アルマダ・ブレーダーズ   作:公私混同侍

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ラーシュの夜間警備 その1

ケイコはパソコンをじっと見ている。エアコンの効いた部屋には使い道のわからない機械の部品が散乱している。

 

「ケイコ、まだ怒ってんのか?」

 

パドンはオークションの一件でケイコの機嫌を損ねたようだ。意識を朦朧とさせ足腰立たないラーシュの姿にショックを受けたらしい。パドンに責任はないのだが、一貫性のない態度にケイコはお怒りの様子だ。

 

「刀の噂は本当だったし、ちゃんと社長のお墨付きももらったんだ。俺はなんも悪くない!本当だって!」

 

「そう」

 

パソコンのディスプレイにはラーシュの装備の設計図が映し出されている。

 

「まあ、まさか刀があんなオンボロだとは思わなかったけどさ」

 

「やっぱり――」

 

ケイコの棘のある話し方と冷たい視線にパドンの額から汗が吹き出た。

そこにヒューガーとラーシュが部屋にやってくる。ラーシュは身軽な足取りでいつもの調子に戻っていた。ケイコの表情が少し和らいだ。

 

「みんな揃ったな」

 

「パドンにはオークションの一件で窮地を救われた。感謝する」

 

ラーシュはパドンに深々と頭を垂れる。

 

「へへッ、いいっていいって。パドン様にかかればラーシュの兄貴一人担ぐなんてエディンソン・カンパニーに忍びこむくらい楽勝だったぜ!」

 

「何故警察まで介入したのにニュースになっていないのか?まだお前たちから説明を受けてないんだがな。それにどうして刀をラーシュが持ち歩いているんだ?まさか競り落としたわけじゃないよな?」

 

「うっ、それは……」

 

「それは私から説明する」

 

「ラーシュはオークションの時の記憶が曖昧になってる。説明を果たすのはパドンの役目」

 

「うむ……だがそれでは……」

 

さすがのラーシュもケイコの言い分に口ごもる。

 

「オレは本当に社長から刀を譲り受けたんだよ!信じてくれよ!」

 

「それならラーシュが刀を持ってた理由を教えて。パドンが盗んでラーシュに罪を被せた可能性もある」

 

「そ、それはラーシュの兄貴が刀の感触を知りたいって言うから……」

 

ラーシュは黙ってパドンの言葉に耳を傾ける。意識のなかった人間が証言できるはずもない。

 

「そうなのか?ラーシュ」

 

「無論、会場の熱気に気圧されまいと息巻いていたら刀に触れたいという強烈な欲望を抑えきれなくなってしまったのだ」

 

「どんな理屈だ!」

 

ヒューガーは呆れてため息をついた。

 

「そんなにオレたちを信じられないんだったら、社長に聞いてみてくれよ!ケイコなら簡単だろ?」

 

「絶対に嫌!パパと話すぐらいならパドンの作り話聞いてた方がまし!」

 

「そうだろそうだろ!……ってオレの話が作り話だって?おかしいだろ!」

 

「もうやめろ。埒が明かない」

 

「どうかパドンを信じてくれないだろうか?」

 

「わかった、ラーシュを信じる」

 

「うむ、有り難きお言葉」

 

「『うむ』じゃねぇよ!オレも信じてくれよぉ……」

 

「情けない声を出すな。これでオークションの件は終わりだ。本題に移すぞ」

 

ヒューガーが咳払いをすると三人は背筋を伸ばす。

 

「新しい依頼だろうか?」

 

「そうだ。ケイコが持ってきくれたんだ」

 

「かみさま~ほとけさま~ケイコ様~」

 

パドンの高らかな美声が虚しく響き渡った。

 

「依頼内容は中央本部の夜間警備だ」

 

「中央本部ほどの組織ならセキュリティも厳重なのではないか?」

 

「それが本部が予算の無駄遣いを減らそうと人件費から手をつけようと考えたの。中央本部って構内がかなり広くて最低でも五人は必要だって会長が頭を抱えてたから、長年の悩みの種だったみたい」

 

「でもオレたちだけじゃ頭数が足りなくない?」

 

「お前、もしかして前科持ちの分際で本部の警備をするつもりなのか?」

 

「フッ」

 

「ラーシュの兄貴、何笑ってんだよ!そこはフォローしろよ!」

 

「警備は交代制で行うからリーダーとラーシュで決まり。それとブレーダーの使用も許可されてるから、怪しい人を見かけたら追いかけることもできる」

 

「一つよろしいだろうか?」

 

「免許のことでしょ?それなら話はつけてあるよ。ラーシュが本部で教習を受けながら夜間の警備もできるし、生活に困らないように書類も集めて出してきたよ」

 

「なんとなんとケイコには世話になりっぱなしだ。ご恩は必ず返そう」

 

「それと別件で本部の方から調査の依頼もきてる。構内の敷地を無断使用している輩がいるらしい。忘れんなよ、ラーシュ」

 

「御意」

 

「お、オレは……」

 

「リーダーとラーシュの道具に付いてる汚れ落として。後で修理するから」

 

「雑用……」

 

「仕事が貰えるだけありがたいと思えよ。なっ、ラーシュ」

 

「いずれ大役を担う機会が訪れるはず。英気を養いしばし待たれよ」

 

――

――――

――――――

 

ラーシュとヒューガーがブレーダー教習中央本部の警備を初めて三日が経った。二人は本部敷地内の侵入者の痕跡を探ろうと正門に向かう。

ラーシュはヒューガーと二手に別れ壁に沿って歩き出す。ラーシュは角地で人影が動くのを察した。忍び足で近づくと見覚えのある人物に出くわす。

オークション会場で共闘したネフェルだ。

ポケットから石のようなものを取り出すと地面にかざす。すると小さな火が灯った。丸太に腰を下ろし暖をとる。彩り豊かなロングヘアーを夜風に靡びかせながら、ブレーダーを磨き始めた。

 

「貴女はいつぞやの――」

 

ネフェルは動じる素振りを見せない。対称的にラーシュは目を泳がせた。恥じらいと驚きが入り交じっている。二人の間に暖かい風が吹き抜けた。

 

「オークション会場での太刀筋は見事であった。本来ならその場で感謝を述べるべきだったのだが、平常心を失うなど私の不徳の致すところ……して貴女はここで何をしている?」

 

「私は中央本部で教官をやってるんだ、っていっても教官の階級は最も低いんだけどね。証明できるものならあるよ。それより君は普段からそんな格好をしてるの?」

 

「うむ。しかし私は中央本部に籍を置いたばかりか免許さえも持っていない。なれど構内の見回りを委託された身分ゆえ万全を期すにはどうすれば良いかと考えていたのだ。貴女が教官という立場でこの場に居座るというのなら安心して任せられる」

 

「フフッ、そんなに畏まられると問い詰められてる気分になっちゃうな。でも警備を委託されているなら免許がなくてもブレーダーが扱えるルールがある。それにしても刀や槍を持ち歩く程なんだから腕もかなりのものなんだろう。それに……」

 

ラーシュは青と赤に彩られた瞳を覗かれていることに警戒感を示す。だが、敵意を感じないネフェルの瞳に力んだ拳が緩んでいく。

 

「綺麗な目だ……」

 

「自身の目に誇りを持ったことは一度たりともない。父上と母上は私と同じ目をしていないからだ」

 

「そうなんだ。私なんかこんな髪をしているから、なおさら君を見ていると羨ましく思ってしまう」

 

「どういう意味であろうか?」

 

「私の髪って、この石の影響を受けてしまうんだ」

 

ネフェルは手のひらに石を並べた。

赤、青、紺、黄。

ラーシュにはその石の使い道がわからなかった。

 

「この石は化然石(かぜんせき)って呼ばれているんだ。石の中に自然界から取り出したエネルギーを凝縮させて、使用者が必要な時にその力を発揮するんだ」

 

「申し訳ない。もう少し詳しく教えてもらえるだろうか?」

 

「ごめん、教科書通りの説明しかできないのが私の悪い癖なんだよ」

 

「手本通りの技を会得することは決して悪いことではない。手本を元に自分の流儀として深め、更なる高みを目指していけば良いのだ」

 

「フフッ」

 

「むっ、口が過ぎてしまった」

 

「そんなことない。まさか励まされるとは思わなかったけど」

 

「して石のことだが――」

 

「話を戻そうか。とりあえず座って」

 

ラーシュは丸太に腰を下ろした。

 

「化然石って言うのは云わば属性なんだ」

 

「属性……?」

 

「そう。色がついてるでしょ?この色が属性になってるんだよ」

 

ラーシュは腕を組ながらネフェルの動きを観察している。

 

「使ってみようか?」

 

「お願いしたい」

 

「赤は火のエネルギーを凝縮している。そしてこうすると……」

 

ネフェルは赤色の石を指で挟み、瞬きする間もなく火を起こした。

ボッと音を立て火柱が上がる。ラーシュは驚いて丸太から落ちた。

 

「フフッ、そんなに驚かなくても」

 

「なんとこれほどとは…!?」

 

「なんとなくわかってもらえた?」

 

「うむ、良いものを見せてもらった」

 

ネフェルの髪が赤くなっている。

 

「なんと面妖な……!」

 

「私が幼かった時、綺麗な石を見つけて好奇心から触れてしまったんだ」

 

「もしやその石とは?」

 

「化然石だよ」

 

「そうであったか」

 

「物心がついていない子供が石に触れるとエネルギーが暴走して肉体が崩壊したり、周りの人たちにも危害を加えてしまうことがあるんだ」

 

「貴女は髪色の変化しか見受けられぬのだが……」

 

「私の場合、害はなかったんだ。だけど髪の色が変わってしまう現象が起きるようになったんだ」

 

「まことしやかに信じがたい話だが、貴女が嘘をついているとは思えぬ」

 

「まだ名前すら聞いていない人にこんな話をするなんて、自分でもどうかしてる」

 

「そうであった。私はアルマダ・ブレーダーズのラーシュ・ダスティヒ」

 

「私はネフェルティア・イングレース。長いからみんなにネフェルって呼ばれてる」

 

「精錬された振る舞いに色彩豊かな御髪(おぐし)。忘れることはないであろう」

 

「もしかして毎日巡回してる?」

 

「夜も遅い。鍛練もほどほどにした方が良い」

 

「そうだね。気をつける」

 

「だが、この場所は心身を鍛えるのに申し分ない場所だ。夜明けをもって見回りを強化する」

 

「ちょ、ちょっと待って――」

 

「誰かに告げ口するような下賤な真似はせぬ。他言も無用。これにて失礼する」

 

ネフェルはラーシュの後ろ姿を見て口元が緩む。火を消すため青い化然石を手に取る。たちまち髪の色が青くなった。

 

「フフッ……変な人」

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