構内の中庭には騒ぎを聞きつけた多くの教習生たちが集まる。開けた場所でヒューガーとバランゴは相対する。
ラーシュは腕を組み周囲の状況に気を配りながら、ヒューガーに耳打ちした。
「このような事態を招いたのは私の力量不足によるもの。主君が自ら干戈を交えると申すのなら私も黙って見ているわけにはいかぬ」
「お前は何もするな。今の俺は無性に腹が立ってるんだ。アイツみたいな口先だけで威張り散らす奴はぶん殴らないと気がすまない」
「なれども役員相手では主君も只ではすまぬ。策はあるのだろうか?」
「まあな。まだケイコが作ってくれた手足が体に慣れてないからな、試運転にはちょうどいい相手さ」
「フッ、なれば私はこの一戦を見届けさせてもらう」
バランゴは準備運動をすませ拳を前に突き出した。
「副会長と共に技の修行をしたこともあるんだ。この燃え盛る拳の前ではどんな物質も燃えカス同然!」
「燃え盛る拳か、何やら奥の手を隠し持っていると推察する。用心すべし」
「敵に奥の手をベラベラしゃべる奴に勝機はない。お前を倒して、お前をラーシュの教育係に任命した目の節穴どもを引き摺り出す!」
「ゴミクズを二度と中央本部に近づけないようにしてやる!」
バランゴはブレーダーを起動させずヒューガーに向かって突進する。
「そう来るか――」
ヒューガーは左腕を突き出し右手で肘を固定した。狙いを定めるため左目を閉じる。
「受けてみな――
拳はロケットのように飛び出しバランゴの肩を掠めた。
バランゴは一瞬驚いてスピードを弛めるが、直ぐ様重心を低くしヒューガーをあざ笑う。
「へっ、どこ狙ってんだ?」
「チッ、調整が甘かったか!?」
「ほらぁ、ボケッとしてんなッ!」
バランゴの拳はヒューガー目掛けて飛んでくる。その拳は少し膨らんでいるようにも見えた。
ラーシュは拳の中に何かが仕込まれていると確信し叫んだ。
「主君、立ち止まってはならぬ!」
「もうおせぇよ、ゴミクズゥ!」
バランゴの拳の中から赤い光が溢れ炎に包まれた。炎が更に強さを増すと観衆たちからの歓声も大きくなる。
『
拳はヒューガーの腹部を痛打した。その直後業火が背中を突き抜ける。
「ぐはぁ……腹が焼ける……肺が燃えるように熱い……!?」
まともに食らえば火だるまになる程度の威力だが、ケイコが作った装備が耐火性の高さを証明した。
「どうだ、苦しいか?火翔のバランゴを見くびった愚かさを噛み締めやがれ!」
「クッ……石ころを使えるってだけでいい気になるな!」
ヒューガーは苦し紛れに殴りかかる。バランゴは顎を引き避けた。
「化然石は中央本部の人間でも一部の人間しか扱えないのは学んだろ?つまりブレーダー免許の限定解除をすれば一流のブレーダー使い。こっち側の特権みたいなもんだ。まっ、ゴミクズには関係のない話か」
ヒューガーは間髪入れず両腕を振り回す。下がりながら避けるバランゴは手のひらを空に向け口笛を吹いた。
ラーシュは正座をしながら遠い目をしている。
「俺が石を扱えない理由、お前にわかるか?」
「うん?アンタは手足がないから限定解除の要件を満たせないんだ。まっ、オレ様が教官だったらアンタみたいな欠陥品、適正試験の段階で落としちゃうよ」
「石が使えなくても俺には
「はぁ、何が言いたいのかオレ様にわかるように教えてくれよ」
「だからこそ人を見かけで判断するような、お前みたいな幼稚でちっぽけな人間がのさばるのを見過ごすわけにはいかない」
バランゴは高笑いする。ラーシュはおもむろに立ち上がった。
「貴公はもう少し我が主君の声に耳を傾けるべきでないか?」
「あん?なんだよアンタ、さっきまで傍観者気取ってたくせにオレ様に説教か?」
「いや、私のような未熟者が貴公に訓示を与えるような思い上がった振る舞いはできぬ」
「じゃあなんだよ。人様の言葉に一言一句頷いてればいいのか?オレ様にイエスマンになれって言うのかよ」
「そうではない。己の考え、他者の考えは必ずしも合致するわけではない。故に承服し難い意見に耳を塞ぎたくなるお心も察するに余りある」
「だろう?だろう?」
「であるなら役員という品格、立ち振舞いを求められる立場にある貴公が弱者を貶めるのは、専断ここに極まれりと言わざるを得ぬ」
「オレ様がワガママだって言いたいのか?」
「人の振り見て我が振り直せ、と申しているのだ」
「こ、このやろう!言わせおけばいい気になりやがって――」
バランゴの背後から火花が音を立てて接近してくる。無防備にも音がする方に振り返った瞬間、ヒューガーが発射していた左腕がバランゴの鼻っ柱をへし折る。
鼻血を盛大に吹き上げ意識を失った。
「フッ、他者の言葉に耳を傾けなければ、いずれ振り上げた拳は貴公に帰ってくるという道理だ」
「もう何を言っても無駄みたいだがな」