マブライはロウの銃口を見つめている。
「教官さんよぉ、公の立場にいる人間がオレたちをぞんざいに扱ったりはしねぇよなぁ?まあ賢い教官さんのことだから拳を振り上げるような真似はしねぇとは思うが」
「キミは拳銃の中に化然石を込めているのか。中身が予想できないとなると、こちらからも迂闊に動けない。考えどころだ」
「カッカッカ、悩め悩め。頭を使えば使うほど体の動きは鈍くなるってもんだ。その間に一発ズドンと込めかみに撃ち込めば……ジ・エンド」
「ジェットの由来はなんだ?まさか鉱物が由来だとは信じたくはないが、樹木の化石をチーム名に使ってるのならキミたちに一定の尊敬の念を与えたくなる」
「由来?ウーン、オレも響きのいいネーミングってだけで付けちまったからな。理由なんてものは考えもしなかった。お前さんが教えてくれた樹木の化石っつうのは趣があって、魂をこう撃ち抜かれるようで気に入ったぜ」
ロウは手で銃をつくり心臓に当てた。
「あっ。それと石にはそれぞれ個性があるんだ、人間のように。多くの人は化然石を持ち歩けるように掌サイズに収めているんだが、ボクは大きさに拘りがない。どんな大きさであっても使う側の人間の技量は千差万別だから優劣はつけられない。大きければいいってわけでもなく、小さければ発するエネルギーが弱くなるわけでもない。要はその人に適した石の使い方がある」
「長ったらしい説明ご苦労さん。そんじゃあ運試しといこうか」
マブライは化然石を手の中に忍ばせ力強く握った。
「不用意に化然石を使い、同色ならボクへのダメージは著しいものになる。それなら発射する直前に暴発させるしかない」
「そんな芸当ができるってのか。笑わせてくれる」
「拳銃は六発しか弾を込められない。それに先ほど無警告射撃で一発使用済み。残り五発を推測して対策を講じなければ敗北必須……どうする?」
ロウが最初に放った周辺に散らばる弾丸の欠片から、青色の化然石であることが分かる。しかし、これだけの情報では次に放たれる弾丸を推測するのは不可能だ。
「そんじゃあ一流の人間は一流らしくロシアン・ルーレットよろしく
ロウがトリガーに指をかけた。銃口が光る。
「視えた!紺色!」
発射された化然石はまさしく紺色だ。
「な、なにぃ~!?」
「
マブライは化然石で稲妻を制御し弓を作る。バチバチ唸る矢はまさに光陰矢の如く銃口向かって放たれた。紺の化然石は凍てつく弾丸となって稲妻の矢とぶつかり合う。二つのエネルギーは不協和音と共に消滅した。
「まぐれにしちゃ手際が良すぎねぇか?種も仕掛けも御座いませ~ん、なんて決まり文句が通用するなら警察なんていらねぇのさ」
「ボクの石占いは当たるんだ。少し先の未来なら見通すことができる。もちろん未来に絶対はないから、ボクたちの選択次第で未来は無限に分岐することになる」
「その石占いっつう手品で弾丸の色を当てただって?ケッ、占いっていう耳障りのいい言葉だけ並べる連中に何を期待するんだか。金目当ての詐欺師なんかの話より、オレたちの崇高なブレーダー哲学を聞いてる方がよほど充実したブレーダー・ライフを送れると思うんだがよ」
「全くもって心外だ。人は誰しも心に底知れぬ闇や不安という名の影を抱えて生きている。ボクはそういった苦しみや悩みから解放してあげたい。取り除いてあげたい。その良心一つで教え子の心の声に耳を傾けているんだ。占いで人心を掌握するなどもっての他。欲に溺れ堕落し切ったキミたちとボクとでは根本的な大きな違いがある」
「そうかい。そんなら次は用意周到な教官様のために取って置きをお披露目してやるぜ!」
ロウは残り弾丸を全て落とす。そして全弾を装填し直した。
「宣言しやるぜ!全部燃える弾丸だ!全弾ぶっぱなしてやるよ!――
銃口から六つの火のエネルギーが収束し火炎が放射された。マブライは火の波に飲み込まれ灰どころか影すら消えてしまう。
「
マブライが火だるまになりながら立っている。
「カッカッカ!燃えちまいな!塵一つ残さねぇようにな!」
マブライは熱さを感じていないのか、平然と歩き出し何事も無かったかのように話し出す。
「言い忘れていた。ボクには熱さに対する耐性がある。教官になる前に発現した副作用なんだ。原因がわからないみたいなんだが、それ以来熱さを感じる機能を失って火だるまになっても燃え尽きることのない体になってしまった」
「そんなのありかぁ!?火炙りにもできねぇのならジャンヌ・ダルクも無駄死にってことだぞぉ!?」
「化然石の副作用のメカニズムは未だ全容が解明されていない。化然石のエネルギーを体内で作り出す人間がこの世に現れていても不思議ではない」
「ハイハイ!そんなら次はこれを受けてもらおうか!――
ロウは次なる手を打つ。弾倉に黄色の化然石を装填する。
「火の次は雷か。人間が制御できる化然石の中で最速の攻撃速度を誇るのが雷。避けるよりも受け流す方が無難か?」
銃口から放たれた電撃は無数に枝分かれし、ジグザグとして動きでマブライに襲いかかる。
「目眩ましになればいいが――
マブライは赤の化然石を口に入れた。口から赤い光が漏れる。
「なんてこったい!?血迷ったのか!?口の中で化然石を発動なんてしたら喉が焼けちまうぜぇ!」
マブライの口からもくもくと白い煙が溢れていく。足場を埋めつくすほどの白煙は壁を伝いロウの姿まで覆い隠した。
敵を見失った稲妻は標的を探し煙の中をいたずらにさ迷う。
「これで……これでキミの攻撃は凌ぎきった……」
煙が風に流され二人の影が伸びる。マブライの身体は傷だらけになっていた。目眩ましした分、致命傷は避けられたが痺れが取れず手足が動かせない。
「地面に這いつくばってオレの靴でも舐めようってか?カッカッカ、教官様も無様な姿を晒したもんだ」
「手足が痺れて立つにも支えが必要とは。これを困難と呼んだらヒューガーに顔向けできない。彼は想像絶する苦難を乗り越えながら自分の足で生きているんだ。ボクが立ち上がなければ教え子たちに示しがつかない」
「まだやるってか?次やったら死んじまうんじゃねぇか?オレの老婆心から言ってるんだ。今なら命だけでも取らないでおいてやるよ」
「
「人の話聞いてたか?それとも脳ミソ溶けちまったか?」
マブライから発せられる冷気が足元に広がりキラキラしたものが宙を漂う。星々の輝きのような粒子が二人を包み込んだ。
「走馬灯みてぇなもの見せやがって、お前さんがそこまでして拝みてぇってんなら見届けてやるよ」
「馬鹿げたことを言うな。様子見する余裕があるのなら足元ぐらい確認するべきだ」
「足元?」
ロウの足が凍りついていた。虫が這い上がるように膝まで凍りつく。
「またお前さんの仕業か!?オレを氷のオブジェにしようなんて肝が座ってる、なんて言ってる場合じゃねぇな……」
「もたもたしていたら永遠の眠りにつくことになる。キミがそれでもいいって言うのなら、うちに飾って置こうか。氷のオブジェとして」
「冗談困るぜ。ただの氷ならちゃちゃっと解かして、おさらばしねぇと――」
マブライはロウが赤の化然石を装填するのを見逃さなかった。
「ボクの占いはやっぱり当たるみたいだ」
「し、しまった!?」
ロウが氷を溶かそうと引き金を引いた瞬間、マブライは手の中に握っていた赤の化然石を指で弾く。銃口から飛び出す弾丸はコツッと弾け合い火柱が上がった。
「アッチィィィッ!?!?」
ロウの右腕は焼け爛れ力なくだらりと垂れる。左手で拳銃を拾おうとした途端、マブライに蹴り飛ばされた。
「まだやる気か?それより腕の火傷を治すのなら早い方がいい。治療が遅れれば筋肉が固くなり関節が動きにくくなる」
「はぁ、敵に塩を送られたってティアラとサザンに知られたら合わせる顔もねぇ。というわけだ、お前さんの顔なんて見たくもない。どっか行け」
「そう言われても体の痺れが取れなくて動きたくても動けない。その間キミを拘束しようにも、手足の自由が効かないから抵抗されれば一貫の終わり」
「それじゃあ暇潰しにロシアン・ルーレットでもやるかい?」
「いや、遠慮する」
「なぁんだ、つれねぇなぁ」
「一つ教えておこう。鉱物としてのジェットの意味を」
「ん?」
「ジェットの意味は『忘却』だ」
「ケッ、忘却ねぇ。オレはこの悪夢を忘れ去りたい気分だ……って上手い洒落も思いつかねぇ」
マブライは救助隊に発見され病院に搬送された。壁に寄りかかり焼け焦げた腕に水鉄砲をかけていたロウは警察に見つかり拘束される。
時同じくして、有刺鉄線で囲われた広場でサザンがヒューガーを追いかけ回していた。