「まず闘技祭の参加条件を満たさなきゃいけない。あと一人集めなければ登録さえままならない状況だ」
「目ぼしい人材を引き入れようにも当もなくさ迷うのは愚の骨頂。ひとえに数多の強者が一堂に会する場所さえ分かれば良い、というわけか」
「都合良く事が進めばいいんだが、構内にいるのは免許を取るために教習を受けてるような奴ばかりだ。だとすれば俺たちは構外を練り歩く必要がある」
「うむ……闊歩しようにも皆目見当がつかぬ」
「作戦はこうしよう。俺がケイコにチームに入ってくれそうな人材を検索してもらうよう頼んでくる。そして近隣に星を見つけたらラーシュに連絡する。もちろん、俺とパドンも最速で向かう手順だ」
「四の五の言ってはいられぬ。早速、出立の準備をせねば」
「タイムリミットは十時間。有益なネタがあったらすぐに俺かケイコに連絡してくれ!」
ラーシュはヒューガーからの連絡を待ちながら構内で情報を集める。
今日も教習生が免許を取るため学科試験や実地教習に励んでいる。普段と変わらない光景だ。
時々構内を探索していると中央本部の教官とすれ違うことがある。制服を見れば一目瞭然なのだが、教習生より倍以上年齢が離れているベテラン教官ばかりだ。
教官たちはラーシュを一瞥するや否や迷子に接するような語り口で哀れむ者、名乗りを上げておちょくる者や興味本意で写真を撮ろうとする者までいる。
精神を磨り減らしたラーシュは気分転換を兼ねて屋上に向かった。屋上でのブレーダーの使用は禁止されており、一般向けに解放された数少ない安息の場だ。九階建ての本部の最上階から町並みを一望でき、超高層建築物である『エディンソン・カンパニー』の本社ビルは町の象徴として人々に認識されている。
「はぁ……」
ネフェルは深いため息をついた。ラーシュは見覚えのある後ろ姿を見てゆっくりと近づく。
ネフェルの服にはシワや糸の解れができ、関節部分は色素が薄くなっている。毎夜取り組んでいる厳しい特訓の証だ。
「その出で立ちからして鍛錬を欠かしてはいないようだ」
「――えっ!?ど、どうしてラーシュがこんな場所に?」
「多忙の日々を送っていた故、風に当たれる場所を探していたのだ。今日は心地よい風が吹いている」
「うん、そうだね……」
「貴女は常に一人で行動しているのか?」
「私の性格の問題でもあると思うんだけど、チーム特有の価値観や一生ついて回る上下関係を強要されると息苦しくなるんだ。プライベートも無くなるのも嫌だから、やっぱり一人の方が気楽なんだよ。結局自分に甘いってことなんだけどね」
「息苦しさから解き放たれるのなら人生から逃げることも厭わぬ、か。貴女は誰にも頼ることなく己の力で生き抜く術を心得ているのだな」
「ハハハ、大袈裟だよラーシュは。ただ私が臆病なだけで内心羨ましく感じたりすることもあるんだ。みんなで楽しく遊んだり、一緒に旅行したり、協力しながら事件を解決したり、ね。でもそんな日常を望むことは私のような優柔不断な人間にとって贅沢なのかなって自問したり――」
「それが貴女の悩みか?」
「ううん。悩みは別にあるんだ。ラーシュになら打ち明けてもいいかな」
「申してみよ」
「つい最近、ケイコに会ったんだ。ラーシュから聞いていた通り、頭が良くて純粋な心を持った女の子だったよ」
「我らが誇る賢人だ。私にとっての一番の友人でもある」
「そうなんだ……あっ、そういえばケイコにあまり知りたくないことを教えてもらったよ」
「ケイコと諍いでもしたか?」
「違うよ。ケイコには口止めされてたんだけど、シレジアが私を心底憎んでいるようなんだ」
「会長殿とは一度手合わせをしたが、何故貴女を憎む?」
「私とシレジアは貴族の家系に生まれたんだ。と言っても私は元貴族でシレジアは本物の貴族。身の上の話だけなら私が恨まれる筋合いはないんだけどね」
「しかし、根の深い遺恨がなければ執着心は生まれぬもの」
「イングレース家は千年の歴史を持つ由緒ある家系。だけど私が七歳の誕生日を迎えた直後に父の会社が倒産して、母と共に蒸発してしまったんだ。残された私は知り合いのツテでメルデ最高責任者の親族に預けられ、そして中央本部の設立者であるメルデ最高責任者が最初のブレーダー使いとして私を指名したんだ」
「な、なんと数奇な……」
「シレジアは身分の低い私が最初のブレーダー使いに指名されるのを屈辱と感じたんだ。彼女のプライドが許さなかったんだろうね」
「全くの逆恨みではないか?」
「ところが怒りの矛先は私だけじゃなかった。中央本部にも向けられたんだ。メルデ最高責任者に裏切られたと思ったシレジアは独自に反教官勢力を作るため役員会議を発足させ、その
「そのような
「結局のところシレジアは私を教官側の代表者として認識しているみたいだし、構内にいれば嫌でも顔を合わせることになる。だから心が休まる場所なんてどこにもないんだ」
落ち込んだ表情で話すネフェルは化然石を手に取った。
青の化然石が日光を浴びキラリと光る。まるで本物のサファイアのようだ。
「火急の入り用にてお耳に入れてもらいたいのだが、我が悩みも聞いてもらえぬだろうか?」
「女の子からの相談は毎日受けるんだけど男の人の相談を聞くのは初めてだから、なんか緊張しちゃうな。フッフッフーン♪」
ネフェルは服に付いている埃を払った。二人だけの時間を楽しむかのように鼻歌を奏でる。
ラーシュは直視できず顔を赤らめた。
「じ、実は闘技祭に出場しなければならぬ事情を抱えてしまったのだ」
「えぇっ!?闘技祭に出るって!?どうしてそんなことに……」
「我々は今、質実剛健の強者を探している。誰か心当たりはないか?」
「ごめん。思い当たる人は私の近くにはいない。教官仲間と役員ぐらいしか知り合いがいないから」
「そうか、つかぬことをお聞きした」
「あーあ、やっぱり私なんかじゃ役に立てないんだ」
「そんなことはない。貴女が常に中央本部の見本であろうと努力しているのは、
「あ、あれ?ラーシュ……」
「……ハッ!?」
ラーシュは気まずそうな面持ちで脇に差している
「本当なら貴女に……いや、これ以上の問答は無用」
「ま、待って!ラーシュ!」
ネフェルは呼び止めるがラーシュは逃げるように屋上を後にした。
「ラーシュは私に何を伝えたかった?もしラーシュが私を必要としてくれるなら……私は……私は……」