アルマダ・ブレーダーズ   作:公私混同侍

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三度目の嘘つき

ネフェルはブレーダーを急加速させシレジアに突撃した。闘技場はたくさんの凹みができており、水溜まりが二人の進路を妨げる。

一度目の斬撃は水の盾に押し返された。二度目の斬撃はブレーダーが泥濘にはまり空を切る。

反撃に出たシレジアが紺色の化然石を発動させ片足を氷づけにした。

 

「片足を封じられたらブレーダーも意味を成さないわ。三度目の勝負はあなたの負けね」

 

「どうしてトドメを刺さない?私のプライドをズタズタにしたいんだろ?」

 

「もう飽きたわ。あなたは頭を動かしてないと動けないタイプだから、ワタシの相手としては分不相応ね。来年の闘技祭はサムライに相手でもしてもらおうかしら?」

 

ラーシュは殺意のこもった目でシレジアを睨みつけた。身動きが取れないネフェルは時間を稼ごうと教習生時代を懐古する。

 

「そういえば初めて化然石の試験で競い合った時、君は才能をひけらかすように煌めく蝶を舞い上がらせて見せていた」

 

「また昔話?フン、あんなの本部にワタシの生き様を認めさせるために披露したワタシなりの愛情表現よ」

 

「あの時の光景は片時も忘れたことはない。まるで生き生きと輝いて大空に舞い上がる蝶が、私自身目指さなければならない人生の到達点を表しているかのようだった」

 

「あなたがそんなロマンチストだとは思わなかったわ。サムライに影響されたのかしら?」

 

「もしシレジアにできたことが私にもできるとすれば?」

 

「無理ね。だってあなたには才能がないんだもの」

 

赤色の化然石で凍結した足場を解かす。再度泥水になった水溜まりに手を突っ込む。

ネフェルの髪はいつの間にか青く透き通った色に変わっていた。

 

「いくよ、シレジア。これが私の生き甲斐だ――(そう)(しょう)覇蝶(はちょう)

 

数多の水溜まりから蒼穹に溶け込む蝶の大群が飛翔する。羽を優雅にはためかせる美しい蝶は呪縛から解き放たれ自由を謳歌しているようだ。

地上に漂う星々の輝きに観衆からは感嘆の声が漏れる。

一羽の蝶がラーシュの鼻先で羽を休めていた。

蝶たちはネフェルの手の動きに合わせ、規則正しく飛行する。

手を真上に上げると蝶たちはピタッと動きを止め、手を振り下ろすとシレジアの体を鋭利な刃の羽で切り裂いた。

 

「うぅぅぅッ!?」

 

瞬きすら許さない怒濤の蝶の乱舞にシレジアをもってしても反抗は不可能。青き蝶たちの縦横無尽の暴れっぷりに見るも無惨な姿になった。

白銀のマントは糸屑に成り果て、白亜の鎧は傷だらけ、純白のパンプスに至っては先端が欠けていた。

 

「これが私の全てだ」

 

「調子に乗るなァ!ネフェルティア・イングレースッ!」

 

シレジアが四色の化然石を同時に発動させようとした。ネフェルは発動を防ごうと水溜まりに浸かっていた足を振り上げる。ブレーダーは泥水を跳ね上げシレジアの顔に塗りつけてしまった。

 

「やってくれたわね……!」

 

シレジアは顔についた泥を腕で拭う。その表情は怒りという言葉だけでは言い表せないほどだ。

ネフェルの額から汗が滴り落ちる。

 

「ふざけんじゃねーよ!人の顔に泥を塗りやがってぇッ!!」

 

怒りに身を任せたシレジアは鬼や妖、そして鬼神をもひれ伏すような超越的な力を暴走させる。

水溜まりは一瞬で蒸発し足場の悪い地面が露になった。地響きが会場全体に轟き、見るもの全てが釘付けになる。

憎悪と憤怒にまみれたシレジアを前にネフェルは跪き動けなくなった。

強烈な連撃がネフェルに襲いかかる。サンドバッグにされ口から血を流し額に痣、腕は折れ、もう一方の腕で脇腹を抑えている。足を引き摺りながら立ち上がろうとしているが、体に力が入らない。

 

「気が収まらないわ。絶対にあなただけは許さない!」

 

「それが君の本気か……いたた……フフッ」

 

「何がおかしいの?」

 

「私はずっと孤独だと思ってたんだ。でも勘違いだったよ。ずっと孤独だったのは君なんだね」

 

シレジアは容赦なく刃を天へと掲げた。幾千の氷の葉は一本の剣となる。絶対零度の大剣は王者の風格を持ち合わせているようだ。

 

「三度目の正直ね。あなたはワタシの足元にも及ばなかった」

 

「君は最後まで嘘つきだ。自分の気持ちに正直になろうとしなかった」

 

『ネフェル、あなたの顔に永遠に消えることのない刻印を刻んであげるわ――千の王魂を束ねる零廟(プラグマティッシェ・ミルグラース)

 

電光掲示板のシレジアのポイントがすでに『3』を示している。

勝負は決しているのにも関わらず、教官たちはたじろぎ闘技戦を止められずにいた。

ラーシュはブレーダーを最速に設定し、脇に差していた小刀を抜く。

シレジアの大剣がネフェル目掛けて振り下ろされた。

鈍い音ともに小さな影が大剣を受け止めている。

 

「ワ、ワタシの剣が小刀(ドス)一本で受け止められた……!?」

 

「ラーシュ……?」

 

「体勢は決している。もはやこれ以上の私闘は無意味」

 

「ふ、ふざけんじゃないわよ!ワタシの腹の虫が収まらないのよ!そこをどきな!」

 

「腹の虫が収まらぬと申すのなら――」

 

ラーシュはおもむろに自身の服を裂き、鍛え抜かれた腹筋を剥き出しにした。

 

「あなたの腹を切れっていうの?」

 

「それで刀を納めてもらえるのならばやすいもの」

 

ネフェルは二人のやり取りに口を挟む余力はなかった。

 

「いいわよ。そこまでいうのならバッサリいかせてもらうわ」

 

シレジアは絶対零度の大剣を一閃しラーシュの腹を裂いた。

 

「グッッ!?……ガハッ……」

 

「ラ、ラーシュ!?どうしてこんなことに……」

 

激痛にもがくラーシュはうつむき傷を抑える。周辺に血飛沫が飛び、シレジアは返り血を顔に浴びた。

 

「なによ、介錯してほしいって?しょうがないわね」

 

シレジアはラーシュの首元に大剣を振り落とした。

観客は阿鼻叫喚。目を覆いたくなる光景にヒューガーとランバーが駆けつけた。

すんでのところ大剣は踏み留まる。

ヒューガーはラーシュを抱き抱え、ランバーはシレジアの腕を掴む。

 

「クソビッチ、祭りを潰す気か?」

 

「あなたの相手は虫の息。お祭りはおしまいよ」

 

シレジアは肩についた埃を払うと苦痛に悶えるラーシュを一瞥し闘技場から去っていった。




化然石の発動による武器の実体化

・武器を実体化する場合の最大質量は使用者の等身大とほぼ同じ(衣服やブレーダーなどの質量を除く)

・シレジアは上記の例外にあたり、最大質量を等身大の5倍まで増加させることが可能(化然石一個につき)

・化然石発動時の制御方法は個人によって様々(脳内のイメージだけで操る、指先でコントロールなど)
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