アルマダ・ブレーダーズ   作:公私混同侍

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ブレーダーズ・プライド

バランゴとの熱戦を繰り広げたヒューガーはパドンに支えてもらいながら医務室に入っていった。

控え室で次の一戦に備えるネフェルは紺色の化然石を胸に押し当てる。教官という垣根を越えシレジアの中に根づく敵愾心に向き合おうとする表れなのかもしれない。

 

「会長殿は中央本部最強と謳われる唯一無二の存在。いくら手の内を知りようとも一矢報いるだけでも至難の業。ケイコ、どうかネフェルに最大の試練へ立ち向かえるよう助言を与えてくれないだろうか?」

 

「私の作った計算システムでシレジアに勝つ道筋を示すことも不可能じゃないけど、ネフェルは私以上にシレジアのことに詳しいはずだから心配ない」

 

「そうか、それなら致し方ない。たが、ネフェルならどんな鬼だろうと、(あやかし)だろうと突破口を見出だせると私は信じている」

 

「今度ばかりはシレジアも完膚なきまでに叩き潰そうと張り切ってるみたいだからね。私も本気のシレジア相手に抗うほどの知恵も度胸もないから、どうやって現実から逃げるかばっかり考えてしまう。ふぅ、参ったなぁ」

 

ネフェルの感情から恐怖心と絶望感が読み取れる。ケイコが隣にちょこんと座った。

 

「シレジアはネフェルがいつも本気できてくれないから、見くびられてるんじゃないかって気にしてるんだよ」

 

「シレジアは見下されてると思ってたってこと?それは誤解だ。私はただシレジアを傷つけたくないだけだ。それに悲しむ顔も見たくない。偽善だと罵られようと私には……」

 

「ネフェルは優しいから人を傷つけることは絶対言わないし人の痛みも分かち合える。シレジアは思ったことをすぐ口にするタイプだから反感を買いやすい。けど、気持ちは真っ直ぐで誰とでも対等に接するから後腐れのない人間関係を構築できる。二人の性格は真逆だけど向いてる方向は一緒なんだよ」

 

「私はそうは思わない。どうしてそう言える?」

 

「中央本部を良くしたいって考えてるのはネフェルや教官たちだけじゃない、役員も一緒。だからシレジアはずっと危機感を持っていて、自分達の働きを世間に周知させようと試行錯誤してきたの」

 

「役員の職務は元来、中央本部の分業という形で成立したと伺っている。もし会長殿が役員の存立を願ったのなら、周囲に認めさせねばならなかったはず。すなわち役員の存在意義を世論に周知する格好の場が闘技の祭典というわけか」

 

「シレジアは責任感が人一倍強いから、私のような重責から逃げてきた人間なんか目障りでしょうがないんだ」

 

「なれば私が代わりを務めよう。ネフェルは十分責務を果たした。これ以上ネフェルに苦労をかけさせられぬ」

 

「でもランバーだって負けず嫌いだから、ラーシュじゃなきゃガッカリするはず。私はシレジアの気持ちに応えられるように持てる全てを出し尽くすよ」

 

「ネフェルは言うまでもなくアルマダ・ブレーダーズの一員だ。勝ち負けなど誰も気にせぬ。我々の行く末を顧みず、ひたすら刃を振るうことに専念せよ」

 

「フフッ、なんか力が湧いてきた。だけどいつもラーシュに励まされてばっかり」

 

「感謝せねばならぬのは私の方だ。ネフェルがチームに入ってくれなければ、今ごろ家で姉弟の遊び相手になっていたことだろう」

 

ラーシュの言葉にネフェルの瞳は潤んでいる。

 

「ねぇラーシュ?もし私が危険な目に合ったら助けにきてくれる?」

 

「仲間を守るためなら全てを擲つ。ネフェルは私の魂で守る。だから安心して行って参れ」

 

脇に差した小刀を握るラーシュの言葉は力強い。

 

「ありがとう、ラーシュ。行ってくる」

 

闘技場ではシレジアが背中を向け、時が来るのを今か今かと待っている。観衆の声援が徐々に大きくなる。ネフェルが闘技場の階段を駈け上がると会場の熱気が最高潮に達した。

シレジアは白銀のマントをあてつけがましく翻した。

 

「これであなたと勝利を奪い合ったのは何度目かしら?」

 

「三度目だ。十年前から闘技祭は行われるようになったけど、私が本格的に参加するようになったのは三年前からだ」

 

「私がヴィルヘルミナ最高責任者に闘技祭を提案して開催までこぎ着けたっていうのに、あなたは全然関心を持とうとしなかった。あなたを闘技祭に引き摺り出すのにどれだけ苦労したか理解できる?」

 

「意味がわからない。そもそも私は君と敵対する動機も闘技祭で傷つけあう理由も持っていない。君は単に私のことが嫌いなんだろ?」

 

「フン、分からず屋もここまで来ると反吐が出るわね。いい?あなたはヴィルヘルミナ最高責任者に贔屓されているの。それが腹立たしくてしょうがないの。自覚はある?」

 

「昔の君は『メルデさん、メルデさん』っていつもくっついていたのに、今は中央本部に難癖つけ役員の中で我が物顔している駄々っ子だ。君はいつまでたっても成長してないんだね」

 

「あの人はワタシを裏切ったのよ!中央本部は誰一人としてワタシをブレーダーの第一人者として認めようとしなかった。あなたのような熱意も向上心もない小綺麗女が教官になれるんだから、中央本部の信用は地に落ちたも同然よ。だからワタシたち役員が本部の内側から根こそぎ作り変えてやるって言ってんの!」

 

「そんな昔のこと、まだ引き摺ってるのか。メルデさんに日常生活でのブレーダー使用を認められたのは私が先だ。でもブレーダー免許を最初に取得したのは君だ。それで十分シレジアの気持ちは晴れたものだと思ってたんだが……」

 

「ワタシが受けた屈辱はあなたには想像できないでしょうね。あなたのような大人たちに甘やかされた女にはね」

 

「なるほど。君の恨み辛みはわかった。それで私を闘技祭で屈辱を味あわせたいというわけか」

 

「過去二回の戦いはあなたが教官チームだったから守ってもらえたけど、今回ばかりは逃げ場なんてないわ。それとも不出来なサムライに助太刀してもらうのかしら?」

 

「人の心配してる余裕があるのか?」

 

「あなた一人で不安なら三人がかりでもいいわ。そっちの方がお祭りも盛り上がるでしょ?」

 

「もう君のたわ言にはうんざりだ。私をなぶり殺しにしたいなら最初から全力でくればいい」

 

「あなたもやっと本気になってくれるのね。いいわ、ネフェルティア・イングレース。あなたのような貧相で貧弱な貧乏人が慈母愛に満ちた女神(ワタシ)に抗うことができまして?」

 

パンプスの形をしたブレーダーが起動する。白亜の鎧を身につけたシレジアの格好は全て白で統一されている。武器になるようなものはない。化然石だけでネフェルから勝利をもぎ取るようだ。

 

「私はメルデさんのためにも教官としてのプライドを守るためにも、シレジア・ミルビッチ、君を越える!」

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