アルマダ・ブレーダーズ   作:公私混同侍

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目覚めの時 ラーシュVSランバー

強制的に闘技祭を終了させられ、観客たちや関係者の姿はなくなり会場は閑散としている。ランバーは肩の関節を揉みほぐしながら重傷から回復したラーシュを労る。

 

「まだ完全に体力が回復したわけじゃねぇんだろ?慌てなくても俺は逃げねぇよ」

 

ラーシュは傷口に手を当てた。

 

「余計なことをしたってんなら役員を代表して頭を下げる。これでもオレなりの気遣いのつもりだったんだがな」

 

「女狐につままれた気分だが、役員のご厚意に報いねば胸をなでおろすこともできぬ」

 

女狐とはレインのことだ。

 

「今回はあのクソビッチに台無しにされちまったが、祭りは来年もある。焦ることはねぇ。でもよぉ、せっかくバランゴが前座を盛り上げてくれたってのに、どうも身体がウズウズしちまってしょうがねぇぜ」

 

どこからともなく声が聞こえる。

 

『本当は戦いたくて、戦いたくてたまらないのであろう?ヒッヒッヒ』

 

不気味な笑い声が木霊する。凶極刀がカタカタと音を立てた。

 

「誰が喋った?まさか刀が喋るわけねぇよな?」

 

『声が聞こえているな?ならばランブリング・リード、我を崇めよ』

 

「な、なんだ?声が直接頭ん中に響く……!?」

 

『お前は偽なる星から転移した存在。つまりこの星にお前の居場所はない』

 

「テメェ……オレのこと知ってんのか……!?」

 

『我は虚無の聖域に魂を呼び戻すべく、時幻世界より召還された。お前は私と同じ時幻世界に生きる者。その因果は予定されており、いかなる力が働こうと覆すことはできない』

 

「ジゲンセカイ?虚無の聖域?オレにはなんことだかサッパリだが、一つ言えることはオレもラーシュと似たような境遇を持ってるってことだ」

 

「狂犬殿も実の両親が?」

 

「両親はいるのかもしれねぇが、十五の時に初めてシレジアと会ったんだが、それ以前の記憶がねぇのさ。医者には記憶喪失と言われたが、腑に落ちねぇことだらけだ」

 

『それはお前の魂の不存在によって時幻世界に生きていた時の不都合な記憶が抹消された証。己の正体を知りたくば我の声に器と魂を捧げよ』

 

「ハッハッハ、刀の声に耳を貸せってか?舐めたこと抜かしてんじゃねぇよ。自分のケツぐらい自分で拭ける。誰の力を借りるつもりはねぇよ」

 

「狂犬殿は戯れ言に惑わされるような柔な男ではない」

 

『ならば仕方がない。我の力を求めるように仕向けるだけだ―――ヒッヒッヒ』

 

「むっ!?これは!?」

 

『ラーシュ・ダスティヒ・ヴィルヘルム……お前にも協力してもらうぞ』

 

ラーシュは身体中が燃えるような感覚に襲われた。

 

「バ、バカな!?コイツは化然石の反応じゃねぇか!?」

 

凶極刀が赤みを帯びていく。ラーシュの体内から煌々とした光が広がる。化然石の残滓を吸収し新たな力を得ようとしているようだ。

 

『踊り狂え!凰火(おうか)の刃よ!』

 

ラーシュの意思に反して凶極刀は炎を宿す。熱と風が猛威を振るう。ランバーの影は灼熱の中へと吸い込まれた。

 

「狂犬殿!?」

 

ラーシュは凶極刀の力に抵抗するが、磁石のようにくっついて離れない。両手を使い地面に抑えつけようとするが、反発する力はますます強力になる。

ネフェルやヒューガーが騒ぎを聞きつけやって来た。

 

「来るな!私に近づけば主君たちもただではすまされない!」

 

「ラーシュ、何が起こってるんだ?刀を離せないのか?」

 

「私のことより狂犬殿を……」

 

「狂犬?ランバーはどこ?」

 

ネフェルが焦げ跡が残る地面を見つめる。衣服を消し炭にされ全身から湯気を出すランバーはまだ生きていた。

 

「とんでもねぇ力だな……そのタライってやつはよぉ」

 

『ほう、雷の化然石で致命傷を避けたか。しぶとい犬だ』

 

「ラーシュにはわりぃが刀ごと封じさせてもらうぜ」

 

「狂犬殿、この場から離れよ!さもないと私では未知の力を抑えきれぬ!」

 

「遠慮はいらねぇぜ、ラーシュ。テメェの全力をこの目で拝めるってんなら、たとえ刀の力だとしても潰し甲斐があるってもんだ」

 

『ヒッヒッヒ。愚かものめ、二度と我に歯向かえぬようその舌を引き抜いてくれる!』

 

ランバーは黄色の化然石を持った拳で豪快に地面を殴った。稲妻が間隙を縫うように地面を走り抜け、網目の張った扇状の檻がラーシュを囲う。

 

狂雷(きょうらい)の檻は敵を捕らえることに特化した技。ラーシュの動きを封じれば刀が脅威になることはねぇ」

 

『味な真似を……』

 

「スゲェ、あんなこともできんのかよ……」

 

「感心してる場合じゃない。あれじゃラーシュを救い出す解決策にならない」

 

ネフェルがヒューガーを現実に引き戻す。

 

「おのれ、魔刀に振り回されるなど今生の恥。苦肉の策だが腕を切り落とす……!!」

 

ラーシュは自身の肘を切り捨てようと激しく放電する網に近づけた。

 

『我から逃れようなど不埒なことは考えれば、どうなるか教えてやる――(らい)()(じん)(ぷう)(せん)

 

凶極刀はラーシュの腕ごと旋回しながら檻を切り裂いた。 つむじ風が轟々と吹きすさみ稲妻を巻き取る。渦巻く風は勢力を強め竜巻に変化した。直線的な動きでランバーに襲いかかる。

 

「姑息なやり方じゃ通用しねぇか。だがな、オレにはこんなことも出来るんだぜ?」

 

黄色の化然石を二つ持ち、一つを竜巻の中心に投げた。もう一つの石を持った拳で放電させる。

 

『――(きょう)(らい)(けん)(だい)(らい)(ほう)

 

屈折しながら突き進む稲妻が竜巻の中心部で揉まれる化然石にぶつかった。稲妻は乱反射して放射状の閃光を解き放つ。気流が乱され勢力を弱めた竜巻は霧散した。

余波でランバーの肩、胸、足に切り傷ができる。

 

『偽なる星の力は危険だ。即刻手を打つ必要性があるようだ』

 

「好き勝手はやらせねぇぜ。ラーシュ、足の包帯の中に狂犬(オレ)対策用の化然石を隠してるだろ?」

 

「むっ、見られていたか……」

 

ラーシュは包帯の中から赤と黄の化然石を取り出した。すぐにネフェルは服のポケットをまさぐる。化然石を紛失するという失態を有耶無耶にしたいのか、手を口に当て自分は被害者だとヒューガーに訴えている。

 

「その石を刀に喰わせてやりな」

 

「なっ、何を申されるか!?」

 

『正気か?我に新たな力を与えようというのか?』

 

「ラーシュがやらねぇっていうんならオレのをやるぜ――ほらよ」

 

『大馬鹿ものめ、自ら負け犬に成り下がるとはな』

 

凶極刀は刃先を分裂させ口のようなものでランバーの腕に食らいつこうとした。とっさに石を落としてしまう。

 

『ヒッヒッヒ、これで我に断てぬものなし』

 

「分かりやすい餌に飛びつくとは、テメェはドがつくほどアホな刀だぜ。タライさんよぉ」

 

ラーシュは凶極刀が開口するタイミングを勘だけを頼りに予測し、二種類の化然石をブレーダーで蹴り飛ばした。

弾丸のように向かってくる二つの化然石をランバーは手刀で叩き割り、凶極刀が食らいつこうとした化然石にぶつかる。その瞬間、同じ色の化然石は暴発し凶極刀を弾き飛ばした。時間差で発動した火の化然石が爆風を引き起こし更に威力を増す。

 

『――ぐおぉぉぉっ!?』

 

凶極刀はラーシュの手を弾き壁に突き刺さった。

 

「よくオレの狙いに気づいたな、ラーシュ」

 

「狂犬殿の手助けになればと思い、一縷の望みに賭けたのだ……」

 

そう言うとラーシュは意識を失い、ぐったりと倒れ込んだ。

 

『我の力はまだ完璧からほど遠いのようだ。今はラーシュ・タスティヒ・ヴィルヘルムを拠り所にして眠りから覚めるのを待つとしよう』

 

「テメェ、まだラーシュの体に寄生するつもりか?」

 

『この男はまだ使い道がある。我の目的を果たす器だ。邪魔をするというのなら、お前たちに大いなる災いが降りかかるだろう』

 

凶極刀から邪悪な意志が消えた。ヒューガーが眠っているラーシュを背負う。ランバーは凶極刀を壁から引き抜くと、ネフェルに手渡した。

 

「もうラーシュが苦しむ姿は見たくない。刀は本部で預かってほしい」

 

「我が儘が過ぎねぇか?元はと言えばテメェがラーシュを逃しちまったのが発端だろ?その尻拭いをオレたちにさせる気か?」

 

「それは……」

 

「本当にアイツを大事に思ってるんなら、テメェが最後まで面倒見ろ。ラーシュもそう願ってるだろうからな」

 

「ラーシュが?」

 

ランバーは空を見上げる。

 

「オレはもう帰るぜ。まだ仕事があるんでな。クソビッチの始末書も書かなきゃなんねぇ。刀の処分はネフェルに任せる。それとラーシュが目覚めたら伝えておけ。オレを犬呼ばわりするなってな」

 

こうしてラーシュの闘技祭は幕を閉じた。

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