アルマダ・ブレーダーズ   作:公私混同侍

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機動破壊を封殺せよ ネフェルVSシレジア

シレジアは両手に化然石を持っていた。右に紺色、左に水色だ。

ネフェルは警戒しつつ間合いを取る。

 

「右が氷の短剣、左が水の盾。最初から本気ってわけだ」

 

「死んじゃうかもしれないけど、あなたが弱いのがいけないのよ――氷つく鶴翼(アイス・ウィズ・ウィング)

 

シレジアのマントが風を受け広がる。マントの内側から氷のナイフが生まれ、次々とネフェルに降りかかる。ブレーダーの扱いに定評のあるネフェルは俊敏性を最大限活用しギリギリのところで回避していく。

泥臭く地面を転がったり、時には華麗に飛び越え、正面にくれば長剣で叩き割る。守備的な戦いに終始するネフェル。シレジアは畳み掛けるように圧力を強めた。

 

「逃げ回ってるばかりじゃ、お客さんをガッカリさせちゃうわよ?時間ならタップリあるんだから、このままいたぶってあげるわ」

 

「君はさっきから一歩も動いていなけど、少しは周りを見てみたらどう?」

 

「周り?あなたが走り回った箇所がデコボコしてるだけじゃない」

 

「今の私は君を追い回す蜂――(むら)がれ!雷蜂(らいほう)突き」

 

ネフェルの黒い髪が琥珀色に染まった。

長剣で黄色の化然石を両断すると不規則に波打つ稲妻がシレジアを追いかけ回す。必死に後退するが地面の窪みや膨らみがブレーダーの動きを妨害する。

シレジアは減速しながらネフェルとの距離をつめる。稲妻を打ち消そうと氷の短剣を巨大化させた。

 

「私が君に勝るタイミングはここだ!」

 

ネフェルは距離をつめてくるシレジアに臆することなく、指でかき集めた程度の砂山を長剣で打ち払った。

琥珀色の髪は赤く様変わりする。

 

「これが私とラーシュの鍛練の成果だッ!――砂迅炎(さじんえん)

 

砂に埋もれていた赤色の化然石が発光し火に炙られた砂粒が舞い上がる。さすがのシレジアも大量の砂粒を巻き上げられ氷の短剣で吹き飛ばそうとするが、残存粒子が身体中に付着する。

視界を奪われ動きが鈍くなった瞬間、蜂のように這いずり回っていた稲妻が背中にヒットした。

電光掲示板のネフェルのポイントが『0』から『1』になる。

 

「チッ……やってくれるわね。かなり手の込んだやり口だけど、ズル賢いあなたらしいわ」

 

「君のブレーダーはケイコ特製の超高速型だからね。スピード勝負じゃまず勝てない。だから布石を打つ必要があったんだ」

 

「布石……やられたわ。あなた、ワタシの攻撃から逃げ回りつつ地面に化然石を埋め込んだのね」

 

「フフッ、転んでもただでは起きないよ。泥臭さが私の武器だからね」

 

「ということはどの場所に、どれくらい、あと何種類の化然石が埋められているかもわからない状況であなたの相手をしなきゃいけないってことね」

 

「私もハッキリ覚えてるわけじゃない。誤って踏んでしまえば何が起きるかわからない。これで君の得意な機動破壊戦術は封じられた」

 

身動きが取れなくなったシレジアの短剣には火の砂がこびりつき解けてしまい穴だらけになっている。

紺色の化然石を解除し巨大化した短剣は消失した。

 

「でもあなたも化然石の場所を把握してないなら、ワタシにもまだ勝機はあるわ」

 

「……強気な態度を崩さないのは称賛に値するけど、この状況で不用意な動きをしたらどうなるかぐらい君にも想像がつくはずだ」

 

シレジアはネフェルの目の動きを見逃さなかった。

 

「そこね!」

 

ネフェルの背後にある不自然に膨らんだ砂山の中に化然石が隠れている。そう確信したシレジアは水の盾を再度作り出し、水の弾丸を砂山に放った。砂山から水色の化然石が露出する。

 

「水色ね。つまり同色」

 

同色の化然石はエネルギーを膨張させる。外部へと放出するため大量の水を吹き出した。

突如涌き出た噴水にネフェルを目を閉じてしまう。役員の会長(トップ)であるシレジアが見逃すはずがなかった。

ブレーダーを急発進させ氷の短剣でネフェルの長剣を薙ぎ払う。抵抗する手段を失ったネフェルはブレーダーの回転を利用した回し蹴りを見舞うが、水の盾で受け止められてしまう。逆にお返しとばかりに氷の短剣で下半身を突き上げられた。

ネフェルは受け身を取れず背中から落下する。

電光掲示板のシレジアのポイントが『0』から『1』になった。

 

「うぅ……シレジア相手に小手先程度の戦術は通用しないか……」

 

「あなたの心配性なその性格、昔から変わってないわね。癖って大人になっても直らないものよ。『恐怖心から生まれた迷いは成長を妨げる』って教本に書かれているけど、あなたを見れば納得がいくわ」

 

「君は強い人間だから迷いや悩みを抱えてる人間の気持ちなんて理解できないだろう」

 

「向上心を持ち続けていれば躊躇いなんて邪魔になるだけ。ワタシが職務をこなしてないから体が鈍ってると思ってるのなら、あなたは一生ワタシに勝てないわ」

 

「君が私以上に努力を積み重ねているのは知っていたよ。ひたむきに現実と向き合いブレーダーの練習に励み、どんな困難がこようと決して弱音は吐かなかった。君は常に強い人間であろうとしていたんだ。それがシレジア・ミルビッチという最強のブレーダー使いを生み出した」

 

「何よ急に、気持ち悪いわね」

 

「だから私もシレジアの背中を追いかけようって思ったんだ。シレジアが本部のために全身全霊で尽くそうとしている。それなのに私はただ与えられた仕事を淡々とこなし、教習生との向き合い方で悩み、本部にいればいるほど実感する無力感。私なんていなくてもシレジアさえいれば本部は安泰なんだ。以前の私はずっとそう自分に言い聞かせていたよ」

 

「それで?自虐話を聞いて同情でもされたいのかしら?」

 

「でも今の私は違う。私を必要としてくれる仲間がいる。チームがある。帰る場所がある。私はシレジアとは向いてる方向が正反対だけど中央本部のために役に立ちたいという考えは同じだ」

 

「だ、だから何だって言うの!?あなたは所詮ヴィルヘルミナ最高責任者の利益のために働いてるに過ぎない!あの女の人形よ!」

 

「それでもシレジアと私は一緒だよ。初めて君と会った時約束しただろ?メルデさんの喜ぶ笑顔を見るために一緒に夢を叶えようって」

 

「……黙りなさい。お喋りは終わりよ」

 

二つの水色の化然石を手に取ると、暴発を恐れることもなく触れ合わせた。化然石は磁石が反発するように振動する。膨大な水量を両手で制御するとシレジアはネフェルに的を絞った。

 

「あなたとの記憶も友情も夢も、全て洗い流してやるわ――瀑竜斂舞(ばくりゅうれんぶ)

 

会場を覆い尽くすほど膨れ上がった水の竜は闘技戦をさばいていた教官ごと巻き込み、ネフェルは津波のような水流に抗えず壁に打ちつけられた。

シレジアは周囲の障害物をあらかた洗い流すと水の竜を落ち着かせ化然石を解除する。

一部の観衆は恐怖のあまり逃げ出す。溺れかけたネフェルは水を飲み込んでしまい噎せた。

 

「もう十分ではないか?」

 

一部始終を目撃していたラーシュが駆け寄ってきた。

 

「げほっ……ダメだよ、ラーシュ……まだ勝負はついてないんだ……」

 

「なれば次の一撃で勝負を決めよ。でなければ私もネフェルが痛めつけられる姿を黙って見ていることなどできぬ」

 

「体が動く限り私は諦めない。教官としてのプライドを貫く。それが不器用な私の生き方だからだ」

 

「そんな下らない自尊心、ワタシが粉々にしてあげるわ」

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