ふうま父子二代の女難 作: 小次郎
・・最近、ちょっと思うところがあるのよね。
この五車学園は魔から人々を守る為の対魔忍を育成する機関、言わば人魔の闘いに於いて最前線で忍びの業を振るう者達が集う場所よ。
闘いは一瞬の油断が死に繋がる、だからこそ日々の訓練は欠かせない。
勿論、常に気を張れとは言わないわ、そんな事では心も身体も持たないもの、趣味を楽しんだり、友達と遊ぶのもいいことよ。
大人たちの、特に腐った政治家や長老衆の有様にはうんざりだけど、尊敬できる人もいるのを知ってるから全てを否定して目を背けなくてもいい。
周りの世界は私の心次第で幾らでも変わる、・・なんて思えるようになった。
母さんに対して反発ばかりしてた私が・・・。
・・これって、やっぱり小太郎のせいかしら、なんか彼といると肩肘を張るのがバカバカしくなるのよ。
いつもいつもトラブルばかり起こして、妹を学園に連れてくるわ、女子生徒と朝帰りするわ、お風呂には入ってくるわ、変なもの見せるわ、人の事を重いと言うわ、等々・・・・・・・。
「アサギ様、どうかなさいましたか、お顔を顰められてますが?」
「・・・ええ、ちょっと急用を思い出したわ、少し外すわね」
小太郎を捕まえて訓練施設に行くことに決めたわ、これも彼の為になるものね。
今の時間なら図書室にいる筈、・・・絶対に逃がさないわ!
確固たる意志を宿して私達が普段使いしている一室から出ようとした時、
「お姉ちゃん、むっちゃん、大変だよ!!」
さくらが飛び込んできて、机や椅子が薙ぎ倒される。
「落ち着け、さくら。一体何があったんだ?」
紫が冷静に聞き返す、さくらの場合、大抵が大袈裟なだけで大したことじゃないのも定番だから。
「こた君が、こた君が不良になっちゃったんだよ!!」
・・・は?
ふうま父子二代の女難 第九話
結論を言えばヤレ男が不良になっていた訳ではなかった、尤も私もアサギ様も全く信じてはいなかったが。
「経済の本を読んでいただけだろう、何をもって不良などと言う言葉が出るんだ、さくら」
アサギ様は呆れ、ヤレ男も疲れた顔をしている。
「だって、こんな暗号みたいな本を読んでるんだよ、頭がおかしくなったとしか思えないよ!私とゲームして笑ってた、こた君は嘘だったの!?」
「ゲームやってる人間が経済の本を読んで何が悪いっ、色んな人に謝れ!」
「うう、こた君の裏切り者~」
さくらが涙目だが慰める気には全くならず、とりあえずヤレ男に話を振る。
「しかし、こんな本まで読んでいるのか。悪いとは言わぬが任務に役に立ちそうな物を読んだ方がいいのではないか?」
実際ヤレ男の知識には助けられているが、流石に畑違いに思える。
「紫、そう思うか?アサギ、オマエはどうだ?」
「・・そうね、今は優先して学ぶものがあるんじゃないかしら」
私やアサギ様の意見にヤレ男は考え込んでいる様子だ、人の意見に素直に耳を貸すところはヤレ男のいいところで好感が持てる。
「・・・丁度いいか、三人共、少し話を聞いてくれ。・・このままだと五車の対魔忍は使い潰されるだけの消耗品に成り下がるぞ」
あまりな言葉に反論しかけるが、ヤレ男の真剣な目に言葉を失う。
そしてヤレ男の説明に衝撃を受ける。
政府の認可機関と言えば聞こえはいいが、要するに首根っこを押さえられているだけで、極めて足元が脆く自立した組織として成り立っていない事。
対魔忍の力が機械に劣るとは言わないが、昨今の政府は機械化での戦力増強に重きを置いている、この国に限らず米連や中華連合はおろか魔族が中心であるノマドでさえだ。
物量作戦は何時の時代でも最強の戦法なのだと。
だからこそ組織の血となる金を生み出す経済への理解は大事であり、そこから得られる情報は多岐にわたる為、疎かにすれば時代に乗り遅れ組織にとって確実に致命傷となる。
その分野を自分たちじゃなく政府に任せっきりなんて考えられないと。
他にも言いたい事は山ほどあるらしいが、とにかく五車の組織形態が前時代過ぎる事に不安が尽きないと言い切った。
ヤレ男は規模で劣るとはいえ組織の跡継ぎだ、人の上に立つ者としての教育も受けているからこその着眼点、正直言って私は半分も理解出来ていないだろうが説得力は感じた、少なくとも明るい未来を無条件には信じられない程に。
戦闘を専任とする者がいて悪い訳ではない、だが支援する者が最低でも五倍は必要で、更には組織運営に関する人材も絶対にいる。
対魔忍という特殊な事情上、他所から引っ張ってこれないなら、育成カリキュラムに様々な分野を加え、多種多様な人材を育てるべきだと。
アサギ様も真剣に聞いておられ、時折質問を返し考え込まれている。
「じゃ、じゃあ私は戦闘専任でいいから、勉強しなくていいんだよね、ね」
さくら・・・。
「・・そうだな、人に向き不向きはある。・・じゃあ、さくら、この二つだけ覚えて置け。それで金に関しては何とかなる、・・・と思う」
「ホントッ!?こた君、教えて教えて!!」
たった二つで、さくらが?
「いいか、一つは『美味い話には裏がある」で、もう一つは『只より高い物はない』だ」
・・。
・・・ヤレ男、それは詐欺に対しての注意喚起ではないか?
だが私の疑問に関係なく、さくらは感銘を受けたようで頻りに頷いている。
・・もういい、・・しかし、ふむ、アサギ様の御力になる為にも今のままではいけない事は理解した。
だが私には如何すればいいか見当もつかない、つまり知恵袋となる者が必要で、そして都合よく目の前にいる。
ヤレ男にも立場がある、無理は言えないが、・・そう、逆に言えば無理でない立場なら問題は無い。
例えば、例えばだが、は、伴侶の力になる為なら仕方のない事ではないだろうか。
いや、私は乗り気ではないが、これもアサギ様の為と考えれば止むを得ない事だろう、し、仕方がない事なんだ、私以外に誰もいないのだから、うむ。
「こた君、頼りになるな~、私と結婚しよっ!」
・・・・・・・・・さくら?
「私これでも尽くすタイプだよ。ほら、こた君の好きなおっぱいも大きいし、ねっ、ねっ」
そうなのか、だが胸なら私も負けてはいないぞ、・・じゃない!
さくらが更にアプローチを続けるが、ヤレ男は至って冷静だ、男らしい態度に私は満足な気分になる。
「さくら、一言だけ言っておく」
「うん?何?」
よしっ、ビシッと言ってやれ。
「おっぱいは至高だ、大きくても小さくても俺は愛せる!!」
・。
・・。
・・・。
沈黙が続く中、アサギ様が見た事の無い笑顔でヤレ男に話し掛けられた。
「小太郎、実は訓練に誘おうと思っていたのよ、付き合ってくれるわよね」
「え?いや、俺は本の続きを・・・」
「さ、行きましょ」
「ア、アサギ、だから俺は・・・」
問答無用にヤレ男を連行するアサギ様に私も続く。
今日は実りある訓練が出来そうだ、ヤレ男、そんなに感謝しなくていいんだぞ。
私は若と共に五車に来たが、当然若のお世話をする為だけではなく必要な事も行っている。
その一つが潜入工作の基本である情報収集だ。
特に若へ近付く者は最優先で、しかし監視の目があり自由には動けず、未熟な蛇子からの話だけでは不十分だ。
だが先日にある者から渡されたデータが手元にある。
癪には障るが貴重な追加情報だ、若が戻るまでにデータを更新しておこう。
No、1 井河アサギ
対魔忍総隊長の一人娘、隼の術の使い手
戦闘力 ★★★★★★★★★
指揮力 ★★★★★★★★
交渉力 ★★★★★
※備考
母親譲りの能力、カリスマで次期総隊長有力候補
思春期にありがちな反抗心より人付き合いを避けているが、面倒見は良く人望はあり
さて、ここから追加のデータだ。
若への好感度 ★★★★★★
一見、親しい友人程度だが他者に対しては精々★三つ、少し押せば★十の上限をあっさり超えるタイプ
成程、チョロインという奴か。
No、2 井河さくら
対魔忍総隊長の妹の一人娘、影遁の術の使い手
戦闘力 ★★★★★★★★
指揮力 ★★★
交渉力 ★★★★★★★★
※備考
母親譲りの能力、侵入に関するスペシャリストの資質を持つ
明るい性格で社交性が高い、お調子者だが時に鋭さを見せる一面がある
若への好感度 ★★★★★★★★★
好感度はかなり高く普段から隠さないが、いざ迫られると逃げるタイプ
ふむ、ならば放置でよいな。
No、3 八津紫
井河一族の上忍の娘、不死覚醒の使い手
戦闘力 ★★★★★★★★★
指揮力 ★★★★★★★
交渉力 ★★★★★★★
※備考
母親譲りの能力、戦闘力はトップクラス。
力や術が目立つ為に誤解されがちだが、三人の中で一番常識人
若への好感度 ★★★★★★★★
好感度よりも信頼度が高め、その為か建前を気にするタイプ
うむ、少し分かるな、私と似ている。
さて次は、む、若が帰られたか、此処までにしておこう。
しかし、会った僅かの時間でここまで見抜くとは、小娘と言えど既に女と言う事か。
対魔忍に血の禁忌など無い、まったく、あの男が励んだ結果で私の苦労が倍増する、やはり許せん!
・・だが利用価値があるなら私は悪魔だろうが手を組む。
全ては若の為に!