アルマダ・ブレーダーズ   作:公私混同侍

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内に秘めたるは……

久々の休暇を与えられたラーシュは母の依頼をこなすべく、恭真と柚菜の相手をすることに。

家は戸建てで古風な作りだ。四人で住むには申し分ないほどの広さ。和を重んじた畳のリビングと現代的な家族観を取り入れた洋風ダイニングキッチンが異色の空間を織り成す。

 

「兄様、今日は柚菜に勉強を教えてくださるのですか?」

 

「つきっきりというわけにはいかぬが、柚菜のためであれば助力を惜しまぬ」

 

曇り空を見ていた恭真がラーシュに飛びついた。外はあいにくの雨だ。

 

「ラーシュ兄ちゃん、たまには俺にも稽古してくれよ!母さんだと全然手加減してくんないから、怖くて稽古になんないんだ」

 

「柚菜の勉強が終わった後、恭真に稽古をつけよう」

 

「恭真兄さん、サッカーができないからって兄様の邪魔しないで」

 

「稽古とは手合いのことではなかったのか?しかし、『玉蹴りの相手をしろ』というのもやぶさかではない」

 

「か、刀の修行に決まってんじゃん!雨の中でサッカーなんてやったら母さんに怒られるし、刀の修行だったらラーシュ兄ちゃんが俺に合わせてくれるから怪我もしない。まさに一石二鳥!」

 

「ところが二兎追うものは一兎も得ずという言葉もある。 刀を握るということは常に痛みを伴うもの。ましてや悪意に染まった敵は様々な武器や知恵を用いる。生易しい考えでは母上や柚菜を守れぬ」

 

「恭真兄さんは兄様のようになりたいの?」

 

「俺は……父さんみたいになりたい」

 

「父上のような命知らずの騎士になりたい、と?」

 

「うん。父さんは家族を守る騎士なんだ。だから俺もみんなを守れる騎士になりたい。でもラーシュ兄ちゃんみたいな努力はできないし、死ぬのは嫌だけど……」

 

「フッ、恭真は正直者だ。それが悪いことだと思わぬ。人生において辛く険しい道ほど己を強くする。その反面、死の恐怖をこれでもかと実感することになる。それが命知らずの騎士たる所以なのだ」

 

恭真は真っ直ぐな瞳を机に向けるとラーシュの隣に座りノートを広げた。宿題を始めると柚菜も負けじとラーシュを質問攻めにする。

曇天から晴天に変わり夕陽が顔を出した。ちょうど母が買い出しから帰ってくる。

傘を持っていかなかったため、髪の毛がぐっしょり濡れていた。

 

「お母さん、おかえり」

 

柚菜が一番乗りで母から買い物袋を受け取り冷蔵庫に入れる。恭真はタオルを手渡した。

 

「夕食を作りたいんだが、手伝ってくれるか?」

 

「はい。お手伝いします」

 

母とラーシュが台所に立ち夕食を作る。恭真と柚菜は勉強道具をしまい食事の準備をする。

夕食はカレーライスのようだ。机を四人で囲む。育ち盛りの恭真は口いっぱいにカレーを頬張った。

 

「恭真は何か良いことでもあったのか?外は雨でサッカーができなかっただろう?」

 

母がラーシュに問いかける。

 

「私が恭真の宿題の様子を見ていました。柚菜と一緒に勉学に取り組んだことが励みになったのだと思います」

 

「恭真が机にノートを広げるとは珍しい。天気予報が外れて雨が降ったのはそれが原因か」

 

「へへっ」

 

「恭真兄さん、褒められてると思ってる?」

 

「違うの?」

 

「恭真は刀の手合いも望んでいます。雨も止んでいますので、のちほど散歩がてらにお供致します」

 

「フッ、私の指導が厳しいからラーシュに甘えようとしているのか。どうやら恭真は私に似てしまったらしい」

 

柚菜が驚きスプーンを止めた。

 

「お母さんが一番大変で苦しい思いをしているのに、恭真兄さんは遊んでばかりで手伝おうともしない。それなのに柚菜には……」

 

ラーシュが口調を変え柚菜に語りかける。

 

「私や母上が一番に柚菜の気持ちを理解している。それ以前に柚菜は自分の気持ちに素直になった方がいい。我慢すればするほど息苦しくなってしまう。私たちが大人になれば、家族揃って語らう時間もなくなってくる。そうなる前に内に秘めた鬱憤は吐き出すべきではないか?」

 

「それならどうして兄様は柚菜とお母さんとでは話し方を変えるのですか?」

 

「柚菜にはわからぬかもしれぬが、私は長兄として母上を尊敬しているからだ」

 

「それは変です。本当の家族ならそんな話し方しません。兄様は間違ってます」

 

ラーシュが反芻していると母が柚菜の頬を撫でた。

 

「血の繋がりなんて関係ない。ラーシュは私の立派な息子だ」

 

「あのネフェルティアという方は兄様の……恋人なのですか?」

 

恭真が水を吹き出した。

 

「ラーシュ兄ちゃん、お姉さんにまで手を出してたのかよ!?三股をかけるなんて、やっぱりラーシュ兄ちゃんスゲェ!」

 

「恭真、行儀の悪いことをするな。それと母さんは人様に聞かせられないような言葉遣いを教えたつもりはない。はしたない言葉で家族を罵るようなら、お仕置きが必要だ」

 

母に凄まれた恭真はスプーンを持ち直す。

ラーシュはスプーンを置いた。

 

「ネフェルはチームの仲間だが、教官という特殊な立場でもある。頼もしい味方であると同時に知性と向上心を併せ持ったチームにとって模範的な女性だ」

 

ラーシュが本心を明かしていないと思ったのか、柚菜はスプーンを机に叩きつけた。

口をモグモグさせていた恭真が噎せる。

 

「兄様の嘘つきッ!」

 

柚菜は外へ飛び出してしまった。

 

「思春期の娘に夜道を歩かせたくない。ラーシュ、行ってくれるか?」

 

「柚菜を傷つけたのは私です。柚菜の気持ちに寄り添えばきっと理解してもらえるかと。それと恭真を連れていってもいいでしょうか?」

 

「そうだな。母と一緒にいても辛い稽古に付き合わされるだけだ。違うか恭真?」

 

「えっ?い、いやぁそんなことないけどなぁ?」

 

恭真は我先にと柚菜を探しに出掛けた。ラーシュは外套を羽織ると二人分の外套を手に持ちブレーダーを起動する。

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