ふうま父子二代の女難 作: 小次郎
さて、どうしたもんか。
折角の休日だが、今日は達郎と伊織ちゃんのデートに付き添う事になっていて、五車町から三時間も掛けて地方都市まえさきまで来た訳だが。
「ふうま君、初デート、素敵な思い出にしようね」
いや、伊紀、俺達はおまけでデートじゃないんだが・・。
伊織ちゃんの為に盛り上げようとしているのかテンションが高い、一応は俺も空気を読んで否定しないが。
で、当人達だが、伊織ちゃんが達郎の左腕をがっしりと両腕で抱え込んでいる、あれなら小振りではあるがそれなりに感触もあるだろう。
正常な男なら鼻の下が伸びてもいいシチュエーションだ、近くにいるボッチの野郎が妬ましく睨んでいるのも無理は無いな。
それなのに、・・・達郎のヤツ、死人みたいに青褪めてるな。
更に反対側からは右腕が隠れる程の爆乳を押し付けられ、正に両手に花の状況だというのに。
・・因みに爆乳の正体は、花の静流、高坂静流先生だ。
「・・静流、俺達は目的地に着いたんだが、オマエも自分の用事に向かわなくていいのか?」
行先が同じだったから電車やバスも同じで、達郎の隣の席に常に座っていたのも目を瞑ろう、例え反対側の席に座る伊織ちゃんの視線が人を殺せるレベルに到達したとしてもだ。
「時間はあるから大丈夫よ、ふうま君♪」
そういう問題じゃないだろ!オマエ、それでも教師か!
達郎を任務で指名しているとは聞いてたが、男としても気に入ってたのか?
バチッバチッバチッバチッ!!!!
あと達郎たちの後方、駅構内の柱の陰辺りから静電気の音が漏れている、尋常じゃない殺気も含んで、・・ハァ、それで隠れているつもりか、ゆきかぜ。
・・しきりに覗こうとして尻尾が丸見えの凛子先輩もな。
やれやれ、仮にも対魔忍がそんな見え見えの尾行はどうなんだろうな?
ふうま父子二代の女難 第七話
ふうま、ありがとう、本当にありがとう。
到着までの三時間、途方もないプレッシャーを受け続けて倒れそうだったけど、今は伊織ちゃんと二人でポップコーンを食べつつ映画の上映開始を待っている。
二人きりになった当初は当然不機嫌だった伊織ちゃんだけど、ようやく笑顔を見せてくれるようになった。
「達郎先輩は映画ってよく見るんですか?」
「うん、映画館に行くのは滅多にないけど、珠にレンタルで借りて観てる」
「へえ、どんなのですか?」
「アクション物かなあ、伊織ちゃんは?」
「私もアクション系は好きですよ、あと恋愛系とか」
俺も開放感から吹っ切れたのか、緊張する事もなく自然に会話を楽しめてて、伊織ちゃんも色々と話してくる、もう先までの事は無かったかのようだ。
・・別行動を取る際に言われた、ふうまの忠告は本当に的確だった。
ひたすら謝れ、デートを楽しみにしてたと強調しろ、他の女の名は絶対に自分からは出すな、出たら伊織ちゃんの事を聞け、返答はするな。
「あっ、始まりますよ、達郎先輩」
「うん、楽しみだね」
いいコースにボールが飛び込んで、十本のピンが景気よく跳ねた。
「イッエ~イ、ストライク!」
「やるじゃないか、ゆきかぜ、私も負けてられんな」
「ふうま君、ハイ、飲み物」
「サンキュー、伊紀」
フッ、美少女三人と一緒にボーリング、周りからの視線が痛いぜ。
こっちばかり見てたら連れの彼女が怒るぞ、女は男が思っている以上に目敏いからな。
ハーレム野郎なんて悪口が囁かれてるが、俺は気にしない。
フハハハハハハ。
・・そもそもお前等、俺がこの状態に持っていくまで、どれだけ苦労したか分かってんのか、ああ。
こいつ等、俺の彼女でも何でも無いんだぞ、それなのに遜り宥め賺し褒め称え散財迄してご機嫌を取る、代わりたいなら幾らでも代わってやるわ!!
心身に刻まれた教訓から逃げ出す事も出来ない、そんな事をしたら十倍になって跳ね返ってくるのが分かってるんだよ!!
とにかくやる事は決まってる。
「ゆきかぜ、俺も続くぜ・・・うおっ、ガーター!」
「キャハハ、ふうまってばカッコわる~い♪」
「凛子先輩、フォーム綺麗ですね、初めてとは思えないですよ?」
「そ、そうか?照れるな」
「伊紀、ありがとな、正直いてくれて良かったよ」
「い、いいのよ、・・私も、そうだから・・・」
此の場にいるのは俺であって俺では無い、ふうま小太郎の人格なぞ存在しないのだ。
・・ただ、一つだけ懸念がある、用事に向かった静流の事だ。
まさか達郎の方に行ってないだろうな?
本気であるなら他人の恋愛に口を出すような野暮な真似はしないが、頼むから大人の余裕を持ってくれよ、こっちはこれ以上フォロー出来ないからな。
映画を見終わって、その後は適当に店を覗いたり催しを見物したりと、特に目的もなく散策しただけだけど、思ってた以上に楽しかった。
そろそろ日が傾きかけてるから、最後に喫茶店で休憩して帰る事にした。
「達郎先輩、今日はありがとうございました、とっても楽しかったです」
「お礼なんていいよ、俺もそうだから」
「でも、水城先輩たち、怒ってるんじゃないですか?」
「・・・・・・・・」
怒って、たとは思う、・・でも、あれは恋愛感情からの怒りなんだろうか?
俺はゆきかぜの事を好き、だとは思う、でも凛子姉さんに近い感情も持っているんだ、俺の手が届く女性じゃないと。
ゆきかぜとは幼馴染だから、彼女の真っ直ぐな性格はよく知ってる。
だから、ゆきかぜは俺の事を異性じゃなくて、弟して見てるんじゃないかと思えてしまう、・・・なにか、違う気がするんだ。
・・ふうまと接してる時のゆきかぜは、俺の知らない只の女の子だった。
「・・達郎先輩、私の失敗で二人で逃走してる時、言ってくれましたよね、「俺が守るから」って」
「う、うん、言った」
確かに言った、気落ちしていた伊織ちゃんに励ましだけじゃなくて本心から。
対魔忍として、先輩として、男として。
「女の子って、そういうの弱いんですよ。ずっと心に残っちゃうんです、たとえ相手にその気が無くても」
そこには元気な後輩の女の子じゃなくて、磯咲伊織という名の一人の女の子がいた。
・・・俺は、彼女から目を離せなかった。
うおい、もう完全に日は暮れてるぞ、電車はともかくバスがヤバイ。
だが何かしら普段から溜めてるものがあるのか、マイクを一向に手放さない三人。
ここまで来て機嫌を損ねたくはない、タンバリンを打ち鳴らしながら踊る俺。
しくじった、フリータイムにするんじゃなかった、だけどもう五時間は歌ってるんだぞ!
達郎とは帰りを別にしてるからいいが、本当に俺は一体何しに来たんだ!
結局、電車も無くなった時間で三人が正気に戻り、疲れ果ててた俺は「ホテルに泊まろう」と失言してしまい、勿論俺にその気はなかったが、真っ赤になったゆきかぜ達に追われ、冷静な伊紀は賛同していたんだが、五車まで自力での逃亡劇を行う事となってしまった。
更に女の子三人と朝帰りしたという噂はあっという間に学園中に広まり、魔女裁判としか言いようのない裁きを受けることになる。
帰りの電車の中、隣に座る伊織ちゃんは俺の肩に頭を乗せて眠っている。
俺も疲れたけど頭の中はグチャグチャでとても眠れない。
そんな折、俺達以外に客は居なかったのだが隣に誰かが座った。
目を向けるとそこには静流先生がいて、驚きかけた俺の唇に指を当て、自身の唇に人差し指を立てていた。
心臓がバクバク言っているが、意図は分かったので伊織ちゃんが起きないように静止した俺に、顔を近づけて小声で話しかけてきた。
「ふふ、今日は楽しかった?」
「あ、はい」
近い近いって、吐息が肌に伝わるくらいに。
「駄目よ、動いたら、その子が起きちゃうわよ?」
だったらどうして俺の胸や腿に手を這わせるんですか!?だから撫でないでください!!
声にならない、出来ない俺は最早涙目で、そんな俺を見て静流先生はようやく手を離してくれた。
「ごめんね、ちょっと焼いちゃったから。・・実は達郎君を任務で指名している理由を伝えておこうと思ったの」
真剣な目に変わった静流先生が話してくれた。
結論を言えば、俺を探索や斥候といった事前調査のスペシャリストに育てたいと。
以前から五車の戦闘能力重視な風潮は上でも問題として挙がっていて、その為に組織としても各方面に後れを取っているとの事、ふうま一門との盟もその点を補う為とも言えるらしい。
風遁は応用が利きやすく実利的な点もあるが、何より的確な判断を取る為に感情をコントロール出来る性格が大事で、俺には適性があると。
「ふうま君に二人で逃げろと言われて、貴方は指示に従い適切な判断を取れていた、そこを校長を始め私のような専門の対魔忍教師陣が優と評価したのよ」
俺は指示通りにしただけで、過大評価だと言ったけど、
「彼の指示は、どちらかの体力が尽きるまで後ろを振り返らずに味方との合流地点まで走り続けろ、だったわ。でも撃退すればいいなんて安易で愚かな行動を取る子が殆んどなのよね、素直に従う子なんてそうは居ないのよ」
静流先生が溜息をつく。
俺も本当は迷ってた、でも伊織ちゃんを護るにはそれが最善だと自分に言い聞かせて、失敗を悔やみ不安で一杯の伊織ちゃんを励まし続けた。
・・後で冷静に考えてみれば、ふうまの指示は尤もだった。
元々侵入されてるんだ、内部のチェックが最優先で敵なんか後回しだ。
こちらの正体を確かめる必要がある?そんなの確認しなくてもちょっと考えれば誰でも分かるし、その時点で悪事がバレてるのも明白で、早急な撤退以外の選択肢なんてない、深追いなんて以ての外だ、分散しての逃亡も相手に早々に諦めさせる心理効果を狙ってだった。
そもそも極端な実力差がなければ、追いかけっこなんて捕まる理由は逃げる方の無駄な動作が大半だ。
後方から足止めをしようとしても、その動作自体が逃亡者との距離を広めるだけで、そんな相手に態々足を止めて向き合うなんて、どう考えてもおかしい。
「と言う訳、何か他に聞きたい事はあるかしら?」
「い、いえ、光栄だと思います。・・でも、俺の風遁はそんな大したものじゃなくて・・・」
ゆきかぜや凛子姉さんとは、才能が違い過ぎて・・・。
「・・・達郎君」
「は・ム!?」
突然、唇を塞がれた。
静流先生と、キスをしている。
頭がまるで働かなくて体中が痺れて、為すがままに暫く奪われた。
唇が離れても、名残が俺を襲い続けている。
そんな俺に静流先生は妖艶に微笑んで、
「忍術なんて使い方次第よ。だって人を殺す方法なんて幾らでもあるんだから、こんな風に、ねっ♪」