中央本部の役員室に呼び出されたラーシュとヒューガーは不信感を抱きつつ足を運んだ。
中には入ると二人は強烈なプレッシャーに尻込みした。ソファの上で寝息を立てているランバーは全く起きる気配がない。
少し様子を見ていると顔に乗せてあった雑誌が床に落ちた。
「役員はあの金髪の男だけか?部屋の空気が重たく感じるのは気のせいじゃないよな?」
「口に出すのも憚られるが、眠れる
「眠れる獅子?どちらかと言えばワンころだ。中央本部役員のナンバー
「そうであったか」
ラーシュは落ちている雑誌を広い中身を読み始めた。ヒューガーが背後から覗きこむ。
「表題は『ユーモアに富んでいる人が実践している108のこと』――やや!実に奥深い」
「どこがだよ。108はさすがに多すぎる。煩悩じゃあるまいし、こんな本を副会長はお読みなってるのか?」
「フッ、主君も実にユーモアに富んだ受け答えをなさる」
「それは誉めてるのか?ラーシュの方が笑いの才能ある気がするけどな!」
ソファで寝ていたランバーがスッと起き上がる。二人は目を丸くしながらゆっくり振り返った。
「なんだぁ?オメェらノックもせずにズカズカとゴキブリみてぇに入って来やがって……いんや、そんなことを言いたかったんじゃねぇ。お茶淹れてやるから座って待ってな」
「あ、ああ。昼寝の邪魔して悪かった」
「見た目とは裏腹に実に気さくな武人だ」
ランバーは二人の前にお茶と羊羹を出した。ヒューガーがおもてなしに感嘆しているが、ラーシュは唇を噛んでいた。
「ン?腹でも下してんのか?」
「そうではないのだが、私は和菓子よりも洋菓子を嗜むのだ」
「ラーシュ、そんなナリで洋菓子派かよ……」
「ハッハッハ、わかったわかった。好きなもの用意してやるから言ってみな」
「僭越ながらショートケーキを頂戴したい」
「ショートケーキを食う侍なんて見たくなかった……」
唖然としているヒューガーを尻目にラーシュはショートケーキの上に乗っているイチゴを口に放り投げた。
ランバーは窓を開けストレッチを始める。心地よい風が部屋中を駆け巡った。
「すっかり仕事を忘れてたぜ。オメェらを呼び出したのは身内の不手際を詫びるためだ」
「俺たちは謝罪してほしいわけじゃない。だが、本部の業務体質には疑問符が付く。一体どうしてあんな反抗期の子供みたいな奴がラーシュの指導員として割り当てられたんだ?」
「単純に言えば人手不足だ。教習生に対する教官の割合が一ヶ月先まで超過しちまってる。言い訳にしかならねぇが、バランゴにも教官と同じように教習生を指導できる。規約上、技能試験の裁定も認められてるんだが、あのバカを推薦したのはオレの責任だ。オメェらの疑問には可能な限り答える」
「誠意は尽くすというわけか。さりとて一月あまり免許を持ち得ないとすれば、私には時間を持て余す以外ないと?」
「それじゃあ困る。ラーシュには一日も早くチームの力になってもらいたいんだ。狂犬さんよ、どうにかならないか?」
「役員の失態は中央本部全体の失態だ。教習を受ける以外に免許を手に入れる方法が一つだけある。聞きてぇか?」
「秘策があると申されるのなら是が非でも伺いたいが……」
「手段はあるって言ったって時間がかかるんじゃ意味がない」
「難しい話じゃねぇ。中央本部の人間に力を示せばいいだけだ。そのチャンスを与えてやる。それも最短で一週間でだ」
『一週間!?』
「ハッハッハ、いい顔するじゃねぇか!俄然ヤル気が出たって顔つきしてるぜ!」
「しかし、何事も早ければ良いというわけではない」
「それに一週間って言うくらいだから、役員の奴隷になれって命令されても不思議じゃない」
「そんな生易しいもんじゃねぇよ。オメェらには一週間後に開かれるビッグイベントに参加してもらいてぇ。役員の連中との本気の力試し。その名も――闘技祭」
「冗談だろ!?本気の力試しってことは役員と殺り合うってことか!?」
「さしずめ技と技の鍔迫り合いとでも表すべき催し。しかし、祭りにしては血腥さが拭いきれぬ」
「ククク、まさかビビってんのか?負けるのが怖くて祭りから逃げる口実でも考えてるのなら、心の底からテメェらを軽蔑しちまうな。『無敵』を名乗った以上、少しでも隙を見せれば皮肉にもなるってことを肝に命じるんだな。所詮見かけ倒しだったなんて噂になれば笑いもんだぜ」
ラーシュの赤と青の瞳に一筋の光が差す。ランバーは表情一つ変えず視線を外そうともしない。二人の間に見えない闘志がぶつかり合っているようだ。
「ラーシュ、こんな安い挑発に乗るな。役員の奴らは俺たちを利用して自分たちの失態を帳消しにしたいだけだ」
「否定するつもりはねぇ。だがなオレ個人でできることなんてちっぽけなもんだ。役員の犬なんて比喩されることもある。すっかり慣れちまったがな。こんなんでも誠意は尽くしたつもりだ。『
ランバーは話し終えると立ち上がり扉をそっと押し開けた。
「――
「……」
「闘技祭の件、もう少し詳しくお聞かせ願えないだろうか?」
「おい、ラーシュ!?」
「闘技祭とやらで我らの力を中央本部にまざまざと見せつけ、アルマダ・ブレーダーズの名を世に広めることのできる、言わば千載一遇の好機。評判を聞きつけチームに志願する者も自ずと現れるはず」
「言うのは簡単だが……」
「主君にとっても不利益に働くとは思えぬ。例え主君の期待を裏切る結果になろうとも、私は全ての汚名を被ってでも副会長殿の挑戦に真っ向から挑む所存である。案ずるな、闘技祭で乱れ舞う本部の犬どもを鬼神の如く切り伏せれば良いのだろう?」
「本当にやるのか?」
「フッ、身を粉にしてでも成し遂げてみせよう」
「それなら話ははえぇぜ。気が変わらねぇうちに手っ取り早く説明しねぇとな――」
張り詰めた空気が穏やかになる。
ランバーが力強く扉を閉めようとするが、何かが引っ掛かっているようだ。
ランバーは部屋の方を向いたまま取っ手から手を離す。ブルブルと揺れるひょっとこ面に見覚えがあった。
「痛いじゃない!?いきなり扉閉めんじゃないわよ!?」
扉と壁の間に