アルマダ・ブレーダーズ   作:公私混同侍

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罪と罰

「レインがいれば鼓膜でも治せるんだが、時間が経ちすぎれば化然石の欠片が体内に溶けちまって一生治らねぇかもな」

 

「これ以上の長居は無用。次で仕留める」

 

ラーシュは立ち上がり刀を前後に揺らし始めた。

 

「なんだそりゃ?メトロノームに成りきってリズムでも取ってんのか?」

 

「犠打の構え――」

 

「犠打の構えって野球か?バントみてぇに刀を持ちやがって。ラーシュ、テメェ何考えてやがる?」

 

「耳が聞こえぬことなどネフェルの心の苦しみに比べれば然したるものではない」

 

「男として覚悟を決めたってわけか。それでこそオレと対等に渡り合えるただ一人の男だ」

 

「私はまだまだ未熟だ。人の心を理解せず、己の思い上がりだけで生きてきた恥知らずな空け者(うつけもの)だ」

 

「自分の弱さを知り相手を知ればどんな困難だって乗り越えていけるんだ。孫子の兵法じゃねぇが、オメェが一番理解してるはずだ」

 

「彼を知り己を知れば百戦(あやう)からず、か。フッ、私はもっとネフェルを知らねばならぬ。そしてネフェルに本当の私を知ってもらいたい」

 

「この場に立つのがシレジアであってもラーシュを通すつもりはないぜ。ならオレも役員の副会長として意地を見せなきゃなんねぇ。後はわかるよな?」

 

「私にも引き下がれぬ道理がある。行く手を阻むと言うのなら、この刃を押し退けてみせよ!」

 

「いくぜ、ラーシュ!オメェの眉間にダイヤよりも固い一撃を叩き込んでやるぜ!」

 

ランバーは一歩たりとも動かないラーシュに向かって加速する。全力を込めた一撃が眼前に迫る。

 

魚鱗捌(ぎょりんさば)き!」

 

ラーシュは膝を折り上体を低くする。ランバーの拳は空を切り顔を掠めた。ラーシュは懐に入り刃を押し出すように腹部を裂く。

血の量を確かめるランバー。眼光が犬から獲物に狙いを定める狼のように鋭くなる。

 

「テメェ、どういうつもりだ?」

 

「すまぬ、ランバー。許してくれ」

 

意図的に致命傷を避けたラーシュはランバーの顔を見ようともしない。

すると予期せぬ人物が登場した。

 

「ガッハッハッハー!」

 

「こ、この耳障りな高笑いとウゼェほどのハイテンション。まさかアイツなのか!?」

 

「ごもっとも!若いエネルギーは素晴らしい!だが時と場所を選ばなければ不良少年と変わらんぞ!ガッハッハッハー」

 

「一体何なんなのだ……?」

 

「コイツは主任教官のマティアス・ザスクードだ。教官で一番地位の高い立場にいる。役員から見れば目の上のたんこぶみてぇなヤツだ」

 

「ランバー、口の聞き方がなってないぞ!それと君たちは自分の立場を理解していないようだ!仕方あるまい!一度だけ君たちに忠告してあげようじゃないか!」

 

「申し訳ないが私は先を急いでいる故、押し問答している余裕はないのだ――」

 

マティアスはニコッと笑うと、首からバチッという音を出した。

 

「上の方から侵入者に対していかなる理由があろうと排除せよとのお達しが出ている 。君たちにも諸事情があると思うが、お祭り気分でいたいというのならこの実技主任マティアス・ザスクードが遊び相手になってあげようではないかぁ!」

 

「なんという禍々しい気迫……か、体が動かぬ……」

 

「コイツはオレの獲物だ。ラーシュ、オメェはやることがあんだろ?ネフェルは本当の自分を見失っちまってる。誰かが救い出してやらなきゃいけねぇ。クソビッチならネフェルを殺しまではしないはずだ。それにシレジア(アイツ)が深傷を負うようなヘマをするとも思えねぇ。とにかくオレが言いてぇのはアイツらのことは全部オメェに任せるってことだけだ。だから早く行け!」

 

「……承知した」

 

「オレはマティアス(コイツ)を超えるためだけに体を鍛え上げてきたんだ。ブレーダーも化然石も誰より早く修得しようと努力してきたんだ。コイツをぶっ潰すためなら役員だって利用する。悪いな、ラーシュ。決着は来年の祭りに取っておくぜ」

 

「なれば必ずやここまで導いてくれた者たちのためにも本懐を遂げてみせる――」

 

「誰が行っていいと言ったんだぁ!先生の話は最後まで聞けぇ!」

 

ラーシュが背中を向け窓から飛び降りようと足をかける。マティアスの足裏から電撃が生まれランバーの足の間を通り抜けた。

 

「ヤ、ヤベェッ!?逃げろ、ラーシュ!?」

 

ラーシュがランバーの声に振り向く。そこに一つの人影が立ちはだかった。電撃は背中を直撃し破裂音が廊下に響き渡る。

 

「テメェの相手はオレだろッ!よそ見なんかしやがってふてぶてしい野郎だなッ!」

 

「侵入者を庇うとは中々肝っ玉座った少年だ!だがそうは言ってもだ!役員共々、相応の処罰を下さねばならんな!ガッハッハッハー!」

 

ラーシュを庇ったのはパドンだった。槍を大事そうに抱えながら膝から崩れ落ちる。背中は真っ赤に染まり痛々しい火傷痕が電撃攻撃の凄まじさを物語る。

 

「パドン!?どうしてお主がこのような所に……」

 

「うぅ……メチャクチャ痛い……痛いけどオレ、ラーシュの兄貴の役に立ったかな?」

 

「何を言う。大義だ、パドン。お主は十分役目を果たした」

 

「そっか、えへへ」

 

「その槍はどうした?ケイコに頼まれたのか?」

 

「背中に背負ったら傷がつくと思って、抱き抱えながら一生懸命走ってきたんだ。誉めてくれよ」

 

「だがどうしてこの場所が?正門には主君がいたはず」

 

「リーダーに『お前の役目を果たせ』って言われたから、無我夢中で走ってたんだ。そしたら爆発音みたいなのが聞こえたから、もしかしたらラーシュの兄貴が近くにいるんじゃないかと思って来てみたんだよ。そしたらまた電気を浴びせられた。本当に災難な一日だよ」

 

「よく役目を務め上げた。しかし、ここは危険だ。どこか体を休める場所で身を潜めてるが良い」

 

「ラーシュの兄貴の方が酷い怪我してるのに、どうしてオレなんかに優しくしてくれるんだ?どうしてオレなんかを拾ってくれたんだ?」

 

「放っておいたら人様に迷惑をかけるのではないかと案じていたからだ。それならチームに引き入れて更正させた方がパドンのためになると思ったのだ」

 

「ああ……やっぱりオレってみんなに必要とされてない人間なんだ。オレが小さかったときに親が死んで、親戚中をたらい回しにされて、家から抜け出せたと思ったら今度は不良に絡まれて全財産を失っちまった。そこからあんまり記憶がなくて、気づいたらジェットの悪巧みに荷担させられてたんだ」

 

「そうであったか」

 

「ラーシュの兄貴もオレと似たような環境で育ってきたのに、ちゃんと家族として認められてそれでいて真面目でカッコよくてみんなに頼りにされてる……それなのに……オレは……オレは……」

 

「泣くな。パドンは私と同じ人間。強い人間だ。だからこそここまで来れたのだろう?」

 

「違うよ。みんなが背中を押してくれたんだ。励ましてくれたんだ。オレなんかへっぽこだから一人でこんなとこまでこれない」

 

「私がパドンを引き入れた理由、知りたいか?」

 

「教えてくれ。どうしてだ?」

 

「パドンがジェットに唆され悪事に荷担させられたと言った時、ふと主君の過去を思い出したのだ。主君もジェットに与していたと申していたからな」

 

「それで?」

 

「主君は自責の念に苛まれていた。自身がジェットにいたことで多くの民に迷惑をかけたのではないかと。だからこそパドンのような存在を生み出したくなかったのだ」

 

「でもリーダーはオレじゃなく新型のブレーダーを選ぼうとしたんだぜ?なんでだ?」

 

「ジェットがお主をみすみす警察に引き渡すとは考えられない。ジェットはお主を葬りさり亡骸として処理するつもりだったはず。主君はパドンを気の毒に思いつつも一生十字架を背負わすぐらいなら、パドンのような存在を一人でも減らした方が良いと考えたのだ」

 

「そ、そんな……で、でもそれならラーシュの兄貴は?」

 

「主君の心に安らぎを与えることができるのは同じ罪の意識を持つ者。すなわちパドンのような罪を背負ったものがいれば、主君の罪滅ぼしの手助けになるのではないか?つまり罪の意識を和らげることができるパドンのような存在がチームにとって最も必要とされうる受け皿だと実感したのだ。パドンを引き入れるよう進言したのは、そんな身勝手な私なりの気遣いからだ」

 

「そうだったんだ……知らなかったよ」

 

「なればこの場を離れよ。ランバーが我々に猶予を与えている。私は行かねばならぬ。ネフェルを必ず連れ戻してくる」

 

「あっ、忘れてた!ラーシュの兄貴が持ち歩いてる刀をネフェルの姉さんに向けるなってケイコに言われてたんだ。だから代わりにこれ持ってってくれ!みんなの想いだから!」

 

「……かたじけない。有り難く拝借する」

 

パドンから槍を受け取ったラーシュは窓から飛び降り中庭に向かって走り出す。電撃で背中に火傷を負ったパドンは、ぷつっと緊張の糸が切れたように窓にもたれ掛かった。

 

「そっか、オレを拾ってくれてありがとう……ラーシュの兄貴」

 

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