アルマダ・ブレーダーズ   作:公私混同侍

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ラーシュの夜間警備 その2

次の日、太陽が沈み中央本部内に静けさが戻った頃、ネフェルは日課となっている居残り修練に励んでいた。一息入れようと薪を集め火を起こす。時を同じくして、構外を巡回中のラーシュが向かってくる。

 

「フフッ、やっぱり来た」

 

「貴女はいつも火を眺めているのか?」

 

「ちょっとした息抜きだよ。こうやって火を見ていると嫌なことも、辛いことも忘れられるんだ」

 

「そうであったか。だが、明かりが構内まで届いている。気を付けよ」

 

「それは知らなかったよ」

 

ネフェルはラーシュの忠告に従い火を消そうとした。

 

「待て。なにも火種まで消す必要はない。これを使えば――」

 

ラーシュは肩に装着しているシールドを外した。火種を覆うように地面に突き立てる。灯籠にも見えなくない。

 

「そんな使い方もあるんだ……」

 

ネフェルはあまりの手際の良さに困惑を隠しきれない。

 

「武士の装備を参考にしていると、我が友から聞かされた」

 

「ラーシュの友人って鍛冶職人?」

 

「いや、我が友人はブレーダー教習中央本部に所属している。頭の切れる淑女だ」

 

「えっ!?その装備、女の子が作ったの!?しかも中央本部に在籍してるって!?」

 

「いかにも。槍、胸部、脚、そしてブレーダーに施された技術も我が友人の手によってもたらされたものだ」

 

「そんな賢人が近くにいたなんて私も視野が狭いんだと、つくづく思い知らされたよ」

 

「貴女のブレーダーは自身で調整したのか?」

 

「私だけじゃない。みんなそうだよ。ブレーダーは支給されるから、自分に合うようにカスタムするのが中央本部(ここ)の伝統なんだ」

 

「私は自身で調整とやらをしたことがない。手入れは必ずするのだが」

 

「手入れも大事なこと。道具の汚れは心の汚れ。常に身の回りのことに気を配れ。メルデ・ヴィルヘルミナ中央本部最高責任者の格言だよ」

 

「良い言葉だ。ブレーダーは人の生き様を写す鏡。時として(わだち)は人が歩んできた証にもなり、切り開かれた道は後に続く者の道標となる」

 

「うん。私も見本になれるようにもっと努力しないと」

 

「ならば素振りを欠かさぬことだ」

 

「素振り?」

 

「そうだ。雑念を捨て、ただ刀を振り下ろす。ひたすら繰り返す。自身の心を無にして」

 

「ラーシュは毎日やってるの?」

 

「無論。朝、昼、晩に分けてやっている」

 

「す、凄いね。夜も素振りをしてるってことは私に会う前にもしてるってことか。別に疑ってるつもりはないんだけど、手を見せてくれないかな?」

 

ラーシュは飄々としながら黒い包帯を外した。手のひらは赤みを帯びて痛々しい。

 

「……」

 

「見るに堪えぬだろう。失礼」

 

「私の努力ってちっぽけだったんだ……」

 

「努力というものは他人に認められてこそ意味を持つというものだ。己の器で推し量るものではない」

 

「そこまで言うなら――」

 

「申してみよ」

 

「自分の力を試したいんだ。手合わせしてほしい」

 

「承知」

 

ネフェルは長剣を取り出しブレーダーを起動させた。シュルシュルと音を立て、焚き火に炙り出された影が浮かび上がる。

ラーシュはブレーダーを起動させず重心を前後に移動させている。メトロノームのように刃を揺らす姿は不気味だ。

 

「見たことない構えだ……こっちの動きを見極めようとしているのか?」

 

「いつでもこい」

 

ネフェルはブレーダーを急加速させ斬りかかった。

凶極刀と長剣がギリギリと音を上げぶつかり合う。

 

「刃に力が伝わっている。相手の弱点を正確に射抜く、その戦術眼は申し分ない」

 

「私は手加減してないっ!?なのに――」

 

「今にも折れそうななまくら刀如きに受け止められるのは納得できぬ、そう言いたげのようだが図星か?」

 

「なっ、うっ……」

 

「それが貴女の甘さだ。見た目で判断して体から余計な力が抜けている」

 

ラーシュはいとも簡単にネフェルを払いのけた。撥ね飛ばされたネフェルは腰から叩きつけられ、ブレーダーが地面を抉る。

 

「貴女は相手の力量を見極めることに長けているようだ。故に力量に合わせ戦術を変えることができる。柔軟な思考で相手を惑わせ、的確に急所をつく。無論、さじ加減で生かすも然り」

 

ネフェルは黙って聞いている。後悔と安堵が入り交じった表情だ。

 

「少々口が過ぎたか……」

 

「ラーシュが体の動きに合わせて刀を前後させてたのって、私の剣を受け止めるためじゃないでしょ?」

 

「何ゆえそう申す?」

 

「ラーシュの構えは防御に特化しているように見えるけど、本当は反撃をするための構えだ」

 

「どのように反撃する?」

 

「それは相手によると思う。例えばラーシュより強い相手なら後退しながら受け身を取って機会を伺う。でも反対に弱い相手なら攻撃を受け流しつつ、返しの刀で斬りつける」

 

「だがそれだけでは致命傷にはならぬ」

 

「相手が本気になればなるほど致命傷になりやすくなる。相手の勢いを利用すれば返す刀の威力も必然的に上がるから、あえてブレーダーを起動する必要もない。それに心理的な問題としてブレーダーを起動させないってわかったら、こっちは『簡単に仕留められる!』って考えが働くからね」

 

ネフェルは顔についた土を袖で拭き取る。ラーシュは目を閉じながら顎を引いた。

 

「どうかな?」

 

「私はあの構えから反撃に転じる時、刀を振り子の如く靡かせ貴女を斬りつけようか考えていた」

 

「へっ?」

 

「フッ、冗談だ」

 

ネフェルは初めて見たラーシュの笑顔に釣られて目元を緩ませる。

 

「貴女の大切な時間を奪ってしまって申し訳ない」

 

「気にしてないよ。孤独で退屈な時間を有意義な時間にしてくれたのはラーシュだから」

 

ラーシュは刀を収めた。

 

「明日も来るんでしょ?」

 

「明日は非番なのだ。代わりの者が来るかもしれぬが、この場所だけは立ち入らぬよう進言しておく」

 

「そうなんだ。せっかく気兼ねなく話せる人と出会えたと思ったのになぁ」

 

「すまぬ、代わりといってはなんだが汚してしまった貴女のブレーダーの手入れをさせてほしい」

 

「それ詫びのつもり?フフッ、ラーシュってやっぱり変な人」

 

「むっ!不服ならば帰らせてもらう!」

 

「はい、右足」

 

ラーシュは素直に受けとる。

 

「綺麗になるまで色んな話聞かせてよ。ラーシュと話してるとなんだか楽しいんだ」

 

「フッ、致し方ない」

 

ネフェルとラーシュは火を囲みながら他愛のない話で盛り上がった。

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