アルマダ・ブレーダーズ   作:公私混同侍

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メルデの斜塔

本部の上空に分厚い雲が広がる。雨が降り正門に水溜まりができた。水溜まりに映えるネフェルの表情はどんよりとしている。内心を映し出すかのように影を落とす。

一歩構外に踏み出れば本部は跡形もなく消え去り、振り返るとおどろおどろしい斜塔が聳え立っていた。

 

「私……どうしてこの場所に?」

 

何が起きたのか不思議に思うのも無理はない。しかし、ネフェルからすれば間近に見ている現象を理解する時間は必要なかった。

 

「斜塔はメルデさんの仮の住まい。やっぱりメルデさんは私を呼んでるんだ」

 

ネフェルは斜塔に引き込まれるように入っていく。中は螺旋階段になっており道中、扉や部屋らしきものはない。壁には四色の蝋燭、抽象的な絵画、古びた写真が不規則に飾られている。

 

「シレジアとメルデさんの写真か。懐かしい」

 

思い出に浸っていると別の写真が目に入った。

 

「この写真はフレイナ、マブライと一緒に合格した教官試験の時のか。フフッ、後ろにザスクード実技主任が写りこんでる。そういえば主任は私たちの先生だった。豪快で太陽みたいな先生。みんなから好かれてたっけ?」

 

「隣は教習生時代の役員の面々か。知らなかった……フレイナはレイン、マブライはバランゴに化然石の扱い方を指導していたのか。シレジアがランバーに教えていたのは知っていたけど、不思議な縁もあるもんだ」

 

別の写真にはアルマダの五人がカメラ目線で写っている。

 

「こんな写真、いつ撮ったんだ?」

 

ネフェルが壁から写真を剥がすと、写っていたものがアルバムを捲るように変化した。

ラーシュとヒューガーの出会い。

ケイコとの三顧の礼。

パドンとチーム事情。

そして、ラーシュとの今までの歩み。

ネフェルは立ち止まり写真を眺め続けた。ほとんどラーシュの写真ばかりだ。『アルマダ・ブレーダーズはまさしくラーシュのチームといっても過言ではない』と写真から言われているようだ。

 

「アルマダはラーシュを中心に動いているんだね。やっぱり私はチームの役に立てないのかな……」

 

最後の写真はネフェルとラーシュだ。仲睦まじい二人の光景が延々と広がる。

 

「私はどうしたいんだ?どうなりたいんだ?変わりたいんだろう?苦しんだろう?助けてほしいんだろう?」

 

「……でもどうしたらいい?」

 

ネフェルの問いに応えるかのように変哲な扉が現れた。

 

「扉の先にメルデさんが?行かないと、進まないと、自分の本当の気持ちを確かめに――」

 

独りでに扉が開き目映い光がネフェルを包んだ。扉の先に進むと大広間が現れた。窓がなく電気もない。壁の蝋燭だけが頼りだ。臭いもしなければ息苦しさもない。どこからかすきま風が吹いているようだ。外界の匂いが鼻先をくすぐる。

中央に一人の女性が佇んでいる。黒いローブと漆黒の髪が背景に溶け込んで生首が浮いているようにも見えなくない。

赤と青の瞳が鈍く光った。

 

「お久しぶりです。メルデさん」

 

「来てくれたのね、ネフェルティア。アナタならきっとワタシの期待に応えくれると信じていたわ」

 

「お元気そうで良かった。ザスクード実技主任からメルデさんの手紙を受け取りました」

 

「ネフェルティアは献身的で優しい子。ワタシの手紙を必ず返してくれるものね。それに比べシレジア(あの子)ったら役員になってから、一度も返事を書いてくれないのよ。あの子には親孝行という気持ちが頭の片隅にもないのかしら?」

 

「そんなことない。シレジアは本部を第一に考えているだけで、メルデさんのことを忘れるなんてあり得ない。私はいつもシレジアの背中を追いかけてきたから、なんとなくそんな気がするんです」

 

「ふ~ん、でもそんなことでワタシの寂しさは取り払えない。だってそうじゃない?シレジアは生みの親であるワタシを魔女と蔑み、本部から遠ざけようと教官派に対抗する本部役員なるものまで生み出した。恩を仇で返すなんてあんまりだと思うわ」

 

「シレジアはメルデさんを尊敬し愛しているからこそ、本部の役に立ちたいと思っているんです。表向きは会長なんて名前だけ立派な役職についてはいるけど、本人は本部の人たちを憎んだり追い出そうなんて考えていないんです」

 

「ウフフ、ワタシを愛している……ねぇ」

 

「対立することはたくさんある。ずっと本部に通いつめなきゃいけないし、なんでシレジアと毎日顔を合わせなきゃいけないんだって思ってしまったこともあります。でも私にもわかったんです。シレジアの本当の気持ちが」

 

「どういうことか教えてもらえるかしら?」

 

「闘技祭でシレジアは私に教えてくれたんです。役員を作ったのは自己満足の為じゃない、私の為だって。私に強くなって教官として自立してほしい。役員と競い合って本部を引っ張っていってほしい。そんなシレジアの思いが伝わってきました。だから私は――」

 

「でもシレジアはそんなアナタを切り捨てようとした。シレジアはアナタの大切な人を傷つけた」

 

「ラ、ラーシュは別に大切な人……チームにとって大切な人ではあるけれど……」

 

「ムフッ、アナタの悩み悶える姿は堪らなく可愛いげがあるわ」

 

「からかわないで下さい。私は……」

 

「幼い時からネフェルティアは気持ちを表に出すのが躊躇われ、正反対のシレジアとの口喧嘩が絶えなかった。でも驚かされたわ、アナタの成長に。ネフェルティアの口から『愛している』なんて言葉が出てくるなんて想像もしてなかったのよ。でも本当はアナタがそうなりたいんじゃないかしら?」

 

「私が……?」

 

「アナタは何を望み生きていたいの?餓えや渇きにもがく我が子を、ワタシが見殺しにしたいなんて考えてると思う?」

 

「いいえ。メルデさんは私とシレジアに数えきれないほどの愛情を注いで頂きました」

 

「それならネフェルティア、ワタシの次なる願い叶えてくれるわね?」

 

「願い?」

 

「そう。アナタの夢も理想も願いも叶える。力を手にすることによって」

 

「力が欲しいわけじゃありません。私が欲しいのは……」

 

「知りたいのでしょう?確かめたいのでしょう?本当の自分に、本当の気持ちに」

 

「私は……たい」

 

「なに?聞こえないわ。アナタの心の声が聞こえない。全てを私に捧げない限り、愛する者たちと希望に満ちた世界には飛び立てないのよ」

 

ネフェルは深く息を吸った。

 

「私は知りたい!自分の本当の気持ちを見出だしたい!助けて、メルデさん!」

 

「いいわ、あれをご覧なさい」

 

メルデは大広間の最奥に視線を向けた。

 

「あれは……刀?」

 

「そう、刀よ。あれがアナタに勇気を与える。さあ、受け入れなさい。新たな力を」

 

刀はふっと消え、ネフェルの足元に刺さった。

 

「これってラーシュの刀?凶極刀?どういうことだ?」

 

「心配いらないわ。持ち主は力を使いこなせなかった。でもアナタならできる。終末の聖女の力を受け継ぐアナタなら」

 

不気味な声がする。

 

(ヒッヒッヒ、我が力を欲するか?)

 

「うっ……頭が痛い……」

 

(魂を授けよ。さすれば願いを叶えてやる)

 

「私の願い……私はシレジアを越えたい……誰かの役に立ちたい……大切な人に本当の気持ちを伝えたい」

 

(そうだ。それでいい。それでこそ我が力を授けるに値する。では食らうとするか!ヒッヒッヒ!!)

 

ネフェルの体が闇に包まれる。刀から障気が吹き出し斜塔ごと覆い隠した。

 

「うわぁぁぁッ!?!?!?」

 

ネフェルが悲鳴を上げると斜塔は姿を消し本部の中庭に放り出された。

手には刀が吸い付く。目の前には……。

 

「あなた、そんなとこで何ぼさっとしてんのよ?」

 

「シ、シレジア……?」

 

ネフェルが状況を掴めずにいると、凶極刀はシレジアに牙を向いた。

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