アルマダ・ブレーダーズ   作:公私混同侍

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ラーシュと人気投票

極度の疲労と凶極刀の暴走により意識を喪失したラーシュは、目覚めに三日間を要した。

賑やかな日常に戻った役員室では闘技際の総括が行われており、シレジア、ランバー、レイン、バランゴが顔を合わせる。

レインがホワイトボードを引っ張りだし、はしゃぎ始めた。

 

「ジャッジャーン!!みんなお待ちかねの人気投票結果発表の日でーす!」

 

ホワイトボードには上から順位が書かれており、闘技祭の参加者に順位が割り振られている。

ジェット・ストライカーズの三人は対象外のようだ。

備考欄には投票総数が記されていた。

 

 

1位 シレジア・ミルビッチ

2位 ランブリング・リード

3位 ネフェルティア・イングレース

4位 ヒューガー・ソレイユ

5位 レアンドロ・バランゴ

6位 ラーシュ・ダスティヒ

 

 

「一位は当然として酷い有り様ね、あの女は」

 

シレジアの鼻が高くなる。ネフェルから人気者の地位を奪い返したことが余程嬉しいらしい。バランゴが相づちを打つ。

 

「まあ二人の関係が構内全体で公になっちまったすから」

 

始末書をまとめていたランバーが一喝する。

 

「くだらねぇことに躍起になってねぇで、テメェら総括しろや」

 

「でもでもぉ、バレンゴ君はシュシュ君と一票しか差がないんだよぉ?」

 

「か、勝ちは勝ちっすから!」

 

「まあでもレアンゴと違って、あんな堅物な武士気取りの男が周りの目を気にするようには思えないけどねぇ」

 

「いちいち気にする方が疲れちまう。ラーシュはそういう男だ」

 

「相当気に入ったのね。お祭りを台無しにされて迷子の子犬みたいになってたっていうのに」

 

「しょうもねぇ勝ち方しかできねぇ女に言われたかねぇよ。ドス一本で受け止められた会長様なんて噂立っちまうしな」

 

「フン」

 

「あれれ、シュシュ君とフェルちゃんの票――これはこれは探れば面白いことになるかもぉ、ぐふふ」

 

――

 

――――

 

――――――

 

レインは新調した分厚いファイルを大事そうに抱え、とある人物の元に向かう。

闘技祭が行われていた特設会場では若手の教官たちが後片付けをしていた。軍手をしたネフェルは備品倉庫を出入りし、せかせかと動き回っている。

 

「やあやあ、フェルちゃん!ご機嫌麗しゅう~」

 

ファイルを指でコツコツと叩くレイン。ネフェルは首に巻いていたタオルで汗を拭った。

倉庫内は湿気で蒸し暑くなっている。

 

「見ての通り今は手が離せないんだ。これから破壊された路面や外壁の修理を業者に依頼しなきゃいけない。用件がないなら出ていってくれないか?」

 

「じゃあ出ていかな~い」

 

「ラーシュを助けてくれたことには感謝してる。だけど、君は役員の人間だ。私とは生きてる世界が違う」

 

「えへへ、それじゃあとっても重要な情報をあげりゅ」

 

「あざいといよ、レイン」

 

「シュシュ君が病室からいなくなったんだって」

 

「えっ!?」

 

「目撃者の証言によると本部の屋上に向かったって話だよ~。もしかしたらフェルちゃんに思いの丈を伝えにきたんじやな~い」

 

「目覚めたばかりだから風にでも当たりにいったんだ。今日はいい天気だから」

 

「ふーん、つまんないの。嬉しさのあまり目に涙を浮かべてドラマのヒロインみたいに喜ぶと思ってたのにー」

 

「話はそれだけ?てっきり人気投票でからかいにきたと思ってたけど、用がないならもういい?」

 

レインは藪から棒にファイルから紙を取り出した。

 

「シュシュ君が誰に投票したか知りたくな~い?」

 

「べ、別に……そんな野暮ったいことしてラーシュが喜ぶと思うか?」

 

「えっへん!強がってもあたしの目は誤魔化せないぞっ!」

 

「そこまで言うなら私の意見を言わせてもらう。ラーシュの性格なら誰も傷つかないように思考を巡らすはずだ」

 

「フムフム」

 

「もし白紙投票をしないとしたらラーシュは自身に投票すると私は考える」

 

「へぇ、やっぱりシュシュ君の話になると熱くなるって本当だったんだぁ」

 

「なっ……!?」

 

「冗談冗談!お詫びにこれあげちゃう~」

 

「これは開票状況一覧表?――えっ!?」

 

「いい反応するねー。恋する乙女はホニャホニャ」

 

レインはネフェルに口を塞がれ、手足をばたつかせている。

 

「レイン、この記録は本物なのか?」

 

「本物だよん。嘘だと思うならビッチ会長に聞いてみてーん」

 

「嘘だ……何故ラーシュは……」

 

ネフェルは仕事を終えると急いで屋上に向かった。ラーシュは夕陽を眺めながら、鉄柵に寄りかかっている。包帯姿が痛々しい。

 

「――ラーシュ!」

 

「ネフェルか。あまり大きな声を出さないでくれ。傷口に響く」

 

「ご、ごめん。ラーシュが病室から出てったって聞いたから、いてもたってもいられなくて」

 

「そうか……」

 

「ラーシュ?」

 

「己の至らなさを自問していたとこだ。なにゆえあのような行動に出てしまったのかと。詫びることで許されるとは思っていない。だが、改めて謝りたい」

 

「どうして謝るの?ラーシュは悪くない。悪いのは私だよ。ラーシュやヒューガーの足を引っ張ってしまった」

 

「よもや引きずっているのか?」

 

「ちょっとだけ」

 

「気に病むな。ネフェルを責めるものがいるとは思えぬ。幸い腹の傷はかすり傷だ」

 

「ラーシュは優しいんだね」

 

「なにゆえそう思う?」

 

「これ知ってる?」

 

ネフェルはレインから渡された投票用紙を見せた。

屋上の隅で存在感を消していたヒューガーが二人の会話を盗み聞きしている。

 

「――何でネフェルがここにいるんだ?それにラーシュも一緒か。少し様子を見るか」

 

「その紙はいつぞやの……」

 

「こんなこと言うのはおかしいけど、私はラーシュに入れたんだ。それにケイコもだよ」

 

「フッ、そうか」

 

「ラーシュはどうして白紙で投票しなかったのか、聞いてもいい?」

 

「レインとかいう女狐から吹き込まれたのだろう?」

 

「ど、どうしてそれを?もしかしてラーシュも?」

 

「投票した相手に結果を伝えていいか訪ねられた。無論、私は悩んだ。本当に良いのかと」

 

「それじゃあ……」

 

「だが、己の意思で決めたことに悔いはない。率直に申し上げる。私はネフェルに投票した。主君との約束を反故にしてな」

 

「それが……それがラーシュの本当の気持ち?」

 

「何度も同じ問いをされたら気恥ずかしくなってしまう。これにて失礼する」

 

「こんなにもたくさんラーシュの優しさに触れたら私、どうにかなってしまいそうだ……」

 

二人の親しげな雰囲気とは裏腹に影から様子を見ていたヒューガーの腸は煮え繰り返っていた。

 

「あの野郎、裏切りやがったな。俺がバカみてぇじゃねぇか……」

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