アルマダ・ブレーダーズ   作:公私混同侍

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ケイコの約束

ラーシュは本部に呼び出され役員室を訪れる。待ち構えていたレインとバランゴから闘技祭でのブレーダー技能審査の結果を言い渡された。

 

「パンパカパーン!ラーシュ、ダスティヒ殿に合格証書を授与しまーす!」

 

「う、うむ」

 

「あとこれ、免許証な」

 

バランゴは手のひらサイズの免許証をラーシュに手渡す。免許証は即日発行されるようだ。

 

「ねぇねぇシュシュ君も役員にならない?」

 

「レ、レインさん!?免許取り立ての野郎を勧誘するつもりっすか!?」

 

「せっかくのお誘いではあるが気持ちだけ頂戴致す。あいにく不器用な性格ゆえ、会長殿やランバーほどの大器を持ち合わせていないのだ。女狐殿には傷を癒してもらったというのに、お役に立てず申し訳ない」

 

「フラれちゃいましたね。レインさん」

 

「あたしは諦めない!シュシュ君は今の役員にピッタリな人材なんだよ?」

 

「そうすっかね?オレはそうは思えないすっけど」

 

「ビッチ会長が持つ天性の求心力、高いコミュニケーション能力と特殊な環境でも柔軟に対応できるワンちゃんの適応能力はピカイチ。そしてシュシュ君の独創性と逆境をはね除ける力が合わされば役員は百人力なのさぁ!」

 

「オ、オレは……?」

 

「あたしは戦闘が不向きだからバレンゴ君に頼るしかないし~」

 

「任せてください!このレアンドロ・バランゴがレインさんをお守りするっすぅ!」

 

「バレンゴ君だけじゃ不安だから、やっぱりシュシュ君にしよう!……あら?」

 

レインが力説している間にラーシュは抜け出していた。話がややこしくなりそうになっていただけに、ラーシュの動きは早かった。レインは嘘泣きをしながらバランゴに八つ当たりする。

抱きしめようとしていたバランゴは体当たりを受け、ガラス窓を突き破り落っこちた。

シレジアやランバーに雷を落とされたのは言うまでもない。

日差しが燦々と降り注ぎ、ベタつく汗が肌を伝う。チームとして初任務をこなした公園でケイコは誰かを待っているようだ。

 

「さて、ケイコとの約束を果たす時がやってきた。まずはどこへ向かう?」

 

「その前に合格おめでとう。お腹はもう痛くない?」

 

「免許を手にできたのは主君やケイコ、そしてネフェルのお陰だ。傷のことならこの通り刀痕(とうこん)しか残らなかった。ケイコには心配をお掛けしたが、これからもサポートをお願いしたい」

 

「ラーシュは私の大切な友だち。私とパドンがずっとサポートするよ。だから何でも頼ってね」

 

ケイコは照れ臭そうにラーシュの首にかけてある免許証を見た。

 

「リーダーには報告した?」

 

「うむ。真心のこもった祝辞を承ったのだが、今すぐ役場に届け出を出したいと仰せられ電話を切られてしまった。どうやら主君は雑務に追われているようだ」

 

「リーダーのことならパドンがついてるから大丈夫。それよりラーシュは行きたいとこある?」

 

「私の時間はケイコに一任している。望む場所があればどこでも構わぬ」

 

「じゃあアイスクリームが食べたい」

 

ケイコは公園内で営業しているアイスクリーム屋さんを指差す。

二人はアイスクリーム屋さんに向かった。ラーシュはソフトクリームを選ぶ。

ケイコは赤、黄、青の三段に重なったアイスクリームを選んだ。

ベンチに座るとケイコは今までの出来事を事細かに語りだした。聞き手に徹するラーシュは黙々とアイスクリームを舐める。食べ終わると相づちを打ち、冗談を言ったり、時折お互いの夢を語ったりと充実した時間を過ごした。

 

「こんなにも楽しい時間を過ごしたのは、兄妹と玉蹴りをした時以来か」

 

ケイコは艶やかな着物を着た女性に目を奪われた。両手に手提げ袋を持っている。するとラーシュが立ち上がり女性の元に向かって歩き出した。女性は二人に気づくも表情一つ変えない。

 

「母上、これからお帰りですか?」

 

ラーシュは格式張った言葉遣いで女性に問う。

 

「ああ、買い出しに出ていたんだ」

 

「それでは荷物をお持ちします」

 

「ベンチに座っている彼女はいいのか?二人で楽しそうに会話をしていたように見えたが、私のことは気にしなくていい」

 

「はい……」

 

「色々頑張っていることは知っている。ラーシュの話は近所の人が教えてくれるからな。ブレーダーの仕事は大変だと思うが、もし時間があるのなら『恭真(きょうま)』や『柚菜(ゆずな)』の遊び相手になってくれないか?最近ワガママに拍車がかかって参っているんだ」

 

「承知しました。必ずや母上の心労に報いるよう取り計らいます。道中お気をつけて」

 

「フッ、いい子だ。ラーシュ」

 

着物の女性は手提げ袋を軽々と持ち直すと、スタスタと帰っていった。

 

「着物の人、ラーシュのお母さん?」

 

「似ても似つかぬと言いたいのであろう?」

 

「そうじゃないよ。ラーシュのことは何でも知ってる。過去のことはよくわからないけど、私に聞く権利はない。だってラーシュが苦しんでる姿は見たくないから」

 

「胸を張って言えるような生き方をしてきたわけではないが、過去を否定しようとも思わぬ。私の歩んできた道は、とうの昔の偉人たちが歩んできた道だ。私のような小人の足跡など、風が吹けば消えてしまうくらい儚いもの」

 

ケイコはラーシュの気分を変えようと話題を変える。

 

「さっきの女性、凄い綺麗な人だね」

 

「美しく透き通った容貌だけでなく、月が目映い光で包み込むような包容力を併せ持った母君だ」

 

「昔は世界でも五本指に入るくらい有名な女優さんだったんでしょ?」

 

「さすがはケイコ、抜け目がない。母君の卓越した演技は観客を虜にし、瞬く間に世界中にその名を轟かせた。母君の長兄として、これほど誇らしいことはない」

 

「それじゃあ次は駅に行こう」

 

「なにゆえ駅に?水族館や動物園ではもの足りぬのか?」

 

「待ち合わせている人がいるの。もしラーシュが嫌なら予定変える?」

 

「お気遣いはいらぬ。今日はケイコと共に過ごすと約束したのだ。なればその知人に会いに参ろう」

 

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