ふうま父子二代の女難   作: 小次郎

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第六話  誰の為のデート?

 いい天気だ、しかし行くのが学園だと思うと曇り空だ。

 今日は蛇子と一緒に登校だ、風紀委員の仕事は無いらしい。

「ふうまちゃん、急がないと遅刻しちゃうよ」

 ・・大丈夫だ、予鈴一分前には着く、素人には焦る時間でも分かる人間には分かる、入学して三ヶ月も経っていないが俺の経験則は確かだ。

 だから素人だと、

「うわああああああ、遅刻遅刻遅刻ううううううう!!」

「ゆ、ゆきかぜ!!前!!前!!」

 きちんと前方確認もせずに善良なる一般市民に衝突するという、迷惑かつ社会秩序に反する行為に及んでしまう訳だ。

「あいたたたた、ごめんなさい、怪我は無い?・・・って、ふうまじゃない!何処見てるのよ!」

 俺と分かれば高速の手の平返し、しばくぞ、この貧乳!!

「ゆきかぜ、大丈夫か?ふうま、すまない」

 傍若無人なゆきかぜを心配し、そのゆきかぜに代わり俺に謝る達郎。

 転入してクラスメートが俺を遠巻きにする中、達郎と鹿之助は早々に友人と成れた、凶暴な幼馴染や親族を持つ者同士でシンパシーを感じたのかもしれない。

「なんで達郎が謝るのよ!コイツが全部悪いんじゃない!」

 御覧の通り、次期対魔忍のエースが一人と目される水城ゆきかぜは、俺に対しかなり辛辣な態度をとるクラスメートだ。

 だが堂々と批判はするが他生徒の陰湿な行為には反対姿勢を取り、達郎が俺の友人となるのを止めたりもしなかった、根は悪い奴じゃない。

「授業にちゃんと出ないし、すました顔して本ばかり読んでるし、最初は仲悪そうだった井河さん達とは急速に仲良くなってるし、他にも・・・・・・」

 悪く・・ないよな?

「何より訓練中に私の体をいやらしい目で見ておいて、途中からは憐れんだ目で見ていたのよ!」

 悪いだろ!どれだけ偏見まみれだ、この俺が今さら青臭い女子学生に欲情する訳あるか!

 ・・だが俺の人生、女の理不尽さは身に染みて味わってきている。

 あのやりたい放題の親父にも、女には可能な限り逆らうな、とコンコンと諭された程に。

 そして、こんな時の対処法は、

「ゆきかぜ、見ていたのは間違いないが俺は単に見蕩れてただけだ、いやらしい気持ちじゃないぞ」

 穏やかに、否定ではなく、持ち上げる。

 最初はキョトンとしていたゆきかぜだが、俺の言った言葉を理解したのか、少し顔を赤くしつつムキになって否定してくる。

「な、何言ってるのよ、調子のいいこと言って!どうせアンタも寂しい身体だって思ってんでしょ、そうに決まってるわ!」

 うむ、想定通りの返答だな。

「何を気にしてるか知らんが、俺はオマエのプロポーションはとても魅力的だと思ってるぞ」

 真面目な顔で即答、表情筋は絶対に崩すな。

 完全に狼狽え照れ始めたゆきかぜは、両手の人差し指を突き合わせながら俺に上目遣いになって、更に何かを期待し始める。

「・・だって、凛子先輩に比べて、子供っぽいし」

 ここまでくれば後は止めだ、ん?達郎の奴、何を呆けてるんだ?

 オマエも色々と苦労してるんだろう、今から俺が手本を見せてやるから、しっかり覚えとけよ!

「確かに凛子先輩は大人っぽいから憧れる気持ちは分からなくはない、だがな、逆に言えば凛子先輩にはオマエのような、躍動感がある綺麗なボディラインは、どうあがいても望めないものだ。女性はスタイルだけじゃない、髪型や衣装、化粧だってそうだが、本当に皆オンリーワンなんだ。ゆきかぜ、オマエは自分の魅力をまだ全然出し切れていないんだぞ!それなのに現時点でも恐ろしく高レベルだ、末恐ろしい位だぜ、まったく、ヤレヤレだ」

 ゆきかぜは真っ赤になって完全に沈黙、フッ、勝った。

 達郎は、・・まだ呆けてるな、最後にもう一つアドバイスしておくが、絶対に途中で止まるんじゃねえぞ、最後まで押し切る事を忘れるなよ。

 さて、もう完全に遅刻だが学園に向かわないと、む、蛇子の表情が硬くなってるな。

 分かってるさ、女を褒める時はその場にいる全員を褒めるのも鉄則。

 俺は今度は蛇子を褒める為に目の前に立って話しかける。

「蛇子」

「な、何、ふうまちゃん」

 よし、俺の言おうとする事に気付いているな、ならば期待に応えてやらないと。

 だが普段から傍にいる為、抽象的な褒め方では駄目だ、逆に白々しく感じられかねない。

 実感を伴わすには在りのままを大きく称えるのがいい、そう考え普段は他人にしかしない観察を蛇子にしてみる。

 ・・小柄で150ないか?

 ふむ、ロングヘアーの先をリボンで止めて、髪質も柔らかそうで綺麗だ、そういえばあのリボン、昔に俺があげたヤツか?

 顔立ちは可愛い系で、うん、美少女だ。

 頬に手を当ててみて、肌はきめ細かくピチピチだな。

「ふ、ふうま・ちゃん?」

 胸もこんなに育ってたのか?89、いや90?Hカップだと!?

「ちょちょちょちょ・・・」

 腰も細い、58。

「なななななな・・・・」

 尻も太ももも柔らかく張りも抜群、申し分ない。

 ・・・参った、褒めるところを探すどころか褒めるところしかない、脱帽だ。

「ア、アンタッ、一体なにしてんのよ!!」

「ふうま、やりすぎ!」

 なんだよ、うるさいな、俺は今から心底本心で蛇子を、

「ふうまちゃんのエッチいいいいいい!!!」

 顔を真っ赤にした蛇子が大音量で叫ぶ、そして口を窄め、

 ぶっしゅううううううううううううううううっ!!!!!

 ・・・大量の墨を噴き掛けられた、・・・何故だ。

 

 

ふうま父子二代の女難  第六話

 

 

 午前の授業が終わって、ふうまや鹿之助と一緒に屋上で昼食を取ってるんだけど、正直言って野外でもふうまからの臭いがキツイ。

「やれやれ、蛇子のせいで授業に参加出来なかったな」

「そりゃ、そんな臭いを教室内で撒き散らされたら授業に集中なんて無理に決まってんだろ。ふうま、もうちょっと離れろよ、メシが不味くなる!」

 ふうまが言うには相州さんの墨は魚臭さが三日は落ちないらしい、シャワー程度ではどうにもならないと。

 だから普段なら食堂での昼食なのに屋上で取ってる訳だ、此処にも生徒はいたけど白い目でふうまを睨みながら急いで離れていったし。

 とりあえず買ってきた焼きそばパンを食べる。

「・・で、達郎、俺に何の話があるんだ?」

「えっ!?」

 ど、どうして分かったんだ?切り出すタイミングを計ってたのに。

 心の準備が出来てなかったから口籠ってしまった、そのせいでか、ふうまが勘違いしたのか謝ってきた。

「ああ、その、今朝の事は悪かった。別にゆきかぜを口説こうとかじゃなくて、身を護る為の条件反射というか、とにかく深い意味は全く無いんだが不愉快な気持ちにさせちまったか、すまん」

 「いや、その事はいいんだ。そうじゃなくて、ほら、以前の高坂先生が指導での任務があっただろ」

 誤解だけど一先ずは気にしていないと伝える、でも、その事に関しては確かに複雑だった。

 何だかんだ言ってても、あれは仲が悪いじゃなくて寧ろ逆で、俺の見た事の無い、ゆきかぜだった。 

 ただ、今朝の事は自分でも上手く言えない感じで、この気持ちは二人に対しての不満とは違う気がするんだ。

「あれの事か?静流がサポートに入って、磯咲姉妹、それと何故か俺が加えられた偵察任務」

「そう、それ」

「へえ、いいなあ、花の静流とも言われてる高坂先生と一緒に任務かよ」

 異名通り艶やかっていうか、凄く色っぽい先生だ。

「花、ねえ?俺には食虫植物のように思えるがな」

「ふ、ふうま、それは言い過ぎだ」

 本音では同意しかけたけど。

 結論で言えば失敗した任務なんだけど、何故か評価は優とされた。

 だからなのか、その後に静流先生からの指名で二回ペアを組むことになって、任務も上手くいったからか少しは信頼されたみたいで、普段からも静流って名前呼びをするようにと言われたんだ。

 ゆきかぜや凛子姉さんに比べて地味だけど、対魔忍として少しは認められたのかと思うとやっぱり嬉しい。

 ・・あと、静流先生のスキンシップが刺激的で、理性を保つのが本当に大変だった。

 まさかその事がバレてる訳じゃないと思うけど、ゆきかぜと凛子姉さんから任務活動の詳細、というより静流先生の事を執拗に問い詰められた時は気が気じゃなかった。

「ふうまって色んなメンバーと組まされるよな、任務内容も多種多様だし」

「それについては俺も文句が言いたいぞ、おかげで色々と絡まれてるからな」

 ・・う~ん、多分、意図的だろうな。

 俺も任務を組んでみて分かったけど、ふうまは判断力や他人とのコミュニケーション力がとても優れてる。

 一癖も二癖もある一匹狼みたいな人達が任務後はふうまによく声を掛けているのも、おそらくはその人達の協調性を高めたい校長先生の狙いなんだと思う。

 ふうまと普段は言い争いばかりしてるゆきかぜも、任務ではふうまの指示に従ってるらしく、以前に比べて現場破壊率が極端に落ちたらしい。

 実際の所、所属が五車じゃないふうまは隊長じゃないんだけど、自然と隊長の位置に落ち着いて皆も納得してしまう、やっぱり次期ふうま一門当主の器だからかな。

 って、そうじゃなくて、相談したい事が、

「ふうま君たち、今日は屋上でお昼ご飯なの?」

「おう、伊紀か、まあな」

 クラスメートの磯咲さんが何時の間にか現れて声を掛けてきた。

 話の腰を折られた状況だけど、実のところ全く無関係でもないから相談事がまた宙に浮いてしまう。

「あっ、そうだ。ふうま君、これ私が使ってる香水なんだけど、良かったら使ってみないかしら?香り付けより体臭を抑える対魔忍向きのだから」

 へえ、対魔忍としての意識が高いな、感心する。

「いいじゃん、ふうま、使わせて貰えよ、俺も助かるからさ」

「悪いな、じゃ、借りるよ」

 ふうまが受け取ろうとしたら、慣れている私がって磯咲さんが自ら各所に噴き掛けてあげてる。

 あっ、ひょっとしたら其の為に態々屋上まで来たのかな、普段から親切な磯咲さんらしい、・・それとも、ふうまだから、かな?

「おっ、ちょっとはマシになったじゃねえか、ふうま、磯咲さんに感謝だぜ」

「そうだな、サンキュー」

「うん、お役に立ててよかったわ」

 確かに、でも俺には香水を納める為に背を向けた磯咲さんの漏らした微かな言葉に戦慄を覚えていた。

 ふうまに普段から風遁を使って周囲の音を拾えるようにするといいって、アドバイスを受けてたのが仇になってしまった。

 

 私以外のメスの臭いなんて、と。

 

 いや、きっと幻聴だ、そうに違いない、だって、あんなに優しい笑顔でふうまに・・・。

 でもその笑顔が消えて俺を見据える、蛇に睨まれた蛙と化す俺。

「秋山君、私がこんな事を言うのもなんだけど、妹の伊織がデートの返事がまだの事に凄く思い悩んでるの」

「えっ!?い、伊織ちゃん?」

 ・・良かった、その事か。

「何、デートだって!ずるいぞ、達郎、羨ましい」

「へえ、伊織ちゃん、積極的だな」

 そう、俺はその事でふうまに相談したかったんだ。

 先の偵察任務で磯咲さんの妹の伊織ちゃんと二人で行動する状況に陥って、助けてくれたお礼がしたいと映画に誘われたんだ。

 いくら俺でも額面通りに受け取るほど鈍くない、どれ程かは分からなくても好意が基にある事くらいは察せる。

 正直に言えば嬉しい、可愛い後輩に好かれるなんて想像したことも無かったし。

 でもその事を考えると、ゆきかぜや凛子姉さんが脳に浮かんで冷や汗が止まらなくなる、だけど断るのは申し訳ないし、一体どうしたらいいんだ!

 だから藁をも掴むつもりで、女性との付き合いに慣れて居そうなふうまに相談しようと思ってたんだ。

「考え過ぎずに楽しんできたらいいんじゃないか?」

 駄目だ、慣れ過ぎてて参考にならない。

 鹿之助はデートならSNSとか雑誌でとか言ってるけど、ふうまの視線が何か随分優しい、初々しい子供の成長を見守る親みたいな。

 じゃなくて、そもそもデートしていいのかが問題なんだよ!

「ひょっとして、秋山君は伊織と二人きりに抵抗があるのかしら?」

「あ、うん、そうかも」

 断りたいって訳でもないけど、踏ん切りもつかない。

「達郎、答えは直ぐに出さなくていいんだぞ。そりゃ見も知らない子から迫られたとか、ちゃんと意思表示して付き合ってる相手がいるなら断ったらいいが、相性や人の好さって付き合って初めて分かるもんだろ、身体目当ての馬鹿は論外だけどな」

 ・・意思表示、か。

 俺はゆきかぜに一度も示した事が無い、自分に自信が持てなくて。

 それにゆきかぜが怒るって思うのも自惚れだよな、でも怒って欲しいとも思うから、伊織ちゃんに比べて卑怯だよな、俺。

 結局、俺は自分の事しか考えていない。

「ねえ、秋山君。人を好きになるのって、きっと理屈じゃないと思うの。人に知られたくないような事も考えてしまう、誰だってそうなんじゃないかしら」

「うん、俺もそう思うぞ」

「・・そうかもな」

 磯咲さんの言葉に鹿之助やふうまも同意する。

 皆もそうなんだと聞けて、少し楽になった気がした。

「それじゃどうかな、私達も一緒でダブルデートにしたら、秋山君も受けやすくない?」

「えっ?確かにそれだと俺も助かるけど、いいのか?」

「うん、大事な妹の為だもの。ふうま君もいいよね?」

「お、おう?」

 良かった、これなら友達と遊びに行くって感じで変に意識しなくて済みそうだ。

 うん、なんか楽しみになってきた、あっ、でも伊織ちゃんにはどう伝えたらいいかな?

 

 

 部外者となった俺は、デートの事で話す三人を他所に中断してた昼食を再開するんだけど、やっぱりおかしいよなと首を傾げる。  

 元々は達郎がデートを断る理由を相談したがってたのに、それがどうしてダブルデートに発展してるんだ?

 それに別にいいんだけど、俺もいたのに、ふうまの参加が決定事項になってたよな。

 だけど俺は口を挟まない、・・なぜなら、俺の警戒心が最大レベルで警鐘を鳴らしているから。

 ふうま、達郎、元気で行って来いよ、・・・・卵焼き美味い。 

 

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