アルマダ・ブレーダーズ   作:公私混同侍

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恭真と柚菜

ラーシュとケイコは公園を出て駅に向かう。休日とあって人出が多い。行き交う人々は親子連ればかりだ。当たり前だがブレーダーを履いてるものはいない。人通りが激しい場所での緊急時以外の走行は禁止されているからだ。

ケイコは人混みを掻き分け改札口に向かう。電車に乗るわけではない。

 

「シレジア、お待たせ」

 

予想外の人物にラーシュは歯を軋ませる。

 

「待ち合わせがワタシと知って古傷が痛むのかしら?謝罪なんてしないわよ」

 

シレジアの上品な装いが高貴さを引き立て、高価な装飾品が嫌でも目につく。

 

「会長殿、闘技祭での一件は不慮の事故。不問に付すと一言申して頂ければ、今日一日従者としてお付き合い致そう」

 

「あら?案外ノリのいいサムライなのね。ネフェルといい感じになってるってケイコに聞かされてたから、センチメンタルになってるんじゃないかって心配したけど、ワタシの考え過ぎだったみたいね」

 

ラーシュはシレジアの荷物係りとしてショッピングセンターへ足を運んだ。

ケイコとシレジアは他愛のない世間話で盛り上がり会話が途切れる様子はない。ラーシュは重い買い物袋を持ちながら、二人の後ろをついていく。楽しそうに話す二人の姿を怨めしそうな顔で眺めた。

その頃、土手では子供たちが掴み合いの喧嘩をしていた。兄妹らしき男の子と女の子が言い争っているようだ。

 

「最近の恭真兄さんの態度は目に余るものがある。もう少し兄様(あにさま)を見習って。そうすればお母さんも、あんな疲れた顔なんてすることないんだから」

 

和装の乱れた少女が少年の腕を掴む。

 

「柚菜はラーシュ兄ちゃんの味方だから、俺の気持ちなんてこれっぽっちもわからないんだ。父さんは旅に出たっきり何年も帰ってこないし、母さんは家のことで手が離せないし、ラーシュ兄ちゃんなんて夜遅く帰ってきたと思ったらすぐ出て行っちゃうんだぜ?俺たちが子供だからってみんなでバカにしてんだ」

 

顔に土をつけた少年は少女の腕を払う。

 

「そんなわけないじゃない!兄様はお母さんを支えようとブレーダーの仕事を始めて必死にやってる。もういつまでも兄様に頼ることなんてできなんだから、恭真兄さんがしっかりしてお母さんを助けなきゃ」

 

「俺と柚菜はラーシュ兄ちゃんや母さんみたいに武器を持たせてもらえないんだぞ?そんなんでどうやって子供の俺たちが母さんを助けようって言うんだよ!」

 

土手にブレーダーの走行音が響く。コンクリートの上を滑らかに走る音が心地よい。

 

「兄様!」

 

「よく見ろよ。女の人じゃん」

 

教官服を着たネフェルは二人に近づくと黒髪を靡かせ、燐とした姿を見せつけた。

 

「君たちの大きな声が聞こえたから気になって来たんだ。変な人にでも声をかけられたのか?」

 

「スッゲェ綺麗な人!」

 

「ちょ、ちょっと恭真兄さん!?見ず知らずの人に失礼なこと言ったら駄目だってお母さんに言われたでしょ!」

 

「フフッ、正面切って口説かれると思わなかった。その様子だと兄妹喧嘩でもしたのかな?」

 

「ねぇねぇ!お姉さんの格好ってブレーダーの学校の制服だよね?ラーシュ兄ちゃんも通ってたって聞いたんだけど、俺でも入れたりする?」

 

「君たちがラーシュの言ってた兄妹?」

 

「恭真兄さんは自分の考えをすぐ変えちゃうの?ついこの間まで『ブレーダーなんて子供の遊びなんだから俺のような大人の魅力に溢れた男には相応しくない』とか偉そうに言ってたのに!」

 

「そんな昔の話忘れちまったぜ!でもこんな綺麗な人にブレーダーの使い方を教えてもらえるなら毎日通っちゃうけどなぁ」

 

「確かに免許の目的とはかけ離れた入所理由を持つ教習生は少なくない。君の場合は下半身の筋肉に比べ、上半身の筋肉が足りてないように見える。よく食べてバランスよくトレーニングすればラーシュみたいになれるかもね」

 

「兄様のこと、知っているのですか?」

 

柚菜は不満そうにネフェルを見つめた。

 

「ほらやっぱりラーシュ兄ちゃんの先生なんだよ。この綺麗な人」

 

「ラーシュのチームに所属しているネフェルティア・イングレースだ。二人のことはラーシュから聞いているよ」

 

柚菜は嫉妬心に駆られ膨れっ面をしている。

 

「柚菜はラーシュ兄ちゃんのことが大好きだから、お姉さんに取られちゃうんじゃないかって思ってんだろ?」

 

「家族なんだから好きも嫌いもない!」

 

「そんなに怒らないで。ラーシュから君たちの話をよく聞かせてもらってる。もっと遊び相手になってあげたいけど、仕事もあるからなかなか時間があげられないっていつも嘆いているんだ。家族思いなのは間違いないよ、ラーシュは」

 

「あなたに兄様の何がわかるって言うんですか?」

 

「えっ……」

 

「お、おい柚菜!?そんな言い方ねぇだろ!お姉さんはラーシュ兄ちゃんの先生なんだぞ!」

 

「兄様が変わったのはあなたのせいなんですか?どうして家族を引き離そうとするんですか?」

 

「私はそんなつもりじゃ……」

 

「柚菜……」

 

「――ちょっといいかしら?」

 

三つの影が近寄ってきた。一人の女性が背後から柚菜の肩に手を置く。

 

「シレジア?どうして君がここに?それにラーシュとケイコもいるのか?」

 

「うげっ!?休みなのに出かけるって言ったけど、二股をかけるなんてさすがはラーシュ兄ちゃんだ!」

 

恭真の悪気のない言葉にシレジアは眉間にシワを寄せた。

 

「ちょっと!そこのチンチクリン、ワタシとケイコは買い物をしていただけ。サムライには荷物係りを押し付けたのよ」

 

「ごめんね、ラーシュ。重いでしょ?」

 

「案ずるな、ケイコ。これぐらいの重さなど母上の衝動的な買い物に比べれば呼吸が乱れることはない」

 

柚菜がラーシュに歩み寄る。幼い少女の瞳は鏡のような透明度でその姿を克明に映し出した。

 

「兄様、どこにも行かないと仰って下さい。でなければお母さんが悲しみます」

 

「柚菜や恭真には肩身の狭い思いをさせてしまった。出来ることならずっと側にいてやりたいのだが、私にはチームという居場所もあるのだ。多々不便な思いをさせてしまうが、どうか兄の玉石混淆の瞳に免じて許してもらえないだろうか?」

 

ラーシュは青い目をつまらないもの、つまり恭真を表す。赤い目を優れたもの。つまり柚菜を表す、このような例えで柚菜を慰めるのが日課だ。

恭真は柚菜を励ます道具として利用され、悔しさのあまりネフェルに抱きついた。

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