闘技場には凶極刀を手に持ち小刀を脇に差したラーシュと武器を持たないサザンがいる。二人の間に闘技戦をさばく教官がおり、注意事項の説明を始めた。
ところが専門用語と小難しい言葉遣いで二人の表情は渋くなる。
ケイコがパソコンを打ちながら各参加者に要点をかいつまんで説明した。
『①勝負は先に3ポイントを先取した方を勝者とする。②頭部、胴体部、大腿部に攻撃を当てた場合1ポイント加算する。③どちらかが降参する、戦闘困難に陥る、または意識を喪失した場合残った方を勝者とする。④主催者が生命に危険が及ぶと判断した場合その闘技戦を没収する』
ケイコは続けて補足する。
『①ブレーダー免許を所持していなくても闘技祭参加者名簿に登録されている者に限り使用することができる。②化然石は免許を所持していなければ使用できない。但し、免許を所持している者は所持していない者に対して使用しても良い』
「こういう時何て言うんだっけ?無法地帯?」
「治外法権だよ。構内だと教官の指示がないとブレーダーを起動させるのも違反になるけど、闘技祭では構内でのブレーダー使用制限が適用されない。ネフェル、そうだよね?」
「ああ、だから今回だけはラーシュがブレーダーを使っても法令違反にはならないってことだね」
パドンの知ったかぶりに博識のケイコと現役の教官でもあるネフェルが解説する。
闘技戦のルール説明が終わりラーシュとサザンは立ち位置についた。開始の合図と共にブレーダーの車輪が回転する。
「おサムライさんの生まれはドコ?」
「……存じ上げぬ」
競技場が静寂に包まれる。二人の会話に耳を澄ましているかのようだ。
「ボクは東の国で生まれたんダ。もしかしたらおサムライさんもボクと同じ故郷の生まれだと思ったんだけどネ。不思議な縁を感じたのはボクだけかナ?」
「実の両親の顔すら知らぬ。波打ち際に落ちていた赤ん坊である私を拾い今日に至るまで我が子のように育てて頂いた。荒波の中でも生きてこられたのは母上と父上のお陰なのだ。感謝してもしきれぬ」
「フーン、ならボクとは真逆だネ」
「なに?」
「ナハハハ!ボクはネェ、ボクはネェ両親を捨ててやったんだヨ!」
「肉親を……捨てた……?」
サザンは先制攻撃を仕掛ける。ブレーダーの機動力だけならジェットの方が勝る。
ラーシュは凶極刀で応戦しようと態勢を低くした。サザンは被っていたソンブレロをラーシュに投げつける。怯んだ隙に頭の中に隠し持っていたナックルダスターを装着し、腹部に鉄拳を打ち込んだ。ブレーダーの機動力を維持するためにケイコの装備を外したことが仇になったようだ。
「ぐっ……!?」
ラーシュは凶極刀を支えにして踏ん張る。
電光掲示板のサザンのポイントが『0』から『1』に変わった。
「おサムライさんはボクの期待に応えてくれタ。困った時の表情や驚いた時の表情がなんて素敵なんダ!それがボクの求めていた最良のリアクションなんだヨ!」
「人を謀ることに快感を覚えると申されるか?」
「騙したなんて誤解だヨ。両親を捨てたのは事実だからネ」
「肉親を捨てるなど血の通った子のすることではない。如何なる理由あろうと尊敬や感謝の念を忘れてはならぬ」
「ボクには尊敬とか感謝なんて必要ないんだヨ。母が家を出てから父に毎日のように殴られ痣だらけになり、満足に食事も与えられなかっタ。あの男はボクの中にあったはずの良心、そして他者を慈しむ心を消し去ったんだヨ。それならボクは本能に従い、本能のままに生きて間違った世の中を正しい道に戻してやろうって決めたんダ。それが例えキミたちにとって不都合な結果になったとしてもネ」
「それがジェット・ストライカーズの信条か?」
「ボクの信条だヨ。ロウが一番ボクの気持ちを理解してくれたんダ。だからこそジェットは世の中を正しい方へ導く救世主になるべき存在なのサ」
「世直しは富や権力によって成されるものではない。善良なる心で正しい力を行使し、結果として大多数の人々を幸福せしむるものでなくてはならぬ。お主らにそのような大役を果たせるとでも?」
「過程は重要じゃないからネ。重要なのは結果サ。正義感なんて所詮独り善がりの思い込みに過ぎないヨ」
「なれば私の正義とお主の正義、どちらが正しいか試してみようではないか!」
「ボクとロウで暴力や嘘のない世界を作るという壮大な夢があるんダ!キミたちが掲げる浅はかな正義と一緒にするナァ!」
サザンはブレーダーのギアを上げ急加速した。またも不意を突かれたラーシュは後退し防御の姿勢を取る。二人の距離はなくなりサザンはラーシュの足を払いにかかる。
ケイコが改良した新式ブレーダーは跳躍力を格段に高めていたようだ。ラーシュの体はフワッと浮き上がり地面に影ができた。
サザンはラーシュの舞う姿に目を輝かせ、腕に巻いていた包帯を力強く握りしめた。同時に拳が濃紺の光を帯びる。
『ラーシュ!?』
ヒューガーとネフェルが無防備のラーシュに叫んだ。
サザンの拳は氷に覆われ先が尖った形をしている。ラーシュのブレーダー目掛けて飛んできた氷柱にヒューガーの顔色が真っ青になった。
するとラーシュのブレーダーが急停止し失速する。氷柱はブレーダーではなく大腿部に刺さった。右太ももから血が滲む。
電光掲示板のサザンのポイントが『1』から『2』に変わった。
「ブレーダーを守るためにわざと傷を受けタ?……ナハハハ、キミはボクの想像を遥かに超える男のようダ」
パドンはラーシュの姿に目を覆い、ネフェルとケイコが心配そうに見つめる。
「化然石まで扱えるとは恐るべし……」
「感心してる場合じゃないぞ!真面目にやってくれラーシュ!」
ヒューガーの叱責にラーシュはムッとした表情をしている。
凶極刀がラーシュの感情に反応するかのように低い音を発した。
「魔刀が
ブレーダーが急激に回転数を上げ塵や埃を巻き上げた。
しかし何かがおかしい。ラーシュはその場から動かず凶極刀を地面に突き刺したままだ。ブレーダーは激しく振動し地面を抉る。
「ナハハハ!ブレーダーが前進しようとしてるのに、なんてキミは馬鹿なんダ」
凶極刀がストッパーになりブレーダーの動きを阻害している。ラーシュが懸命に引き抜こうとする度に、闘技場を横切る風が凶極刀に吸い込まれていく。
「余裕がなくって頭がおかしくなっちゃったのかナ?そんな雑な使い方したらロウの大事な刀が折れちゃうヨ!」
「虚無なる
風が止んだ。
「魔を祓う刃となれぇッ!!」
「はう!?」
ブレーダーの反動を利用した凶極刀の斬撃は周囲の空気を取り込みながら強大な刃を生み出し、衝撃波を解放しながらサザンを飲み込んだ。闘技場全体に砂埃が舞い上がり、観客や関係者が騒然としている。
視界が悪い中、教官がサザンの安否を確認するため近づいた。
「そんな力が……そんな力が正義だなんて……ボクは認めなイッ!!!」
教官を突き飛ばしたサザンが砂埃の中から現れた。服はボロボロになり頭から血が流れている。あまりの形相にティアラが止めに入ろうとするがロウに制止された。
サザンはラーシュの胸ぐらを掴む。
「お主に心の底から敬愛すべき師はいるか?」
「はあ!?師はいるのかっテ?ボクが信じてるのはロウだけだ!あとは人形のように魂の抜けた奴隷だヨ!捨てゴマってことサ!」
「私には自己犠牲の精神を授けてくださった母上と命知らずの騎士となった父上がいる。どちらも通ずるのは大切な者のために身命を賭すことができるということだ」
「命知らずの騎士……?」
役員席に座っているランバーが呟く。
「仲間を軽んじ蔑めば、いずれ自身に跳ね返ってくる。お主が考え改めぬと申すのならロウという男に切り捨てられたとしても文句は言えまい。お主の命などジェットという有象無象の砂山から見れば一粒の砂に過ぎぬのだから」
ラーシュは指の上に砂粒を乗せた。
「ウゥ……グゥ……ウワァァァ!!」
我を失ったサザンは化然石を発動させる。ラーシュは凶極刀を真上に投げた。
サザンは一瞬、動きを止め凶極刀に気を取られた。
死角に入ったラーシュは膝を折り曲げ勢いよく後方に翻る。
『
高速回転させたブレーダーがサザンの顔面を駆けていく。
「ブハァ……」
大の字に倒れたサザンの腹部に上空に放り投げていた凶極刀が落下する。
電光掲示板のラーシュのポイントが『3』になった。
教官がラーシュの勝利を宣言する。
「お主に仲間の大切さが理解できれば、たとえ一人になったとして大地を踏みしめて生きていけよう」
サザンは励ましとも取れるラーシュの言葉に唇を震わす。ソンブレロを拾い悔しさを隠すように目元まで被った。
「情けない姿晒してまったく、いつまでもくよくよしてんじゃないよ!」
「次はキミの番。ボクは少し冷たい風にでも当たってくるヨ」
深く落ち込むサザンにティアラが手荒く出迎る。ロウと目を合わすと表情が柔らかくなった。
~闘技戦ルール~
①勝負は先に3ポイントを先取した方を勝者とする。
②頭部、胴体部、大腿部に攻撃を当てた場合1ポイント加算する。
③どちらかが降参する、戦闘困難に陥る、または意識を喪失した場合残った方を勝者とする。
④主催者が生命に危険が及ぶと判断した場合その闘技戦を没収する。
~闘技戦特別ルール~
①ブレーダー免許を所持していなくても闘技祭参加者名簿に登録されている者に限り使用することができる。
②化然石は免許を所持していなければ使用できない。但し、免許を所持している者は所持していない者に対して使用しても良い。