶴さん、宜しかったらメイドの修行をしませんか?」

 ん?

「・・・メイド、ですか?」

「はい~。若様にお仕えするのならメイドになるのが一番だと思うんですう。リハビリも掃除やお料理等の日常動作を取り入れた方が効果的ですよきっと」

 確かに一理あるが、訓練を兼ねるとはいえ日常の自然な動作とあれば心理的負担も軽減するだろう、しかし・・・。

「何より、メイドは御主人さまの御傍で常に控えてなければいけませんから、そう、メイドとは御主人さまに全てを捧げる存在なのです!」

「!!、わ、分かりました!ユーリヤ様、どうか私にご指導をお願いします!」

「ええ、きっと貴女なら真のメイドになれますう」

 ・

 ・・

 ・・・

 ・・・・妻よ、もう娘に私が出来る事は無いのかもしれんな・・・。

 

 

ふうま父子二代の女難  第二十一話

 

 

 カラン♪

「これは骸佐様、それに権左に尚之助まで、何か御用の向きでも?」

「ハハ、そうじゃねえよ、優吾。少しばかりだが時間が出来たんでな、一杯やらせてもらおうと来ただけさ」

「それは重畳、さ、カウンターへどうぞ」

 私達を迎える酒場のマスター、何年も前から闇の都市ヨミハラに店を構え、二車家の草として動いてもらってます月遁の術”鏡花水月”の使い手、古賀優吾殿。

 この店に客としてくるのは私も初めてですね。

「骸佐様、何をお飲みに?」

「・・・任せる」

「承知。尚之助は?」

「私もお任せします」

「はいよ」

「おい、俺には聞かねえのかよ?」

「お前みたいなウワバミ、安酒で充分だろ」

「オイ!」

 気心の知れた者同士ゆえか普段より美味しく感じますね、骸佐様も無理に飲む付き合い酒の時と違い表情が柔らかいです。

 私達二車家がここヨミハラへ移り、ようやく全員の寝泊りが困らないところまできました。

 優吾殿がグラスを拭きつつ新たな話題を提供してきます。

「それにしても、まさか二車家総出でヨミハラに降りてくるとはね、あの時は驚いたよ。更にはヨミハラの支配者であるノマドが、我等二車に対し管理していない地域を好きにしていいなんてな」

「・・フン、奴等にとって俺達は犬扱いなんだろうさ」

 骸佐様の仰る通りでしょうね、目の届き辛い、もしくは利の無いと判断した地の見回り犬というところでしょうか、それでも寛大過ぎる条件なのは否定できませんが。

 その約定の立会人も、かの魔界騎士イングリッドです、他の勢力からすれば信じられない話でしょう。

 間違いなくヨミハラの全住民が驚愕したでしょう、そんな前代未聞な事をお膳立てをして下さったのは・・・・。

「・・・おっそろしいねえ、一体ノマドとどんな交渉をかましたんだか、宗家の若さん。そりゃ、あの悪鬼羅刹もドヤ顔になる訳だぜ」

「そうですね、私も銃兵衛くんから話を聞いてはいたのですが流石に信じられませんでした。・・・骸佐様、小太郎様とはどのようなお話を?」

 私が銃兵衛くんから解放され骸佐様と合流時には既に東京キングダムからの撤退は始まっており、そしてヨミハラに降り立つと直ぐにノマドとの交渉の場が設けられました。

 我らが一切関知していない骸佐様の迷い無き行動、理由は直前にお会いしていたであろう小太郎様との邂逅なのは明白です。

 これまでは敢えてお聞きしませんでしたが、今の骸佐様ならお話してくださると思うのです。

 私も権左殿も優吾殿も、ゆっくりとお待ちします。

「・・・アイツとは幾つか話した。ふうま一門の未来、その為に何を考えているのか、何を行っていくのかと・・・」

 その内容は私のような一忍びの考え及ぶ事ではありませんでした。

 骸佐様も納得はしていない御様子で、・・・ですが以前のような反発ではなく、小太郎様の真意を知りたい、横顔からそのような印象を受けました。

 同じように思われたのでしょうか、勇吾殿や権左殿が表情を崩されます。

「ハハハ、骸佐様も大人になられたねえ」

「だな、おっと不敬だぜ、優吾」

「・・・お前等」

 フフ、申し訳ありませんが私もそう思ってしまいました。

 ですが、これ程に喜ばしい事はありません、・・・小太郎様、感謝致します、この御恩は必ずや。

「今はアイツの事はいい。それにいくら約定を交わしたとはいえ、二車の力が強まればノマドも潰しにくるだろう、その他の勢力も率先して俺達を標的にする可能性が高い。三人共、力を貸してもらうぞ!」

「「「御意」」」

 

 

 このお店は私のヨミハラでの活動拠点、普段は酒場の体を装っているから魔族や傭兵の類が屯っているけど、今は五車学園の生徒達が揃っていて大半が所在無げな態度を見せてる。 

 そんな対魔忍の卵達を代表して、私とちょっと内緒な関係の男の子、秋山達郎くんが理由を説明してくれる。

「成程ね、いきなり二車家がヨミハラに総出で現れてノマドと約定を交わしたのは、そういう訳だったのね」

「はい、校長先生より高坂先生に伝えて欲しいと、そして二車家と誼を結び協力関係を築いてほしいとの事です」

 これはまた、大変な任務を任せられたわね。

 話を聞く限り二車家当主は対魔忍として、そしてふうま一族として強い意志と誇りを持ってる。

 傍から見ればノマドの手先にも見えるでしょうけど、そんな立場で甘んじる気は無いとみていい。

 勿論ノマドも無条件で放置する気は無いでしょうけど、これはとんでもない一事よ。

 二車家がこの事実に気付いているかは分からないけど、人界と魔界を繋ぐ魔界の門が現存するノマドの絶対支配域において、その喉元に人族の最前線基地を構築できる事になるわ、・・・これは国家はおろか人界レベルの案件よ。

 ノマドにも気付いている者はいるでしょうけど、基本魔族は人族を侮っている、だからこそこれ以上ない程の好機、静かに、そして迅速に事を運ばないと。

「・・・秋山くん、他には?」

「はい、そして俺を含めた此の場に居る者は、今後ヨミハラへ派遣する事が多くなり高坂先生の指揮下に就く事になるとの事で、顔見世とヨミハラの理解を深めるようにと言われ参りました」

 ・・・学生ばかり、名の知られてる者は抜きで、という事ね。

 上級生の、疾風亜矢子さん、長沼美蔓さん。

 そして達郎くん、磯崎伊紀さん。

 下級生の、磯崎伊織さん、速水心寧さん、櫛延澄香さん、熱川るみさん、と。

 人選の理由は分からないけど、指示には従ってくれそうな子たちね。

「後、今回の事案の発端であり、当の二車家と縁が深い、ふうまを必要とするなら可能な限りは派遣するとの事です」

 う~ん、そこはむしろ常駐して欲しい位なんだけど、まあ仕方ないわね。

 ・・・それにしても、ふうま君の名が出た時に全員反応したような、彼ってややこしい立場の割に随分任務に駆り出されてるから、みんな顔見知りなのかしら。

 

 

「おらあ、俺の枝豆はまだか、店員!」

「こっちもだ、早く俺のジンジャーエール持ってこい!」

「は、はいっ、今すぐに!」

 俺はヨミハラの住民に慣れる為と、酒場の店員をやらされてる。

 伊織ちゃん達も同じように働いてるけど、静流先生がお客さんを説得、というか恫喝してちょっかいを掛けさせないようにしたから、その御鉢が全て俺に回ってきていた。

「ウフフ、頑張ってね、達郎君、後でご褒美上げるから♪」 

 静流先生、勘弁してください、他の娘たちの目が白いし、伊織ちゃんからは尋常じゃない殺気が!

 やっぱ伊織ちゃんには静流先生との事がバレてる気がする、ふうま、教えてくれ、俺はどうすればいい!

 ん?

 何だ、窓から見える外から店内を見てる、魔族らしき娘と目が合った。

 その娘は目を反らすと入口に向かい店内に入ってきた、っていうか飛んでる?

「あら、夜蝶族の娘ね、珍しい」

「夜蝶族?と、とにかく、いらっしゃいませ」

 後で静流先生に聞いたんだが、魔界の深い闇に包まれた森に住む残虐な種族でノマドの一員らしい。

「・・・貴方、対魔忍よね、あの人は何処?」

「・・・えっと、どなたの事でしょうか」

「私と、一族と、固い固い絆で結ばれている、あの人」

 ・・・訳が分からない、おそらくあの人とやらも対魔忍なんだろうけど、せめて名前を教えてくれ!

「あ、あの、お名前を聞かせていただけません『バーーーンッ!!!」

 物凄い勢いで開かれたドアの音が俺の言葉を遮り、店内の注目はそちらへと移る。

 大音量の発信者は、チャイナ服を着ている女の子だった。

「静流、男の対魔忍が来てると聞いた、旦那様は何処だ!?」

 旦那様?・・・男の対魔忍って、俺?

「・・・達郎先輩?」

 ひぃ、知らない知らない、俺は暗黒オーラが漏れてる伊織ちゃんに必死に首を振る。

「春桃ちゃん、いきなりびっくりさせないで。男の子はいるけど旦那様じゃないと思うわよ」

「むっ、確かに違うな。そこの男、ちょっと聞きたい事がアルね」

「は、はい」

「私はゼシカ、聞いて」

「えっ、は、はい、何でしょう」

 俺の意思や状況はお構いなしで夜蝶族の子とチャイナ服の子が聞いてくる。

「私の旦那様、

「私と固い絆で結ばれている人、

「「ふうま小太郎を知らない(アルか)?」」

 ・

 ・・

 ・・・

 ・・・・

 ・・・・・刻が、止まった。

 そして俺は、普段から使っている風遁での小さな呟きすら聞き漏らさない術の行使を心底後悔する。

(・・・彼は私の運命の相手よ)

(私の先輩に対して何をいっているの)

(私の王子様を狙う慮外者め)

(((私の・・・・・・・・・・・・・・・)))

 

 愛が、重い、重すぎる、・・・ふうま、お前はどうして生きていられるんだ?

 お客さんがお金を置いて無言で出ていく、待ってくれ、俺を置いていかないでくれ!

 この後に起こった事を、翌朝に起きた俺は何故か覚えていなかった。

 ただ、俺の両隣で静流先生と伊織ちゃんが裸で寝ている、それだけが事実だった。

 

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