ふうま父子二代の女難 作: 小次郎
闇の無法都市ヨミハラ
東京の300メートル地下にある広大な空間には、多くの人魔によって大小無数の組織が存在し、その名の通り混沌と化した都市。
クッ、ヒュルストめ、余計な事をしてくれる。
「エレーナ、留守を任せたぞ。リーナ、付いてこい、急ぎセンザキへ向かう」
「は、はい、承知・・致しました」
「直ちに。ですがイングリッド様が直々に地上に向かわれるなど、一体何が起こったのですか?」
忠実な部下への指示を出し、急ぎ足を進める。
「悪いが説明している時間が惜しい、道中で話す」
ふうま父子二代の女難 第三話
「ふうま、早くしなさい!」
「わ、分かってる。もうすぐ終わるから」
う~ん、お姉ちゃんにも困ったもんだね。
いくらこた君を急かしたって、データのダウンロード速度なんてどうしようもないじゃん。
むっちゃんもどう仲裁したらいいのか困ってるよ。
「一秒が生死を分けるのよ、私達の足を引っ張らないで!」
お姉ちゃん、最近こた君への遠慮が無くなってきたというか、態度が厳しくなってきてるんだよね、勿論悪い方で
・・そりゃ私達は色々な意味で有名なお母さん達の娘だから、対魔忍や男というものに対して複雑な気持ちになるのは分かるよ、分かるけどさ、こた君に八つ当たりするのはどうかと思うんだけどなあ?
お姉ちゃんも悩んでるんだろうけど、それでもちょっとねえ。
五分程経ってようやくダウンロードが終わった、重苦しい雰囲気で一時間以上に感じたたけど、どうにか任務は達成、急ぎ部屋から出てビルの裏口から脱出したら、
「ようやくお仕事は終わったかい?これ以上待たせるってんならお迎えに行こうかと思ってたところだよ」
「これはこれは貴重な検体が四つとも勢揃いとは、あの情報屋、なかなか良い仕事をしてくれたものです」
地上に向かう中でイングリッド様より事情をご説明頂いたが、正直なところ、剣に生きてきた私には組織の論理などさっぱりだ。
どうも最近、日本政府の手先である対魔忍と、中堅規模の何かと耳にしたことのある組織、ふうま一門が手を組んだらしい。
イングリッド様にはお気にかかることがあるらしく様子見をしていたのだが、そこに我らがノマドの幹部ヒュルスト様が同じく幹部である朧様を焚きつけて、よりにもよって対魔忍総隊長の娘やふうま一門の次期当主を拐かそうと動いたらしい。
現時点では娘や次期当主にそこまでの価値は無い、だが曲がりなりにもトップの身内に手を出すなどすれば感情的にも面子においても親は妥協など出来まい。
如何にエドウイン・ブラック様が束ねる強大なノマドといえど、全てを敵としてしまうのは愚行であり短慮だそうだ。
私は敵対するのなら潰せば良いし、しないのなら干渉しなければいいだけだと思うが、流石にイングリッド様ほどの御立場ではそうもいかないらしい。
「あの本能でしか生きていない者共め、親への恨みを子で晴らそうなどとは!」
それは確かに騎士としては受け入れがたい、子に何の罪があろう。
正々堂々、親への恨みは親に向けるものだ。
「事の次第によっては剣を抜く事態となる、リーナよ、心して置け」
「ハッ!」
くっ、速い!
「遅い遅い遅いねえ、本気を出していいんだよ、アハハハハ♪」
朧、聞いた事はある、母さんに何度も倒されながら遂には吸血鬼とまでなり復活した元くノ一。
「対魔殺法・刀脚!!」
「だから遅いってば♪」
「グッ!」
刀脚を躱され、空いた鳩尾に一撃を食らい吹っ飛ばされる。
「アサギ様!!」
「駄目だ、紫!ヒュルストから目を離すな!」
「し、しかし・・」
あのアサギ様が完全に翻弄されている、あれがノマドの幹部、裏切りの対魔忍、朧。
「ならばヤレ男、ヒュルストを倒させてくれ!」
「先も言ったが駄目だ!その禿野郎は絶対に罠を用意している、攻め込めば奴の思う壺だぞ、今は迎撃に徹するんだ!」
ヤレ男は私達より闇に精通している、その判断は間違いないだろう、・・だがこのままではアサギ様が。
飛ばされたアサギは何とか立ち上がるが、追撃してくる朧の鉤爪に傷付けられていく。
助けに入りたくても俺が入り込める戦闘レベルじゃない、言葉しか出せない自分に歯噛みしつつ、他に敵はいないか、使えそうなものはないかと辺りを見回す。
考えろ、考えろ。
紫とヒュルストでは相性が悪すぎる、下手な事はできない。
朧の方はアサギならばと思ったが、残念だが朧の強さが上回っている、校長先生と何度も死闘を繰り広げていたのは伊達じゃなかった。
ならば残るはさくらだが、そのさくらは既に此の場から逃走している。
「まったく下賤な人間でありながら高貴な私の邪魔をするなど、それ相応の報いを受けていただきますよ」
「フン、己の事を棚に上げてよく言ったものだ。どうやら高貴さと知能は比例しないらしいな」
「黙りなさい、縮こまっているだけの羽虫の分際で。よろしい、この者たちで相手をしてあげましょう」
ヒュルストが何やら唱えるとオークが五体召喚された。
「ヤレ男!」
「紫、ヒュルストは俺が見張っておく、すまんがオークの相手を頼む」
「大丈夫か?・・いや、わかった!」
オークの登場で危険度は更に上がったが俺はコレで確信に変わった、ヒュルストに直接介入の意思は無いと。
俺程度に自身で攻撃してこないのも、おそらくは罠での捕縛に固執しているからだ。
勿論俺にもオークは襲い掛かってきてるが、こいつ等のスピードなら俺でも何とか躱せる。
倒すのは紫に任せたらいい、同じパワーファイターでも高い技術も持つ紫はオークとは格が違う、そして紫なら、
「紫、オークをアサギ達の方にブッ飛ばしてくれ!」
「そうかっ!!任せろ!」
紫が戦斧の刃を寝かせオークを痛打する。
自分で頼んでおきながら、オークの巨体が弾丸のように飛んでいくのを見て肝が冷えたのは内緒だ。
とにかくオーク飛ばしは功を奏し、朧がアサギから離れてくれたので急ぎ合流する。
アサギはかなりやられてるが動く事は出来そうだ。
「ちょっと、この豚共を引っ込めな!邪魔なんだよ!」
「おやおや、手こずっていたようですのでお手伝いしただけですのに、心外ですな」
朧たちが仲違いを始め、決定的な打開策はまだ無いが形勢は変わりつつある。
そんな小さな希望が灯し始めた時、
「見苦しいぞ、ブラック様の御名を汚すつもりか!」
ヒュルスト達の背後から何者かが現われる。
あれは、魔界騎士イングリッドか?
「何よ、邪魔しに来た訳?」
「これはこれは、態々ご自身でいらっしゃるとは思いもしませんでしたな。そこの小間使いぐらいは来るかと考えておりましたが」
「我が部下への侮辱は許さぬぞ。だがその通り、貴様等を止めに来たのだ」
どうやら味方のようだ、助かった。
ま、そうだよな、朧やヒュルストみたいな奴しかいなかったら組織なんか成り立たないからな。
ちょっとでも良識を持ってたら、たかが首三つで対魔忍やふうま一門と全面戦争なんて割に合わないって分かるだろ。
アサギは悔しそうだが口は挟まない、ちゃんと状況を理解していてよかった。
「そう、止める為に来た、・・・そのつもりだった」
ん?
イングリッドが此方に近づいてきて、俺に剣を向ける。
「ふうまの跡継ぎ、貴様は危険だ、あの男とは別の意味で危険だ」
そうだ、娘たちは母親たちにまだまだ及ばぬ、放置しても問題は無い。
だがコイツは違う、戦わずに大きな戦力差を拮抗させ事態を膠着させるという、我々魔族からすれば余りにも得体の知れない力を示した。
もしも将来コイツがこの理解し難い能力に加え、あの男のように邪眼を会得したとしたら、ノマド、いやブラック様にすら危害を及ぼしかねない存在と成るやもしれん。
そんな芽を見逃す訳にはいかぬ!
私の行動に朧が便乗しようと横に並んでくる。
「何だい、ヤルってんならっ!?」
朧が突如現れた刃を弾き返し、影から新しい対魔忍が姿を現す。
「う~ん、おばさんやるねえ、完璧に不意を突けたと思ったんだけどなあ」
見覚えのある顔に言動、・・本当によく似ているな。
「さくら!」
「おっ待ったせえ、援軍もうすぐ来るよ♪」
援軍?どういう事だ。
どうやら間に合ってくれたようだ。
苦虫を嚙み潰したような顔を見せるヒュルストの顔を見て溜飲が下がる。
ヒュルストと朧が現れた時、私は動揺もあり気付けなかったが、ヒュルストは検体が四つと言った、・・その時のさくらは陰に潜んだ状態だったのにだ。
つまりさくらの事も情報で掴んでおり、さくらの影遁に対する備えもしていると語ったも同然。
ヤレ男は直ぐにその事に気付き、さくらを走らせたのだ。
そう、コイツの失言によってさくらは姿を消していたんだ、・・ヤレ男の指示で援軍を呼ぶ為に。
「・・今回は退く、ふうまの跡取り、覚えておくぞ」
「チッ、仕方ないね、やっぱり無能となんかつるむもんじゃないわ~」
「・・この屈辱、決して忘れませんよ」
捨て台詞を残し三人は姿を消した。
張っていた気が落ちたのかアサギ様がふらつく、だがヤレ男が支え事無きを得る。
「・・放して」
アサギ様の抗議をヤレ男はスルーし素早く背に背負った。
「ちょ、降ろしなさい!!」
「まあまあ、確かにちょっと重いけど、怪我人の女の子を歩かせるわけにはいかないだろ」
・・・ヤレ男、一言多い。
「・・だ・れ・が・重い・ですってええええ!!!」
「ぐえええええ、ぐる・ぐるじい、死ぬ死ぬ」
「ニャハハ、お姉ちゃん、デザート食べすぎ~」
ふむ、アサギ様がお元気になったので良しとしよう、救援に来た者達に目を白黒させる事となったがな。
極上の料理に美味い酒、窓の外には美しい夜景、そして艶やかなドレスを身に纏った美女。
男なら誰もが羨む一時であり、更に後の情事を期待出来るときては表情を取り繕いつつも心が緩むのは仕方あるまい。
だが同席している空気を呼ばない野暮な女、対魔忍総隊長は下らない浮世事を囀ってくる。
「そんな訳で貴方の息子さん、これから大変な事になりそうよ」
「フン、アイツはそっちに放り込んだんだ、俺の知った事か」
アイツの話なんざ折角の飯が不味くなる。
「そう?・・それにあの娘たちも、徐々に闇の世界に名が広がり始めてきたわ、今後否が応でも危ない橋を渡る事になる、対魔忍を辞めようとも、ね」
「・・・・・・・・・」
修羅の道に後戻りはない。
己の人生を振り返っているのか、いま此処にいるのは最強の対魔忍ではなく娘の心配をする只の母親。
掛けれる言葉など、無い。
「だから、彼を遣わしてくれのね。貴方が手塩に掛けて育ててきた大事な息子を。・・貴方の娘を護る為に」
「・・・何の事だ」
「フフフ、あの娘、あれでも毎年贈られてくる誕生日プレゼント、楽しみにしてるのよ。口では色々と言ってるけどね」
「・・・・・・・・」
・・何やら冤罪を掛けられているようだが俺のあずかり知らぬ事だ。
・・だが楽しそうに話す様子に少々気が変わった。
後で持ってきたブツは全部この女に使いきってやる、と固く夜景に誓う俺だ。