アルマダ・ブレーダーズ   作:公私混同侍

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魅惑の共演 ネフェルVSティアラ

ロングヘアーを靡かせ長剣を抜くネフェル。一つ一つの動作に観衆たちから黄色い声援が送られる。凛々しい顔立ち、ボディラインが鮮明に映える教官服、見方によって色が変わる髪。大観衆の羨望の眼差しを一身に受けていると言っても過言ではない。

ただ一人、シレジアだけは親指を下に向けていた。

ティアラは観衆たちが静かになる頃合いを見計らって闘技場に上がった。ネフェルに敵意を剥き出しにしながら髪をかき上げ束ねる。

 

「中央本部随一の人気者が、あたいなんかをお祭りの踏み台として指名してくれるなんて嬉しい限りさ」

 

「謙虚な人間性をアピールしようとしているみたいだけど、それが君の本音だなんて観衆は誰一人信じてはくれないと思うよ」

 

「フン!どうせあんたはあたいなんか眼中にないんだろ?別に構いやしないさ。あんたの綺麗な顔に傷一本でもつけてロウが飛んで喜んでさえすれば、あたいは満足さ」

 

「ジェットのリーダーさんはこんな素敵な仲間に愛されてとても幸せだろうね」

 

「ウフ!羨ましいのかい?そうだろ?そうだろ?なんたってロウはこの町を莫大な富と絶大な権力で牛耳るお方なんだ。あんたたちがあたいらの仲間に入りたいって言うのなら考えないこともないよ」

 

観衆がどよめく。ロウが舌打ちした。

 

「フフッ」

 

「な、何がおかしいんだい?」

 

「だって君のセリフが悪党のセリフそのまんまなんだから笑うしかないじゃない?」

 

「こ……こんのぉ小娘がぁッ!粋がるんじゃないよッ!」

 

ティアラは服の中に隠し持っていた折り畳み式の弓矢を構えた。(やじり)には赤色の化然石が装着されている。

 

「君が幼少の頃から弓道を極めていることは織り込み済みだよ。インダスキー家は武芸に秀でていて特に弓の扱い関しては一線級。私は一教官として君の腕をこの目で確かめたい」

 

ネフェルは剣先に化然石を置いた。長剣を地面と平行にしバランスを取る。

 

「まさかそれを狙って打ち落とせって言うんじゃないだろうね?」

 

「そんな単純じゃないよ。今から私のタイミングでこの赤色の化然石を落とす。それを地面に触れる前に射ぬくんだ」

 

「な、なんだって!?」

 

「もし君が成功すれば化然石は私の右腕を焼く。赤色の化然石は火のエネルギーを凝縮している。そして同色の化然石同士をぶつけるとエネルギーが暴発するから火柱が発生するんだ。これを私たちは同色逆流現象って呼んだりするんだけど――」

 

「も、もしあたいが失敗したらどうなるんだい?」

 

「それは見てのお楽しみさ」

 

ティアラの胸中は穏やかではなかった。額から汗が吹き出る。弦を引く腕は上下左右に揺れる。照準が定まらない。

そして悪魔の笑みを浮かべるネフェルは長剣を地面と垂直にした。

 

「人を小馬鹿にするのもこれで最後さァッ!!」

 

観衆が固唾を飲み行く末を見守る中、ティアラは小さな石目掛けて渾身の一撃を放った。矢は落下する化然石の真横を通り過ぎる。観衆はため息をついた。

 

「は、外れたのかい?」

 

「そうだね。五センチぐらい離れていた」

 

「あ……あ……」

 

「罰ゲーム、受けてもらうよ」

 

ネフェルは長剣で落下した赤色の化然石を粉々にした。髪が真っ赤になる。

 

「地の底より蘇りし不死の王――(おう)()(れん)()

 

ティアラは絶叫した。全身を火の鳥に貫かれ膝から崩れ落ちる。

不思議なことに服装に焼けた臭いや焦げはなく、顔の化粧が汗で落ち醜い容貌になりはしたが、髪は燃えた形跡が一切ない。

 

「失神しない程度に火力を抑えたから死にはしないよ」

 

「全身を焼かれるような痛みが残ってるっていうのに本気は出してないって?ハッ、あたいは悪い夢でも見ているのかい?」

 

「さて、次は何をしようかな?」

 

ネフェルは四種類の化然石を指の間に挟む。

 

「その指で挟んだ四つの化然石を全て射ぬけとでも言うんじゃないだろうね?」

 

「フフッ、そこまで君を過大評価したつもりはないけどね」

 

「……現役の教官様にそこまで言われちゃあたいも凡人止まりさ。所詮あたいはインダスキー家の面汚し」

 

「私が聞くのもおこがましいが、どうして弓道を極めなかったんだ?君の腕なら世界中に名を馳せることも夢ではなかったはず」

 

「あんたみたいな生まれた時から人生の成功が約束された貴族様にはわからないだろうね。いや、元貴族様だったねぇ」

 

「貴族だろうと庶民だろうと、そんな些細なこと私には関係ない。大事なのは今どう生きるかだ」

 

「インダスキー家は成功を宿命づけられた一族。あたいは努力を生き甲斐とするお父さんと、アメとムチの使い分けが得意なお母さんの期待を一身に背負って練習に明け暮れていた。物心つかないうちから弓に触れ、毎日指にできた血豆が潰れるまで弦を引いたさ。そして気づけば十歳で世界の頂点に手が届く所まで上達していた。ところがある日を境に、あたいはインダスキー家の弓取りという渾名すら捨てる羽目になったのさ」

 

ネフェルは掌で化然石を転がしている。

違う色の化然石なら暴発は起きないようだ。

 

「大好きだったお父さんに薬物使用疑惑をかけられ、名誉も功績も抹消され、そして選手生命も絶たれたのさ」

 

「私もその記事を読んだ。確か濡れ衣の可能性があるって取り沙汰されていた記憶があるよ」

 

「ハハッ、いくらお父さんが無実を主張しても国民や後援者は見向きもしなかったさ。あたいたち家族は犯罪者の如く扱われ、国から出ていくしか生きる道はなかった。お父さんはその日から生きる気力を失い、失意のうちにこの世を去っちまったのさ」

 

「そうか……想像を絶する境遇にかける言葉が見つからないな」

 

「フン!同情なんてされたかないね!それにあんたに境遇を嘆かれるほどあたいは弱かないさ」

 

「私なんかより君の方がよほど辛く悲しい人生を送ってる。それに今の君が正しい人生を送ってるかなんて誰も意見する権利はない。私みたいな臆病者風情が君のような求道者を試すような下手な振る舞いももう出来ないね」

 

「なんだい急に臆病風に吹かれちまって?それでもあんたは教官なんだろ?だったら最後まで教え子に逆境に立ち向かう姿を見せつけるってのが筋ってもんだろう?」

 

「それもそうだ、危うく自分の役目を忘れるとこだった。自分が教え子の模範になるべき立場だってこともね。それじゃあ最後の試験といこうか」

 

「四つ化然石がまだ手の中にあるんだろう?それをどうするんだい?」

 

「私が四つの化然石を空高く放り投げる。その中から私が宣言した化然石を射ぬくんだ」

 

「面白そうじゃないか。さぁ、いつでも構わないよ!」

 

意気揚々と弓を構えるティアラに迷いはなかった。太陽に鏃を向ける。震えは収まったようだ。

 

「それじゃあ、行くよ!」

 

ネフェルは四つの化然石を太陽に向けて投げる。ぐんぐんと上昇する化然石に観衆たちは奇跡を願うように天を見上げた。

 

「――黄色を射ぬけぇッ!ティアラ・インダスキーッ!」

 

ネフェルのかけ声と共に四つの化然石は密集しながら落下を始める。風がティアラ側に吹いた。大きく深呼吸をすると黄色の化然石が他の化然石とぶつかり列を乱す。

 

「あたいはジェット一の弓取りさぁッ!!」

 

隙は逃さないと言わんばかりの会心の一矢は緩やかな放物線を描き、化然石を弾き出した。水色と紺色の化然石がネフェルのブレーダー付近に転がる。

残り二つの化然石が二人から離れた場所に散らばった。

観衆から惜しみ無い拍手がティアラに送られる。

 

「ああ……やっぱりあたいに弓取りは無理のようだね」

 

「そんなことはない。難しいコンディションの中、君は自らの実力を証明したんだ」

 

「もうロウの前で恥をかかせないでおくれ。あたいはあんたの挑戦に失敗したのさ」

 

「私の最初の説明、もう忘れたのか?限定解除の勉強している人間からしたら常識なんだけどね。君のためにもう一度説明してあげるよ。火の化然石同士をぶつけるとどうなるんだって話――」

 

「あっ、あっ、そういえば……そんな話……」

 

「赤色の化然石が装着されていた鏃で同色の化然石を射ぬいていたら火柱が上がっていたはずなんだ。でも実際は起きなかった。それは逆に黄色の化然石を確実に射ぬいていた証明にもなるんだ」

 

「あたいは……あたいはやったんだね?本当に成し遂げたんだね?」

 

「及第点ってとこかな。これで私からの試験は終わり」

 

「ああ……もっと早くあんたみたいな悩みや苦しみを分かち合ってくれる先生に出会えてたら、あたいの人生は別の形になってただろうね」

 

「買い被りすぎだよ。それに君にはもう人生の師匠がいるだろ?」

 

「ロウはあたいの男さ。でもまだ振り向いてくれないんだけどねぇ。でもいずれあたいの愛の鏃でロウのハートを射ぬいてみせるよ!」

 

ティアラはいつもの調子を取り戻しロウに抱きつこうとしたが、化粧がほとんど落ちていたためか避けられてしまった。

ネフェルは落ちていた化然石を拾うと内ポケットに入れた。

ラーシュはティアラが弾き出した赤色と黄色の化然石を拾い、ネフェルに返さずそのまま控え室に消えていった。




『同色逆流現象』

同じ色の化然石を衝突させるとエネルギーの暴発を引き起こし、行き場をなくした膨張エネルギーは逆流する。
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